彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
8/13(木) 月見里 蛍②
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「あれ?」
病院に戻っていちばんにほたるの病室を訪れたのに、姿がない。もう引っ越ししたのだろうか?
それにしてもおかしいな。昨日もほたるを連れて帰ったとたん、めちゃくちゃ怒られたけど。今日は誰にも何も言われない。看護師さんたちもずっと走り回っていて、からかってもこない。
なんなんだ? まったく別の病院に来ているみたいだ。……やっぱり昨日のことで、呆れられたとか?
とぼとぼと自分の病室まで戻る。すると病室の前に、人影があった。
「あっ、美原さーん!」
うれしくて手をあげると、こっちに気づいた美原さんは何も言わず、スタスタと一直線に歩いてきた。
「ども、何しっ」
バチーーーン!!
平手打ちは俺の頬に見事にハマり、廊下に、乾いた音が響いた。
「!? なんだよ、出会い頭にこんな仕打ち、あるっ?」
不意打ちすぎて涙出てきた!
「バカ! あんたがっ、のろのろしてるから!!」
「は? それが一体……って美原さん?」
顔が伏せ気味だったから気づかなかったけど、声が震えてる……。もしかして美原さん、泣いてる?
「どうかしたんですか?」
なんかあったのかな。いくら美原さんでも、目の前で泣く女の子は強く責められないんだけど……。
「つ、月見里が……」
「ほたる? そういえば病室にいなかったけど、もう引っ越……まさか」
ちょっと待て俺。今何を言おうとした。
そんな急な話、ありえない。
じゃあ、美原さんのこの様子はなんなんだ。
じっと美原さんの様子を伺う。
美原さんは少しだけ顔を上げ、でも俺から目を逸らしたままで。小さく鼻を鳴らした。
「少し前に息を引き取ったの……。事故よ」
答えは最悪だった。
「……事故……って。は? 今日は投薬じゃないだろ?」
「前進とバックを間違えた車に、はねられたのよ」
「車って。いやいやだって、そんな、外に用事なんて……っ!?」
指先から冷たくなっていく。口がうまく、動かせない。頭も回らない。
え、え、え? そんなまさか。
「……」
美原さんは何も言わない。だけどそれが、決定的だった。
「え、だって……死なないって、約束……」
口をついて出たのは、アホみたいな言葉だった。
だって昨日、たくさん話したんだ。
手をつないで、隣を歩いてたんだ。
一緒に泣いて、笑ったんだよ。
そんな彼女が、この世のどこにもいないなんて——!
「仕方がないでしょ、事故なんだから!」
「人は簡単には死なないんだよ、そうだろ? 美原さんが教えてくれたんじゃんか!!」
「小鳥遊……」
「嘘だろ。嘘だって言ってくれよ!! 俺を待ってたんだよね? それで偶然事故に? そんな馬鹿なこと、あっていいわけないだろ!!!」
拳を握って壁を思いっきり殴った。どこにぶつけていいか分からない感情が、今はもう弱小の身体をみちみちと満たす。
「いいわけないわよ、当たり前でしょう! 運が悪かったのよ、それだけなのよ……!」
もう泣くのを隠そうとしない美原さんが倒れかかるようにぶつかって、そのままきつく抱きしめられた。勢いを受け止め切れなかった俺は、よろけて壁に背中を押し付けて止まった。
美原さんの白衣の肩の部分に、ぽつぽつとグレーの染みができていくさまを見て、さっきから息が苦しかったのは、自分が涙を流しているからだと気づいた。
「あれ?」
病院に戻っていちばんにほたるの病室を訪れたのに、姿がない。もう引っ越ししたのだろうか?
それにしてもおかしいな。昨日もほたるを連れて帰ったとたん、めちゃくちゃ怒られたけど。今日は誰にも何も言われない。看護師さんたちもずっと走り回っていて、からかってもこない。
なんなんだ? まったく別の病院に来ているみたいだ。……やっぱり昨日のことで、呆れられたとか?
とぼとぼと自分の病室まで戻る。すると病室の前に、人影があった。
「あっ、美原さーん!」
うれしくて手をあげると、こっちに気づいた美原さんは何も言わず、スタスタと一直線に歩いてきた。
「ども、何しっ」
バチーーーン!!
平手打ちは俺の頬に見事にハマり、廊下に、乾いた音が響いた。
「!? なんだよ、出会い頭にこんな仕打ち、あるっ?」
不意打ちすぎて涙出てきた!
「バカ! あんたがっ、のろのろしてるから!!」
「は? それが一体……って美原さん?」
顔が伏せ気味だったから気づかなかったけど、声が震えてる……。もしかして美原さん、泣いてる?
「どうかしたんですか?」
なんかあったのかな。いくら美原さんでも、目の前で泣く女の子は強く責められないんだけど……。
「つ、月見里が……」
「ほたる? そういえば病室にいなかったけど、もう引っ越……まさか」
ちょっと待て俺。今何を言おうとした。
そんな急な話、ありえない。
じゃあ、美原さんのこの様子はなんなんだ。
じっと美原さんの様子を伺う。
美原さんは少しだけ顔を上げ、でも俺から目を逸らしたままで。小さく鼻を鳴らした。
「少し前に息を引き取ったの……。事故よ」
答えは最悪だった。
「……事故……って。は? 今日は投薬じゃないだろ?」
「前進とバックを間違えた車に、はねられたのよ」
「車って。いやいやだって、そんな、外に用事なんて……っ!?」
指先から冷たくなっていく。口がうまく、動かせない。頭も回らない。
え、え、え? そんなまさか。
「……」
美原さんは何も言わない。だけどそれが、決定的だった。
「え、だって……死なないって、約束……」
口をついて出たのは、アホみたいな言葉だった。
だって昨日、たくさん話したんだ。
手をつないで、隣を歩いてたんだ。
一緒に泣いて、笑ったんだよ。
そんな彼女が、この世のどこにもいないなんて——!
「仕方がないでしょ、事故なんだから!」
「人は簡単には死なないんだよ、そうだろ? 美原さんが教えてくれたんじゃんか!!」
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「嘘だろ。嘘だって言ってくれよ!! 俺を待ってたんだよね? それで偶然事故に? そんな馬鹿なこと、あっていいわけないだろ!!!」
拳を握って壁を思いっきり殴った。どこにぶつけていいか分からない感情が、今はもう弱小の身体をみちみちと満たす。
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