異世界なう―No freedom,not a human―
210話 ふぉろーみーなう
「ねぇ、冬子、リャン、シュリー。……ついて来れる?」
冬子のメンタルにだいぶダメージが入っているのは一目で分かった。真っ青に血の気は引いているのに目元だけ赤く腫れている。膝に力が入っているように見えなかったし、何より闘気が失せていた。
その理由はすぐに分かった。後ろの死体の山だろう。アレは俺でも堪えた――というか、死体に慣れていなければこんな状況じゃなくても驚き、固まる。それが戦場で見てしまえば猶更だろう。
リャンもシュリーも、多かれ少なかれメンタルにダメージを負っているのは見て取れた。二人は冬子に比べれば慣れているからショックは少ないだろうが――正常な神経を持ち合わせていれば、人が虐殺されているところを見て平然とはしていられまい。 
だからこそ、冬子とシュリーは抱き合っていたのだろうし。
だからこそ――ここで戦わなければ、一生後悔する。
「『やっておけば良かった』、そう思うことが小さいコトであればあるほど――何かがあった時の後悔は大きい。俺たちはSランク魔物すら倒せるチームだ。魔物が何万体いようが負けやしない」
呟き、煙を吸い込む。
「志村の話を聞いていたのに、心のどこかで舐めてた節があった俺のミスだ。魔族を殺ることばかり考えてたわけじゃない……けど、街を見るまで認識が甘かったのは間違いない」
チームリーダーとして指示ミスも判断ミスもあった。たぶんキアラから後でしこたま怒られるだろう。お説教は甘んじて受けよう、この街を救ってから。
「俺はいつもそうだ。でも――まだ、間に合え」
懇願のように口から出るその言葉。神頼みではない、しいて言うなら自分自身を鼓舞するためのもの。
もう既に間に合ってないのだ。それほどたくさんの人が『殺される』という形で自由を奪われた。いつも通りの明日が来ないようにされた。
でもまだ、やれることはあるはずだ。エンジンのかかりが遅く、危機感が薄く、甘い俺自身でも、まだ。
だから。
間に合え、俺。俺たち。 
「……マスター、付いて来れる? というのは――」
「もちろん」
リャンの問いに、俺は活力煙の灰を落としながら答える。
「魔物の殲滅。一匹残らず、殺しつくす」
ピン、と緊張の糸が張り詰める。
「王都中の魔物を殺しつくして、この街を元に――は戻せなくとも、少なくとも明日を迎えられる状態にする」
俺の怒りが伝わったのか、それとも別の要因か。リャンが耳をピンと立て、シュリーが神妙な顔つきになる。
そのままたっぷり一秒程沈黙がその場を支配し、シュリーがそっと冬子の肩を抱く。
「その、キョースケさん。トーコさんが――」
「ん、分かってる。こんな惨状を見て精神をやられないなら逆に驚くよ。ただ……」
俺は彼女に近づき、顎を持ち上げて顔を上げさせる。彼女の瞳を見るために。
これでもし、目が死んでいたら無理は言えない。元の世界でも戦争に出て精神をやられた人がいたということも聞く。これ以上戦ってしまえばトラウマになりかねない。こういうのは根性がどうこうじゃないからね。
でも――
「いいの? 俺一人に任せて。好き放題やっちゃうよ?」
――俺は知ってる。冬子は割と負けず嫌い。
そして、自惚れだろうけど……このくらいのショックなら、『俺』に煽られたら乗ってくる。『俺』に励まされたら頑張る。その程度には、信頼関係を築けてる。
今は頑張って欲しくない。向かって来て欲しい。だから、煽る。
甘えだろう、自惚れだろう、でもそれでいいというのは分かる。伊達に半年以上シェアハウスしてないさ。 
「……京助」
冬子は俺の渡した水筒をグイっと一気に飲み干すと、雫を一つ二つとって目元にこすりつけた。涙の跡のように。
突然のことにキョトンとしていると、冬子はしなを作って俺の腕を掴んで――漫画とかなら「きゃるんっ」とか「しゃららぁ~ん」みたいな擬音がつきそうな笑顔を浮かべた。
「心配、したんだぞっ? 魔族と一人で戦いに行っちゃうなんてっ」
ぎょっとする俺に構わず、冬子はひしっと抱き着いて更に目元に涙をくっつける。
「えっ、と、冬子、えっ?」
「もうっ、京助はいっつも一人で戦っちゃうんだからっ。心配するこっちの身にもなってよねっ! ぷんぷん」
語尾の全てに音符か星がついているんじゃないかというほど弾んだ声。つんっ、と俺の額をつく冬子に、俺は……。
「ごめん……冬子……まさかそこまで精神的な負担がかかっていたなんて……っ!」
ひしっ、と彼女を抱きしめる。
そして同時にシュリーとリャンも一緒に冬子に抱き着いた。
「うう……トーコさん、そこまで思いつめていたなんて……っ!」
「ヨホホ……やっぱりワタシがお姉ちゃんになるデス! さぁ、甘えるデス!」
