呪われた英雄は枷を解き放つ
4 運命の分岐点
「そうだ、せっかく最後の日なんだから、今日は二階層まで行ってみよう」
そう思い立ったのは、一回目の交戦から数回魔物と遭遇して、二階層へと続く階段に到着した時のことである。
たいして成長はしていないだろうが、今あの時至れなかった領域に入って見たらどうなるんだろうか、という軽い気持ちで思ったことだった。
もし危ない目にあったならすぐに引返せばいい。そう思っていた。
これが後にアルトの運命を大きく変える発端となることを、この時のアルトはまだ知らない。
□
喧騒がめっきり減った。
二階層に進出する人が少ないのもあるだろうけど、深くへ行くごとにその層の面積が増えるというのも原因の一つだろう。
現在このダンジョンにおける人類の最深到達点である三十八階層までは少なくともその傾向が見られるらしい。
しかし孤独感が増したことによりアルトは心に恐怖を負っていた。
不安がアルトの体を苛み、動きがぎこちなくなっていく。
しかしその反面で緊張感はアルトの脳を高速で回転させ、体から完全に油断を取り払っていた。
今のアルトは過去で一番隙を見せていない。
それでも達人からしてみれば攻撃するところだらけかもしれないが、「普通の迷宮攻略者」が二階層を攻略する上では過剰な程の警戒である。
まず不意打ちを食らうことはない。
ーーしかし、それは”普通の冒険者”を前提にした話であって、アルトは別である。
歩数にして五、六歩程度先の岩と岩の隙間がキラリと光る。
ーーその直後には、アルトの目前に死の鎌が迫ってきていた。
咄嗟に前に突き出した短剣が鎌を受け止める。
ビシッと嫌な音が鳴り響く、と同時にアルトの腕を衝撃が襲う。
アルトはすぐに押し返そうとしたが、不意打ちだったため腕に全く力が入っていなかった。攻撃の威力を受け止め切れずにアルトはふっとばされる。
「ぐっ!!」
地を転がりながら、アルトは必死に頭を回転させた。
(どうする!?迎え撃つか?逃げるか?・・・!!)
考えるよりも先に、アルトは敵を視界に入れながら『鑑定眼』を発動させていた。
ーーーーー
ブラック・マンティス
全長約二Mのカマキリの姿をした昆虫型の魔物。黒い体と羽を持つ。素早さと攻撃力に特化した魔物で、鎌の形をした腕で獲物を攻撃する。ステータスはビッグ・アントに非常に似た分布をしている。
現在発見された中で一番大きい個体はカール・シャンドルフが捕獲した全長5.3M
ーーーーー
以前二階層に足を運んだ時アルトを即退場させた魔物だ。
(もう昆虫系の魔物は勘弁してほしいところなんだけどなぁ・・・)
しかし、一回戦ったことがある魔物なら安心だ。
ーー逃げられる保証があるから。
「よし、逃げるぞ」
アルトは体を半回転。踵を返し、一気に駆け出した。
やっぱり実物を前にして逃げる。これが彼、アルト・クルーガーの弱さの一因である。
対するブラック・マンティスは、逃げ足だけは速い奴だと言わんばかりにアルトの背を睨みつけ、ーー”飛んだ”
背中に展開された羽が、空中にいるブラック・マンティスを前進させる。
(と、飛んだぁぁぁぁ!?)
アルトの顔が驚愕と恐怖と染められる。
確かに羽を持っていると説明にはあったが、実際飛んでいるのを見ると驚愕を隠せないものだ。
ブラック・マンティスはあっという間にアルトの頭上を通り過ぎ、アルトの先に着地した。
急停止するアルト。ゆっくりと体を反転させるブラック・マンティス。
(逃げ場を失った・・・)
双方ともににらみ合う。
先に動いたのは、ブラック・マンティスだった。
鎌を振り上げ、寸分の互いなくアルトに向かって振り下ろす。
「っっ!!」
反射的にアルトは後ろに倒れ込み、鎌を避けた。
行き場を失った鎌が、いとも容易く地面を突き刺す。
アルトはその惨状に眼に涙を浮かべながらもそのまま起き上がり、ブラック・マンティスに背を向けて走り出した。
ダンジョンの奥深くへと、全力で逃走する。
(嫌な予感はしてたんだ。個体によって強さは違うし、以前逃げ切れたのはただ運が良かっただけかもしれない。・・・だとしたら、もう、僕の命は終わるのか?)
しかし、今更嘆いたところで後の祭りである。
アルトは時折振り返り、後ろから追ってくるブラック・アンティスの姿を確認するたびに喉の奥から悲鳴を漏らし、足を必死に動かし続けた。
ーーそして、希望の光りを見つける。
もうだめだと足を止めそうになったその時、洞窟の奥の暗がりから、こちらに駆けてくる複数の人影を目にしたのだ。
「あ、あぁ・・・」
混乱した頭で、アルトはその言葉をやっと引き出した。
「「助けてください!!」」
「えっ・・・?」
(今、向こうも助けてって、言わなかったか・・・?)
