彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
5/18(月) 転校生⑥
授業中、日野がチラチラ後ろを見てくる回数が増えた。
俺は気づかないふりして頬杖をつき、教科書をペラペラとめくってやり過ごすことにした。
チラ チラ
「……」
それは授業が終わっても続いた。
じーーー
「………………」
なあそれ、もうチラ見とは言えなくね? 凝視だよ凝視!
クラスメイトも不審がっている。
どうせみんな俺がまたなにかやったと思ってるんだろうな、ちくしょう!
「七瀬、集合かかってるから虎蛇行こーぜ」
立ち上がって前の席の七瀬を誘う。
「えっと……でもいいの?」
「いいんだ、行こう」
七瀬も日野を気にしていたが、俺は逃げるようにして教室を出た。
┛┛┛
特別教室や文化部、委員会の部屋が連なる教務棟は、学生棟とは別に独立した建物になっている。
そしてなぜか職員室の隣にあてがわれているのが虎蛇会室だ。
到着すると先に七瀬が部屋に入った。
それに続こうとドアに手をかけそっと辺りを伺うと、少し離れた廊下の先の曲がり角で、顔半分だけ出してこっちを見ている日野を見つけてしまった。
じいいいいいいいい
「…………」
まったく、なんというバレバレなストーカだよ。
俺は室内に入るのを諦め、扉を閉めて日野の元へ向かった。
あれでバレていないと思っていたのだろうか。まっすぐに自分のところに来た俺を見て、彼女は驚きに目を見開いていた。
「おいこら。ストーカーなめてんのか!」
「きゃ、誤解ですっ!!」
首をすくめはするが、逃げようとしないで様子を伺ってる。変なやつ。
「ずっとこっち見てたよな? なに? 俺のこと好きなの?」
「ち、ちがいますっ!! 断じてっ!!!」
「……」
からかった俺も悪いけどさあ。そんなに否定する?!
「あっ、違うっていうのは、その、ずっと見てないですってことです!!」
「じゃあ」
「でも別に好きとかじゃないです! あっ」
「……」
このまましゃべらせると墓穴しか掘らないし、悲しくなる一方なので本題に入ることにしよう。
「俺は今日のこと気にしてないし、あんたがパン耳」
「わーわーわーわーわー!!」
「……を食べていたことも誰にも言うつもりはないから(これかよ……)」
その言葉に安心したのか日野の肩から力が抜けるのがわかった。脱力したまま、彼女は頭を下げた。
そしてゆっくりと上げた顔は、苦笑という表情だった。
「うぅごめんなさい。わたし引っ越してきたばかりですし、早くみなさんと溶け込みたくて……。できるだけ変だと思われないように、普通に振る舞いたいんです」
もう十分目立ってますよとは、さすがに気の毒で言えない……。
「だ、だから、失態を見せてしまったあなたの息の根を止めれば、大丈夫かと思ったんです」
って急に物騒!
恥ずかしそうにもじもじしている目の前の女が、まさか必殺仕事人だったなんて俺も迂闊だった。
「俺を殺す気だったとはね」
「え? なに言ってるんですか」
あっ、わかった。この人、天然だ。しかもドのつく!
「でも仮に俺の口を止めても、そのうちクラス全員に同じことしなきゃいけなくなると思うよ」
ドジだし、おニブだし。
「? そんなことないです、うまくやれますよ、こう見えてあたし、しっかりしてるんです!」
だめだこの子、自己評価は高めっ!
「あの、そういうことなので、くれぐれもよろしくお願いしたいです! で、ではこれで」
再度頭を下げると、俺の脇を小走りで通り抜けた。
「あ、日野さん」
背中に呼びかけると、彼女はためらうことなく振り返った。
その立ち姿はもう挙動不審なんかじゃなくて、笑顔が夕日でまぶしかった。
これが本来の彼女なんだろうか。
「俺は小鳥遊。なっちゃんとか……呼び方はなんでもいいから。よろしくなー!」
俺は気づかないふりして頬杖をつき、教科書をペラペラとめくってやり過ごすことにした。
チラ チラ
「……」
それは授業が終わっても続いた。
じーーー
「………………」
なあそれ、もうチラ見とは言えなくね? 凝視だよ凝視!