「冬子……うん、一度休憩しよう。大丈夫、絶対に暴走しないから!」
「冗談とマジの区別もつかないのかーっ!」
三人に抱きしめられて身動きが取れなくなった冬子が叫ぶが、俺は彼女の頭を優しくなでる。
「大丈夫、俺は二度と冬子が傷つかないように守って見せるから」
「というか今私は汗かいてるからそんなに抱きしめられるとだな、その……」
「大丈夫、いつも通り」
「それはいつも私が汗臭いということか!?」
「ああ、確かにマスターと一緒に鍛錬した後すぐにシャワーに行きませんもんね、トーコさん」
「入ってる! 捏造するな!」
「でもトーコさん、たまにキョースケさんの部屋に入ってキョースケさんの服を着たりしてるじゃないデスか」
「待って、それ今関係ない! っていうか何で知ってるんですかリューさん!」
「えっ、なんでそんなことしてるの冬子」
「普通そこは聞いてないフリだろ京助!」
俺たちは冬子を解放し、二ッと笑う。
「あのタイミングでああなったらマジかと思っちゃうでしょ」
「お前は私をなんだと思ってるんだ」
「背中を預けるに足る人」
「んふっ。……んっんー。私は誤魔化されないからな?」
皆に抱きしめられて苦しかったからか、真っ赤になった顔で咳払いをする冬子。背後でリャンとシュリーが「チョロいですね」、「ヨホホ、チョロいデス」とか言っているけど無視。
冬子にタオルを渡すと、彼女はそれで顔を拭ってから……いつもの笑顔を見せてくれる。頼りになる、青空のような笑顔で。
「置いてかれるのはごめんだが――好き放題やるお前を止めるのも私の仕事だからな!」 
――うん、冬子はやっぱり笑っている方がいい。
得意げな顔を見せる冬子に俺は拳を突き出す。彼女もそれに拳を合わせ、そしてグッと手と手を合わせて握り合う。
「もう大丈夫だ。心配かけたな」
「OK、リャンとシュリーは?」
「私はマスターが来いと言えばどこまでもついていきます」
「ヨホホ、キョースケさんは危なっかしいデスからね。ちゃんとついていくデスよ」
三人とも、さっきまでの重苦しい雰囲気が取り払われて力強い顔になる。うん、流石は俺のチーム。いつだって頼もしい。
俺は活力煙の煙を吸い込み、槍の石突を地面に挿す。
「ところで京助、魔物を一掃する……と言っていたが、考えはあるんだろうな?」
「もちろん」
そしてそのためには――
「まず、キアラと合流しようか。出来れば加藤と……新井もいるといいかもしれない」
何をやるのか分からずキョトンとする三人を『筋斗雲』に乗せ、俺たちは空へ。一気に高度を上げると王都を一望できるが――
「酷い有様だな。……そうか、京助。お前はこれを見ていたのか既に」
「ん」
――街のいたるところで火事が起き、悲鳴がずっと聞こえてくる。地面を埋め尽くす――程ではないものの、街中まだ魔物だらけだ。
騎士やAG達が奮闘しているし、追加の魔物はもう無いはずなので後は減っていくだけだが、全ていなくなるまでの時間で一体何人が明日の自由を奪われるのか。
考えるだけで腸が煮えくり返る。
俺は吸っていた活力煙を燃やし尽くし、次のそれを咥えて火をつける。
「ふぅ~……。あれ、この魔力……新井と阿辺だね」
王都の端の方、俺たちが向かおうとしていた方角とは反対方向で魔力を感じる。片方は以前とは見違えるほど強く、鋭くなっており――もう片方は以前とはまるで違う禍々しさに包まれている。
はて、何故あの二人が王都の端にいるのだろうか。
「魔物狩りでもやってるのかな。だとしても王都の端はちょっと効率が悪い気もするけど」
「どうする? 先に合流するか?」
「それがいいかも」
俺は『筋斗雲』を方向転換させて彼女らのところへ向かう。今は魔法師が一人でも欲しいところだ、異世界人なんていうチーターを逃す手は無い。
「マスター、そのアライさんという方は何者なんですか?」
「ヨホホ、あとカトーさんという方も連れていきたいと言っていたデスね」
二人の疑問に、俺ではなく冬子が答える。
「新井は氷結者という魔法師だ。リューさんとは正反対……氷の魔法を操る。一方で加藤は賢者、キアラさん程ではないがオールマイティに魔法を使える。二人とも実力は申し分無いぞ」
「ふむ……氷魔法とは珍しいデスね。少なくともアンタレスの魔法師ギルドにはいませんデスし、ワタシも数える程しか会ったこと無いデス。それも殆ど研究者で、実戦級ともなると一人か二人しか思い浮かばないデスね」
「へぇ。そうだったんだ」
でも言われてみれば、俺も新井以外知らない。というか地水火風以外の魔法って滅多に見ないな。
「ヨホホ、氷は水の発展属性デスからね。その属性を持っていて『職スキル』の補助が無いと実戦投入なんて怖くて出来ないデス」
発展属性という気になる単語は拾ったが、今はそんなこと話してる場合じゃないね。
