彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

7/19(日) 葛西詩織⑧

………………

…………

……


 1時間後、葛西先輩をのぞいたみんながリビングに集まっていた。


「そもさん!」

「せっぱ。……ちっ!」

「残念だなたかおみ、それは残像だ」


 野中と音和がカードで戦っている声が聞こえる。何のゲームやってんだあいつら……。
 いちごと七瀬はソファで寄り添い、テレビのバラエティを無言で眺めている。
 部屋の隅に目をやる。ぽつんと置いてあるバケツの中には、夜に使うはずだった花火が入っていた。
 こういう俗っぽいやつこそ、先輩と一緒にやりたかったな。先輩いいリアクション取ってくれそうだし。


「はあ」


 ため息が自然と漏れてしまう。
 ソファで雑誌を読んでいる凛々姉に、ちょっとかまってもらおう。


「凛々姉ー。夏が終わったらようやく文化祭だな」

「そうね」


 凛々姉は雑誌を閉じて、ダイニングチェアに座っている俺のほうへと律儀に顔を向けた。ちょっと疲れているように見える。


「心配?」

「メンバーに心配はない。最強の陣営だと思ってる。ただ……そうね、心配といえば詩織の身体……」


 怖じ気づくよな、あれを見ちゃったら。
 彼女は小さなため息をついて言った。


「無理はさせたくないけど、虎蛇である以上、無理は生じてしまう」

「もちろん力仕事は俺がやるし」

「うん。頼りにしてる」

「あのさ、できるだけみんなでカバーできない? 葛西先輩が辞めるのは嫌だから」


 先輩が病弱なのはみんな知ってた。でも、実際にここまで辛そうなのは見たことなかった。どこかで「大丈夫だろう」って軽く考えていたところがあった気がする。
 でもそのせいで、先輩を虎蛇から脱会させるのは……。高校が楽しくなったって言ってくれた先輩を、またひとりにさせるのは……。絶対にしたくない。


「何言ってんの。辞めるなんて許可しないわよ」


 不敵な笑みを浮かべる凛々姉を見て安心した。怖じ気づいていたのは本当だろうけれど、うちの会長は、そういう子だった。


「あれ、車の音……?」


 ふと声をあげたのはいちごだ。
 同時に、リビングの窓にヘッドライトの明かりが通過した。
 誰か来たらしい。カーテンを開けて暗闇に目をこらす。バタン、とドアが閉まる音がして、車の側で人影が動いた。そしてすぐに玄関が開く音。
 一気に緊張が走る。カギはかけていたはずだから、この家のカギを持っている人物が来たってことで。それってつまり……。


「……詩織先輩のご両親?」


 いちごがみんなの考えを代弁してつぶやいた。


「ちょっと行ってくるわね」


 すぐに凛々姉が立ち上がって、リビングから出ようとした。


「俺も。副会長として行く!」


 肩越しに振り返って俺を見る凛々姉は、眉間に薄くシワを寄せる。


「……まあいいわ」


 よかった、今度は拒否られなかった。


「ただし、あんたはしゃべらないこと。あたしの暴走を止めるのと、殴られる係よ」


 俺の扱いがひどい!!!!
 でもさすがだな、凛々姉。暴走する気、自覚してるんだ。それに、相手に殴られる役も俺が代わったほうがいい。


「わかったよ、凛々姉を守る」

「ん。殴りたくなったときはよろしく」

「あんたが殴るんかい!!」


 抗議を無視して、凛々姉は先にリビングを出て行った。仕方ねーな、いや、全然仕方なくはないんだけど。

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