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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

230話 無頓着なう

「入れ」

 ノックをすると、中からラノールの声が。彼女もいるのか。

「頂点超克のリベレイターズ。要請に応じ参上したよ」

「遅かったな」

 ソファで寛ぎ、コーヒーを飲みながらそんなことを宣うタロー。ピンピンしてるね、こいつも。

「……タローも一晩中戦ったはずなのに、なんでそんなにピンピンしてるのさ」

「私は君たちと違って、昨日の昼はそんなに動いていないからな。それに、AGをやっているなら知っているだろう。二、三日くらいほぼ不眠不休で動く方法など」

 そりゃそういうノウハウを一切持っていないとは言わないが、あれは基本的に撤退戦とかサバイバルや探索がメインの場合じゃなかろうか。
 ……まあ、Sランカーに常識を期待しても無駄か。

「私は少し仮眠をとった。君らよりは短かったが……とはいえ騎士団長として寝不足の顔を見せるわけにはいかない」

「健康的でいいね」

「徹夜で戦い続けることを健康的とは言わん。……俺も少し仮眠をとらせてもらったしな」

 天川がそんなことを言うけど、仰る通り。そして仮眠をとったのも偉い。徹夜で無駄にパフォーマンスを落とす必要はない。
 新井が俺の袖をつかんで「もしかして私も仮眠取ったほうがよかった?」と聞いてきたが……お前は気絶してた時間が段違いだからほぼ睡眠とったようなものだろうに。

「志村は?」

「まだ死んでる。もう少ししたらマール姫が連れてきてくれるだろう」

 冷静に考えれば、志村は強いと言っても戦闘力のほとんどを装備に頼っている。俺たちみたいにナチュラルで強いわけじゃない以上、消耗は俺たちの倍以上と考えるべきだろう。

「でもあいつがピンチになる姿、いまいち想像出来ないんだよねぇ」

「私はお前がピンチになる姿なんて一切想像できないぞ。覇王と戦った後、尚のことな」

「つまり、誰でも窮地に陥りうるわけだから気をつけろ、ということか」

「でもマスターの場合はあの時以降、一度もピンチになってないですよね」

 リャンのセリフを受けて思い返すが……言われてみれば。
 ってことはやっぱ志村はピンチになってないんじゃ……?

「おほん」

 思いっきり雑談ムードに入った俺たちの意識に喝を入れるようにティアー王女が咳払いする。いたんですね王女様。

「まずは父に代わってお礼を申し上げます。王都を救っていただき……誠に感謝いたします。SランクAG、キョースケ・キヨタさんとそのチーム、『頂点超克のリベレイターズ』の皆さん。そして同じくSランクAGアトラ・タロー・ブラックフォレスト様」

 思わず称賛したくなるほど美しいお辞儀。王女様っていうのは伊達じゃない。
 ……最初、塔で会った時はどうしようもないって感じだったけど、変われば変わるものだ。それとも、こっちが本性であれは作っていたのか。
 考えても分からないけど。

「第一騎士団を欠き、実力者も少ない中……よくぞ戦ってくださいました。四人の魔族のうち一人を撃破。魔物を殲滅し、何よりSSランク魔物の討伐……仮に騎士団の人間であったのなら、一体いくつの勲章をお渡しすればいいのか分からないレベルですわ」

 後ろにいる騎士団の人間ことラノールが、少しだけ口の端をあげている。

「ただ、あなたは貴族でも騎士でもなく……AGですわ。よって報酬は金銭という形になるんですが……」

 言いよどむティアー王女。何が言いたいのか理解しているため、俺は一つため息をついてから首を振る。

「報酬は辞退します」

 俺の言葉に心底ホッとしたような表情になるティアー王女。王都を救った……ともなれば、文字通り桁外れの報酬になってしまうのだろう。この疲弊している状態で貰うわけにもいかない。
 タローは何も言わない辺り、既にこの辺の話し合いは済んでいるのだろう。彼も「わかっているじゃないか」みたいな顔をしているし。

「すまない、清田。……俺たちが力不足なばっかりに」

「構わないよ。懐が厳しいわけじゃないし、俺たちは王家からの依頼で動いたわけじゃない。……志村から依頼料はいただくしね」

 ただちょっと大変だったからアップルパイの量を増やして貰おうかな。
 そう言って笑った後、何とはなしに言葉を続ける。

「でも、正直報酬が出るってことで驚いたかな。何せSランク魔物を倒した時も報酬らしい報酬はなかったからね」

「いえキョウ君、たぶんもう少ししたら結構な額が振り込まれるはずですよー?」

「え?」

「ミスター京助、Sランク魔物を倒しておいて報酬が無いわけがないだろう? Aランク魔物ならまだしても、Sランクだ。街の危機を救ったとして、ギルドからではなく領主から報酬が出るはずだ」