どうも下で……新井と阿辺が喧嘩しているみたいだから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はははははははあ!!! どうした、どうしたどうしたァ! プッツンおっぱい! その程度かァ!?」
――強い。
実際に戦って初めて分かる強さ。結界魔法という厄介で無茶苦茶な魔法。
「……『詠唱短縮』。『地を満たせ。グレイシアフィールド』!」
新井が唱えると同時に、地面に氷が広がる。城で習った魔法師としての戦い方の基礎の一つ、有利な土地を作ること。
地面を凍らせれば相手は動きを制限されるがブーツにブレードがついている新井は逆に機動力が上がる。更に様々な魔法をこの氷を通じて使えば魔力消費も詠唱時間も抑えることが出来るのだ。
故にこうして本来ならば簡単に張らせることはしないのだが――
(……やっ、ぱり)
コテン、と首を横に倒す。阿辺は一切頓着していない。新井がこうして場づくりをしている間も結界弾を撃ち出してくる。
「……めん、どう。『詠唱破棄』、『アイスブレード』」
地面の氷から大量の氷の刃が生み出され、超高速且つ一本一本が異なる軌道で阿辺に向かって撃ち出される。
装甲車だろうと五秒あればミンチに出来る新井の氷魔法。追尾するので回避も不可、威力も速度も一級のそれが――あっさりと、阿辺の結界に阻まれる。
「……ダメージ、無い、わけじゃ……な、い?」
阿辺の結界も無尽蔵な耐久力というわけでは無いのだが、壊れる寸前にすぐ新しいモノに張り替えているため突破できる気配が無い。
「あァ? ハハハァッ! 何かしたかァ、プッツンおっぱい! テメェはホントおっぱいしか取り柄がねェなァ!!!! ハハハッハッハハハァッ!」
「……ほんと、キモイ……」
更に氷のフィールドから槍を生み出す。本来であれば近づいてベルゲルミルと新井本人が氷の剣を持って斬りかかりたいところなのだが――
(……あの、結界)
――彼の纏っている三重の結界。これがかなり厄介だ。もっとも外側にあるものは魔法を遮断する結界。物理攻撃は素通りする代わりに、魔法に対してはかなりの強固さを誇る。そして一つ内側にあるのは逆に物理だけ遮断する結界。そして最も内側にあるのは彼自身の攻撃力や防御力、その他諸々のステータスを引き上げるバフ結界。
結界に限れば防御も攻撃もバフもお手の物なのだから、本当に厄介極まりない能力だ。
(はっきり、言って――)
阿辺を殺すだけなら簡単だ。あの結界の強度は何となくわかってきた、中身ごと殺すための攻撃をすれば一瞬で突き破れる。
恐らくそうすれば強大な結界を張って耐えてくるのだろうが――壊れるまでそのレベルの魔法を連発すればいい。幸いこちらには温水先生印の魔力回復薬もあるし、そもそもの魔力量は新井が上。
……とはいえ、いくらおっぱい魔人のゲスの極み醜男で『巨乳処女じゃなきゃ自分に抱かれる価値が無い。中古とか吐き気がする』とか言ってメイドさんに迷惑をかけて挙句のはてに自分を誘拐しようとしている外道と言えど、元はクラスメイトだ。腕が二、三本無くなるだけならまだしも殺したくはない。
となれば無力化せねばならないのだが、そうなってくると難易度が上がる。強力な魔法を使い魔物を殺すことには慣れているが、対人経験はまだ数えるほどしかないのだ。
「む、ぅ……手加減、難しい……っ」
吹雪を発生させて目くらまし。さらにそれに混ぜるようにして小さく細かい氷の礫で牽制する。
「くっくっく……ハァッハァッハッハッハァァァ!!! 弱ェ、弱ェ!」
ごっ! といきなり結界弾の速度が上がった。咄嗟にベルゲルミルで受けてしまい、その剣が結界にとらわれ破壊されてしまった。
この超小型ブラックホールのような結界は盾や剣で受けるとそれを内部に取り込み破壊してしまうという見た目以上に強力な代物。
今までは何とか回避でやり過ごしていたが――そろそろ限界が近い。ベルゲルミルの剣は地面の氷で補充出来るが、相手が連打してくれば受けが成立しなくなる。
「『詠唱破棄』、『フローズンブレード』。『詠唱短縮』、『貫け、フローズンランス』。『詠唱破棄』、『アイスバレット』」
氷原に大量の剣が突き立てられ、空中に氷の槍と氷の弾丸が出現する。氷の剣はベルゲルミルが拾って敵の攻撃を防ぐためのものだが、フローズンランスはあの結界を崩すため。
魔法遮断結界によって防がれるフローズンランスだが、一発目が当たったところにもう一発、さらにもう一発とただひたすら攻撃を当て続ける。
「雨だれ、石を……穿つ。あはっ」
「あん? 何を言って――」
ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン!!!
