呪われた英雄は枷を解き放つ

ないと

3 プロローグ③ーレベル

「ふぅ、やっと取れた」

 アルトは元々ビッグ・アントの胸部の中にあったもの、『魔核』を手に、尻もちをついた。

 魔核とは、要は魔物の心臓の様なもので、魔物の最大の弱点とも言われている。

 大抵の、というか今発見されているすべての魔物は魔核に近いところを攻撃されるほど機動力を失っていく。そして魔核を完全に砕かれる、もしくは抜き取られた魔物は命を失い灰となって散る。

 現に今アルトによって魔核を取られたビッグ・アントは灰となって原型をなくしていた。

「しっかし、採取にはなんでこうも神経を使うんだろう」

 魔物の解体も専用のスキルがあるのだが、やはり金のないアルトはこうして一苦労しなければ魔核の一つも手に入れることが出来ないのだ。

 魔核も魔鉱石と同じく売って収入を得ることができるが、ビッグ・アントの魔核程度で高い収入を得ることは出来ない。

「全く、なんで僕は金に恵まれないんだ」

(ーーまぁ、金が無い理由は明白なんだけどな)

 アルトは自分を対象にして『鑑定眼』を発動させた。

 すぐに詳細が目の前に表示される。

ーーーーー
アルト・クルーガー

 十五歳の男子。D級迷宮攻略者。
ーーーーー

 これは詳細と言えるのだろうかというほど情報量が少ない。
 しかし『鑑定眼』の性質上同種類の個体が少ないと必然的に情報量が少なくなるため仕方ないだろう。つまりビッグ・アントはこの世に何百万と存在しているから多くの情報が得られるが、アルト・クルーガーという人間はこの世に一人しか存在しないため多くの情報を得ることが出来ないのだ。

 そんな時に役立つのがーー

「『鑑定眼Lv2』」

 アルトが唱えると、表示されていた情報に更に詳細が付け加えられた。

 付け加えられたのは、Lvの情報だ。

 レベルとは、その人間の成長度合い、つまり、簡潔に言ってしまえば強さを表している。

 レベルには種類があり、主に攻撃力、防御力、俊敏、魔力、耐久力が基本となる。

 そしてアルトの現在のレベルはこうなっている。

ーーーーー
アルト・クルーガー

攻撃力:1
防御力:1
俊敏:1
魔力:1
耐久力:1
ーーーーー

 攻撃力から耐久力まで、すべて1だ。

 本来は訓練や魔物を倒すことによって経験値を得て、戦いの過程に応じてそれぞれの項目に振られるのだが、アルトは今までレベルが一つも上がったことがない。

 一階層の魔物が弱いとは言え、アルトは一ヶ月休まずに魔物を狩り続けてきた。まずレベルが上がらないということはありえない。

 それでもレベルが上がらないのには何か理由があるとアルトは踏んでいた。

 その理由はレベルの表記が明白に述べていた。

 アルトのレベル表記には、1の文字の上に鎖のような模様が交差しているのだ。
 明らかにおかしいとしか言いようがない。

 しかしアルトにはその表記が何を意味しているのか検討もつかなかった。この表記のせいでレベルが上がらないのは分かるが、それをどのようにして無くすのかまでは分かるはずもない。

 アルトが幼少期の頃からこの鎖の紋章はあった。医者に診てもらったこともあるがそれでも謎が解けることはなかった。

 レベルが上がらないことに始めて気づいたのはアルトが迷宮攻略者を始めてから数日立った頃のことだ。
 気づいてからは自分でどうにかしようと試行錯誤してみたのだが、そのすべてが失敗に終わった。

 レベルが一つ違うだけで勝敗を見積もることができるほど、この世界に置いてレベルの差は大きい。そのためレベルが上がらなければ強い魔物を狩ることは出来ない。

 強い魔物を狩ることが出来なければ良質な魔核を手に入れることは出来ない。つまり生活をこなしていけるほどの金を稼ぐことが出来ない。

 一ヶ月間アルトは頑張ってきた。休む間も惜しんでダンジョンに潜り込み、時に戦い経験を積んで、時に観察して魔物の戦い方を見極めた。それでもレベルはどれも上がる気配を見せなかった。

 アルトの実力では一階層を生き延びることが精一杯。
 少なくとも最低限の生活を送るためには三階層まで潜り込めないといけないらしいが、今のアルトにとってその目標は絶望的だ。

 これが、アルト・クルーガーがダンジョン攻略者を諦めるに至らせた理由である。

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