 マリルのセリフにタローが補足する。
 ……てっきり『昇格が報酬です☆』みたいなものかと。

「……まさか京助、またお金の管理をマリルさんにまかせっきりにしていたのか?」

「えっ、いや、その……」

「最初からオルランドさんは私に報酬のお話しに来ましたからー。『どうせキョースケに言っても、あなたに言えって言うでしょうし』って言われてー」

 俺がものすごい勢いで目をそらすと、冬子が俺のオデコに指をビスッと突き刺した。

「お前は……! 本当にどうしてこうもその辺がテキトーなんだ。オルランドさんからの衣服の管理も私たち任せだし、金銭関係はマリルさん任せだし……! 家事の手伝いもしないし!」

「家事の手伝いに関してはしようとしてもリャンとマリルに取られるんだから仕方ないでしょ! っていうか俺は部屋片づけてるから! 汚部屋黒髪ポニテガールに言われたくない!」

「属性で言うな! っていうか、汚部屋って程ではない!」

 ここでこのツッコミが入る辺り冬子は流石にオタクだ。あとまあ、確かに散らかってるけど汚部屋って程じゃないか。ビールの空き缶が散乱してないし。
 とか言っている場合じゃない。俺は一つ咳ばらいをしてから改めて皆の方を向く。

「と、とにかく。……報酬辞退でいいよね?」

「私は一向にかまわん」

「マスターの意向ですから」

「ヨホホ。ちょっと残念デスけど、一番働いた人がそう言うのでしたらデス」

「むぅ……いい酒……」

 キアラだけ唇を尖らせているが、他の面々も文句はないようだ。彼女には後でちょっといいお酒を与えて黙らせよう。

「あ、じゃあキョウ君。一ついいですかー?」

 ……と、そこで我が家の経理担当が手を挙げた。流石に王女様に直接話しかけるわけにはいかないからか、俺の方を向いてだが。

「金銭的に貰おうと思うと、確かに天文学的というかそれこそ領地一つ分くらいの金額になっちゃうでしょうから……それもキョウ君とタローさんの分ですからね」

 Sランカー二人に、仕事に見合った報酬を払おうと思うとそうなるだろう。

「でも、だからと言ってSランカーが報酬をもらわないわけにもいきません。働きには報酬が支払われるべきです」

 確かに街を救ってもなんの報酬も出ないんじゃ、AGは真っ先に街から逃げてしまうだろう。一般人では越えられない街から街への道のりも、AGなら何のそのだ。

「だから、私たちはどんな形であれ貰うべきです。金銭は辞退しても、その他の報酬を」

「そんなもんか」

「そんなもんです。生活が安定しているAGの方が少ないんですから」

 それもそうだ。
 ティアー王女はちょっとマリルに対して苦い顔をするが、ダメとは言わない。社会とはそんなものなのだろう。

「あれか、前の世界でいうところのやりがい搾取ってやつか」

「ちょっと違うと思うぞ。どちらかというと『上の人間がサビ残してるから下の人間もサビ残しなくちゃいけない空気』って奴じゃないか?」

 なるほど。
 まあどのみち上司のいない自由業、残業代なんて概念の無い仕事だからイマイチ実感は出来ないが……。

「……じゃあ、何を貰う?」

「キョウ君が決めてくださいー。金銭以外となると……それこそ『勲章』とか『領地』ってなるんじゃないですか?」

「どっちも腹の足しにならないからねぇ。領地なんて絶対オルランドに丸投げする」

「お前のことぢゃからそうなるぢゃろうな」

 分からないことは先輩に聞くか。というわけでタローの方を見る。

「こういう時どうするの?」

「私の場合は『お互いが納得した金額』ということで形だけ貰ったことにして、そのままその領地に寄付したりとかだな。それ以外だと、いわゆる権利を貰ったこともある。君もミスターティアールから、彼の系列店で少し優遇される権利を貰っているだろう? あんな感じだ」