「あぁ? ……チッ、マジかおい」
十五発目。阿辺が気づくのとほぼ同時に結界が破壊される。しかし一つでも穴が空けば問題ない。阿辺を気絶させるための攻撃は撃ち込める。
結界に空いた穴に滑り込む氷の弾丸。その一撃が阿辺の頭を捉え――
「仕方ねェ」
――る、寸前に『ナニカ』の力が働いて防がれてしまった。
阿辺が何かつぶやいてアイテムボックスからとある杖を出す。その瞬間、新井の背に言いようのない悪寒が走った。
理由はない、ただ直感がそう叫んでいる。今、何かマズいものを取り出されたと――
「くくくっ、あっはっはっはっはぁぁぁ!」
高笑いする阿辺。新井は直感に従い最大の魔法を用意するため、『詠唱破棄』を使って氷の結界を張る。
クラスメイトとかなんとか言っている場合じゃない、ここで殺らないと自分が殺られる。そんな強迫観念に近い何かに突き動かされ、詠唱を始める。
「『凍える風よ、大海をも飲み込む凍てつく牙よ。我が命に従い、此の世に永遠の氷結を顕現させよ!』」
一方の阿辺は瞳孔を開き、まるで薬物でもキメているような顔になり天を仰ぐ。
「ああ、ああ……プッツンおっぱい。テメェは生きたまんま奴隷にしてやろォと思ってたけど仕方ねェ……! アイツらならゾンビにして使役する術くらい使えんだろォ……?」
さっきとは別の意味でゾワリと背筋に鳥肌が立つ。アレの奴隷なんて死んでもごめんだ。
氷が渦巻き、魔力が新井の周囲で膨れ上がっていく。一方の阿辺は禍々しくどす黒いオーラを纏い、紫色の光を杖へと集めていく。
「『エターナルフォースブリザード』」
「『奇々怪々常夜幽遊怨』!」
この冷気はきっと新井の魔法によるものだけではないのだろう。阿辺の結界の中から魑魅魍魎のような、得体のしれない異様な『ナニカ』が真っ黒なオーラを纏ってこちらへ襲いかかってくる。
途轍もない魔力が大気を震わせる。否、大気だけでなく地面すら揺れている。
圧倒的な力の奔流。
二人の間にある空間が弾け、暴力の嵐が吹き荒れると思われたその瞬間――
「ねぇ、なんで喧嘩してるの?」
――轟!
「えっ?」
「はっ?」
二人の魔法は、その射線上にあるものすべてを消し飛ばすはずだった。そしてそれらが激突すれば、お互いが無傷で済まない――否、互いに相手を殺すつもりで撃ったのだ。どちらかが致命傷を受けていてもおかしくはなかった。
それが、何故か。
何も起きていない。何も破壊されていない、二人とも無傷。
そして更に驚くべきことに――その爆心地となるはずだった場所に一人の少年、いや青年が立っているのだ。
その青年は槍を携え、頭に角を生やし、暴風をその身に纏っている。口もとは笑みの形になっているが、それに反して目つきは鋭く全てを見透かすよう。
目の奥には怒りと焦りが浮かんでおり、気が急いているであろうことが見てとれる。
(ああ、ああ……っ!)
来てくれた。
来てくれた、来てくれた来てくれた来てくれた!
自分を救けに来てくれたんだ!
「テンメェ……清田ァァァァァァァァ! 邪魔してんじゃねェぞ!?」
清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君!!!!!!!!!
