彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
7/22(水) 小鳥遊知実①
「検温のお時間で〜す」
今日も、明るい一声で1日が始まる。
「チェーーーーーーーーーンジ!!」
負けじと大きな声で叫んだ。
「あらあら、どうしたのなっちゃん? でも残念ながら当社にはそんなシステムはございませんよ〜」
布団をひっぺがされる。
「エミ18歳です。よろしくお願いしますね?」
「エミちゃんその年齢設定、犯罪……」
ノリノリでウインクまでしてくれた。
仕方なくむくりと起きて体温計を受け取る。
「ふふ。でもね、今日は採血はナシよ。共同作業ができなくて残念〜」
「そっ! そーなんだー!」
「あら〜いい笑顔♪」
ごめん、こればかりは感情をおさえきれない!
「はーいじゃあ海老沢さん琵琶さん白岩さん、まとめて検温ですよ〜」
気にせずにじいさんズのほうに向かうエミちゃん。強者だよなー。
「エミちゃんタッキーがチェンジなら俺がいつだって待ってるからなー!」
「
そう言ってくれるのは篠崎さんだけですよ~」
くるりと上半身を回したエミちゃんとザキさんはピースし合っている。
「エミちゃんや、わしは貢ぎ物をするぞ」
「じゃあわしはキャンデーをあげよう」
「抜け駆け禁止じゃぞ!」
じいさんズもうれしそうに騒いでいる。エミちゃんって、みんなの天使なんだなあ。
┛┛┛
検温後、トイレから戻ってくると、病室の入り口に例の少女がいた。
しめしめ。
後ろからそっと忍び寄る。
少女は病室に俺がいないことに気づき、前のめりになって中を見ている。
「猫娘、ゲットだぜ!!」
後ろから少女の腕を掴んだ。
その細さといったら、葛西先輩の比じゃない。一瞬、怖くなって、離しそうになったくらいだ。
「っぁ!?」
初めてその子の声を聞いた。小さくてか細い、かすれた声。
何年も声を出していなかったような、声の出し方を忘れていたような。そんな、不自然な声だった。
「俺になにか用?」
「……」
ぶるぶると頭を振って否定して、腕を引き離そうと引っ張る。
二の腕を握っていた手がするすると手首まで降りたとき、指にざらりという嫌な感触があり、一瞬顔をしかめてしまった。
思わずぐっと手首を引き上げる。
パジャマの袖が下がってあらわになった少女の腕には、古いものから新しいものまで、多数の赤黒い、線状の傷が残っていた。
少女は俺が見ていることに気づき、手を引き抜くとパジャマの袖を引っ張って腕を隠した。
ばつの悪そうな顔をして、ゆっくりと後ずさる。
俺はしゃがみ込んだまま、少女を見上げるようにして目を合わせた。
よし。と心の中で気合いを入れて、にっこりと微笑む。
「俺は小鳥遊知実。16歳です。一昨日から入院してるんだ。よろしくね」
女の子にはもう触れていない。いつでも逃げられる可能性がある。でも、それはそれで仕方ないと思っている。
ただせっかく来てくれてるんだ。きっと話したかったに違いない。俺の名前を聞くまでが彼女の望みなら、それでもいいし。
「……」
少女は後ずさる足を止めて、おずおずと小さく口を動かした。
「あ……みと……る」
自分の声がかすれていることに納得いかないようで、顔をしかめている。
「なんか飲む? カフェ『俺のベッド』で」
喫茶店にでも誘うように、中を指した。
……コクリ。
少し間が開いたけれど。今度は肯定してくれたので、安心して立ち上がる。
「男ばかりのむさ苦しい部屋ですがどうぞ~」
俺の後に続いておずおずと部屋に入る見知らぬ少女。同室の人たちはみんなぽかんと見ていた。
大丈夫かなと少女を振り返る。
この子に出会ってずっと思っていたんだけど、心配なのは声だけじゃない。表情もほとんど固まっていて口を一文字に結んだ無表情が多かった。それは、今こうしていてもそうだ。
今日も、明るい一声で1日が始まる。
「チェーーーーーーーーーンジ!!」
負けじと大きな声で叫んだ。
「あらあら、どうしたのなっちゃん? でも残念ながら当社にはそんなシステムはございませんよ〜」
布団をひっぺがされる。
「エミ18歳です。よろしくお願いしますね?」
「エミちゃんその年齢設定、犯罪……」
ノリノリでウインクまでしてくれた。
仕方なくむくりと起きて体温計を受け取る。
「ふふ。でもね、今日は採血はナシよ。共同作業ができなくて残念〜」
「そっ! そーなんだー!」
「あら〜いい笑顔♪」
ごめん、こればかりは感情をおさえきれない!
