彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

7月某日 芦屋七瀬

「……よぉ」
「あ、なっちゃん!」
「先に入ってるならそう連絡しとけよ……」


 七瀬に着信のないスマホをぶらぶらと見せ付ける。


「あはは……ごめん。待ちきれなくてさ」
「明日からまた採掘チームが入るんだって?」
「うん」


 目の前にある七瀬のじいちゃんが見つけた標本完全体を見上げた。忘れられていた採掘場は、35年ぶりに人が出入りするらしい。


「ぶっちゃけ、どこ追加したかわかんないな」


 隣の七瀬が噴き出した。


「ほんとにね。でも、意味があった」


 化石から今度は俺に身体を正対させてきた彼女の顔は、今日の空のように晴れ晴れとしていた。


「ありがとうございましたっ」


 そして深くお辞儀をした。


「いいねそれ。ムービー撮るからもう一回お願い」
「するかバカ!」


 頭をペチンと軽く叩かれる。で、顔を見合わせて笑った。


「あーーー! そういえば、写真! しおりん先輩から預かってたんだ」
「なんだそれ」
「体育祭のー。こないだの虎蛇会でなっちゃんの分、預かってきたよ」


 そういえば前回、病院があったから休んだけど。それ以外は毎回、先輩と顔を合わせていたはずなのに、なんで人づて??

 ……嫌な予感がする。

 ニヤニヤしながら七瀬はカバンを漁り、10枚程度入っている写真の袋を取り出した。


「はいどーぞ☆」


 ものすごく邪気を感じながら、裏返っていた写真をひっくり返した。


「うわあ、目が、目があああああ」
「きゃはははは!!」


 写真を投げ捨てて目を押さえ、大佐になりきる。


「つか、なんで俺の女装しかねーの!!?」


 ロン毛をかぶりスカートをはいて走る俺の姿がでかでかと。高画質でプリントされているではないか。


「捨てる。コキュートスの底へつながる空間のひずみはどこだ!?」
「あははは、ダメ、ダメだって!!」


 目に涙を溜めながら笑い、俺の腕を引っ張る七瀬を振り切った。


「ていうか、なっちゃんの写真は全員に配られ済み」
「のおお!!!」
「いっちーとか大事そうに抱きしめてたよ」
「ぎゃあああ! あいつ額縁とかに入れそう!!」


 恥ずかしすぎて頭を抱えてその場に座り込んだ。


「ていうか、お前らがうつった写真、俺にもよこせコラ」


 口を尖らせて七瀬を見上げる。


「別にふつーよ。なっちゃんみたいに面白おかしくないわ」
「やっぱり面白おかしいと思っていたんですね。しくしく……」
「や、可愛いって! で、なっちゃんは誰の写真をおかずにしたいのかな?」
「しししし、しませんバカ!」


 まじでこいつの急な下ネタどうにかなんねーかな、恥ずかしいわ!

 ぱたんとその場に寝転んだ。


「……なんかほら。思い出、になるじゃんか」
「ふーん」
「なにさ」
「記念、じゃなくて思い出、なんだ」


 たまに鋭いなコイツ。


「……それに虎蛇は美人揃いだし」
「え、本当におかずにしようとしてたの……?」
「だ、だからそれは誤解だって!」


 本気で気持ち悪がられてる!?!?

 散らばった写真を1枚拾って眺めた。被写体は気持ち悪いけど、いい写真だった。


「なっちゃん。あたしでも、古生物学者になれたりするのかなあ……」


 寝転んだまま七瀬を見上げる。


「あはは似合わないかっ」


 七瀬は自虐っぽく笑った。


「……お前のそういうとこ、好きだわ」
「え? は? え??」


 口をパクパクさせている七瀬を無視して起き上がる。それから無言で写真を回収し、歩きながら片手を上げた。


「ごめん、テンパった。パンツ見えてたから」
「はあ!? あっ!! ちょっと、あたしがちょっとでも写ってる写真全部回収だっ、返せーーーー!!!!」


 振り返ると片手でこぶしを上げ、片手でスカートをおさえて、漫画チックに七瀬が追いかけてきてた。
 そしてそんな彼女越しに見える大きな恐竜の標本が、優しく俺達を見守っていてくれているように思えたから。
 こんな状態だっていうのに、俺は笑みをこぼしてしまったわけで。

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