彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

6/1(月) 芦屋七瀬①

「トモミにアタックをしていいのは……俺だけっ!!!」


 相手コートにバレーボールがたたきつけられる。レシーバーはその軌道をただ眺めて、


「……無理無理無理無理!! だってなんか床焦げてるし!!!」
「すげええ!! ノナカまじで人間なのー!?」
「ノナカの中になに入ってんのおおお!!」


 と、絶叫した。


「これが愛の力!!」


 コートの外からつかつかと入って、めちゃくちゃ決めポーズしている野中の頭をはたいた。


「トモミって呼ぶな言うとろうが!! しかも俺は別チーム! 試合にカンケーなーいっ!」
「あい……」


 頭を押さえてしゃがみ込む野中。


「もしかしてなっちゃんがクラス最強?」
「ノナカにあんなことしたら殺されるよね……」


 なぜか俺が恐れられてしまった……。

 俺のチームは出番じゃないから、再びコートの外に出て座った。今日はあいにくの雨だから、体育は館内でバレーをすることになったのだ。


「くらえ、トルネーーーーード打法!!」
「ひ、日野さん、ぜんぜんトルネードしてないっ!!」


 ということで、もちろん女子も体育館に。隣のコートでは、いちごが大変ご盛況のようだった。

 体育館に響く雨音を聞きながら考えた。

 雨かぁ。リレー練習も山掘りもできないな。どちらも時間がないっつーのに。
 そういえば七瀬はどうしてるだろう。気になって隣のコートを探してみると、クラスのギャルたちと隅っこに座って談笑しているのが見えた。その目はときおり、男子コートに向けられている。
 不思議に思って七瀬の視線の先を追う。
 あら。
 野中にたどり着いた。

 また野中がスパイクを決めると、割れるような歓声が女子コートからも聞こえた。
 七瀬はギャルと話しながら器用に男子コートを見ている。俺の存在なんて目に入らないかのように。

 ……重労働手伝ってるのは俺なんだけどな。なんて、少しだけ野中に嫉妬している自分がいる。

 別に七瀬に恩を着せたいわけじゃないけどさ。ちょっとくらい気にしてくれたってよくないか? と、少しだけ悲しい気持ちが押し寄せてきた。

 ふと、どこからか視線を感じた。
 パチッと目が合った先はネットの向こう。試合を終えたいちごが、ラケットをぶら下げて突っ立っているのが見えた。俺が気づくと嬉しそうに手を振ってくれる。
 げ。ずっと七瀬のこと見てたの、見られてたのかもしれない。恥ずかし……。
 焦りを誤魔化すように、ゆっくりピースを掲げてそれに答えた。


┛┛┛


 6限になっても雨はやまない。それどころか強まってるような気さえする。担当教師が来ないまま、6限も20分が過ぎていた。
 あー暇だー! こんなときに限って野中はいないんだから。まったく!
 目の前に垂れるしっぽが目に入り、好奇心でそれを引いた。


「いてっ! 呼び鈴じゃないっつーの。なに?」


 髪の毛を押さえながら七瀬が振り向く。


「雨だけど」
「チッ、わかってる……」


 恨めしそうに外を睨んだ。


「今日さ、山が無理ならデートしません?」
「はあ?」
「博物館デート。実物見ておきたいんだけど」
「あー……そうだね、オッケーいいよっ!」


 明らかに警戒していた表情も柔らかくなり、コクコクとうなずいた。


「デッ!?」


 小さな叫び声がななめ前の席から聞こえた。はっと見ると、いちごが顔を真っ赤にして口元を押さえているではないか。なにか勘違いしていらっしゃる!?


「ちょ、違うからっ!! いっちー落ち着いて!」


 あわてて七瀬は振り向いて、いちごの肩を揺するが、いちごは固まったままだった。


「いちごは今日もバイト?」
「い、いえ、ないですけど……」
「じゃあ一緒に行こうぜ」
「そ、そうだよ、いっちーもこの街の歴史、気になるよね、ね!?」


 そんな必死になるなよ七瀬……。


「気にならないことはないけど、あたしそんなお小遣い持ってきてないので、その」


 そうだ、いちごはお金に余裕がない子だった。


「お金の心配はしないでいいから、来て!!」
「おい、そんなに俺と二人がイヤなの? それはそれでショックだぞ……」


 わかりやすく落ち込んで見せる。


「あ、違うの、なっちゃんもお金いらないよ。うちのおじいちゃんの名前出せばとりあえずタダになるっしょつーかタダにさせる」


 七瀬の口元がつりあがる。こ、こええ……!!

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