彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/9(水) 穂積音和①

「穂積ちゃん、おはよう!」

「おはよう穂積。今日もやってるんだ? 毎日おつかれ」

「あーおかっぱちゃん、今日もいるー! 癒しー!!」


 3日目にもなれば、音和の顔は全校生徒に知れ渡っていて、声をかけてくれる人も出てくるまでになっていた。


「あっ、おはよございますっ」


 それで音和のほうも、肯定的な人たちの気に長く当てられたせいか、自然とあいさつができるようになっていた。


「音和ちゃんすごい。次期生徒会長のポジションだって夢じゃなさそう」


 感心しながらいちごが言うと、音和がぐるりと振り返り、後ろに立っていた俺たちに向かって頬を膨らませた。


「誰があんなゴミ屑ランドに行くかよ」


 音和、穏やかじゃないよ?
 いちご的には顔が広くなったというたとえだったようだが、ケガさせられた本人は、比喩でも看過できる言葉ではなかったらしい。


「おはよう、穂積」

「あ、かいちょー。おはようございます」


 登校してきた凛々姉が音和の前で足を止めた。足元に荷物を置いて、ハンカチで汗を拭う。


「ちゃんと続いているね。えらいじゃない」


 微笑んで、音和の小さな肩をぽんっと叩いた。


「朝陽祭までにじゅうぶん顔を売りなさい」


 この人、目的を勘違いしているな。まあいいか。


「チュン太」


 凛々姉の視線がうしろの俺たちへと移動する。


「出し物案の差し戻し分、虎蛇のテーブルに用意してあるから、朝のHRに間に合うように配ってくれる? 質問や不満が出た場合だけあたしのところに回しなさい。あとは基本まかせる」

「リョーカイ」

「会長おはよーございます! 今日はあたしも手伝えますよー!」

「そう、ありがとう日野。生徒会には金曜共有だから、進行を遅らせないように。じゃああたしは虎蛇に寄って行くから」


 そう言うと、大荷物を担ぎなおして凛々姉は歩き出した。


「ああ持つよ、それ」


 カバンとは別の大きなボストンバッグに手を伸ばす。


「結構。あんたは穂積の付き添いがあるのでしょう」

「いや、大丈夫だよ、いちごがいるし。だよな?」


 音和は不安げだったが、いちごは大きく頷いた。


「知ちゃんー」

「お前なら大丈夫、できるよ音」


 言いながら凛々姉の荷物を奪い取る。


「ありがとうチュン太。穂積、悪いけど荷物持ちに借りていくよ」


 肩をコキコキと回しながら歩く凛々姉と並んで、校内へ向かった。
 荷物がずっしりと肩に食い込む。これ、ひとりでどこから持ってきたんだろう。
 この人、見てないとこうやってすぐ無理するから危険だな……。

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