転生までが長すぎる!
天使様にキャリア相談 1
何とか一か月は耐えた。
どんどん脱落する同期の背中も見慣れてきた頃合いだ。
「俺もそろそろかな……」
地獄のような場所だが、リタイアを望めば認めてくれるくらいの温情はあるらしいのだ。
少なくとも、「この案件が終わるまで!」「この案件が終わるまで!」と、ひたすら退職を先延ばしにされ続けた前世の職場よりはマシだろう。
深夜のオフィスでひたすらパソコンと向き合っていた当時が懐かしい。
「今どうなってるかなー。いつでも辞められるように引き継ぎ資料は残してたし、大丈夫だとは思うけど」
上司と営業はともかく、同僚や後輩に迷惑を掛けたであろうことは申し訳ない。
死んだ直後に訓練所に放り込まれ、それどころではなかったが……
多少は余裕が出来て、色々と考えるようになった。
両親、どうしているだろうか。
初めて出した退職届が行方不明になった時、生命保険に入っておいたし、その金で多少は恩を返せたとは思いたいが。
まあ、素直に喜んでもらえるわけないか。
「あー、やめとこ。死んだ後まで、こんなこと考えたくないわ」
それよりも今は自身の今後だ。
このまま訓練を続けるか、リタイアするか。
色々と考えた末に、俺は結論を出した。
「というわけで、転生を辞退する方向で考えてる」
「なんという腑抜け。社畜時代に鍛えたメンタルはどうしたのですか」
目の前に座る天使が半眼になる。
背中から白い翼を生やした少女。
いつぞやの自称天使だ。
俺をここに放り込んだ諸悪の根源である。
今日は面談日だ。
転生候補者は週に一度、天使に呼び出され、一時間ほどの面談を受ける。
大体は雑談で終わるが、本来は候補者の思想や精神面をチェックする為の決まりらしい。
俺たちからすれば、短時間とはいえ訓練を休める貴重なイベントだ。
「本気ですか?」
「本気だよ」
「かーらーのー?」
「本気」
「ノリの悪い方ですね」
「うるさいよ。社畜は過酷労働以外のスキルがないんだ」
「スキルツリーの埋め方を間違ってませんか」
よく分かっておられる。
社畜のパラメーターは極めて偏っているのだ。
労働継続時間は長いが、体力はないという矛盾を抱えているように。
「まあ、本人がどうしてもと言うなら、我々に引き留める権限はありませんが」
「あれ、素直だ」
「当然でしょう」
「正直、『とんだヘタレ野郎ですね。地獄に落ちて、血の海で顔を洗って出直して来なさい、この駄馬が』くらいは言われるかと」
「わたしがそんな天使に見えますか」
「まず天使に見えない」
「天使キック」
「痛ぇ!」
すねを蹴られた。
信じられない。
暴力に訴えやがった、この天使。
「馬鹿なことを言うと蹴りますよ」
「事後報告にも程がある」
「わたしが優しい天使で助かりましたね」
「俺の前に、天使を名乗る悪魔がいるんだけど」
「天使キック」
「二度目はない」
咄嗟に蹴りを防ぐ。
体が反射的に動いた。
「やりますね。訓練の成果ですか」
「嬉しくない」
「では本題に戻りましょう。いいんですか? 一度決めたらやり直しは利きませんよ。あなたの転生したいという思いは、その程度だったんですか?」
「いや、ぶっちゃけそこまで転生に執着してないし。元はといえばアンタの契約書が原因だし」
「やれやれ……最近の若者は根性がありませんね」
「アンタいくつなの?」
「女性に年齢は聞くものじゃありませんよ」
「そういえば、教官の一人があの天使は行き遅れだとか言ってたけど」
「そいつの特徴を教えてください。毟ります」
真顔が怖い。
嘘だとは言えない雰囲気だった。
「言っておきますが、わたしはまだまだ若いです。ぴちぴちです」
「せ、せやね」
天使の寿命は知らないが、そういうことにしておこう。
少なくとも、見た目が若いのは事実だし。
けど、微妙に化粧が濃いんだよな、この天使。
