彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
8/4(火) 月見里 蛍②
上着を羽織り、ほたるの病室に向かう。
ひと目顔を見るだけでいい。そうすれば安心するんだから。
廊下では雨音と歩いている人のスリッパが鳴らす音でごちゃついていた。雑音を排除するように頭を振り、顔見知りになった人と会釈を交わして真っすぐ進んだ。
小児病棟は1つ上のフロアってだけで、そんなに離れているわけでもないからすぐに着いた。
ノックするが反応がない。部屋を覗くけど誰もいなかった。どこに行ったんだ……?
「なっちゃん♪ おひとりですか?」
背後から声をかけられて振り向くと、エミちゃんだった。ナイスタイミングすぎる!
「エミちゃん、ほたる知らない?」
「あら、お母さん帰られたんですね。だから篠崎さんと二人で歩いてたんだ〜」
は。マジで? いやいやいや、ザキさんを信じよう。
ロリコン趣味があってもエミちゃんに手を出してないし、ちゃんと良識のある大人なハズだ。
「でもここだけの話ですけど、あたし篠崎さん少し苦手なんです。この間、空き部屋に連れ込まれそうになって。そういう冗談はやめてほしいんですよね」
……。
ちょっとまて、アウトやないかい!!
「ちょっとエミちゃん、それどこの部屋?」
「えーっと、ふたつ下のフロアですよ。購買をすぎると、奥の部屋は物置になってるんです。たまに先輩たちがそこで休憩していて、使ってないときはカギが開いてるんですよ〜」
「ありがとう!」
お礼を言って、すぐに階段に向かった。無駄に広いこの病院で、めぼしい場所がすぐに見つかって良かった。
念のため、購買の周辺をうろつく。テーブルコーナーにも、二人の姿はない。
喫煙所を過ぎ、廊下の突き当たりの薄暗いスペースで立ち止まった。
『倉庫』
油性ペンで書かれた即席ネームがドアにテープで貼られている。
倉庫……ここか。
ばくばく鳴る心拍音を聞きながら、ドアノブをゆっくり握ってまわしてみる。
……が、開かない。
押しても引いても開かない。
誰か中にいるってことか。でも物音がしないな……。
っし。
拳を握りしめ、思いっきりドアを叩く。
「誰かいますかー!?」
ドンドンという音は細長い廊下にかなり響いた。
それでも手を止められない。
どうか、もし中に人がいるなら、それは看護師さんでありますように——!
「なにしてんの」
叩き続けていると後ろから声をかけられた。
怒られる……。
振り向くと、美原さんが立っていた。
「美原さん! ここ開けたいんですけど、美原さんこそなんでここに?」
美原さんは、迷惑そうな顔をして『倉庫』の文字を見ていた。
「あっちでタバコ吸ってたらおかしな声が聞こえるから……。つか、ここサボり部屋よ。中で人寝てるなら出てこないわよ?」
「美原さんも知ってるんですか?!」
「当たり前じゃない。あたしをなんだと思ってんのよ。スタッフよ、ここの」
そう言うと、すっかり興味を失ったように背を向ける。
「もう放っておいてあげなさい。夜勤で休んでるのかもしれないんだから」
伸びをしながら歩いていく美原さんに俺は慌てて問いかけた。
「ほたる見ませんでしたか?!」
「ええ?」
ほたるの名前に反応して振り返る彼女にもう一度聞く。
「ちょっと深刻で! 俺の思い過ごしかもだけど、状況ヤバくて。ここに閉じ込められてるかもしれないんです!」
「なによそれ……」
ぱたぱたと足音を響かせて、美原さんが戻って来た。
「本当なのそれ?」
「わからん。思い過ごしかもだけど、なにもないに越したことはないでしょ。とりあえず俺カギもらってくるんで、ちょっとここにいてもらえませんか?」
「……待って」
美原さんは白衣の内ポケットから大量のカギの束を取り出した。
「あたしこの病院の特別秘密組織に属していてね。だから、このことは他言無用よ」
カギの束の個人所有って。……大問題だよな。
が、ここは口を挟まずにいよう。
似たようなカギの束から慣れた手つきですぐにひとつを選び、がちゃりと、カギを回して解錠した。
そのまま美原さんはゆっくりとドアを開ける。
それまでダルそうだった美原さんの目の色が、中を見た瞬間、変わったのが分かった。
ひと目顔を見るだけでいい。そうすれば安心するんだから。
廊下では雨音と歩いている人のスリッパが鳴らす音でごちゃついていた。雑音を排除するように頭を振り、顔見知りになった人と会釈を交わして真っすぐ進んだ。
小児病棟は1つ上のフロアってだけで、そんなに離れているわけでもないからすぐに着いた。
ノックするが反応がない。部屋を覗くけど誰もいなかった。どこに行ったんだ……?