(あぁぁぁ……っ、ああっ!)
清田君が、来てくれた。
冬子のメンタルにだいぶダメージが入っているのは一目で分かった。真っ青に血の気は引いているのに目元だけ赤く腫れている。膝に力が入っているように見えなかったし、何より闘気が失せていた。
その理由はすぐに分かった。後ろの死体の山だろう。アレは俺でも堪えた――というか、死体に慣れていなければこんな状況じゃなくても驚き、固まる。それが戦場で見てしまえば猶更だろう。
リャンもシュリーも、多かれ少なかれメンタルにダメージを負っているのは見て取れた。二人は冬子に比べれば慣れているからショックは少ないだろうが――正常な神経を持ち合わせていれば、人が虐殺されているところを見て平然とはしていられまい。 
だからこそ、冬子とシュリーは抱き合っていたのだろうし。
だからこそ――ここで戦わなければ、一生後悔する。
「『やっておけば良かった』、そう思うことが小さいコトであればあるほど――何かがあった時の後悔は大きい。俺たちはSランク魔物すら倒せるチームだ。魔物が何万体いようが負けやしない」
呟き、煙を吸い込む。
「志村の話を聞いていたのに、心のどこかで舐めてた節があった俺のミスだ。魔族を殺ることばかり考えてたわけじゃない……けど、街を見るまで認識が甘かったのは間違いない」
チームリーダーとして指示ミスも判断ミスもあった。たぶんキアラから後でしこたま怒られるだろう。お説教は甘んじて受けよう、この街を救ってから。
「俺はいつもそうだ。でも――まだ、間に合え」
懇願のように口から出るその言葉。神頼みではない、しいて言うなら自分自身を鼓舞するためのもの。
もう既に間に合ってないのだ。それほどたくさんの人が『殺される』という形で自由を奪われた。いつも通りの明日が来ないようにされた。
でもまだ、やれることはあるはずだ。エンジンのかかりが遅く、危機感が薄く、甘い俺自身でも、まだ。
だから。
間に合え、俺。俺たち。 
「……マスター、付いて来れる? というのは――」
「もちろん」
リャンの問いに、俺は活力煙の灰を落としながら答える。
「魔物の殲滅。一匹残らず、殺しつくす」
ピン、と緊張の糸が張り詰める。
「王都中の魔物を殺しつくして、この街を元に――は戻せなくとも、少なくとも明日を迎えられる状態にする」
俺の怒りが伝わったのか、それとも別の要因か。リャンが耳をピンと立て、シュリーが神妙な顔つきになる。
そのままたっぷり一秒程沈黙がその場を支配し、シュリーがそっと冬子の肩を抱く。
「その、キョースケさん。トーコさんが――」
「ん、分かってる。こんな惨状を見て精神をやられないなら逆に驚くよ。ただ……」
俺は彼女に近づき、顎を持ち上げて顔を上げさせる。彼女の瞳を見るために。
これでもし、目が死んでいたら無理は言えない。元の世界でも戦争に出て精神をやられた人がいたということも聞く。これ以上戦ってしまえばトラウマになりかねない。こういうのは根性がどうこうじゃないからね。
でも――
「いいの? 俺一人に任せて。好き放題やっちゃうよ?」
――俺は知ってる。冬子は割と負けず嫌い。
そして、自惚れだろうけど……このくらいのショックなら、『俺』に煽られたら乗ってくる。『俺』に励まされたら頑張る。その程度には、信頼関係を築けてる。
今は頑張って欲しくない。向かって来て欲しい。だから、煽る。
甘えだろう、自惚れだろう、でもそれでいいというのは分かる。伊達に半年以上シェアハウスしてないさ。 
「……京助」
冬子は俺の渡した水筒をグイっと一気に飲み干すと、雫を一つ二つとって目元にこすりつけた。涙の跡のように。
突然のことにキョトンとしていると、冬子はしなを作って俺の腕を掴んで――漫画とかなら「きゃるんっ」とか「しゃららぁ~ん」みたいな擬音がつきそうな笑顔を浮かべた。
「心配、したんだぞっ? 魔族と一人で戦いに行っちゃうなんてっ」
ぎょっとする俺に構わず、冬子はひしっと抱き着いて更に目元に涙をくっつける。
「えっ、と、冬子、えっ?」
「もうっ、京助はいっつも一人で戦っちゃうんだからっ。心配するこっちの身にもなってよねっ! ぷんぷん」
語尾の全てに音符か星がついているんじゃないかというほど弾んだ声。つんっ、と俺の額をつく冬子に、俺は……。
「ごめん……冬子……まさかそこまで精神的な負担がかかっていたなんて……っ!」
ひしっ、と彼女を抱きしめる。
そして同時にシュリーとリャンも一緒に冬子に抱き着いた。
「うう……トーコさん、そこまで思いつめていたなんて……っ!」
「ヨホホ……やっぱりワタシがお姉ちゃんになるデス! さぁ、甘えるデス!」
「冬子……うん、一度休憩しよう。大丈夫、絶対に暴走しないから!」