どんどん脱落する同期の背中も見慣れてきた頃合いだ。
「俺もそろそろかな……」
地獄のような場所だが、リタイアを望めば認めてくれるくらいの温情はあるらしいのだ。
少なくとも、「この案件が終わるまで!」「この案件が終わるまで!」と、ひたすら退職を先延ばしにされ続けた前世の職場よりはマシだろう。
深夜のオフィスでひたすらパソコンと向き合っていた当時が懐かしい。
「今どうなってるかなー。いつでも辞められるように引き継ぎ資料は残してたし、大丈夫だとは思うけど」
上司と営業はともかく、同僚や後輩に迷惑を掛けたであろうことは申し訳ない。
死んだ直後に訓練所に放り込まれ、それどころではなかったが……
多少は余裕が出来て、色々と考えるようになった。
両親、どうしているだろうか。
初めて出した退職届が行方不明になった時、生命保険に入っておいたし、その金で多少は恩を返せたとは思いたいが。
まあ、素直に喜んでもらえるわけないか。
「あー、やめとこ。死んだ後まで、こんなこと考えたくないわ」
それよりも今は自身の今後だ。
このまま訓練を続けるか、リタイアするか。
色々と考えた末に、俺は結論を出した。
「というわけで、転生を辞退する方向で考えてる」
「なんという腑抜け。社畜時代に鍛えたメンタルはどうしたのですか」
目の前に座る天使が半眼になる。
背中から白い翼を生やした少女。
いつぞやの自称天使だ。
俺をここに放り込んだ諸悪の根源である。
今日は面談日だ。
転生候補者は週に一度、天使に呼び出され、一時間ほどの面談を受ける。
大体は雑談で終わるが、本来は候補者の思想や精神面をチェックする為の決まりらしい。
俺たちからすれば、短時間とはいえ訓練を休める貴重なイベントだ。
「本気ですか?」
「本気だよ」
「かーらーのー?」
「本気」
「ノリの悪い方ですね」
「うるさいよ。社畜は過酷労働以外のスキルがないんだ」
「スキルツリーの埋め方を間違ってませんか」
よく分かっておられる。
社畜のパラメーターは極めて偏っているのだ。
労働継続時間は長いが、体力はないという矛盾を抱えているように。
「まあ、本人がどうしてもと言うなら、我々に引き留める権限はありませんが」
「あれ、素直だ」
「当然でしょう」
「正直、『とんだヘタレ野郎ですね。地獄に落ちて、血の海で顔を洗って出直して来なさい、この駄馬が』くらいは言われるかと」
「わたしがそんな天使に見えますか」
「まず天使に見えない」
「天使キック」
「痛ぇ!」
すねを蹴られた。
信じられない。
暴力に訴えやがった、この天使。
「馬鹿なことを言うと蹴りますよ」
「事後報告にも程がある」
「わたしが優しい天使で助かりましたね」
「俺の前に、天使を名乗る悪魔がいるんだけど」
「天使キック」
「二度目はない」
咄嗟に蹴りを防ぐ。
体が反射的に動いた。
「やりますね。訓練の成果ですか」
「嬉しくない」
「では本題に戻りましょう。いいんですか? 一度決めたらやり直しは利きませんよ。あなたの転生したいという思いは、その程度だったんですか?」
「いや、ぶっちゃけそこまで転生に執着してないし。元はといえばアンタの契約書が原因だし」
「やれやれ……最近の若者は根性がありませんね」
「アンタいくつなの?」
「女性に年齢は聞くものじゃありませんよ」
「そういえば、教官の一人があの天使は行き遅れだとか言ってたけど」
「そいつの特徴を教えてください。毟ります」
真顔が怖い。
嘘だとは言えない雰囲気だった。
「言っておきますが、わたしはまだまだ若いです。ぴちぴちです」
「せ、せやね」
天使の寿命は知らないが、そういうことにしておこう。
少なくとも、見た目が若いのは事実だし。
けど、微妙に化粧が濃いんだよな、この天使。
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