呪われた英雄は枷を解き放つ

ないと

12

話しかけられ、少女、アメリア・ペルシャクティは建物の中に入ってきた。

「はい、偶然アルト君を見つけて、ついて来ちゃったと言うか・・・」

「は、はぁ・・・」

 アルトはいつの間にか後ろをつけられていたことを知って、意志の籠もっていない返事をしてしまう。

「あの、それでお願いしたいことがあるんですけど・・・」

(お願い?ということは、ついてきたのはお願いがあったからか)

「よければ、一緒にお出かけしませんか?」

「えっ?」

「お金の心配なら大丈夫です。私が払いますから」

「さ、流石にそこまで人に金を使わせるほど僕は金に困ってないよ・・・ただ、お出かけっていうのがよくわからなくて」

「私とアルト君でこの街を観光するんです。デート、とも言いかえられるんですかね」

「でぇと?」

 再度、アルトは拍子の抜けた返事をする。

 迷宮攻略者として有名になりたいということしか頭にないアルトは、女の子と一緒にお出かけする、なんてことが想像も出来なかったのだ。

「でも、なんで急にそんな事を?」

「まぁ、ただの急な思いつきですよ・・・で、ついてきてくれるんですか?それともどうしてもダンジョンに行かないといけない理由でもあるんですか?」

 どうしてもダンジョンに行かないといけない、というわけではない。そう、偶然にも、「偶然」にも今日は大きな金が入ったからね。

「それでは、一緒に来れない、ということですか?」

 アメリアに答えを急かされる。

「う、うぅ~ん、そういう訳じゃないんだけど・・・」

 悩みに悩んだ末、アルトが選んだのはーー



 結局今日はお出かけすることにしてしまった。

 まぁ、たまには薄暗いダンジョンの中に籠もりきりの生活だけじゃなく、街の観光をしてみるのも悪くはないのではないかと考えた結果である。

「それで、アメリアさんが行ってみたいっていうのはどこなんですか?」

 アルトの質問に、アメリアはご機嫌な様子で答えた。

「今向かっているのはこの街の大聖堂です。普段は入ることが出来ないんですけど、今日は創立記念日で中を見て回ることができるんです」

(アメリアさんも喜んでくれているみたいだ。ついていくって言っておいて良かったな)

「へぇ、この街に大聖堂があるのは知っていましたけど、創立記念日なんてあったんですね」

「まぁ、私、これでも神官見習いですから。というか、大聖堂の創立記念日はこの都市にいる人ならみんな知っていますよ?知らない方がおかしいです」

(え、えぇー。そんなに僕は常識が無かったのか)

「この街の常識は後で調べておくことにします。・・・そういえば、いま神官見習いって言いましたけど、アメリアさんは神官じゃ無いんですね」

「はい、まだ神聖術については初心者です」

 前の神聖術、確か、『聖壁』だったか、は結構すごいと思ったんだけどなぁ。

 魔法なら使い手が多いから色々情報を集めることができるのだが、神聖術使いはどこに行っても極端に数が少ないため内情がよくわからないのだ。今度にでもアメリアに神聖術を教えてもらおうかと思うアルトだった。



 しばらく二人で話をしながら歩いていると、大聖堂に到着した。

「おぉ!!」

 アルトは今までにないくらい巨大な建物を前にして、感嘆の声を上げた。

 大聖堂は建物を中心に庭が広がっており、その庭を囲むようにして石造りの塀が作られている。

 庭には真ん中にレンガの道が敷かれ、その左右に噴水が設けられている。

 そしてレンガの道の先にあるのが大聖堂本殿だ。

 さながら城のようにそりたっているその建物は圧巻の一言。塗料でも塗ってあるかのように真っ白な外壁は、その神聖さの現れを示している様だ。

 本来なら閉まっている鉄格子型の正門をくぐってアルトとアメリアは敷地内に入った。

 周りにも観光客らしき人がぞろぞろと敷地内を行き来している。

 すると、アルトはあるものを見つけた。

「あれ?アメリアさん、あの鎧を着た人はあそこに立って何をしているんですか?」

アルトは大聖堂の入り口を指差しながら質問した。

「あぁ、あれは警備の人です。この日のためにこの国の兵士さんが、犯罪者が何かしないか見張っているんです」

「へぇ、なるほど。こんな大掛かりな記念日だから警備も厳重なんでしょうね」

(ちょっと覗き見してみるか)

「『鑑定眼Lv2』」

ーーーーー
カイル・ウィング

攻撃力:5
防御力:4
俊敏:3
魔力:4
耐久力:3
ーーーーー

「お、おうっ!?」

 つい昨日遭遇したアイアン・アントにも匹敵するステータス値の多さに、アルトは驚愕を漏らす。 

(けど、最深到達地点の三十八階層からしてみればアイアン・アントが生息する六階層なんて大したこと無いのか)

「アルト君?どうしたんですか?」

 アルトが考え事をしていると、アメリアは顔を覗き込むようにして尋ねた。

「あぁ、いや、『鑑定眼』っていうスキルを使ってあの兵士さんのステータスを覗き見してみたんです」

「鑑定眼?」

「はい、僕のお父さんが鑑定士で、よく物の価値を測る時に頼りにされてたんです。それでお父さんは僕に鑑定士を継いで欲しかったらしくて、よく訓練されられたんですけど、その時に『鑑定眼』を習得したんです。このスキルは生き物を対象にしても使えるみたいで、名前やレベルを見ることが出来ます」

「ふぅん、名前・・・ね・・・」

 アメリアは少し困った様な表情を見せた。

「ん?アメリアさん、どうかしました?」

「あっ、いや、ステータスを勝手に覗き見されるのも迷惑だろうから、その鑑定眼っていうスキルを使うのも程々にしてくださいね」

「は、はい!以後気をつけます!」

「じゃあ、あっちの方に展示室があるみたいだから行ってみましょうか」

 こうして二人の観光は平和に続く、はずだったーー

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