「冗談とマジの区別もつかないのかーっ!」
三人に抱きしめられて身動きが取れなくなった冬子が叫ぶが、俺は彼女の頭を優しくなでる。
「大丈夫、俺は二度と冬子が傷つかないように守って見せるから」
「というか今私は汗かいてるからそんなに抱きしめられるとだな、その……」
「大丈夫、いつも通り」
「それはいつも私が汗臭いということか!?」
「ああ、確かにマスターと一緒に鍛錬した後すぐにシャワーに行きませんもんね、トーコさん」
「入ってる! 捏造するな!」
「でもトーコさん、たまにキョースケさんの部屋に入ってキョースケさんの服を着たりしてるじゃないデスか」
「待って、それ今関係ない! っていうか何で知ってるんですかリューさん!」
「えっ、なんでそんなことしてるの冬子」
「普通そこは聞いてないフリだろ京助!」
俺たちは冬子を解放し、二ッと笑う。
「あのタイミングでああなったらマジかと思っちゃうでしょ」
「お前は私をなんだと思ってるんだ」
「背中を預けるに足る人」
「んふっ。……んっんー。私は誤魔化されないからな?」
皆に抱きしめられて苦しかったからか、真っ赤になった顔で咳払いをする冬子。背後でリャンとシュリーが「チョロいですね」、「ヨホホ、チョロいデス」とか言っているけど無視。
冬子にタオルを渡すと、彼女はそれで顔を拭ってから……いつもの笑顔を見せてくれる。頼りになる、青空のような笑顔で。
「置いてかれるのはごめんだが――好き放題やるお前を止めるのも私の仕事だからな!」 
――うん、冬子はやっぱり笑っている方がいい。
得意げな顔を見せる冬子に俺は拳を突き出す。彼女もそれに拳を合わせ、そしてグッと手と手を合わせて握り合う。
「もう大丈夫だ。心配かけたな」
「OK、リャンとシュリーは?」
「私はマスターが来いと言えばどこまでもついていきます」
「ヨホホ、キョースケさんは危なっかしいデスからね。ちゃんとついていくデスよ」
三人とも、さっきまでの重苦しい雰囲気が取り払われて力強い顔になる。うん、流石は俺のチーム。いつだって頼もしい。
俺は活力煙の煙を吸い込み、槍の石突を地面に挿す。
「ところで京助、魔物を一掃する……と言っていたが、考えはあるんだろうな?」
「もちろん」
そしてそのためには――
「まず、キアラと合流しようか。出来れば加藤と……新井もいるといいかもしれない」
何をやるのか分からずキョトンとする三人を『筋斗雲』に乗せ、俺たちは空へ。一気に高度を上げると王都を一望できるが――
「酷い有様だな。……そうか、京助。お前はこれを見ていたのか既に」
「ん」
――街のいたるところで火事が起き、悲鳴がずっと聞こえてくる。地面を埋め尽くす――程ではないものの、街中まだ魔物だらけだ。
騎士やAG達が奮闘しているし、追加の魔物はもう無いはずなので後は減っていくだけだが、全ていなくなるまでの時間で一体何人が明日の自由を奪われるのか。
考えるだけで腸が煮えくり返る。
俺は吸っていた活力煙を燃やし尽くし、次のそれを咥えて火をつける。
「ふぅ~……。あれ、この魔力……新井と阿辺だね」
王都の端の方、俺たちが向かおうとしていた方角とは反対方向で魔力を感じる。片方は以前とは見違えるほど強く、鋭くなっており――もう片方は以前とはまるで違う禍々しさに包まれている。
はて、何故あの二人が王都の端にいるのだろうか。
「魔物狩りでもやってるのかな。だとしても王都の端はちょっと効率が悪い気もするけど」
「どうする? 先に合流するか?」
「それがいいかも」
俺は『筋斗雲』を方向転換させて彼女らのところへ向かう。今は魔法師が一人でも欲しいところだ、異世界人なんていうチーターを逃す手は無い。
「マスター、そのアライさんという方は何者なんですか?」
「ヨホホ、あとカトーさんという方も連れていきたいと言っていたデスね」
二人の疑問に、俺ではなく冬子が答える。
「新井は氷結者という魔法師だ。リューさんとは正反対……氷の魔法を操る。一方で加藤は賢者、キアラさん程ではないがオールマイティに魔法を使える。二人とも実力は申し分無いぞ」
「ふむ……氷魔法とは珍しいデスね。少なくともアンタレスの魔法師ギルドにはいませんデスし、ワタシも数える程しか会ったこと無いデス。それも殆ど研究者で、実戦級ともなると一人か二人しか思い浮かばないデスね」
「へぇ。そうだったんだ」
でも言われてみれば、俺も新井以外知らない。というか地水火風以外の魔法って滅多に見ないな。
「ヨホホ、氷は水の発展属性デスからね。その属性を持っていて『職スキル』の補助が無いと実戦投入なんて怖くて出来ないデス」
発展属性という気になる単語は拾ったが、今はそんなこと話してる場合じゃないね。
