異世界なう―No freedom,not a human―
217話 狩人なう
実のところ、王都に攻め込んできた魔族はあの四人だけではなかった。魔物の軍団――のようにブリーダは演出していたが、その中には数十人の魔族が紛れ込んでいたのだ。魔王様が作った『魔王の血』。そのヴァージョン・スリーの力を使って。
もともと、魔族はその能力を使って他国の奥深くまで入り込むことが得意だった。何せ洗脳することが出来るのだ、ハッキリ言って人族も亜人族も相手にならない。
しかし逆に言えば洗脳ありきであるため、それがバレた場合は脆い。しかも洗脳魔法がかなりの練度で使えなければ入り込めないが、洗脳魔法の練度が高いということはそのまま能力が高いということであり……。諜報という場合によっては使い捨てにしなくてはならない役目に、強い魔族から送り込まねばならないというジレンマが常に付きまとっていたのだ。
それでは魔国の練度は上がらない。いくら他国の情報を集め、重要人物の暗殺に長けていようと国力が上がらなければ意味がないのだ。
その問題点全てを克服したのが『魔王の血・Ⅲ』だ。これを使えば魔物と合一することが出来る。練度が高く無ければ再び魔族に戻るために別の薬が必要になるのだが、魔物になるだけならばどれほど練度が低かろうと関係ない。
これの最大の利点は、殺されても魔物としてしか処理されないということ。喋らなければ魔族とバレないし、他国にも警戒されない。
この手法を使って王都に攻め入る前に既に相当な数が入り込んでいたのだ。
そう、戦う前から分かり切っていた勝負。いや、勝負ですらない。勇者をあの四人が殺した後は、民間人を狩りつくす。ただそれだけの作業。
その、はずなのだ。
なのに。
「くそっ……」
なんで。
「き、聞いてねぇ! Sランカーが……特筆戦力が! 三人もいるなんて!」
おかしい。
「必勝じゃなかったのかよ!」
どうして。
「確実に勝てる作戦じゃなかったのかよっ!!!」
自分たちが狩られているのだ!?
「エズミタク様、おちつ」
ヒュガッ!
「ッ!?」
Bランク魔物、カトラスワーウルフと合一したエズミタクはひたすら混乱のさなかにいた。
勝ち戦、そのはずだったのだ。
ただ自分たちの暴力的衝動を満たすだけの任務。Bランク魔物の力が自分たちには上乗せされており、特筆戦力にすら勝てるとそう思っていた。
しかしいつからか、形勢は人族の方に傾いている。絶対に破られないと言われていた結界が破られ、異様な魔力がいくつも登場し、ブリーダ、ホップリィ、モルガフィーネ、タルタンクの魔力が消えた。
それだけでも意味不明だったというのに、今はもっと意味不明なことが起きている。
「しゅ、周囲を見張れ! 落ち着いてどこから撃たれているのか探るんだ!」
エズミタクが自分の部下たちにそう指示を飛ばした瞬間、別方向から来た二射の矢で二人の魔族が爆散した。
「な……っ!」
十人で行動していたエズミタク達も、自分を含めて残り四人。敵の位置を確認することも出来ず、取りあえずその辺にあった建物の中に転がり込む。幸い四人とも人間大の魔物であったため入ることが出来たが……もし巨体の魔物だったらと思うとぞっとする。
「え、エズミタク様! ど、どうすれば! と、というか……ただの矢で! Bランク魔物の肉体を持つ我らが爆散させられるなど……何が、何が起きているんですかっ!!」
部下のスアーカががくがくと震えながら狂乱するが、そんなのエズミタクも知りたい。
「カヤー! お、お前の魔力探知にも引っ掛からねぇのかよ!」
ヨウフがキレ気味に叫ぶが、カヤーも絶望した目で首を振るだけだ。
「……お、オレ、ソナーマンモスと合一して、半径一キロくらいの魔力、全部探知できるんだよ……」
「知ってるよ! だから聞いてんだろうが! 場所さえわかりゃ、おれがシザースガーゴイルの鋏で真っ二つに……!」
「だからぁ! ……いねぇんだよ、一キロ以内に! オレらを狙ってるやつが!」
もはや泣き声で――いや魔物の姿でなければ実際に泣いていたかもしれない――叫ぶカヤー。
彼の言うことと今起きていることを総合すると、自分たちは一キロ以上離れたところから正確に魔魂石の位置を狙って狙撃し、一射必殺で仲間たちを殺しつくし、それでいて一度の狙撃で二方向から撃ち抜くことが出来る意味不明な化け物と戦っていることになるのだ。
「そんなの……出来る生き物が、この世にいるのか……?」
「いるわけ……いるわけねぇだろ!? なんか、なんかトリックがあんだろ!? じゃなきゃおかしいだろ、おかしいだろなぁ! そ、そうだよトリックだ。じゃなきゃ――ヒィッ」
ヨウフが叫び、チラリと建物の外を覗いて……悲鳴を漏らした。腰を抜かしたガーゴイルというなかなか見れないものだが、それ以上に悲鳴を上げた理由が気になる。
エズミタクも彼と同じように建物から外を見ると……
ズドッ。
ズドッ。
ズダンッ!
