彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

6/7(日) 芦屋七瀬①

 本部のテントに戻ると、葛西先輩が駆け寄ってきて祝福してくれた。


「お疲れさまですみなさん!! これで晴れて虎蛇会も公認ですねっ!」


 座っていた音和が手をバタバタ振って俺を呼びつける。


「あ。ほれ、お前の」


 そばに行って首にメダルをかけてやった。


「ありがとっ!!」


 そのまま腕に抱きついてくるのはいいが、全体重をかけてきやがった!


「いで! 腕伸びる! ちょっと落ち着けって。……で、こっちもどーぞ」


 俺の分のメダルを首から取り、優しい眼差しで音和を見ていた葛西先輩の首にかけた。


「……えっ」


 先輩はきょとんとして、メダルと俺を何度も見比べる。


「あの、私はなにも……」
「先輩。男からの贈り物は黙って受け取ればいいんですよ」


 平手を差し出してカッコつけた。


「でも……小鳥遊くんの分が……」
「俺なら音和が持っているから大丈夫~」


 俺はしがみついたままの音和の頭をぽんぽんと叩いた。その仕草を見て、やっと先輩も微笑む。


「……うれしいです。こんなの一度も手にしたことがなかったから。それに、お友だちと体育祭を過ごせるなんて夢みたいで……本当にみなさん、ありがとうございます、おつかれさまでした」


 ぺこりとゆっくり、お辞儀をした。その流れるような美しい姿にほんわかとなごんでいると、

ポンポンポンポーン↑

 校内放送のチャイムが流れた。


「ん? 今日はチャイムも放送室も使わないはずだよな??」


 と、テント内の放送委員が不思議そうに顔を見合わせている。

……ポンポンポンポーン↓

 締めの音が鳴った。なんなんだ一体。


ザッ…『あーーあーー。どれだー、これ? あーテステス聞こえまーすかー? あーー』ザザッ…


 終わったと思った放送スピーカーから、雑音とともに女子の声が流れてくる。


ガガガ…『えー校内に残っている人はソッコーでグラウンドに避難してください。裏山が爆発しますよー』

「……」


 ぱっと虎蛇の全員を見る。
 会長、いちご、音和、葛西先輩……。


ザザー…『もう一度言うよ~! 裏山 爆発 危険 グラウンド安全 避難! OK? 以上!』キーーーーン『あーなにこれうっさい!』ゴキッ ブツッ!!
……

「なあ、七瀬どこ」
「あれ? 七瀬ちゃん、怪我の処置で先にテントに戻ってきたはずなんですけど……」


 きょろきょろしながらいちごが尋ねると、葛西先輩は驚いた表情で首を横に振る。


「こちらには来てませんよ?」


 テント一帯にも七瀬の姿はない。


「んー保健室かなあ?」


 校舎を振り返っていちごはつぶやくが、俺は裏山を見上げた。あいつなにやるつもりだ……!?


『えー放送席です、先ほど不審な放送が入りました。事実確認を行いますので念のため、皆様、グラウンドにお集まりください。繰り返します……』


 放送部がテント放送で呼びかけを始めた。人々はざわめき、混乱が始まっている。


「会長、俺、七瀬を見てくるよ」
「いや、チュン太もグラウンドに行こう。校内には教師が向かったから」
「七瀬の行き先に心当たりがあるんで。そっち見てくる」


 しがみつく音和の手を優しくほどいて、俺は虎蛇の輪を離れた。
 全速力で校門を出て、裏山に向かう。
 あのバカ、早まるなよ……!!!

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