彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/4(金) 穂積音和②

 1階まで猛ダッシュした。いろんな理由で動悸が激しいが、胸をぐっと押さえつけると少しマシになった……気がした。そう、古来から言うしね、病は気からって!

 渡り廊下を視界に入ると、すぐに目を凝らして音和を探した。
 あいつはひとりきりで、廊下の縁に座っていた。地面から高さがある渡り廊下から足を投げ出し、膝の上にさっき渡した弁当を置いていた。


「……音和」


 声を掛けると、首だけこちらに向ける。そして、いつものように。


「あれー、知ちゃん!」


 音和はうれしそうに俺を呼んだ。


「えへへ、見つかっちゃった」


 ばつが悪そうに彼女は笑う。


「最近はここで、ごはん食べるの」


 いつものような元気さはなく、ぶらぶらと揺らした足先を見つめていた。
 こんなことになってるなんて、全然知らなかった。


「俺らと一緒に食べないときは、ずっとここで?」


 おそるおそるたずねると、音和はこくんと首を縦に振った。


「6月くらいからかな。たかおみにはすぐ見つかって、嫌だったけど一緒にごはん食べたこともある」


 野中たまに休み時間の終わりごろに屋上来ることあったけど、そういうことだったのか。何も聞いてなかったな……。


「ごめん、気づかなくて。でも、さっきの子らは?」

「あの人たち? あー。たかおみと話したかったって怒ってた」


 あはは。と音和は笑う。いつもの悪いパターンだ。女が声を掛けて来た時点で気づくべきだった。


「あーーーもう、ほんと、ごめん!」


 思いっきり頭を下げた。悔しくて、思わず拳を握りしめる。


「ううん、見つけてくれたからいいよ」


 でも音和は、こんな俺も許すというのだ。

 音和の隣に腰掛けた。
 そこから見えるのは、学校を囲むフェンスとその向こうに車がほとんど来ない道路があるだけで、つまらないものだった。
 それをこいつは日々ひとりきりで、見続けていたのか。


「えっと……食べる?」


 音和が機嫌を伺うかのように、そっと弁当箱を差し出す。その仕草に思わず、眉間に寄せたしわが崩れてしまった。


「ああ、いや。大丈夫。……ふふっ。きちんと食べな、大きくならんぞ」

「うん。サッチンのごはんはおいしくて好きー」


 少しずつ、箸を口に運ぶ音和の隣で考える。
 音和が友だちを作るにはどうしたらいいんだろう。俺が手伝えることはほとんどなさそうだけど。とりあえず調査してみるか……。


「お前、クラスで話す人は?」

「いない」


 って即答……。


「でも、授業で話すこととかあるだろ?」

「閉口」

「なんでっ!?」

「……みんなおもんなくて、口も聞きたくない」


 ……こいつの自業自得だった。


「おいおい音和、それはまずい。お前の評判が下がる一方で、俺がつらい」

「なんで知ちゃんがつらいの? 関係ないよ?」

「大事な子が人に悪く思われるのは嫌だろ? お前は変だけど根はいいやつなんだから、誤解を与えるのはしんどすぎる」

「そうなの? でも小中ずっとこうだったよ」


 と、首を傾げる。
 こいつの学生生活は歪みすぎだ! メンタル弱そうに見えて、実はハガネだな……。


「友だちかー」


 うーんと唸ってから。


「どーやって作るの?」


 と、期待を込めて見上げてくる。


「それはだな」

「うん!」

「…………」


 おい。


「??」


 小鳥遊知実。たかが友だちの作り方だぞ。
 なにかないのかよ。それっぽい案的なやつ。


「……よし、みんなに聞いてみよう!」


 民主主義を取ることにした。



Q.どうやったら友だちができると思いますか?



・七瀬の場合

「ウケる〜! 友だちって、作ろうって思って作るものじゃないじゃん? なんか自然にいるっていうかぁ」



・野中の場合

「男は拳で語る!」

「語ったことねーから俺らは友だちじゃないな」

「うそうそ、なっちゃーーーんっ!」



・凛々子&詩織の場合

「…………」

ピシャッ


「なにあいつ。あたしたちの顔見て急にドア閉めて」

「??」



・いちごの場合

「え、あたし!? えっと……転校多かったし、長く付き合ってる子いないかなあ……」

「うー。知ちゃん〜?」

「むう、ここもダメか」


 やっぱり七瀬の言う通り、友だちっていうのは自然にできるもんだしなあ。


「あっでも、逆に、“新しく人の中に入っていく”のは経験多い……かも?」


 それはいちごが初めて頼もしく見えた瞬間だった。

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