転生までが長すぎる!

兎伯爵

ゴリラさんは妹を傷付けない

 部屋の扉を開けて、何も知らないマメシバが入ってくる。
 風呂に入った直後だからだろう、ちょっと顔が火照っていた。


「みんなが来ないから、先に上がっちゃった。なに話してたの?」


 言いつつ、何を思ったのか、マメシバがゴリラさんの背中に抱きついた。


「!?」


 突然の事態に混乱するゴリラさん。


 いや、男同士だし、普段なら別に問題ない。
 マメシバは人懐っこいし、ただのスキンシップだ。


 ただ、相手とタイミングが悪かった。


「マ、マメ、マメマメマメ……!」


 バグったように言葉を繰り返すゴリラさん。


「んー? ゴリラさん?」


 そして無警戒のマメシバ。


 これはまずい。
 肉食獣の前に、ウサギを放り込むようなものだ。


「……マメちゃん。落ち着け。騒がず、ゆっくりそこから離れろ」
「え? なんで?」
「いいから言うことを聞いてください。今、君は人生で最も危険な状態です」
「え? え? え?」


 マメシバがハテナマークを大量に浮かべていた。


 そりゃそうだろう。
 いくらなんでも、同室の一人が自分に対して性的欲求(本人曰く兄欲)を抱いているなどと、思うはずがない。


「ゆっくり、ゆっくりだぞ。その危険物から離れるんだ」
「ええ。刺激してはいけませんよ」


 俺とイガグリは、冷や汗をかきながら、マメシバに指示を出す。


 あのゴリラは、俺たちの中で一番強い。
 もし本気で暴れ出したら、俺とイガグリ二人がかりでも抑え込めるか怪しいところだ。


「二人とも、どうしたの? 何か変だよ?」
「大丈夫だ。俺たちはおかしくない」
「そうです。おかしいのは一人だけです」


 その唯一おかしい生き物は、荒い呼吸を繰り返し、何とか理性を保っている様子だった。


 だが、それも長くはもたなかった。
 人の理性は、そこまで強くないのだ。


「ぬううううう!」
「ゴリラさん!?」


 マメシバを背中に乗せたまま、ゴリラさんが立ち上がった。


 やるしかないか。
 俺とイガグリは身構える。


「ゴリラさんの能力は!?」
「まだ未覚醒だったはずです! ですが、戦闘訓練の成績は常に一位……!」
「二対一だ、やるぞ!」
「はい!」


 力尽くで鎮圧するしかない。
 そんな覚悟は、しかし必要なくなった。


「我は――負けぬ!」


 拳を握り、ゴリラさんが叫ぶ。


「妹を傷付けるなど、お兄ちゃんの名折れ!」
「ここに妹はいないけどな」
「傷付くのは、我だけでいい!」


 そして、ゴリラさんは拳を打ち込んだ。
 ――己の、股間に。


「ぐふっ……!」


 手加減する余裕などなかったのだろう。
 白目をむいて、ゴリラさんが意識を失う。


「ゴリラさん!? どうしたの!?」
「ゴリラさんは勝ったんだよ」
「ええ。自分の中の……野獣に」
「どういうこと!?」


 君は知らなくていいことだ。
 俺も知りたくなかった。



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