その次の瞬間、アルトは視線の先に絶望を見た。
そう思い立ったのは、一回目の交戦から数回魔物と遭遇して、二階層へと続く階段に到着した時のことである。
たいして成長はしていないだろうが、今あの時至れなかった領域に入って見たらどうなるんだろうか、という軽い気持ちで思ったことだった。
もし危ない目にあったならすぐに引返せばいい。そう思っていた。
これが後にアルトの運命を大きく変える発端となることを、この時のアルトはまだ知らない。
□
喧騒がめっきり減った。
二階層に進出する人が少ないのもあるだろうけど、深くへ行くごとにその層の面積が増えるというのも原因の一つだろう。
現在このダンジョンにおける人類の最深到達点である三十八階層までは少なくともその傾向が見られるらしい。
しかし孤独感が増したことによりアルトは心に恐怖を負っていた。
不安がアルトの体を苛み、動きがぎこちなくなっていく。
しかしその反面で緊張感はアルトの脳を高速で回転させ、体から完全に油断を取り払っていた。
今のアルトは過去で一番隙を見せていない。
それでも達人からしてみれば攻撃するところだらけかもしれないが、「普通の迷宮攻略者」が二階層を攻略する上では過剰な程の警戒である。
まず不意打ちを食らうことはない。
ーーしかし、それは”普通の冒険者”を前提にした話であって、アルトは別である。
歩数にして五、六歩程度先の岩と岩の隙間がキラリと光る。
ーーその直後には、アルトの目前に死の鎌が迫ってきていた。
咄嗟に前に突き出した短剣が鎌を受け止める。
ビシッと嫌な音が鳴り響く、と同時にアルトの腕を衝撃が襲う。
アルトはすぐに押し返そうとしたが、不意打ちだったため腕に全く力が入っていなかった。攻撃の威力を受け止め切れずにアルトはふっとばされる。
「ぐっ!!」
地を転がりながら、アルトは必死に頭を回転させた。
(どうする!?迎え撃つか?逃げるか?・・・!!)
考えるよりも先に、アルトは敵を視界に入れながら『鑑定眼』を発動させていた。
ーーーーー
ブラック・マンティス
全長約二Mのカマキリの姿をした昆虫型の魔物。黒い体と羽を持つ。素早さと攻撃力に特化した魔物で、鎌の形をした腕で獲物を攻撃する。ステータスはビッグ・アントに非常に似た分布をしている。
現在発見された中で一番大きい個体はカール・シャンドルフが捕獲した全長5.3M
ーーーーー
以前二階層に足を運んだ時アルトを即退場させた魔物だ。
(もう昆虫系の魔物は勘弁してほしいところなんだけどなぁ・・・)
しかし、一回戦ったことがある魔物なら安心だ。
ーー逃げられる保証があるから。
「よし、逃げるぞ」
アルトは体を半回転。踵を返し、一気に駆け出した。
やっぱり実物を前にして逃げる。これが彼、アルト・クルーガーの弱さの一因である。
対するブラック・マンティスは、逃げ足だけは速い奴だと言わんばかりにアルトの背を睨みつけ、ーー”飛んだ”
背中に展開された羽が、空中にいるブラック・マンティスを前進させる。
(と、飛んだぁぁぁぁ!?)
アルトの顔が驚愕と恐怖と染められる。
確かに羽を持っていると説明にはあったが、実際飛んでいるのを見ると驚愕を隠せないものだ。
ブラック・マンティスはあっという間にアルトの頭上を通り過ぎ、アルトの先に着地した。
急停止するアルト。ゆっくりと体を反転させるブラック・マンティス。
(逃げ場を失った・・・)
双方ともににらみ合う。
先に動いたのは、ブラック・マンティスだった。
鎌を振り上げ、寸分の互いなくアルトに向かって振り下ろす。
「っっ!!」
反射的にアルトは後ろに倒れ込み、鎌を避けた。
行き場を失った鎌が、いとも容易く地面を突き刺す。
アルトはその惨状に眼に涙を浮かべながらもそのまま起き上がり、ブラック・マンティスに背を向けて走り出した。
ダンジョンの奥深くへと、全力で逃走する。
(嫌な予感はしてたんだ。個体によって強さは違うし、以前逃げ切れたのはただ運が良かっただけかもしれない。・・・だとしたら、もう、僕の命は終わるのか?)
しかし、今更嘆いたところで後の祭りである。
アルトは時折振り返り、後ろから追ってくるブラック・アンティスの姿を確認するたびに喉の奥から悲鳴を漏らし、足を必死に動かし続けた。
ーーそして、希望の光りを見つける。
もうだめだと足を止めそうになったその時、洞窟の奥の暗がりから、こちらに駆けてくる複数の人影を目にしたのだ。
「あ、あぁ・・・」
混乱した頭で、アルトはその言葉をやっと引き出した。
「「助けてください!!」」
「えっ・・・?」
(今、向こうも助けてって、言わなかったか・・・?)
その次の瞬間、アルトは視線の先に絶望を見た。
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