「なっちゃん♪ おひとりですか?」
背後から声をかけられて振り向くと、エミちゃんだった。ナイスタイミングすぎる!
「エミちゃん、ほたる知らない?」
「あら、お母さん帰られたんですね。だから篠崎さんと二人で歩いてたんだ〜」
は。マジで? いやいやいや、ザキさんを信じよう。
ロリコン趣味があってもエミちゃんに手を出してないし、ちゃんと良識のある大人なハズだ。
「でもここだけの話ですけど、あたし篠崎さん少し苦手なんです。この間、空き部屋に連れ込まれそうになって。そういう冗談はやめてほしいんですよね」
……。
ちょっとまて、アウトやないかい!!
「ちょっとエミちゃん、それどこの部屋?」
「えーっと、ふたつ下のフロアですよ。購買をすぎると、奥の部屋は物置になってるんです。たまに先輩たちがそこで休憩していて、使ってないときはカギが開いてるんですよ〜」
「ありがとう!」
お礼を言って、すぐに階段に向かった。無駄に広いこの病院で、めぼしい場所がすぐに見つかって良かった。
念のため、購買の周辺をうろつく。テーブルコーナーにも、二人の姿はない。
喫煙所を過ぎ、廊下の突き当たりの薄暗いスペースで立ち止まった。
『倉庫』
油性ペンで書かれた即席ネームがドアにテープで貼られている。
倉庫……ここか。
ばくばく鳴る心拍音を聞きながら、ドアノブをゆっくり握ってまわしてみる。
……が、開かない。
押しても引いても開かない。
誰か中にいるってことか。でも物音がしないな……。
っし。
拳を握りしめ、思いっきりドアを叩く。
「誰かいますかー!?」
ドンドンという音は細長い廊下にかなり響いた。
それでも手を止められない。
どうか、もし中に人がいるなら、それは看護師さんでありますように——!
「なにしてんの」
叩き続けていると後ろから声をかけられた。
怒られる……。
振り向くと、美原さんが立っていた。
「美原さん! ここ開けたいんですけど、美原さんこそなんでここに?」
美原さんは、迷惑そうな顔をして『倉庫』の文字を見ていた。
「あっちでタバコ吸ってたらおかしな声が聞こえるから……。つか、ここサボり部屋よ。中で人寝てるなら出てこないわよ?」
「美原さんも知ってるんですか?!」
「当たり前じゃない。あたしをなんだと思ってんのよ。スタッフよ、ここの」
そう言うと、すっかり興味を失ったように背を向ける。
「もう放っておいてあげなさい。夜勤で休んでるのかもしれないんだから」
伸びをしながら歩いていく美原さんに俺は慌てて問いかけた。
「ほたる見ませんでしたか?!」
「ええ?」
ほたるの名前に反応して振り返る彼女にもう一度聞く。
「ちょっと深刻で! 俺の思い過ごしかもだけど、状況ヤバくて。ここに閉じ込められてるかもしれないんです!」
「なによそれ……」
ぱたぱたと足音を響かせて、美原さんが戻って来た。
「本当なのそれ?」
「わからん。思い過ごしかもだけど、なにもないに越したことはないでしょ。とりあえず俺カギもらってくるんで、ちょっとここにいてもらえませんか?」
「……待って」
美原さんは白衣の内ポケットから大量のカギの束を取り出した。
「あたしこの病院の特別秘密組織に属していてね。だから、このことは他言無用よ」
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