「……意味が、分からねぇ……」
「なんで、なんで魔物たちが殺されてんだ!? なんでだよ、もう意味わかんねえよ! 何が起きてるんだよコレ!!!!」
「エズミタク様! どうすれば、どうすればいいんですか! 姿が見えず、向こうから一方的に殺してくる敵と戦うなんて、どうすればそんなのと戦いになるんですか!!!」
デスサイズラクーンのスアーカは、既に武器を撃ち抜かれておりただのラクーンに成り下がってしまっている。一般人相手であればこの状態でも戦えるだろうが、戦意を折られるには十分な深手だろう。
エズミタクとて、それなりに修羅場を潜ってきた自負はある。こうして十人単位の小隊の指揮を任されるくらいには実力もある。
だがしかし、こんな戦いをしたことが無い。こちらからは手を出せず、一方的に嬲られるだけの戦いなど――
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
カヤーが今度はとんでもない叫び声を上げて耳を押さえてうずくまる。この悲鳴を聞くだけでも残り三人に衝撃が走り、精神が削られる。
それでも聞かねばならない、何が起きたのか。
「どうした、カヤー」
「あっ、なん、えっ……い、いきなり魔力が増えた。なんか、木だ! 木が至る所に生えてる! オレの魔力探知で理解出来る範囲がまるで森になっちまったみたいだ!!!」
そんなバカな、そう言おうとしたその瞬間。
『ほう、よく分かったな』
ずずず、と。
自分たちが逃げ込んだ建物の床から……何やら長身の男が生えてきたのだ。まるで木が成長するように。
咄嗟にエズミタクは右手のカトラスで斬りかかるが――
『無駄だ。これは私の分身。いくら倒そうと無意味だよ、エズミタク君』
――そう嗤われてしまい、ぴたりと攻撃を止める。確かに冷静になって見れば、足は根が生えているように地面に埋まったままだ。いくら斬っても無駄だろう。
「な、何故俺の名を……」
『さっきまで自分たちで呼び合っていたじゃないか。なあ、エズミタク君、ヨウフ君、スアーカ君、カヤー君』
全員を一人一人指さしながら名を挙げる長身の男。
『どうだね? この戦いは。強い相手と戦いたい……と言っていたからさぞや楽しめているだろう?』
「ふ、ふざけるな! これの何が戦いだ!」
ヨウフがそう叫ぶと、長身の男はにこりとほほ笑む。それは見る者全てをゾッとさせるに足る笑みだった。
『その通り。圧倒的な力で逃げまどう者を追い詰め、殺す――これは戦いではない。狩りだ』
そして君たちは獲物だ。
長身の男はそう言って嗤い、腕を床に突き刺す。そしてそこから……ずずず、と弓矢を取り出した。
「ひぃっ!」
カヤーが悲鳴を上げて後ずさるが、エズミタクとヨウフは逆に一歩前に出る。撃たれるところが分かっていれば躱すことも迎撃することも容易い。
スアーカも意を決したように前に出るが、武器も無い身だ。その膝は震えている。
「な、なにが獲物だテメェ……! 前に出ることも出来ねぇ臆病者のくせによ!」
『その臆病者に追い詰められているのは誰だ?』
うぐっ、とヨウフが言葉に詰まり……長身の男は指を一本立てた。
『では訊こう。エズミタク君。君は投降する意思はあるか? その場合は命までは奪わない。右腕と左足を飛ばして拘束するだけだ』
「……ふ、ふざけるなよ。このエズミタク、そこまで落ちぶれちゃいない」
虚勢を張り、睨みつける。長身の男は不思議そうな顔になると、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、スアーカの頭が吹き飛んだ。床から飛び出した一射によって。
「「な……ッ!?」」
「ひぃっ! ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
『ではもう一度訊こう。投降する意思はあるか? 次はカヤー君だ』
「エズミタク様! 死にたくない、死にたくないです!」
もはや土下座するようにして地面に額をこすりつけるカヤー。しかしエズミタクにも意地がある。ここで投降するなんてことをすれば、命は助かっても誇りは失う。
だから何としても、ここで引くわけにはいかない。
