呪われた英雄は枷を解き放つ

ないと

15

「おーい!誰かいるのかー?」

 兵士は立入禁止区域へと無自覚の内に入り込み、声を上げた。

 まだ避難していない人がいれば責任は自分に降りかかるのだ。一人でも見逃すわけにはいかない。

 次第に近づいてくる兵士の足音を耳に入れ、アルトは咄嗟に身を小さくし、息を殺した。

 兵士は取っ手の部分が壊れた扉(先程カイルが壊した)の前に立つ。

「ん?なんでこの扉だけ取っ手が壊れてるんだ?」

 疑問を頭に抱いた兵士は、迷うこと無く半開きの扉に手を押し、中に入った。

 アルトの瞳が大きく見開かれる。

「ーー誰も居ない、みたいだな」

 兵士はそう呟くと、その部屋には目もくれず出て行った。

「っっ!!ふぅ・・・」

 兵士の足音が離れていくのを感じ取り、”一つ隣の部屋に移動した”アルトとアメリアは安堵の息をついた。

 倉庫のように乱雑に荷物のようなものが並べられている部屋の中、アルトはカイルに話しかけた。

「どうして僕たちを助けてくれたんですか?」

「今回国に命じられてここの警護をしているからな。観光客を助けるのは当たり前だ」

 カイルは先程までの行為が無かったかのように返答する。

 あの時、いち早く部外者が近づいてきた事を察知したカイルは、アルトとアメリアを連れて隣の部屋に隠れたのだ。

 本当ならアルトとカイルの中で戦いが起きてもおかしくない状況のはずだったのに、罪をアルトたち二人になすりつけて自分だけ隠れることも出来たはずなのに、この兵士はあの場に居た全員でやり過ごす道を選んだのだ。

(一体何なんだ?この人の動向が読めない)

「それにしても、どうして俺の名前が分かったのかと思えば、鑑定眼か」

 カイルは納得したように言った。

「僕が鑑定眼を持っていることが分かるんですか!?結構珍しいスキルだったと思うんですけど」

「あぁ、君のことについては訳あってよく知ってるんだ。アルト君。ということは、そっちの君はアメリアさんかな?」

 カイルはアルトとアメリアの名前を言い当てる。

「カイルさんも鑑定眼を持っているんですか?」

「いや、さっき言った通り訳があって俺は君たちのことを知っているんだ。俺は鑑定眼を持っていないよ。どちらかと言えば僕の上司の方が君たちのことについてよく知っているみたいだ」

「上司?」

「まぁ、正確には上司ではないけど、それみたいなものだ。さっきこの大聖堂の核を破壊しようとしたのもその人の命令だ」

 ーー核、とは、あの宝石みたいな物か。

「あの、もしその核が破壊されたらどうなるんですか?」

 ここで初めてアメリアが疑問を口にする。

「核が破壊されたら、この大聖堂の機能が停止する」

 カイルから予想通りの答えが返ってくる。

「でも、なんで核を破壊しようとしたんですか?」

「済まないが、俺はこれ以上詳しい事を言うことを出来ない。上司に口止めされているからな」

 カイルは苦い声で答えた。

「とりあえず、ここから出よう。今は仕方ないが、核を破壊している場合ではないようだ」

 カイルは続けて言った。

 アルトもゆっくり話をしている場合ではないと悟り、アメリアと頷き合って部屋を出ていくカイルに続いた。



 大聖堂の入り口。つい数十分前まで健康な芝生が生えていた庭は、悲惨な状況となっていた。

 地面に大きな穴が一つ。両脇にあった噴水は見る影もなく大破し、盛んに生え揃っていた芝生は炎にたかられ灰になっていく。

 地には交戦した兵士が倒れ、圧倒的な威圧を前に他の兵士は一歩も動くことが出来ない。

 この状況を作り出したのが一人の魔族の女と聞けば、それこそかの四魔王にも匹敵する程の強さと言えるだろう。

 そいつの赤い髪が風にたなびく。

 鋭い眼光が対峙する者たちを突き刺す。

「あぁ、久しぶりの外の空気だ」

 体の奥から絞り出すように吐かれたその声は、その場の空気を震わせた。

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