 ああ、確かにあれも一応報酬としてもらったんだっけ。

「あとは……家族のいるAGとかだと分割払いで貰う人とかがいるな。それこそ王都を本拠地にしていたセブンは毎月いくらもらう、みたいな契約を結んでいたぞ」

「賢いね、あいつ」

 見た目にそぐわず。それなら自分が死んだ後も継続的にお金が入るように出来るわけか。それも悪くないかもしれない。

「……じゃあタローは今回どうしたの?」

「私は今度、とある貴族を紹介していただくことにした」

「その貴族の娘さんが美人なのか……」

「おい、君は私のことをどう思っているん」

「女好き」

 食い気味に言うと、タローはグッと押し黙り……ため息をついてそっぽを向いた。図星だったんだろうか。
 まあ図星でも何でもいいけど。

「自分はちゃっかり報酬の算段をつけてたわけね」

「いや、誰も指摘しないなら私が言うつもりだった」

 そのためにいたわけか。
 ……本当に? って聞くのは野暮か。

「食えないやつら」

「キョウ君が無頓着なだけですよー」

 マリルから体当たりされる。なんでさ。
 俺はポリポリと頭をかいてから……活力煙を咥えようとしてリャンからさっと奪われる。最近俺の行動が皆に読まれてる気がする……。

「……まあいいや、ここで検討してても埒が明かない。ティアー王女、一週間お時間をいただいても良いですか?」

「承知しました。ではその際は……アキラを通してお願いしますね」

「かしこまりました」

 これで取り合えず報酬のくだりはおしまい。

「ではわたくしは政務がありますので失礼いたしますわ」

 ティアー王女がそう言って部屋から出ていく。颯爽と出ていく姿は流石に凛々しいけど……。

「本当にあれが同一人物?」

「……彼女とて思うところがあったんだろう。成長するのは俺たちだけの特権じゃないということだ」

 俺がいったん合流し、冬子が抜けた後……一年は経っている。そりゃ心境の変化があってもおかしくないか。

「では私も失礼する。騎士団への指示が残っているからな」

 そう言ってラノールも部屋から出ていく。おそらくティアー王女の護衛としてここにいたのだろう。彼女が出ていけばいる必要もないわけだ。

「ミスター京助、また後で」

 タローも俺の報酬の問題が終わったからか、部屋から出て行った。また後で……ってことは、何か言ってくるのだろうか。

「それで天川、相談って――」

 そこでフッ……と空間に歪みが現れ、井川が出現した。相変わらず転移は心臓に悪い。井川はチラリと俺の後ろを向くと、少しばつの悪そうな顔になる。

「……清田、人払いを頼んでもいいか? 相談があるんだ」

「俺は仲間に全部話すよ?」

 だから無意味だ、と言ったんだが……井川は首を振る。

「伝わるのが嫌なんじゃない。オレの口から言いたくないんだ」

「……そう」

 理由は分からないが、そう言われてしまえば彼女らを部屋から出さざるをえないか。

「リャン、シュリー、マリル。お腹減ったからお昼ご飯の用意を頼んでいい? 俺の部屋で後で皆で食べよう」

「かしこまりました、マスター」

「ヨホホ、了解デス。お肉がいいデスか? それともヘルシー系?」

「どこで調達すればいいんですかねー」

「妾は寝足りぬ」

 あくびをしたキアラが部屋を出ていくと同時、リャンたちも出ていく。これでこの空間にいるのは俺と冬子、そして天川、新井、井川の五人だ。

「天川、オレから先に相談していいか?」

 井川の問いに頷く天川。

「俺の話はすぐ終わるからな。ああいや、その前に……新井。一応、確認させてくれ」

 天川は新井の方を振り向くと、少し寂し気な顔になる。

「お前は俺たちのチームを抜けて清田のチームに入るってことでいいのか?」

「……すみません、勝手に決めて」

 頷く新井に、天川は何とも言えない笑みを浮かべた。決して歓迎しているわけではないだろうが、かといって嫌そうでもない。本当に、複雑そうな表情だ。

「でも……夢、そう。夢でしたから」

「ああ。それは……知ってる。ひとまずおめでとうと言わせてくれ。そして……まあ、気が向いたら俺たちとまた戦ってくれると嬉しい」

「ええ。もしも力が必要になったら……呼んでください。京助君と冬子ちゃんを連れて駆け付けますから」

「なんで俺も」

「いやそこは頷いておけ京助」

 イマイチ納得はいかないが笑顔で頷いておこう。

「ああ、大船に乗ったような気分で頼りにしてくれていいよ!」

 完璧な笑顔とサムズアップまでつけたのに、皆曖昧な笑いになる。何故だ。

「悪かったな」

「いや、そうだな……それも含めて、皆いてくれた方がいいか」

 待っていてくれ、と転移する井川。数秒で難波と空美と……あともう一人女子を連れて戻ってくる。転移っていうのは便利だね。
 ちなみに空美は普通の格好なのだが、難波は首筋にキスマークがついていて衣服も慌てて着たのが丸わかりなシャツ。何よりシャワー後すぐみたいに髪の毛が濡れている。
 一部始終を見ていた身としては、誰と何をしていたのか丸わかりなわけで……