「ふざけるな! 俺たちの秘密を知られるわけにいかないんだ! 魔族のために、魔国のために! だから何としても生き延び――」
『気が変わった。ヨウフ君にしよう』
ズパァン。
エズミタクとヨウフの意識がカヤーに向いた瞬間、目の前の長身の男は一切の無駄の無い動きで弓を番え、ヨウフの頭を撃ち抜いた。
「な……」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!! 嫌だ、死にたくない! こんなの、おかしい! なんで、なんで!! 弱っちい人族を殺すだけの簡単な仕事じゃなかったのかよぉぉぉぉ!」
カヤーはそう絶叫すると、長身の男の傍に行って縋り付く。
「嫌だ、なんでも話します! だから、だから命だけは! この体のことも、魔族のこともなんでも喋ります! だから、だから命だけは――」
「この、阿呆が!!!」
ズバン。
エズミタクは背後からカヤーの首を、そのカトラスで刎ねた。ズブリ、という肉を断つ感触が気持ち悪い。
しかしそれでも、寝返りは許されない。何故ならこの『魔王の血』で魔物に変身し、ローリスクで他国に侵入出来ることが魔族のアドバンテージなのだ。万が一自分たちが解析され、そのノウハウが人族に渡ってしまえば大変なことになる。死体すら与えるのはマズいが……そこは魔物と同じで溶けるので心配ない。
だから心を折るわけにはいかない。ここで逃げ切らねばならない。
『投降する意思は無い、と?』
「あ、当たり前だ! 貴様が何者か知らんが――」
バリンッ、ズバンっ、ギンッ。
咄嗟に手に持ったカトラスで矢を弾く。窓の外から撃たれたものだったが、強化された聴力で窓が破られる音を先に聞けたので何とか弾くことが出来た。
建物の中でも安全じゃない、壁を背にして長身の男を睨みつける。
「舐めるなよ……」
『いいや、舐めちゃいないさ』
更に二射。今度は床からと長身の男本人から。しかし一度見ている攻撃を喰らう程雑魚ではない、その二射も防ぎ、無意味と知りながらも長身の男を切り裂く。
真っ二つになった長身の男はそのまま崩れ去り、いったん静寂が訪れる。
そこでやっと自分が息をまともに吸えていなかったことを思い出し、ぜぇはぁと肺に空気を取り込む。何とか生きている、何とか凌いだ。
(すぐさまこの場を離れねば、しかし外に出れば狙い撃ち。ど、どうすれば……)
『やれやれ、これをやるのは気が引けるのだが』
「!」
長身の男の声。
エズミタクは咄嗟にカトラスを構え、周囲に視線を巡らせる。五感をフルに活用し、どんな攻撃が来ても防げるように腰を落とす。
(来いッ!)
次の瞬間。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
「!?」
尋常じゃない音と共に建物に振動が走る。まるで全方向から何かがぶつかっているように。いや、まるでではない。実際にそうしているのだ。
自分が隠れる場所を消すために!
(に、逃げ――)
『『『『『『『『『『『『やぁ』』』』』』』』』』』』
ぶぁっ。
一瞬で建物は取り壊され、外にその身を晒される。そしてエズミタクが見たのは、自分を取り囲むたくさんの木々。そしてその上に立つ……漆黒の弓兵、弓兵、弓兵、弓兵、弓兵、弓兵、弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵。
「ひぃっ」
とうとう喉の奥から悲鳴が飛び出した。気づいた時にはもう遅い、何十という弓矢が自分に狙いを定めている。
ただの弓矢なら別にいい。しかし一射必殺の異様な矢、それがこれだけの数自分を狙っている。
「は、はは……」
絶望。もはや生きることは叶わない。
膝をつき、頭を垂れる。ことここに至っては諦め、魔王様のためにこの命を散らすしかない。
エズミタクは自殺しようとカトラスを自分に向かって振り上げるが……ガァン! という尋常じゃない音と共に右腕ごとカトラスを吹き飛ばされる。
「がぁっ……!」
痛い、しかしそれ以上に混乱する。何が起きた? いや、矢で撃たれた。それは分かる。しかし何故ただの矢が、自分の五感をすり抜けて撃ち抜ける?
