彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

2017年 冬②

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 数日後、演説原稿を見てもらうために生徒会室に行くと、先輩方の雰囲気がよそよそしく感じた。
 前来たときはフレンドリーだったのに、今日は誰も話しかけて来ない。むしろ、あたしの周りに見えない結界が張られてているかのように、遠巻きにされていた。
 異物を見るような視線が突き刺さる。
 会長デスクにつき、黙っていた杠先輩は、意を決したように立ち上がってあたしの前まで歩いて来た。手を前で組み、眉根を寄せる。


「実は部田さんに謝らなきゃいけないことがあるの……」

「どうかしたんですか?」

「うん。えっと……。毎年生徒会長の立候補が出ないって話してたんだけど、二年生の安達くんも立候補したんだ」

「安達って……安達カケル!?」


 先輩がこくりと頷く。
 あたしと同級生の安達カケル。ちょっとチャラついているけど、確か頭は悪くないなって印象。
 人当たりがよくて、先生もよく怒ってるけど目にかけてるっぽいし、安達カケルが取り持って、クラスのいじめがなくなった話も聞いたことある。
 あの人、生徒会長に立候補したんだ。そういうのは興味ないと思ってた。
 でもそうすると、対立ってことになってしまう。


「それで、謝りたいことがね」


 黙って考えていると、杠先輩が恐る恐ると口を開いた。
 え?? 生徒会長確定の話が流れたってことだけじゃないの?


「安達くんに応援演説を頼まれて、わたしが話すことになったの」

「!?」


 慌てて周りを見渡すと、すでに知っていたらしく先輩全員が目を逸らした。
 そっか、選挙するとなると応援演説が必要なんだ……。
 どうしよう。あたしには手伝ってくれる友だちなんていない。応援演説なんて、誰に頼んだら……。
 でも、そんなことここで愚痴れない。


「ごめんね。安達くんは幼馴染だし断れなくて。わたしが演説するから、生徒会みんなそっちの手伝いになっちゃって……」


 だからこの雰囲気か。あたしがここにいることが居心地悪いんだ。そっか。


「でも、部田さんの演説のアドバイスや添削もしますよ。先に約束していたことですから」

「……大丈夫です、生徒会長」


 持ってきた紙をくしゃっと握りつぶして、ポケットに隠す。


「ライバルに手の内を明かすのは、お互いにとってもあまりよくないことですよね? あたしはなんとでもなりますから。失礼します」


 心なしか、生徒会長の顔がホッと緩んだような気がした。

 生徒会室を出ようと振り向いて、自分が立っている場所にようやく気づく。ドアまでたった数歩の距離。そんなところで立ち話してたんだ。誰にも受け入れられてなかったことが身に染みる。
 数歩歩いて生徒会室を出てから、あたしは走った。行くべき場所なんてないけど、早く生徒会室から離れたい。そんな感情だけでやみくもに走った。

 あたしはなんとでもなる? 全然なんともならないよ。こんな仕打ちないよ……。
 ううん。これはあたしの見立てが甘かったせい。応援演説があることも考慮しておくべきだった。なんでもトラブルはつきもの。予定調和なんて夢ものがたり。これを対処しないと、生徒会長なんてなれないよね。
 だから、先輩たちを責めるのは、お門違いなんだから……。

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