彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

6/4(木) 芦屋七瀬 ①

 七瀬が学校を休んで2日になる。

 火曜のリレー練習の帰りがけに、
「腿上げばっかりで脚が痛くて、当日走れないかもね」って静かにキレてたから、きっとそれが原因だろう。

 未読のまま返って来ないメッセにいらつきながら、スマホを机に置いた。


「ため息多いな」


 前の席に座っている野中に頭をぐしゃぐしゃとなでられた。


「あー七瀬が来ないなあと思って。なにしてんだろあいつ」
「なっ……!!」


 斜め右前の席のいちごが真っ赤な顔で口元を押さえた。
 またなにか勘違いをしているらしいけど面倒だからスルー。


「……2日も無断欠席だよ。やる気ないな」


 頬杖をついてスマホのトップページをスライドさせてもてあそぶ。

 無性にイラつくのは、何も聞いてないからだ。
 少しは心を開いてくれていたと思っていた。あつかましいけど、少しは七瀬の役に立ってたと思ってた。
 それでこれかよ。マジで意味がわかんねえ。


「あっ……そうだよね。七瀬ちゃん家にいるのかな? 心配だね」
「いや、それはないだろ」


 野中が即否定する。


「野中、七瀬と同中だったよな」
「あいつんち親が家にいるから無断欠席はしないだろ。どっかで遊んでんじゃね?」


……!?


「えー、七瀬ちゃんそんなことするような子じゃないよ」
「どう見てもチャラついてんじゃん。お前の目って見えてんの、コレ? つくりもの?」


 野中がいちごの頬を両手で包み、おもちゃを観察するように瞳を覗き込む。いちごは涙目になってジタバタしていた。

 そんなことより俺の頭の中は別のことでいっぱいで、いてもいられなくなって机を立ち上がる。


「お」
「俺早退するわ」
「サボり? 教師来るぞもう」
「頭が悪いとでもいっといて」
「どしたの! なっちゃんが自虐っ!?」


 机に引っ掛けてたかばんを乱暴に外す。


「……え、ガチで惚れてんの?」
「そんなんじゃねーよ。じゃあな」


 そのまま振り返らずに教室を出た。
 廊下を反響する授業のチャイムから逃げるように、走って学校を飛び出す。

 バカ七瀬……!!
 あいつがこんなときに、ふらふら遊びに行くわけがない。だったらどこか決まってる!

 悔しさをかみ殺してただただ走った。シャツが汗で肌にべったりとはりつく。それでも俺は足を止めなかった。

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