混乱が収まらないまま、次の一射が。迎撃しようと手を伸ばしたが、すり抜けるようにして左足が吹き飛ばされた。
更に何十という矢が降り注ぐ。足を奪われたため咄嗟に避けることも出来ず、全身を撃ち抜かれ地面に磔にされた。
「ぐ、あぁ……」
死ぬことも、出来ないのか。
出血やショックで死ねるかとも思ったが、急所を外されている上魔物の身だ、死ねない。異様な痛みは脳髄を痺れさせる程全身に走っているのに死ねない。
舌を噛み切ろうかとも思ったが、狼の口では上手に噛めない。死ぬ自由さえ奪われ、地面に押さえつけられるという屈辱。
「くそっ……くそっ、くそっ、くそおおおおおお!!」
みっともなく喚く。どうしても諦められない。ここまでコケにされて、我慢なるはずがない。一矢報いたい――その一心で体内に魔力を練る。
「……殺せ」
そう呟くと、嘲笑と共に非情な声が返ってくる。
『それは出来かねる。君は貴重な情報源だからね』
漆黒の弓兵はそう言うと……コツ、コツという足音を立てて自分の前に現れた。足が地面から生えていない、恐らく本体だろう。
(油断したな!)
最後の切り札。自爆しようと体内の魔力を一気に解放し――
「えっ……」
――その全てが、突き立てられている矢に吸い取られた。
呆然と漆黒の弓兵を見る。すると彼は涼やかな顔でエズミタクに刺さった矢を一本引き抜く。
「いい矢だろう? 一本じゃあまり意味は無いが――これだけ打ち込めば、こういう芸当が出来るんだ」
――いや、だから何をされたんだ?
結局最後まで何をすることも出来ずに意味も何もかも分からないまま――矜持も心もへし折られた。なにをすることも、じぶんにできるとおもえない――。
「……何者だ」
呆然と問いかける。声に感情がこもらない。ああ、自分は生きていないのだと思い知らされる。
「私か? そうだな、『黒』の……と名乗りたいところだが、君らには嘗ての名の方が良いだろうか」
長身の弓兵は慇懃無礼に、恭しく胸に手を当てて頭を下げると……一つウィンクをよこしてから口もとに笑みを浮かべた。
「私は『狩人』のタロー。SランクAG、アトラ・タロー・ブラックフォレストだ。これでもこの国で『最強』と呼ばれる位階にいるのでね。下手なことは出来ないのさ」
そう言ってタローは小瓶のようなものを取り出す。魔物であるこの身に効くかは知らないが、意識を奪う薬品だろう。
もはや自分に何も出来ないというのに。
「痛い……のか?」
「さあ。ではまた尋問室で会おう」
チーフに染み込ませた薬品が体内に侵入してくる。痛みが先に消え、次に五感が消え、最後に意識が消えた。
敗北という二文字のみ、最後まで残っていた。
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「やれやれ、これで五人か。まあコレくらいいれば情報の精度も確かになるだろうか」
タローは遠くでうつ伏せになっているエズミタクを眺める。こうして意識を奪った後は木偶人形に回収してとあるところにひとまとめにしておけばいい。
エズミタクから遠く離れた木の上で黒いコートをはためかせながらため息をつく。
「やれやれ、後輩のフォローをするのはAGとして当然……とはいえ、ミスラノールもいたというのに何故全員殺してしまうのか」
彼らの能力を考えれば致し方ないのは理解しつつも、貴重な情報源をあっさりと殺してしまったキョースケ達にはほんの少しだけ苛立ちが湧く。
「マール姫のパイに釣られてホイホイと引き受けるべきではなかったかもしれんな」
苦笑いしてそんなことを言いつつ『職スキル』、『グリフォンの眼』を発動させる。地平線まで俯瞰して見通すことの出来るスキルで魔物の位置を把握し、弓を番える。
「しかしミスター京助もさることながら、ミスキアラは相変わらず異様だな」
自分の眼前に広がる鬱蒼とした森を見て目を細める。タローの『職魔法』である『鬱蒼たる黒き森』のせいで王都の一部は完全に森になってしまった。
この魔法は辺り一帯をタローの陣地にしてしまう魔法で様々な効果があるのだが……取りあえず今は至る所にタローの分身を生やす使い方で運用している。
本来であればある意味で巨大な結界を張る魔法なので、こんなに広範囲が森になることは無いのだが……。
「ミスキアラのバフ……バフでいいのか? 魔法一回分の魔力を受け渡すなど」
本人が『緊急事態ぢゃ』と言っていたので極力使いたくないのか、それともこういう事態でないと出来ないのかは分からないが、こんなもの魔法の革命だ。
そのせいで三回も同じ魔法を使うことが出来たので、こうしていつもの倍以上の規模になってしまった。
もはや後は放っておくだけでもここら一帯の魔物は死滅することだろう。
「……おや?」
探知範囲外ではあるが、気になる影を見つけた。
「何故人族が魔族と一緒に歩いているのだろうか。二人組で、肩を寄せ合うようにして」