どうも下で……新井と阿辺が喧嘩しているみたいだから。
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「はははははははあ!!! どうした、どうしたどうしたァ! プッツンおっぱい! その程度かァ!?」
――強い。
実際に戦って初めて分かる強さ。結界魔法という厄介で無茶苦茶な魔法。
「……『詠唱短縮』。『地を満たせ。グレイシアフィールド』!」
新井が唱えると同時に、地面に氷が広がる。城で習った魔法師としての戦い方の基礎の一つ、有利な土地を作ること。
地面を凍らせれば相手は動きを制限されるがブーツにブレードがついている新井は逆に機動力が上がる。更に様々な魔法をこの氷を通じて使えば魔力消費も詠唱時間も抑えることが出来るのだ。
故にこうして本来ならば簡単に張らせることはしないのだが――
(……やっ、ぱり)
コテン、と首を横に倒す。阿辺は一切頓着していない。新井がこうして場づくりをしている間も結界弾を撃ち出してくる。
「……めん、どう。『詠唱破棄』、『アイスブレード』」
地面の氷から大量の氷の刃が生み出され、超高速且つ一本一本が異なる軌道で阿辺に向かって撃ち出される。
装甲車だろうと五秒あればミンチに出来る新井の氷魔法。追尾するので回避も不可、威力も速度も一級のそれが――あっさりと、阿辺の結界に阻まれる。
「……ダメージ、無い、わけじゃ……な、い?」
阿辺の結界も無尽蔵な耐久力というわけでは無いのだが、壊れる寸前にすぐ新しいモノに張り替えているため突破できる気配が無い。
「あァ? ハハハァッ! 何かしたかァ、プッツンおっぱい! テメェはホントおっぱいしか取り柄がねェなァ!!!! ハハハッハッハハハァッ!」
「……ほんと、キモイ……」
更に氷のフィールドから槍を生み出す。本来であれば近づいてベルゲルミルと新井本人が氷の剣を持って斬りかかりたいところなのだが――
(……あの、結界)
――彼の纏っている三重の結界。これがかなり厄介だ。もっとも外側にあるものは魔法を遮断する結界。物理攻撃は素通りする代わりに、魔法に対してはかなりの強固さを誇る。そして一つ内側にあるのは逆に物理だけ遮断する結界。そして最も内側にあるのは彼自身の攻撃力や防御力、その他諸々のステータスを引き上げるバフ結界。
結界に限れば防御も攻撃もバフもお手の物なのだから、本当に厄介極まりない能力だ。
(はっきり、言って――)
阿辺を殺すだけなら簡単だ。あの結界の強度は何となくわかってきた、中身ごと殺すための攻撃をすれば一瞬で突き破れる。
恐らくそうすれば強大な結界を張って耐えてくるのだろうが――壊れるまでそのレベルの魔法を連発すればいい。幸いこちらには温水先生印の魔力回復薬もあるし、そもそもの魔力量は新井が上。
……とはいえ、いくらおっぱい魔人のゲスの極み醜男で『巨乳処女じゃなきゃ自分に抱かれる価値が無い。中古とか吐き気がする』とか言ってメイドさんに迷惑をかけて挙句のはてに自分を誘拐しようとしている外道と言えど、元はクラスメイトだ。腕が二、三本無くなるだけならまだしも殺したくはない。
となれば無力化せねばならないのだが、そうなってくると難易度が上がる。強力な魔法を使い魔物を殺すことには慣れているが、対人経験はまだ数えるほどしかないのだ。
「む、ぅ……手加減、難しい……っ」
吹雪を発生させて目くらまし。さらにそれに混ぜるようにして小さく細かい氷の礫で牽制する。
「くっくっく……ハァッハァッハッハッハァァァ!!! 弱ェ、弱ェ!」
ごっ! といきなり結界弾の速度が上がった。咄嗟にベルゲルミルで受けてしまい、その剣が結界にとらわれ破壊されてしまった。
この超小型ブラックホールのような結界は盾や剣で受けるとそれを内部に取り込み破壊してしまうという見た目以上に強力な代物。
今までは何とか回避でやり過ごしていたが――そろそろ限界が近い。ベルゲルミルの剣は地面の氷で補充出来るが、相手が連打してくれば受けが成立しなくなる。
「『詠唱破棄』、『フローズンブレード』。『詠唱短縮』、『貫け、フローズンランス』。『詠唱破棄』、『アイスバレット』」
氷原に大量の剣が突き立てられ、空中に氷の槍と氷の弾丸が出現する。氷の剣はベルゲルミルが拾って敵の攻撃を防ぐためのものだが、フローズンランスはあの結界を崩すため。
魔法遮断結界によって防がれるフローズンランスだが、一発目が当たったところにもう一発、さらにもう一発とただひたすら攻撃を当て続ける。
「雨だれ、石を……穿つ。あはっ」
「あん? 何を言って――」
ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン、ズン!!!
