彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/4(金) 穂積音和①

 昼どき、いちごと並んで屋上へ向かっていると、後ろから声をかけられた。


「知ちゃん……」


 この学校で知ちゃんと呼ぶのはあいつしかいない。しかし、覇気のない声だな。


「せんぱーい! 私たちもご一緒していいですか?」


 振り返ると音和の隣に、3人の見慣れない女子たちがいた。


「誰?」

「えっと……」

「あたしたち、穂積ちゃんと同じクラスなんです!!」


 中央の女子がパチンとウインクをする。
 薄い茶髪のセンターパートのロングヘアに切れ長の目が特徴的な彼女は、薄い唇に色づいた真っ赤なリップが目立っていた。
 うおお、正真正銘のギャルじゃん。ギラついていてまぶしいっ。
 隣のいちごを見る。


「ああ、なんか安心する……」

「どういうことかな、知実くん?」

「はっ! いや、他意はない」


 やばい、いちごちゃんがジト目だ。
 ともかく!


「なんだよ、友だちがいるならそっちでメシ食えよ。ほらお前の弁当」


 袋から自分の弁当だけ抜いて音和に渡す。


「違くて、先輩! たまには後輩とも交流しましょうよっ」

「文化祭実行委員されているんですよね〜。かわいい後輩っちに、文化祭のこと教えてください〜♡」


 右サイドだけお団子にした金髪に、チュッパチャップスを3つさした超ミニスカートのギャルと、ふわふわロングヘアでピンクのベストを着た、色白で目だけバチバチッと目立つギャルが、俺のシャツの袖をつかんで離さない。


「あ〜〜〜〜悪い。こういうの嫌がるのがひとりいるんだよね。可愛い女の子に人見知りするっていうか」


 野中、騒がしい女子のあしらい方が鬼だからな……。


「え〜〜〜〜〜〜〜」

「んじゃ、うちの子をよろしく頼むよ!」

「知ちゃ……」

「偉いな音和。また放課後な〜」


 音和の頭をくしゃくしゃに撫でて、再び階段をのぼる。
 うんうん。二学期早々、いいできごとだ。
 数段上にいたいちごを追い越して、屋上の扉を開けた。

 それから、給水塔のふもとのいつもの場所へまっすぐに向かった。
 後からいちごもあがってきて、俺の顔を何か言いたげに見た。


「? なに?」

「ううん。ちょっと心配になって」

「なにが?」

「音和ちゃん。大丈夫かなって」

「チャキチャキしてそうな子たちだから、音和のこと引っ張ってくれるだろ」

「うん。でもちょっと……」


 首を傾げるいちごを横目に、シートを広げた。
 俺が座ると、隣にちょこんと腰掛ける。


「そういえばあいつの友だちって、ちゃんと紹介されたことないな」

「初めてなんだ?」

「うん。まあなんかちょっとだけ、もやもやするかなー」

「え、友だちに嫉妬? それは過保護すぎだよ〜」


 さっきまで眉根を寄せていたいちごに、思いっきり笑われてしまった。
 音和だってクラスに友だちくらいいるよなあ。
 でも、そんな自分の知らない世界が、本当にちょっとだけ、寂しいかもと思った。
 俺も保護者とか言わずに、音和離れしないといけないな。……頑張れ俺。



┛┛┛



 弁当を食べはじめたころ、野中が遅れてやってきた。


「暑い! 死ぬ! なんでおめーら平気で外でメシ食ってんだよ」

「おつ~」

「野中くんおつ~」

「おつ~」


 文句を言いながらも野中ははしごをのぼり切った。


「せっかく掃除したし使わないと。また片づけるのやだし」

「せやけど小鳥遊ぃ」

「ネクストコナンズヒーント、動くのだりぃ」

「それは答えかな?」


 暑いけどシートは給水塔の陰に広げてるし、我慢できないことはない。さすがに昼寝とかはしたくないけど。


「そういえばお姫がひとりでメシ食ってたけど、ケンカでもしたー?」


 ピタリと、箸を持つ手が止まった。


「は? 見間違いじゃね?」


 だって、さっき友だちとメシ食うって言ってたよな?


「? だって今日俺らと一緒にメシ食うって言ってたのにいねーじゃん。それにあいつ普段からよくひとりで昼メシ食ってるぞ?」


 野中は眉間にしわを寄せながら、パンの袋を開ける。


「ちょっと、知実くんってば」


 いちごが心配そうに俺を揺する。あぶね、びっくりして固まってた。


「野中、音和はどこにいた?」

「1階の渡り廊下。倉庫舎に行く途中の」

「なんでお前、そんなへんぴなとこ……」

「つか、行かねーなら俺が行くけど?」

「いや俺が行く」


 箸を置いてすぐハシゴに手をかけた。一体なんなんだよ、あいつ。

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