王都の他の場所は京助の魔法で殲滅するだろう。であれば、ああいう怪しい手合いを潰すのは自分の役目だ。
タローはひらりと木から飛び降りると、頭から急降下していく。
――そしてその数秒後、怪しい二人組の前に出現した。
もともと、魔族はその能力を使って他国の奥深くまで入り込むことが得意だった。何せ洗脳することが出来るのだ、ハッキリ言って人族も亜人族も相手にならない。
しかし逆に言えば洗脳ありきであるため、それがバレた場合は脆い。しかも洗脳魔法がかなりの練度で使えなければ入り込めないが、洗脳魔法の練度が高いということはそのまま能力が高いということであり……。諜報という場合によっては使い捨てにしなくてはならない役目に、強い魔族から送り込まねばならないというジレンマが常に付きまとっていたのだ。
それでは魔国の練度は上がらない。いくら他国の情報を集め、重要人物の暗殺に長けていようと国力が上がらなければ意味がないのだ。
その問題点全てを克服したのが『魔王の血・Ⅲ』だ。これを使えば魔物と合一することが出来る。練度が高く無ければ再び魔族に戻るために別の薬が必要になるのだが、魔物になるだけならばどれほど練度が低かろうと関係ない。
これの最大の利点は、殺されても魔物としてしか処理されないということ。喋らなければ魔族とバレないし、他国にも警戒されない。
この手法を使って王都に攻め入る前に既に相当な数が入り込んでいたのだ。
そう、戦う前から分かり切っていた勝負。いや、勝負ですらない。勇者をあの四人が殺した後は、民間人を狩りつくす。ただそれだけの作業。
その、はずなのだ。
なのに。
「くそっ……」
なんで。
「き、聞いてねぇ! Sランカーが……特筆戦力が! 三人もいるなんて!」
おかしい。
「必勝じゃなかったのかよ!」
どうして。
「確実に勝てる作戦じゃなかったのかよっ!!!」
自分たちが狩られているのだ!?
「エズミタク様、おちつ」
ヒュガッ!
「ッ!?」
Bランク魔物、カトラスワーウルフと合一したエズミタクはひたすら混乱のさなかにいた。
勝ち戦、そのはずだったのだ。
ただ自分たちの暴力的衝動を満たすだけの任務。Bランク魔物の力が自分たちには上乗せされており、特筆戦力にすら勝てるとそう思っていた。
しかしいつからか、形勢は人族の方に傾いている。絶対に破られないと言われていた結界が破られ、異様な魔力がいくつも登場し、ブリーダ、ホップリィ、モルガフィーネ、タルタンクの魔力が消えた。
それだけでも意味不明だったというのに、今はもっと意味不明なことが起きている。
「しゅ、周囲を見張れ! 落ち着いてどこから撃たれているのか探るんだ!」
エズミタクが自分の部下たちにそう指示を飛ばした瞬間、別方向から来た二射の矢で二人の魔族が爆散した。
「な……っ!」
十人で行動していたエズミタク達も、自分を含めて残り四人。敵の位置を確認することも出来ず、取りあえずその辺にあった建物の中に転がり込む。幸い四人とも人間大の魔物であったため入ることが出来たが……もし巨体の魔物だったらと思うとぞっとする。
「え、エズミタク様! ど、どうすれば! と、というか……ただの矢で! Bランク魔物の肉体を持つ我らが爆散させられるなど……何が、何が起きているんですかっ!!」
部下のスアーカががくがくと震えながら狂乱するが、そんなのエズミタクも知りたい。
「カヤー! お、お前の魔力探知にも引っ掛からねぇのかよ!」
ヨウフがキレ気味に叫ぶが、カヤーも絶望した目で首を振るだけだ。
「……お、オレ、ソナーマンモスと合一して、半径一キロくらいの魔力、全部探知できるんだよ……」
「知ってるよ! だから聞いてんだろうが! 場所さえわかりゃ、おれがシザースガーゴイルの鋏で真っ二つに……!」
「だからぁ! ……いねぇんだよ、一キロ以内に! オレらを狙ってるやつが!」
もはや泣き声で――いや魔物の姿でなければ実際に泣いていたかもしれない――叫ぶカヤー。
彼の言うことと今起きていることを総合すると、自分たちは一キロ以上離れたところから正確に魔魂石の位置を狙って狙撃し、一射必殺で仲間たちを殺しつくし、それでいて一度の狙撃で二方向から撃ち抜くことが出来る意味不明な化け物と戦っていることになるのだ。
「そんなの……出来る生き物が、この世にいるのか……?」
「いるわけ……いるわけねぇだろ!? なんか、なんかトリックがあんだろ!? じゃなきゃおかしいだろ、おかしいだろなぁ! そ、そうだよトリックだ。じゃなきゃ――ヒィッ」
ヨウフが叫び、チラリと建物の外を覗いて……悲鳴を漏らした。腰を抜かしたガーゴイルというなかなか見れないものだが、それ以上に悲鳴を上げた理由が気になる。
エズミタクも彼と同じように建物から外を見ると……
ズドッ。
ズドッ。
ズダンッ!
