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転生までが長すぎる!

兎伯爵

訓練生 In ダンジョン 4

 意識を集中する。
 一秒間を永遠に。
 終わらない仕事を、脳裏に描いて。


残業時間オーバータイム……!」


 世界を置き去りに、自分だけが加速する。


 変化は認識だけではなく、肉体にまで。
 主観の時間に従い、手足の動きまでもが限界を超えていく。


「この力があれば――何時間でも残業できる!」


 白黒の世界の中で、手を動かす。
 用意された書類に一瞬で判子を押し、積み上げる。


 現実世界では、たったの一秒。
 一秒間の間に、俺は三十枚の書類に判子を押し終えた。


「はあ、はあ……」
「お見事。時間の加速、便利な力ですね。ネーミングセンスはともかく」
「ねぇこれ、能力の確認とか言いつつ仕事手伝わされてない?」
「気のせいです」


 本当だろうか。
 あの世に来てまで働きたくないぞ、俺。


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 翌日、俺はいつもの面談室に呼び出されていた。


「昨日はお疲れ様でした」
「初ダンジョンの初スライムの初被食だからな。良い経験になった」


 食われるのは二度と御免だが。
 スライムとも出来るだけエンカウントしたくない。


「最終的に、生存者は一名。他は全員捕食。まあ、そんなものでしょう」
「あの怪物と遭遇して、一人でも生き残っただけ評価してくれ」
「その一人はあなたが助けたそうですね。本人が感謝していましたよ」
「直接お礼を言われたよ。いい子で良かった」
「わたしも見直しました。ただの目が死んだ元リーマンではなかったんですね」
「褒めるなら素直に褒めてくれ」
「……? 褒めてますが?」


 素の表情でキョトンとする天使。


 ああ、素なのね。
 じゃあしょうがない。


「ダンジョンだけど」
「はい」
「アレって要は、窮地に追い込んで潜在能力を解放してやるぜ、的な訓練?」
「正解です。実戦形式の方が、緊迫感が出るでしょう」
「そりゃ食われるのは嫌だし」


 実際、何人もの訓練生が超能力に目覚めていたし、やり方としてはありなのかもしれない。


「まあ、アレな能力ばっかだったけど」
「当然でしょう。最初から一騎当千の力が使えるなら、訓練など必要ありません。何事も地道な積み重ねです」
「仰る通りで」
「毎年の恒例行事ですよ。ここで脱落者が出るのも」
「ああ、やっぱりリタイアしたヤツ、多いのか」
「半分くらいは」
「そりゃ捕食されたらトラウマだろうしな」
「それもありますが、むしろ手に入れた能力に落胆した者の方が多いようですね。期待値が高すぎたのでしょう」


 ああ、そっちか。
 確かに、折角目覚めた力が使い道のない能力だったらショックを受けるかもしれない。


「どいつもこいつも『こんなはずじゃない』などと文句を垂れるので、正面から論破しておきました。泣くまで」
「少しは手加減したげて」
「そもそもわたしに文句を言うのは筋違いでしょう。わたしはあくまで転生者の選定から転生先の指定まで、あらゆる決定権を持っているだけの、一市民ですよ。そして使える物は何でも使える主義」
「権力持たせちゃいけないヤツっているよね」
「どんな力も使い方次第でしょうに。つぶあんをこしあんに変える力。食べた朝食を全て記憶する力。緯度経度を一瞬で計測する力。才能は人それぞれ。折角目覚めたのですから、自分の力に誇りを持って欲しいものです」
「ごめん、その力が役に立つ未来が見えない」
「凡夫はみなそう言う」
「じゃあ天使様のアイデアを教えてくれ」
「というわけで、今日の面談はメンタルケアも兼ねています」
「無視ですか、そうですか」
「あなたはどうですか?」
「特に何も。トラウマになるほどでもないし。能力も悪くないし」


 ダンジョンにおいて、俺が手に入れた力。


 時間制御。
 数秒間だけ、自分自身の時間を加速する。


「そうですね、普通に当たりですよ。分かっていると思いますが、悪用しないように」
「しないから」
「と言いつつ、実は今も時間を止めてわたしにイヤらしいことを」
「しません。止めるっていうか、自分が速く動けるだけだから下手なことは出来ないし。他人に何かしたらバレる」
「バレなければやると」
「揚げ足取り良くないと思う」


 そもそも、天使のクセにその発想はどうなのだろうか。
 下手なことを言うと百倍になって返ってくるから、口には出さないが。


「まあいいでしょう。既に聞いていると思いますが、昨日の訓練がアレだったので、今日は特別にお休みです」
「やったー」
「というわけで、ついでにあなたの能力の確認を行いたいと思います」


 言いつつ、何故か大量の書類を目の前に置く天使。


「タイムアタック! キミは制限時間内に何枚書類をさばけるかな?」
「ただの仕事じゃん」
「大丈夫です。内容は確認済みで、後は判子をつくだけなので」
「完全に仕事じゃん」
「単純作業は退屈なんですよ」
「やっぱ仕事じゃん。他の連中の面談は?」
「わたしの担当はあなたが最後です」


 あ、他にも担当の天使っていたんだ。
 目の前の彼女以外、面談や手続きで顔を合わせたことがないから、専任だと思い込んでいた。


「というわけで、はい。よーい、スタート!」


 妙に楽しそうな表情が、何とも言えない。


 明らかに雑用を押しつけられてるよなこれ……
 まあ、手伝うけど。



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