彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/8(火) 穂積音和

 今朝のあい活!は一人ひとり、少し離れた位置にフォーメーションを変えてみた。
 ただし離れていても、いちごのスーパー元気な声はすぐ隣にいるかのように届いてくるのだが……。


「あっ……」


 機械的にあいさつをしていた音和が止まった。校門から派手な男子2人組が歩いてくる。おそらく1年みたいだけど、あいつらのこと知ってるようだな。顔も青くないし、いけるか?


「あっれ? おはー穂積ちゃん」
「おっすー! これなにやってんの」


 お? 向こうから声をかけられてる!?


「ぬ、ぬぬ……」


 音! あいさつだ、お・は・よ・う?(口パク)


「よーしよしよしよし。つか今日2限の教科書忘れちゃった。また見せてー!」


 なっ!? あの笑ったら目尻にシワのできるいやらしいタイプの男、ボディタッチしてないか!? しかもそれが爽やかでむかつく!


「ちょっやめっ、って、なんで今日もー!!」

「えー、なんかお前、穂積ちゃんと距離近くなーい? 俺とも仲良くしよーぜ」

「やっ、待っ……」

「いっかーーーーーん!!!」

「えっ、知……ちゃん?」


 はっ!! しまった、つい飛び出してしまった。
 我にかえるも遅く、目の前の全員、ドン引きしてるわな。


「え、誰? 穂積ちゃんの……彼氏さん?」

「んと……」

「あい活!メンバーの小鳥遊だ。みんな気持ちのいいあいさつをありがとう! しかしお触りは厳禁だぞ。さ、行きたまえ!! はーっはっはっは!!!」(野太い声)

「あ、はーーい」

「うむ! これからも音和をよろしく頼むよ!!!」(ダンディな声)


 不審そうに振り返りながら歩く1年を、爽やかな笑顔で手を振って見送った。


「ねー、音和ちゃんがお友だちできないの、もしかして誰かさんのせいなんじゃないかなあ?」


 肩を叩かれて振り向くと、いちごがにっこりと笑っていた。
 自覚してます。申し訳ありませんでした。


………………

…………

……


 自動販売機の脇のベンチで3人並んで休憩しながら、音和に昨日教室であったことを聞いて、やっと納得した。さっそく話ができたのなら、朝恥ずかしい思いしながら頑張ってるかいあったな!


「どうだ、あいさつは偉大だらう」

「さのよふで」

「さふさふ〜」


 音和といちごが喋っているのを聞きながらジュースを飲む。


「……あたしが無関心なの、みんな伝わってたのかな」


 手元のリンゴジュースのパックを見つめて、音和はひとつ大きなため息を落とす。


「周りの人、誰もあたしのこと分かってくれないし、やってることも下らないって思ってた。けど、ほんとはそんなあたしがいちばん幼稚くて、いたらなかったのかも」


 ……こいつ。
 元が素直で、真っすぐに育ってきたから、こうやって柔軟に意識を変えられるんだろう。
 それが音和のいいところで、尊敬している部分だ。


「すぐに全部がうまくはいかないかもしれないけど、お前の思いは必ず届くよ」

「……うん」

「そうそう。音和ちゃんなら、クラスの子も大事にできるはずだよ。知実くんを大事に思う気持ちの半分でいいから、それをクラスに向けてみて」

「半分か……結構大きいけど」

「じゃあ1/3?」

「ん。妥当」


 親指を立てやがった。


「そういうこと平気で言うもんなぁ……」

「知ってるくせに」


 真顔で言うものだから、恥ずかしさをごまかすために手で顔を覆った。


「俺も……これでも、お前のことかなり大事にしてるんだぞ?」

「うん。でもあたしの気持ちのほうが大きいよ」

「あはは、そうだよね〜!」

「……はは」


 いちごのように笑うことができなかった。
 それはすごく自業自得なのだけれど。

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