「……意味が、分からねぇ……」
「なんで、なんで魔物たちが殺されてんだ!? なんでだよ、もう意味わかんねえよ! 何が起きてるんだよコレ!!!!」
「エズミタク様! どうすれば、どうすればいいんですか! 姿が見えず、向こうから一方的に殺してくる敵と戦うなんて、どうすればそんなのと戦いになるんですか!!!」
デスサイズラクーンのスアーカは、既に武器を撃ち抜かれておりただのラクーンに成り下がってしまっている。一般人相手であればこの状態でも戦えるだろうが、戦意を折られるには十分な深手だろう。
エズミタクとて、それなりに修羅場を潜ってきた自負はある。こうして十人単位の小隊の指揮を任されるくらいには実力もある。
だがしかし、こんな戦いをしたことが無い。こちらからは手を出せず、一方的に嬲られるだけの戦いなど――
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
カヤーが今度はとんでもない叫び声を上げて耳を押さえてうずくまる。この悲鳴を聞くだけでも残り三人に衝撃が走り、精神が削られる。
それでも聞かねばならない、何が起きたのか。
「どうした、カヤー」
「あっ、なん、えっ……い、いきなり魔力が増えた。なんか、木だ! 木が至る所に生えてる! オレの魔力探知で理解出来る範囲がまるで森になっちまったみたいだ!!!」
そんなバカな、そう言おうとしたその瞬間。
『ほう、よく分かったな』
ずずず、と。
自分たちが逃げ込んだ建物の床から……何やら長身の男が生えてきたのだ。まるで木が成長するように。
咄嗟にエズミタクは右手のカトラスで斬りかかるが――
『無駄だ。これは私の分身。いくら倒そうと無意味だよ、エズミタク君』
――そう嗤われてしまい、ぴたりと攻撃を止める。確かに冷静になって見れば、足は根が生えているように地面に埋まったままだ。いくら斬っても無駄だろう。
「な、何故俺の名を……」
『さっきまで自分たちで呼び合っていたじゃないか。なあ、エズミタク君、ヨウフ君、スアーカ君、カヤー君』
全員を一人一人指さしながら名を挙げる長身の男。
『どうだね? この戦いは。強い相手と戦いたい……と言っていたからさぞや楽しめているだろう?』
「ふ、ふざけるな! これの何が戦いだ!」
ヨウフがそう叫ぶと、長身の男はにこりとほほ笑む。それは見る者全てをゾッとさせるに足る笑みだった。
『その通り。圧倒的な力で逃げまどう者を追い詰め、殺す――これは戦いではない。狩りだ』
そして君たちは獲物だ。
長身の男はそう言って嗤い、腕を床に突き刺す。そしてそこから……ずずず、と弓矢を取り出した。
「ひぃっ!」
カヤーが悲鳴を上げて後ずさるが、エズミタクとヨウフは逆に一歩前に出る。撃たれるところが分かっていれば躱すことも迎撃することも容易い。
スアーカも意を決したように前に出るが、武器も無い身だ。その膝は震えている。
「な、なにが獲物だテメェ……! 前に出ることも出来ねぇ臆病者のくせによ!」
『その臆病者に追い詰められているのは誰だ?』
うぐっ、とヨウフが言葉に詰まり……長身の男は指を一本立てた。
『では訊こう。エズミタク君。君は投降する意思はあるか? その場合は命までは奪わない。右腕と左足を飛ばして拘束するだけだ』
「……ふ、ふざけるなよ。このエズミタク、そこまで落ちぶれちゃいない」
虚勢を張り、睨みつける。長身の男は不思議そうな顔になると、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、スアーカの頭が吹き飛んだ。床から飛び出した一射によって。
「「な……ッ!?」」
「ひぃっ! ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
『ではもう一度訊こう。投降する意思はあるか? 次はカヤー君だ』
「エズミタク様! 死にたくない、死にたくないです!」
もはや土下座するようにして地面に額をこすりつけるカヤー。しかしエズミタクにも意地がある。ここで投降するなんてことをすれば、命は助かっても誇りは失う。
だから何としても、ここで引くわけにはいかない。
「ふざけるな! 俺たちの秘密を知られるわけにいかないんだ! 魔族のために、魔国のために! だから何としても生き延び――」
『気が変わった。ヨウフ君にしよう』
ズパァン。
エズミタクとヨウフの意識がカヤーに向いた瞬間、目の前の長身の男は一切の無駄の無い動きで弓を番え、ヨウフの頭を撃ち抜いた。
「な……」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!! 嫌だ、死にたくない! こんなの、おかしい! なんで、なんで!! 弱っちい人族を殺すだけの簡単な仕事じゃなかったのかよぉぉぉぉ!」
