彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/9(水) 部田凛々子②

 あーーーー疲れた。結局、今日は7人のお相手をした……。
 最終的には3人同時に俺の膝で泣く神々しいアートが出来上がり、七瀬と音和が変な顔で笑いをこらえてたな。詩織先輩も嬉々としながらスマホで写真撮ってたし。
 凛々姉が別室から帰ってきたのを合図に、本日の受付終了。つーわけで、やっとトイレにも行けた。
「ゥチの膀胱、マヂ強くねあざまる水産系じゃね」と下半身に声をかけ、ご機嫌で男子トイレを出る。


「……」

「……聞こえてました?」

「えっと…………ちょっとだけかな」

「忘れてください」


 詩織先輩と、トイレの外でばったり出くわしてしまった。
 口元に手を当ててくすくすと笑い、先輩が頷く。それから自然と並んで、虎蛇へと歩き始めた。


「今日、すごい人気者でしたねえ、トモくん」


 う、やばい。慣れない名前呼びについ顔が赤くなる。


「……いや、たくさんの子羊を抱えたけど、俺の膝なんかで良かったんかね」


 つか俺なんかより、詩織先輩みたいな癒し系の人のほうがよかろうに。


「トモくんは優しいですから」

「先輩のほうがいいでしょ。ってだめだ、先輩の膝は誰にも貸せん! ……なるほど、消去法的に俺になるのは必然だったのか」


 自分で解決しちゃった。


「なんだか、久しぶりにお話ししますね」

「ね。合宿が最後で……」


 と言ってから、先輩が背中に頭コツンをしてくれたのを思い出して、もはや顔が大火事になってしまう。


「夏休みは全然連絡取ってないし、2学期になっても話せなかったから……。ちょっと寂しかったです」


 待って待って、もう超胸キュン! どんだけ俺を燃やす気なの!!
 人たらしな人だわと隣を伺うと、うつむきがちだからよくわからなかったけれど、先輩の顔も赤い気がした。


「そっちは夏休み、なにしてたの?」

「私はお勉強が多かったですね。両親に大口叩いてしまったので、大学はきちんと合格しなければいけませんし」


 そう言う先輩の顔は、だいぶ晴れやかだった。ご両親とうまく行ってるみたいだな。


「トモくんは? 連絡くれなかったですね」

「え! ああ、ちょっと自分探ししていて。ほとんど誰とも連絡は取ってなかったのですよ」

「? お肌真っ白ですけど」


 おかーん! やっぱり自分探しは全然言い訳につかえーん!!


「……オーストラリアに行きまして」

「確かに今は冬でしょうけど、確かあちらって紫外線はまあまあ強いですよね」

「……そうなんですか?」


 だめだ、先輩は騙せないぞ!


「……誰にも内緒ですよ? 念のために検査入院とかいろいろして、あとは家に引きこもってたんです。おかけでもうバリバリに元気!」


 詩織先輩は納得したように頷いた。


「そうだったんですか。私にできることがあったら言ってくださいね」


 真剣な視線を向けてくる。先輩、嘘ついてすみません。


「それからトモくん。文化祭と中間考査が終わったら、また遊びませんか?」

「ん? 俺でいいの?」

「トモくんがいいんですよ」


 顔を見合わせてほこほこと笑う。
 疲れていた気分が、いつの間にか消えていた。

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