彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

6/7(日) 体育祭④

 七瀬が最後のコーナーを曲がりきった。あとは直進というところで、生徒会の男が七瀬に追いついた。


「きゃっ!!」


 七瀬が左足から崩れて倒れ込む。生徒会の男子が七瀬の横を通り過ぎたとき、明らかにわざとぶつかったのが見えた。
 でも、リレーは止まらない。


「どけ、生徒会が内側だ」
「っ!?」


 八代が俺の背中を押して、バトンを受けとるため、コーナーの内側に入った。


「お前らっ、本当に最低だな!!」
「言いがかりはよしてください小鳥遊くん。よくあるトラブルでしょう」


 八代はもう、俺の顔なんて見ようとしなかった。
 あんなに激しくぶつかられた七瀬は!?

 トラックを見ると、立ち上がってこっちに向かっている姿が見えた。


「なな……っ!!」


 隣でパシッとバトンの受け渡しが行われているのを感じながら、俺は彼女から目が離せなかった。足に怪我をしていたからだ。


「痛いなあ……」


 全身が汚れているのも、足から流血しているのもかまわず、七瀬はしっかりと、確実に歩を進めていた。


「体育祭ごときでマジになってキモいキモい」


 あの足で走ろうとする彼女を……止めるべきだろうか。


「でも悪いけど、あたし根性だけはあるんだよね」


 だけど……声が出ない。


「それに割と虎蛇が好きだから」


 いつの間にか目の前まで彼女は来ていた。


「だから、なっちゃんお願い! 負けたくないよ!!」


 手のひらにしっかりと、バトンが叩きつけられる。


「まかせろ」


 すぐに俺は大地を蹴った。


 2回目に走るから喉が痛い。足も痛い。口の中は鉄の味がするし、気分は最悪だ。でもそれ以上に、あのせこい男には負けたくなかった。
 その差は40メートルくらいか!?
 八代は運動部なのか、距離はまったく縮まらない。

 状況は良くないまま、八代が最終コーナーを曲がるのが見えた。
 そして吉崎にバトンが渡される。

 会長はっ……!!?

 八代がコースから消えると、その陰で見えなかった会長の姿が現れた。

 おい……。笑ってるってそれどんなサディストだよ。
 でも、安心するじゃんか。


「っかいちょおおお!!」


パシッ

 バトンがつながる。

 俺はラインの内側によろよろと歩いて倒れた。とにかく酸素が足りない。死ぬ。


「知実くん、あぶないっっ!」


 いちごが俺の元に走ってきて、身体を支えてくれた。なにもしゃべられないまま、息が落ち着くのを待つ。


「ごめん、ごめんね、あたしのせい、あたしのせいで……っ」


 七瀬もやってきて、ぼろぼろと泣いた。


「七瀬ちゃんっ、かっこよかったよ!」


 いちごが七瀬の頭を抱きかかえる。俺は息を整えながら笑った。


「いやあ。諦めるのはっ、早いつーのっ」


ワアアアアアアアアア!!!

 ギャラリーがいっそうわいた。


「え……うそすごい……!」


 地面にひざをつき、七瀬を抱いていたいちごがつぶやいた。えづきながら俺も会長を探す。トラックの最終コーナーで、吉崎を捉えていた。


「まるで肉食動物みたいだな……」


 自分で文武の才がなんとか言ってたけど、会長らしいなほんと。

 ゴールのピストルが撃たれた。


『勝者…………

 文化祭実行委員!!』


「……っしゃーーー!!!」


 割れんばかりの歓声と拍手の中、俺たちは3人で抱き合った。

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