カヤーはそう絶叫すると、長身の男の傍に行って縋り付く。
「嫌だ、なんでも話します! だから、だから命だけは! この体のことも、魔族のこともなんでも喋ります! だから、だから命だけは――」
「この、阿呆が!!!」
ズバン。
エズミタクは背後からカヤーの首を、そのカトラスで刎ねた。ズブリ、という肉を断つ感触が気持ち悪い。
しかしそれでも、寝返りは許されない。何故ならこの『魔王の血』で魔物に変身し、ローリスクで他国に侵入出来ることが魔族のアドバンテージなのだ。万が一自分たちが解析され、そのノウハウが人族に渡ってしまえば大変なことになる。死体すら与えるのはマズいが……そこは魔物と同じで溶けるので心配ない。
だから心を折るわけにはいかない。ここで逃げ切らねばならない。
『投降する意思は無い、と?』
「あ、当たり前だ! 貴様が何者か知らんが――」
バリンッ、ズバンっ、ギンッ。
咄嗟に手に持ったカトラスで矢を弾く。窓の外から撃たれたものだったが、強化された聴力で窓が破られる音を先に聞けたので何とか弾くことが出来た。
建物の中でも安全じゃない、壁を背にして長身の男を睨みつける。
「舐めるなよ……」
『いいや、舐めちゃいないさ』
更に二射。今度は床からと長身の男本人から。しかし一度見ている攻撃を喰らう程雑魚ではない、その二射も防ぎ、無意味と知りながらも長身の男を切り裂く。
真っ二つになった長身の男はそのまま崩れ去り、いったん静寂が訪れる。
そこでやっと自分が息をまともに吸えていなかったことを思い出し、ぜぇはぁと肺に空気を取り込む。何とか生きている、何とか凌いだ。
(すぐさまこの場を離れねば、しかし外に出れば狙い撃ち。ど、どうすれば……)
『やれやれ、これをやるのは気が引けるのだが』
「!」
長身の男の声。
エズミタクは咄嗟にカトラスを構え、周囲に視線を巡らせる。五感をフルに活用し、どんな攻撃が来ても防げるように腰を落とす。
(来いッ!)
次の瞬間。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
「!?」
尋常じゃない音と共に建物に振動が走る。まるで全方向から何かがぶつかっているように。いや、まるでではない。実際にそうしているのだ。
自分が隠れる場所を消すために!
(に、逃げ――)
『『『『『『『『『『『『やぁ』』』』』』』』』』』』
ぶぁっ。
一瞬で建物は取り壊され、外にその身を晒される。そしてエズミタクが見たのは、自分を取り囲むたくさんの木々。そしてその上に立つ……漆黒の弓兵、弓兵、弓兵、弓兵、弓兵、弓兵、弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵弓兵。
「ひぃっ」
とうとう喉の奥から悲鳴が飛び出した。気づいた時にはもう遅い、何十という弓矢が自分に狙いを定めている。
ただの弓矢なら別にいい。しかし一射必殺の異様な矢、それがこれだけの数自分を狙っている。
「は、はは……」
絶望。もはや生きることは叶わない。
膝をつき、頭を垂れる。ことここに至っては諦め、魔王様のためにこの命を散らすしかない。
エズミタクは自殺しようとカトラスを自分に向かって振り上げるが……ガァン! という尋常じゃない音と共に右腕ごとカトラスを吹き飛ばされる。
「がぁっ……!」
痛い、しかしそれ以上に混乱する。何が起きた? いや、矢で撃たれた。それは分かる。しかし何故ただの矢が、自分の五感をすり抜けて撃ち抜ける?
混乱が収まらないまま、次の一射が。迎撃しようと手を伸ばしたが、すり抜けるようにして左足が吹き飛ばされた。
更に何十という矢が降り注ぐ。足を奪われたため咄嗟に避けることも出来ず、全身を撃ち抜かれ地面に磔にされた。
「ぐ、あぁ……」
死ぬことも、出来ないのか。
出血やショックで死ねるかとも思ったが、急所を外されている上魔物の身だ、死ねない。異様な痛みは脳髄を痺れさせる程全身に走っているのに死ねない。
舌を噛み切ろうかとも思ったが、狼の口では上手に噛めない。死ぬ自由さえ奪われ、地面に押さえつけられるという屈辱。
「くそっ……くそっ、くそっ、くそおおおおおお!!」
みっともなく喚く。どうしても諦められない。ここまでコケにされて、我慢なるはずがない。一矢報いたい――その一心で体内に魔力を練る。
「……殺せ」
そう呟くと、嘲笑と共に非情な声が返ってくる。
『それは出来かねる。君は貴重な情報源だからね』
漆黒の弓兵はそう言うと……コツ、コツという足音を立てて自分の前に現れた。足が地面から生えていない、恐らく本体だろう。
(油断したな!)