クラスメイトも不審がっている。
どうせみんな俺がまたなにかやったと思ってるんだろうな、ちくしょう!
「七瀬、集合かかってるから虎蛇行こーぜ」
立ち上がって前の席の七瀬を誘う。
「えっと……でもいいの?」
「いいんだ、行こう」
七瀬も日野を気にしていたが、俺は逃げるようにして教室を出た。
┛┛┛
特別教室や文化部、委員会の部屋が連なる教務棟は、学生棟とは別に独立した建物になっている。
そしてなぜか職員室の隣にあてがわれているのが虎蛇会室だ。
到着すると先に七瀬が部屋に入った。
それに続こうとドアに手をかけそっと辺りを伺うと、少し離れた廊下の先の曲がり角で、顔半分だけ出してこっちを見ている日野を見つけてしまった。
じいいいいいいいい
「…………」
まったく、なんというバレバレなストーカだよ。
俺は室内に入るのを諦め、扉を閉めて日野の元へ向かった。
あれでバレていないと思っていたのだろうか。まっすぐに自分のところに来た俺を見て、彼女は驚きに目を見開いていた。
「おいこら。ストーカーなめてんのか!」
「きゃ、誤解ですっ!!」
首をすくめはするが、逃げようとしないで様子を伺ってる。変なやつ。
「ずっとこっち見てたよな? なに? 俺のこと好きなの?」
「ち、ちがいますっ!! 断じてっ!!!」
「……」
からかった俺も悪いけどさあ。そんなに否定する?!
「あっ、違うっていうのは、その、ずっと見てないですってことです!!」
「じゃあ」
「でも別に好きとかじゃないです! あっ」
「……」
このまましゃべらせると墓穴しか掘らないし、悲しくなる一方なので本題に入ることにしよう。
「俺は今日のこと気にしてないし、あんたがパン耳」
「わーわーわーわーわー!!」
「……を食べていたことも誰にも言うつもりはないから(これかよ……)」
その言葉に安心したのか日野の肩から力が抜けるのがわかった。脱力したまま、彼女は頭を下げた。
そしてゆっくりと上げた顔は、苦笑という表情だった。
「うぅごめんなさい。わたし引っ越してきたばかりですし、早くみなさんと溶け込みたくて……。できるだけ変だと思われないように、普通に振る舞いたいんです」
もう十分目立ってますよとは、さすがに気の毒で言えない……。
「だ、だから、失態を見せてしまったあなたの息の根を止めれば、大丈夫かと思ったんです」
って急に物騒!
恥ずかしそうにもじもじしている目の前の女が、まさか必殺仕事人だったなんて俺も迂闊だった。
「俺を殺す気だったとはね」
「え? なに言ってるんですか」
あっ、わかった。この人、天然だ。しかもドのつく!
「でも仮に俺の口を止めても、そのうちクラス全員に同じことしなきゃいけなくなると思うよ」
ドジだし、おニブだし。
「? そんなことないです、うまくやれますよ、こう見えてあたし、しっかりしてるんです!」
だめだこの子、自己評価は高めっ!
「あの、そういうことなので、くれぐれもよろしくお願いしたいです! で、ではこれで」
再度頭を下げると、俺の脇を小走りで通り抜けた。
「あ、日野さん」
背中に呼びかけると、彼女はためらうことなく振り返った。
その立ち姿はもう挙動不審なんかじゃなくて、笑顔が夕日でまぶしかった。
これが本来の彼女なんだろうか。
「俺は小鳥遊。なっちゃんとか……呼び方はなんでもいいから。よろしくなー!」
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