呪われた英雄は枷を解き放つ
9 狂気の出会い
「え~と、多分こっちを右に曲がれば・・・」
迷子になってからおよそ三十分。すっかり日も落ちて夜が訪れたが、アルトは未だに知らない場所をさまよっていた。
しばらく適当に歩いていたら、建物と建物が入り組んだ複雑な路地裏に迷い込んでしまったらしい。
「いやぁ、本当に困ったなぁ」
頭に手をやりながら現実逃避するように呟く。
誰かこの周辺の地理に馴染みのある人は居ないのだろうか。
そう思い周りを見渡してみるが、月光に照らされた路地には人の気配一つ無い。
ーーその時。
「ーーっ!!」
やや遠くの方から、人の声が聞こえた。
やっと人に頼ることが出来るらしい。
久しぶりに聞いた人の声に、アルトは安堵の息を吐きながら直ぐに声のする方へと足をすすめる。
しかし段々と声のする位置に近づいて行く中、アルトは違和感を感じた。
「っ・・・あ゛ぁ゛・・・っ!!」
その声の中に、うめき声が混じっているのだ。
誰かが苦しんでいる。
アルトはそう察知して、進む足を速めた。
自然と手が短剣に伸びる。
「がっ・・・!!あ゛ぁ゛、ぁ゛ぁっ!!」
ついに苦しみの声が正確に聞き取れる位置まで接近する。
(この角の先に苦しんでいる人がいる・・・)
アルトはあらゆる場面を想像して、臨機応変に対応を取れるように体制を取る。
(よし、行くぞ。一、二の・・・三!!)
アルトは心の声とともに飛び出した。
「大丈夫ですかっ!!」
声を掛けながら、状況を確認する。
そこは四面が塀に囲まれている少し広い空間だった。
床にはレンガが敷き詰められ、ところどころ亀裂が入って凹んでいる。
そしてその中央に、その人は居た。
外套に身を包み、地面に横たわっている。体は小刻みに震え、フードの隙間から覗いた目は、血走り狂気の色に染まっていた。容姿はよく見えないが、声からして男のようだ。
そしてその男はアルトの声に反応して、アルトを睨み上げる。
「ひっ・・・!」
アルトは思わず悲鳴を上げた。
それほど、その男は周りに殺気を放っていた。
「なぜ、ここに人間が・・・」
男は歯を食いしばりながら、腹の奥底から鳴る様な声でアルトに問う。
しかし、アルトは応えることが出来なかった。
まるで殺気によってその場に縫い付けられるように、アルトの体は少しも動くことが出来なかった。
「逃げろ・・・」
「えっ・・・?」
「逃げろと言っているんだっ!!」
先程までのうめき声とは反対に、男は怒りを吐き出すかのように怒鳴った。
それに同調するように、男の手が触れていた地面にバキッと亀裂が入る。
アルトの背筋に電流が走った。
アルトは逃げた。
男に背を向けて、破壊から逃れるように、訳も分からずひた走った。
先程までの光景が脳裏に浮かぶ。
地面に空いた穴の数々。あれはあの男によるものだったらしい。
今逃げていなかったら、自分もあのように穴だらけにされていただろう。そんな確信がアルトの中にはあった。
後ろを振り返りながらも、アルトは走るのをやめない。
体が震えているのが見なくても分かる。
「あぁ、全く。アイアン・アントと言い、あの謎の男と言い、なんで今日はこんなに危険な目に合わされるんだよぉぉぉぉーーーーー」
その夜。とある街の路地裏で、一人の少年の走る音が鳴り響いた。
迷子になってからおよそ三十分。すっかり日も落ちて夜が訪れたが、アルトは未だに知らない場所をさまよっていた。
しばらく適当に歩いていたら、建物と建物が入り組んだ複雑な路地裏に迷い込んでしまったらしい。
「いやぁ、本当に困ったなぁ」
頭に手をやりながら現実逃避するように呟く。
誰かこの周辺の地理に馴染みのある人は居ないのだろうか。
そう思い周りを見渡してみるが、月光に照らされた路地には人の気配一つ無い。
ーーその時。
「ーーっ!!」
やや遠くの方から、人の声が聞こえた。
やっと人に頼ることが出来るらしい。
久しぶりに聞いた人の声に、アルトは安堵の息を吐きながら直ぐに声のする方へと足をすすめる。
しかし段々と声のする位置に近づいて行く中、アルトは違和感を感じた。
「っ・・・あ゛ぁ゛・・・っ!!」
その声の中に、うめき声が混じっているのだ。
誰かが苦しんでいる。
アルトはそう察知して、進む足を速めた。
自然と手が短剣に伸びる。
「がっ・・・!!あ゛ぁ゛、ぁ゛ぁっ!!」
ついに苦しみの声が正確に聞き取れる位置まで接近する。
(この角の先に苦しんでいる人がいる・・・)
アルトはあらゆる場面を想像して、臨機応変に対応を取れるように体制を取る。
(よし、行くぞ。一、二の・・・三!!)
アルトは心の声とともに飛び出した。
「大丈夫ですかっ!!」
声を掛けながら、状況を確認する。
そこは四面が塀に囲まれている少し広い空間だった。
床にはレンガが敷き詰められ、ところどころ亀裂が入って凹んでいる。
そしてその中央に、その人は居た。
外套に身を包み、地面に横たわっている。体は小刻みに震え、フードの隙間から覗いた目は、血走り狂気の色に染まっていた。容姿はよく見えないが、声からして男のようだ。
そしてその男はアルトの声に反応して、アルトを睨み上げる。
「ひっ・・・!」
アルトは思わず悲鳴を上げた。
それほど、その男は周りに殺気を放っていた。
「なぜ、ここに人間が・・・」
男は歯を食いしばりながら、腹の奥底から鳴る様な声でアルトに問う。
しかし、アルトは応えることが出来なかった。
まるで殺気によってその場に縫い付けられるように、アルトの体は少しも動くことが出来なかった。
「逃げろ・・・」
「えっ・・・?」
「逃げろと言っているんだっ!!」
先程までのうめき声とは反対に、男は怒りを吐き出すかのように怒鳴った。
それに同調するように、男の手が触れていた地面にバキッと亀裂が入る。
アルトの背筋に電流が走った。
アルトは逃げた。
男に背を向けて、破壊から逃れるように、訳も分からずひた走った。
先程までの光景が脳裏に浮かぶ。
地面に空いた穴の数々。あれはあの男によるものだったらしい。
今逃げていなかったら、自分もあのように穴だらけにされていただろう。そんな確信がアルトの中にはあった。
後ろを振り返りながらも、アルトは走るのをやめない。
体が震えているのが見なくても分かる。
「あぁ、全く。アイアン・アントと言い、あの謎の男と言い、なんで今日はこんなに危険な目に合わされるんだよぉぉぉぉーーーーー」
その夜。とある街の路地裏で、一人の少年の走る音が鳴り響いた。
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