最後の切り札。自爆しようと体内の魔力を一気に解放し――
「えっ……」
――その全てが、突き立てられている矢に吸い取られた。
呆然と漆黒の弓兵を見る。すると彼は涼やかな顔でエズミタクに刺さった矢を一本引き抜く。
「いい矢だろう? 一本じゃあまり意味は無いが――これだけ打ち込めば、こういう芸当が出来るんだ」
――いや、だから何をされたんだ?
結局最後まで何をすることも出来ずに意味も何もかも分からないまま――矜持も心もへし折られた。なにをすることも、じぶんにできるとおもえない――。
「……何者だ」
呆然と問いかける。声に感情がこもらない。ああ、自分は生きていないのだと思い知らされる。
「私か? そうだな、『黒』の……と名乗りたいところだが、君らには嘗ての名の方が良いだろうか」
長身の弓兵は慇懃無礼に、恭しく胸に手を当てて頭を下げると……一つウィンクをよこしてから口もとに笑みを浮かべた。
「私は『狩人』のタロー。SランクAG、アトラ・タロー・ブラックフォレストだ。これでもこの国で『最強』と呼ばれる位階にいるのでね。下手なことは出来ないのさ」
そう言ってタローは小瓶のようなものを取り出す。魔物であるこの身に効くかは知らないが、意識を奪う薬品だろう。
もはや自分に何も出来ないというのに。
「痛い……のか?」
「さあ。ではまた尋問室で会おう」
チーフに染み込ませた薬品が体内に侵入してくる。痛みが先に消え、次に五感が消え、最後に意識が消えた。
敗北という二文字のみ、最後まで残っていた。
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「やれやれ、これで五人か。まあコレくらいいれば情報の精度も確かになるだろうか」
タローは遠くでうつ伏せになっているエズミタクを眺める。こうして意識を奪った後は木偶人形に回収してとあるところにひとまとめにしておけばいい。
エズミタクから遠く離れた木の上で黒いコートをはためかせながらため息をつく。
「やれやれ、後輩のフォローをするのはAGとして当然……とはいえ、ミスラノールもいたというのに何故全員殺してしまうのか」
彼らの能力を考えれば致し方ないのは理解しつつも、貴重な情報源をあっさりと殺してしまったキョースケ達にはほんの少しだけ苛立ちが湧く。
「マール姫のパイに釣られてホイホイと引き受けるべきではなかったかもしれんな」
苦笑いしてそんなことを言いつつ『職スキル』、『グリフォンの眼』を発動させる。地平線まで俯瞰して見通すことの出来るスキルで魔物の位置を把握し、弓を番える。
「しかしミスター京助もさることながら、ミスキアラは相変わらず異様だな」
自分の眼前に広がる鬱蒼とした森を見て目を細める。タローの『職魔法』である『鬱蒼たる黒き森』のせいで王都の一部は完全に森になってしまった。
この魔法は辺り一帯をタローの陣地にしてしまう魔法で様々な効果があるのだが……取りあえず今は至る所にタローの分身を生やす使い方で運用している。
本来であればある意味で巨大な結界を張る魔法なので、こんなに広範囲が森になることは無いのだが……。
「ミスキアラのバフ……バフでいいのか? 魔法一回分の魔力を受け渡すなど」
本人が『緊急事態ぢゃ』と言っていたので極力使いたくないのか、それともこういう事態でないと出来ないのかは分からないが、こんなもの魔法の革命だ。
そのせいで三回も同じ魔法を使うことが出来たので、こうしていつもの倍以上の規模になってしまった。
もはや後は放っておくだけでもここら一帯の魔物は死滅することだろう。
「……おや?」
探知範囲外ではあるが、気になる影を見つけた。
「何故人族が魔族と一緒に歩いているのだろうか。二人組で、肩を寄せ合うようにして」
王都の他の場所は京助の魔法で殲滅するだろう。であれば、ああいう怪しい手合いを潰すのは自分の役目だ。
タローはひらりと木から飛び降りると、頭から急降下していく。
――そしてその数秒後、怪しい二人組の前に出現した。
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