彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/10(木) 穂積音和④

「あーあ、パタパタうるさーい!」


 階段前で、誰かが叫んだ。あたしのことだと思って立ち止まると、階段前にうちのクラスの女子3人組がいた。


「スリッパの音、うざいわー」

「女子なのに、もっと静かに歩けないのかなーあの人!」

「シンプルに迷惑〜」


 知ちゃんがギャルと呼ぶ3人。中村さん、田中さん、水川さん。ちょっと会いたくなかった……。


「ご、ごめんなさい」


 立ち止まってしまったし、ひとまず謝った。


「みんなその騒音に迷惑してるんで、ちょっとはわきまえろよ!」


 田中さんに睨まれる。もう一回ぺこりとおじぎをして階段に向かった。


「!!」


 だけど、足がもつれて階段前で転んでしまう。膝から落ちて、骨を打った。


「ごっめんなさーい。スリッパが大きいから後ろ踏んじゃった」

「ダサすぎ! キャハハハ!!」


 腕組みをした中村さんが、にやにやと上から見下ろしてる。


「でも〜、そもそもこんなの穿いてる人が悪いでしょ。ミサが謝らなくてよくない?」

「そういえばそうだよね。謝って損したんだけど。ねえ穂積さん謝ってくれない?」

「……え?」


 転んでるのはあたしなのに、わけ、わかんない。
 周りを見ても、なぜかこの人たち以外、誰もいない。


「あたしが、謝らされたの謝罪して?」

「なんで……」

「ほら、早く頭ついて謝んなよ!」


 田中さんが床を指して怒鳴りつける。


「間違ったことしたら普通謝るよ〜。小学生でもするよ?」

「低脳な人ってまじイライラするんだけど。ほんっとキモい」

「早くしなよ!!」


 横っ腹に衝撃が走った。立てなくてうずくまる。


「黙ってないでなんか喋れよ!」


 引っ張られた腕に、爪が食い込む。
 やだ。痛い。怖いよ……!


「おい、お前ら何してんだよ!」


 階段の下で、男の人の大きな声がした。でもそれは安心する声だった。


「チッ」

「音和、大丈夫か」


 髪の毛が離され、知ちゃんが駆け寄って来てくれた。女子たちは一歩ずつじりじりと下がっていく。


「待てよお前ら、一体ここで何してたんだ」


 逃がさないように、知ちゃんが牽制した。


「あたしが転んだの。大丈夫だよ」


 あたしは抱き起こされながら言った。膝がじんじんするけど、我慢できそう。


「ウチら、穂積さんが廊下を走ってたから注意しただけですけどー」

「うん、スリッパがすっごくうるさかったから!」

「もういいですよね〜? 行こっ」


 3人はバタバタと教室に飛び込んで行った。あたしたちはそれを見送る。


「……音和、靴」


 預かっててくれた上靴に黙って履き替える。
 今まで全然関わらない人たちだったのに。ランチで怒られたあとから、なにかがおかしくなってる。


「あの子たちなんなの」

「……クラスの人」

「お前、蹴られてなかった?」

「ぶつかっただけかもだし、わかんない」


 腕に突き立てられた爪も、引っ張ってくれたときにたまたま引っ掛かったのかもしれない。乱暴だったけど、あの人たちいつもそんなだし。

 そのあと、「お昼は一緒に食べよう」って誘ってくれた以外、知ちゃんは何も言わなかった。



 ┛┛┛



 クラスに戻ると、中村さんの席の周りに集まってた3人に睨まれた。


「ビッチが来たよー」


 そんな声が聞こえるけど、あたしのことかわかんないし、知らないふりをした。
 少しずつ、クラスと馴染めると思ったのに。なんかむずい……むずいよ知ちゃん。


「あ、穂積ちゃんさあ、ここ押してくれない?」


 と、隣の席の……二宮くん?……が、あたしの前にスマホをずいっと出した。ほかの男子たちも二宮くんの席の周りで、ニヤニヤとあたしのこと見てる。
 この人たちにも中村さんの味方で、からかってるのかもしれない……。もうほっといてほしい……。
 あまり液晶を見ないで、ボタンっぽいところを押した。


「デッ……デーーー!!! SSRっ!! ………曹操じゃん!!」

「やべーーーーwwwwww」


 隣から男子たちが大笑いしている声が聞こえた。


「最高ーーー! 穂積ちゃん! 愛してるう!!」


 投げキッスが飛んでくる。
 いらない……。やっぱ嫌がらせだった……。

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