「はーいじゃあ海老沢さん琵琶さん白岩さん、まとめて検温ですよ〜」
気にせずにじいさんズのほうに向かうエミちゃん。強者だよなー。
「エミちゃんタッキーがチェンジなら俺がいつだって待ってるからなー!」
「
そう言ってくれるのは篠崎さんだけですよ~」
くるりと上半身を回したエミちゃんとザキさんはピースし合っている。
「エミちゃんや、わしは貢ぎ物をするぞ」
「じゃあわしはキャンデーをあげよう」
「抜け駆け禁止じゃぞ!」
じいさんズもうれしそうに騒いでいる。エミちゃんって、みんなの天使なんだなあ。
┛┛┛
検温後、トイレから戻ってくると、病室の入り口に例の少女がいた。
しめしめ。
後ろからそっと忍び寄る。
少女は病室に俺がいないことに気づき、前のめりになって中を見ている。
「猫娘、ゲットだぜ!!」
後ろから少女の腕を掴んだ。
その細さといったら、葛西先輩の比じゃない。一瞬、怖くなって、離しそうになったくらいだ。
「っぁ!?」
初めてその子の声を聞いた。小さくてか細い、かすれた声。
何年も声を出していなかったような、声の出し方を忘れていたような。そんな、不自然な声だった。
「俺になにか用?」
「……」
ぶるぶると頭を振って否定して、腕を引き離そうと引っ張る。
二の腕を握っていた手がするすると手首まで降りたとき、指にざらりという嫌な感触があり、一瞬顔をしかめてしまった。
思わずぐっと手首を引き上げる。
パジャマの袖が下がってあらわになった少女の腕には、古いものから新しいものまで、多数の赤黒い、線状の傷が残っていた。
少女は俺が見ていることに気づき、手を引き抜くとパジャマの袖を引っ張って腕を隠した。
ばつの悪そうな顔をして、ゆっくりと後ずさる。
俺はしゃがみ込んだまま、少女を見上げるようにして目を合わせた。
よし。と心の中で気合いを入れて、にっこりと微笑む。
「俺は小鳥遊知実。16歳です。一昨日から入院してるんだ。よろしくね」
女の子にはもう触れていない。いつでも逃げられる可能性がある。でも、それはそれで仕方ないと思っている。
ただせっかく来てくれてるんだ。きっと話したかったに違いない。俺の名前を聞くまでが彼女の望みなら、それでもいいし。
「……」
少女は後ずさる足を止めて、おずおずと小さく口を動かした。
「あ……みと……る」
自分の声がかすれていることに納得いかないようで、顔をしかめている。
「なんか飲む? カフェ『俺のベッド』で」
喫茶店にでも誘うように、中を指した。
……コクリ。
少し間が開いたけれど。今度は肯定してくれたので、安心して立ち上がる。
「男ばかりのむさ苦しい部屋ですがどうぞ~」
俺の後に続いておずおずと部屋に入る見知らぬ少女。同室の人たちはみんなぽかんと見ていた。
大丈夫かなと少女を振り返る。
この子に出会ってずっと思っていたんだけど、心配なのは声だけじゃない。表情もほとんど固まっていて口を一文字に結んだ無表情が多かった。それは、今こうしていてもそうだ。
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