彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/7(月) 穂積音和③

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 1年の教室に向かってたら、頂上で足が6本にょきっと出てきて、進行方向をふさがれた。
 顔を上げると、クラスの3人組女子がいた。


「穂積さん、ちょっと」

「えと……」


 …………この人の名前、なんだっけ。


「ウチらはのけものにしたくせに、今日は穂積さんだけ先輩とランチしてたんだって?」

「意地悪だね。だからクラスに友だちいないんだと思うよ〜」


 なんか怒ってるっぽい。面倒だなあ……。


「嫌われてるくせにさー、目立つことしないほうがいいんじゃん? あんたって、教室にいることさえ迷惑なんだから」

「目障りなのわかんない? イライラするんだよね」


 そいつらの顔を順番に見ていく。大きな悪意だけ携えた表情。
 真ん中にいた人の、サラサラのセンターパートの前髪から覗く目が、きゅっと釣り上がる。


「なによさっきから人の顔ジロジロと見て。立場分かってんの?!」

「……顔、怖いなって」

「はあ? ふざけんな!!」

「あの。ごはんは諦めたほうがいいよ。そんな怖い顔とごはん食べるほうの身に、なって……よ?」


 ん? ちょっと言い方間違えたかも。


「なによ、ビッチ!」


 真ん中の人が持っていたジュースの箱を投げつけてきた。中身は入っていなかったけど、角が頬をかすめてピリッとした痛みが走る。


「ねえ授業始まるよ。いこ〜」

「まじ萎えるんですけどー」

「あー最低。消えてくれないかな」


 3人は小走りで教室へ入って行った。
 頬を押さえてぼーっと立っていると、まもなく本鈴が鳴った。
 胸が苦しくて、動けなかった。

 ……教室に戻りたくないな。
 ゆっくりと体を回して階段に向けると、下から同じクラスの女の子が駆けあがってきていた。
 うつむいて、ちょっとだけ端によける。早く行ってくれないかな……。


「あれ、音和ちゃん? 5限目はじまるよ」

「っ!」


 顔を上げてその子を見る。声をかけてくれた子の隣にいた子もびっくりした顔をしていた。きっとあたしも同じような顔してるんだろう。


「ねえねえ、そういえば今朝、校門のところで声かけてくれた? 無視してごめんね。音楽聴いてたから気づかなくって」

「……ううん別に」

「音和ちゃんに話しかけられたの? いいなあ」

「……え?」

「そだよん♪ って授業始まってるよ、二人とも行こうよ」

「やば! 音和ちゃんもほらいそご!」


 差し出された手をぼーっと見つめる。その手は、こわくない。それに、とてもあたたかそうだったから。思わず、頬を押さえていた手を伸ばした。


 教室のドアを開けると、みんなが一斉にこっちを見た。あたしは二人の後ろをついて行くようにして中に入り、廊下側の窓際後方にある自分の席についた。よかった、先生はまだ来てない……。


「文化祭のプリント来てたけど、なにやりたいー?」


 隣の席で、男子が集まって文化祭のこと話してる。
 あたしは虎蛇あるし、クラスは出るつもりないから関係ないな。


「お化け屋敷だろ。女から抱きついてきて俺ら得!」

「待て、殴られるパターンもあるぞ。うちのクラスなら穂積とか無表情で打撃してきそうw」

「っ!?」


 ふいに名前が出たことにびっくりして、机から引っ張り出した教科書をばさりと落とした。
 男子たちがしまったという風にこっちを見る。


「殴らないもん……」


 口を尖らせると、隣の席の男子が吹き出した。


「ごめんね、こいつらの冗談だから」

「ん……」


 別のお調子者系男子が身を乗り出す。


「ねえねえ穂積ちゃんもお化け屋敷推薦してよー」

「っ! やだ!」


 思わず強く否定したら、男子たちの顔が引きつった。
 あ、違うっ。
 焦りつつ、言葉を探してみる。


「……あの、おばけこわい、から……」


 ひと呼吸間があったあと、男子たちが一斉に爆笑した。


「わはははウケる! 穂積って意外と女の子なのね」

「つか今日はよくしゃべるじゃん。珍しくね〜?」


 そんなんじゃない!って思ったけど声にならなかったから、首を一生懸命振って否定した。
 そこで先生が入って来て、男子たちも自分の席に戻って行く。


「あはははは。あ、ねえねえ。教科書忘れたから、見せてよ」


 ついでのように、隣の男子が言った。
 ついクセで睨みかけたけど、知ちゃんの顔が思い浮かんだから。しょうがなく机をくっつけてあげた。

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