「あぁ? ……チッ、マジかおい」
十五発目。阿辺が気づくのとほぼ同時に結界が破壊される。しかし一つでも穴が空けば問題ない。阿辺を気絶させるための攻撃は撃ち込める。
結界に空いた穴に滑り込む氷の弾丸。その一撃が阿辺の頭を捉え――
「仕方ねェ」
――る、寸前に『ナニカ』の力が働いて防がれてしまった。
阿辺が何かつぶやいてアイテムボックスからとある杖を出す。その瞬間、新井の背に言いようのない悪寒が走った。
理由はない、ただ直感がそう叫んでいる。今、何かマズいものを取り出されたと――
「くくくっ、あっはっはっはっはぁぁぁ!」
高笑いする阿辺。新井は直感に従い最大の魔法を用意するため、『詠唱破棄』を使って氷の結界を張る。
クラスメイトとかなんとか言っている場合じゃない、ここで殺らないと自分が殺られる。そんな強迫観念に近い何かに突き動かされ、詠唱を始める。
「『凍える風よ、大海をも飲み込む凍てつく牙よ。我が命に従い、此の世に永遠の氷結を顕現させよ!』」
一方の阿辺は瞳孔を開き、まるで薬物でもキメているような顔になり天を仰ぐ。
「ああ、ああ……プッツンおっぱい。テメェは生きたまんま奴隷にしてやろォと思ってたけど仕方ねェ……! アイツらならゾンビにして使役する術くらい使えんだろォ……?」
さっきとは別の意味でゾワリと背筋に鳥肌が立つ。アレの奴隷なんて死んでもごめんだ。
氷が渦巻き、魔力が新井の周囲で膨れ上がっていく。一方の阿辺は禍々しくどす黒いオーラを纏い、紫色の光を杖へと集めていく。
「『エターナルフォースブリザード』」
「『奇々怪々常夜幽遊怨』!」
この冷気はきっと新井の魔法によるものだけではないのだろう。阿辺の結界の中から魑魅魍魎のような、得体のしれない異様な『ナニカ』が真っ黒なオーラを纏ってこちらへ襲いかかってくる。
途轍もない魔力が大気を震わせる。否、大気だけでなく地面すら揺れている。
圧倒的な力の奔流。
二人の間にある空間が弾け、暴力の嵐が吹き荒れると思われたその瞬間――
「ねぇ、なんで喧嘩してるの?」
――轟!
「えっ?」
「はっ?」
二人の魔法は、その射線上にあるものすべてを消し飛ばすはずだった。そしてそれらが激突すれば、お互いが無傷で済まない――否、互いに相手を殺すつもりで撃ったのだ。どちらかが致命傷を受けていてもおかしくはなかった。
それが、何故か。
何も起きていない。何も破壊されていない、二人とも無傷。
そして更に驚くべきことに――その爆心地となるはずだった場所に一人の少年、いや青年が立っているのだ。
その青年は槍を携え、頭に角を生やし、暴風をその身に纏っている。口もとは笑みの形になっているが、それに反して目つきは鋭く全てを見透かすよう。
目の奥には怒りと焦りが浮かんでおり、気が急いているであろうことが見てとれる。
(ああ、ああ……っ!)
来てくれた。
来てくれた、来てくれた来てくれた来てくれた!
自分を救けに来てくれたんだ!
「テンメェ……清田ァァァァァァァァ! 邪魔してんじゃねェぞ!?」
清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君清田君!!!!!!!!!
(あぁぁぁ……っ、ああっ!)
清田君が、来てくれた。
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