彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/10(木) 穂積音和⑤

 2限3限4限と、自分の席で大人しく過ごした。怖くて立てなかったからっていうのもあるけど。
 4限の終鈴が鳴って、ホッと肩の力が抜けた。お昼休み、早く知ちゃんと合流しよ!


「ねえ」


 お弁当を出していると、中村さんに呼ばれた。後ろに田中さんと水川さんもいる。


「ちょっとさ、話があるんだけど」


 中村さんはくいっと親指をあげた。顔めっちゃ怒ってる。


「……二人でなら」

「は? お前が指図すんなよ」

「じゃあいやです」


 だって怖いから絶対むり!


「いやじゃねーよ、今日ウチらにあんなことしておいて!」

「あんなことがどのことかわかんないけど、なにかしたなら、あたしじゃなくて中村さんじゃない?」

「だから、あんたのそーいうところがっ……!」


 ハッとした顔で中村さんは口を閉じた。いつの間にか、クラスのみんなが注目してたからだ。


「ミサー、あんま穂積ちゃんいじめんなよー(笑)」


 少し離れた机でお弁当を広げていた中村さんの彼氏が茶化した。


「別にそんなんじゃないっ。女同士の話だから口挟まないで!」


 中村さんの彼氏は少し離れた席で、わかったよというふうに、ひらひら手を振った。
 中村さんが振り返る。


「あのさ、手間かけさせないでくれる?」

「さよならっ」

「あ、ちょっと!!」


 捕まる前に弁当箱を掴んで、あたしはダッシュで教室を出た。
 まじ無理です。



┛┛┛



「……で、怖かったから逃げてきた」

「なんなのソレ、お前やっぱ変わってんなー(笑)」


 屋上でさっきまでの話をすると、たかおみがウケた。
 でも、知ちゃんと日野さんは困ったような顔をしている。


「うーん。はいっ!」

「はい、なんだねコミュ強のいちごさん」

「はい。コミュ強のあたしの見たところ、その子たちとの亀裂、どんどん深くなりそうなんですけど」

「そうだな、同意。なあいちごさんや」

「はいなんですか」

「この場合の最適解ってなんだと思いますか?」

「そうですねえ……。ひとまず刺激になりかねないあい活!は一旦やめて、別の作戦を考えるべきかなーと。あたし的には食料がもらえなくなるのはちょっと痛いけど、音和ちゃんファーストでいきましょ!」


 あれやめるんだ。やっとちょっと慣れてきたのにな。


「なあ。強気なのはいーけど、嫌がらせひどくならんの?」


 たかおみ、心配してくれてるのかな? なんか変な気分……。


「多分だけど、クラスが仲いいって自慢してるし、誰かが見ているところでは派手なことしなさそう。だから、人気のないところについて行かなかったらいいかなって」

「確かにうちの高校偏差値高いほうだし、堂々と怪我させるようなバカっていないよな。その分陰湿なのはありそうだけど……」


 知ちゃんもいろいろ考えてくれてる。
 今日はちょっと階段から落ちるかと思ってひやっとしたけど、でもあれを事故って言われたら、証拠とかないし。


「女って面倒くさいね!」


 ごろんと寝転がって、あくびをしながらたかおみが言う。


「んじゃ俺と付き合ってることにしたら? 先輩の女には手を出さねえだろ」

「ごめんなさい」


 すぐに頭を下げた。


「なんで俺、振られてるみたいになってんだよ!」

「嘘でもそういった経歴を残すくらいなら死を選ぶ。それにあたしには知ちゃんがいるもん」

「ハハハ、あの子たち、俺のこと絶対下に見てるよ……。役に立たないと思うよ……」

「ねえ俺も死んだほうがマシって言われたんだけど!?」


 知ちゃんとたかおみが抱き合ってメソメソはじめた。かっこ悪……。


「……むー」


 日野さんだけお弁当を持ったまま、もぐもぐしてた。



 相手のスペースに飛び込んで行かなければいいと思っていたけど、実際のところはちょっと難しくて、5限目の体育に捕まってしまった。
 友だちがほかにいないあたしは中村さんに引っ張られて、球技の相手をさせられた。ちょっとあざになった。
 教室に戻ると、6限のノートがなくなっていた。
 斜め前の席の中村さんの彼氏がルーズリーフを貸してくれたけど、たぶんそれも気付いたと思う。
 今日は早く虎蛇に行こ。上靴も、持って帰ろうかな……。

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