「難波、リア充は爆発しろ」

「いやいやいやいやいやお前に言われたくないしそもそもこの場合悪いのは俺じゃなくて井川だからな!? タイミングってもんを考えろ!」

「……そういうお前こそタイミングを考えろ。今何時だと思ってる? オレは普通にお前の部屋にノックしただけだぞ」

 無実を叫ぶ難波の肘関節をキメながらため息をつく。

「それで、これだけいるのに木原を呼ばないのはなんでだ?」

「……そのことも含めて話したいからな。皆、今時間はいいか?」

 井川が周囲に尋ねるが、誰も首を振らない。取り合えず座ろうということになり、皆が思い思いの席に着く。
 冬子と新井は俺の両端、その前に井川と天川が座り……難波は床に正座、空美と謎の女子はお茶を淹れてくれるということでいったん部屋から出て行った。

「ねぇ、冬子。あの女子誰?」

「クラスメイトの顔くらい覚えておけ。追花だ」

 おいはな……あー、いた気がする。

「なあ清田、俺割と大怪我したんだけど」

「どうせ空美に治してもらったんでしょ? 大丈夫大丈夫、人間って案外死なないから」

「てめぇみたいな非常識の人外と一緒にするな!」

「王都の危機を乗り越えた翌日、っていう大変な時に彼女とコンバインしてるやつに常識を説かれたくない」

「いやだから誤解だって!」

 誤解も六階も無いだろうに。俺は冬子から鏡を借りて、彼の首元を見せてあげる。

「ほーら、難波。動かぬ証拠だよ?」

「あっ……ゆ、ユラシルさん跡は残さないって言ってたのに……はっ!」

「難波……俺は、その……なんだ、こういう時にそういうことをするなとは言わないが……せめて節度と時間を、な?」

 天川がかなり気を遣ってそんなことを言うので、さしもの難波も俯いて何も言わなくなった。

「まあ童貞捨てた直後はそうなるよな、わかるぞ難波」

 井川がえらく慈愛に満ちた表情でそんなことを言って肩をたたくので、難波は土下座するみたいに手をついて「違うんだ……いや、違わないけど違うんだ……」とか呟いている。
 ……確か、もう一人の女性心ぶっ壊れてなかったっけ。それを忘れてじんくんとガンダムってたなら非常識を超えて非人道的な気がするんだが……。

「……まあ世の中には自分の使い魔に命懸けの時間稼ぎを頼んだ挙句、自分のルートじゃないのに三人でいたすエロゲヒロインもいるからなんとも言えないか……」

「なあ京助。そのネタ私にしか分からないと思うぞ……?」

 あとは志村も分かるだろう。

「そういえば、京助君。男の人って戦いの前とか後に昂ってそういうことをしたくなるって聞いたんだけど……」

「ん?」

「だからこのおっぱいを使って、だから、えっと、えっと、あの、だからその……」

「いや言いかけたんなら最後まで言い切れ、美沙」

 ぷしゅう~……と顔から煙を出して俯く新井。俺は苦笑して彼女のオデコにデコピンを一つ食らわせておく。

「そういう人は多いけど、俺は割とそうならないタイプだから」

「そうだな。お前はそういうこと関係なしにどことは言わんがガン見するからな」

 何故か意味深に足を組み替える冬子。俺は全力で天井に目を向け――る前に、難波と天川と井川の目に風の礫をぶつけた。

「うっ」

「あだっ! 清田、何すんだ!」

「おっと」

 天川は手で弾くが、井川と難波はのけぞる。俺はその隙に毛布を取り出して、冬子の足にかけた。
 冬子は不思議そうな顔をして毛布をはがそうとするので、俺はその上から更にクッションを彼女に抱かせる。

「よし」

「いやよしじゃなくてだな」

「……ねぇ、京助君。私がどことは言わないけど、きょ、強調して誘惑、しよう、と、したら……ちゃんとこんな反応してくれる?」

「人前ならね」

「冬子ちゃん! 着替えに行くよ!」

「いや待て、私には今サッパリ――」

「お待たせー」

「お待たせしましたー」

 そんなこんなで空美と追花がお茶を持って現れたので、取り合えずテーブルにお茶が並べられる。
 空美と追花は自前の椅子を取り出し、テーブルを囲むように座ったところで……井川がさてと話を切り出す。

「単刀直入に言おう。真奈美を勇者パーティーから抜けさせる」

 さっきまで緩み切っていた空気が凍る。
 さて、なんで俺たちは呼ばれたんだろうか。


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