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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

195話 機械と再会と剣

「ど、どうしたんですか? 外に来るなんて」


 風に髪をなびかせ、スカートを抑えつつシャンが尋ねる。


「調子に乗った坊やから危ない玩具を取り上げようと思ってな。……二人とも、少し下がってろ。ああ、それくらいでいい」


 ニヤッと笑ってアイテムボックスからあるものを取り出す。いや、取り出すというには少々これは大きすぎるか。
 召喚する――と言うべきかもしれない。


「え……」


「こ、これは……!?」


 驚きに目を見開く二人。今まで秘密裏に開発してきてよかった。
 志村は高らかに宣言する。
 自分の――最終兵器の名前を。


「こ、これは……!?」


「な、なんですのコレ! 超超超超カッコいいですの!」


 志村が召喚したそれを見上げながら二人が目を輝かせる。この二人は志村の発明品にいちいち素晴らしい反応を返してくれるから驚かせがいがあるというものだ。


「ああ。だろ? これはオレの最終兵器にして――対Sランク魔物決戦兵器! その名も『ヴェスディアンカー』!」


 座った状態で出てきたためそうは見えないが、全高は25mもある。
 やや足がどっしりとしており、上半身に比べるとまるでスカートのようになっている。二足歩行ロボットだが、足の裏が小さすぎると自立させるのが難しかったのでこうなった。なるべくカッコよくしたかったのだがアーマーの都合もあり全体的に丸いシルエットになってしまっているのはご愛敬だ。
 全体的に黒を基調としており、そこにオレンジ色のラインが入っている。頭部にあるメインカメラは拘りの三眼。背部、脚部にも小型カメラがありレーダーが無いかわり三百六十度視認することが出来る。
 腕は足に比べるとやや細く見えるかもしれないが、右腕の前腕部にはパイルバンカーがついており、さらに両肩と手の内側にバルカンがついているため決して頼りない印象は受けない。
 胸部のプロテクターには大きく黄色い三日月が描かれており、夜闇に映える。 


「さぁ、乗り込んでくれ」


 腹部にあるコックピットを開き、飛んでその中に三人で入る。


「ひゃぁあああ……す、凄いですの……心が震えるですの!」


「ナイトさんとはまた違ったカッコよさ……胸が熱くなりますね」


 コックピット内部をきょろきょろ見回す二人。最初から三人乗りを想定しているので、椅子は三脚ある。


「マールは左、シャンは右だ」


「決まっているんですの?」


「ああ。二人にも役目がある」


 本当は志村一人で運用出来るようにしているのだが……二人が手伝ってくれるならだいぶ楽になるので甘えさせてもらう。
 二人がシートベルトをしている間に計器を確認。各部分何も異常無し。


「行くぞ……ヴェスディアンカー、起動!」


「「ヴェスディアンカー、起動 (ですの)!!」」


 ヴゥゥゥン。
 モニターに外の景色が映し出され、映っている位置が上がっていく。ヴェスディアンカーが立ち上がっている証拠だ。
 軽く動かしてみるが、どこも問題なく動く。これなら――魔物どもを一掃できる。


「さぁ、掃除の時間だ! シャン! 赤と青のボタン、そして一番と書かれているボタンを押した後、『ビーバトラー1号、出動』と叫んでくれ!」


「了解です! ビーバトラー1号、出動!」


 瞬間、プシューっという蒸気が噴出するような音とともに黄色い鷲型のロボットがヴェスディアンカーの頭上に現れる。全体的に鋭角なデザインで、モノアイと翼部分についているガトリングがオシャレポイントだ。
 ビーバトラー1号は翼と胴体の部分に別れ、胴体部分がジェットに変形し腰部分に装着される。さらに背部には翼がウィングになって合体。


「コンバイン完了! 『フライングヴェスディアンカー』!」


「変形合体ですの! 変形合体ですの!」


 マールがテンションを爆上げしてぴょんぴょんと跳ねる。普段であればはしたないと怒るところだが、今日は大目に見よう。
 エンジンレバーを掴み、倒す。


「行くぞ……ヴェスディアンカー、発進!」


「「ヴェスディアンカー、発進 (ですの)!!」」


 ギュイイイイイイイイン!
 背中のブースターが物凄い音を立てて炎を噴出する。そしてドッ! とヴェスディアンカーが空へと飛び立った。
 魔物が跋扈する、戦場の空へ!


「ミリオ……行きまーす!」


 死ぬまでに一度は言ってみたい名台詞、第二位(志村調べ)のセリフを叫びながら鋼鉄の巨人が空を駆ける。


「俺たちは……強い!」


「ですの!」


「です!」




 前線へ突き進む三人は。
 死の恐怖など微塵も無く、全力の信頼を持って突き進む。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「はぁっ!」


 斬!
 天川の一撃が結界ごと杭を吹き飛ばす。それと同時に前回同様どこからともなく魔物が現れた。


「ぐげげ! 勇者だ! 当たりだぜ!」


 右腕が船の碇のようになった蛙顔の二足歩行の魔物。確かアンカートロール。喋ったところからして中身は魔族なのだろう。


「喰らえ!」


 ズドッ、と右腕からアンカーが射出された。天川は射出されたアンカーの鎖部分を左手で掴む。


「なっ……!?」


「それっ!」


 力任せにアンカーを引っ張る。アンカートロールの一本釣りだ。
 ぶわっ……と宙に浮かぶアンカートロール。眼前に迫ってくるそれに対し、右手の剣を振りかぶる。


「う、うおおお!?!?」


「ハァッ!」


 ズバァァァァァン……!
 縦に真っ二つとなり、アンカーのみを残して溶けて消えるアンカートロール。剣を振り、血を飛ばしてから結界が無くなった杭に近づく。


「これで最後か? 難波」


「おう、少なくとも俺が知ってる限りはな。……これで結界が全部消えると思うか?」


「分からない。分からないが……やらないよりはマシだ。ダメなら次の手を考えよう」


 とにかく今は出来ることを。
 天川は剣を振りかぶり、目の前の杭に向かって振り降ろす。ズバッ! と唐竹割に両断され、左右に倒れた。


「これで全て破壊出来たが……」


 上空を見る。そこではいまだに結界が夜空を覆い隠してしまっている。


「一応、やっておくか。難波、離れてろ」


「おー……いやいや、マジ?」


「マジだ。はぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!」


 エネルギーを集中。
 叫びと同時に『飛斬撃』を空に向かって発射した。
 ドッッッッッッッッ!!!!!!
 とんでもない轟音。巻き添えを喰らった魔物たちが悲鳴すら上げることなく消し飛んでしまう。
 しかしそれでも、傷一つついていない。杭を破壊したからといって結界の強度が落ちているとかそういうわけでも無いらしい。
 舌打ちを一つ。状況が打開出来ない。


「クソ……他に何か手掛かりは……」


「やっぱあの魔族どもを倒すしかねえのかな」


 最初にいた魔族。確か……ブリーダだったか。あいつを倒さねば結界が解けないとかそういうことなのだろうか。
 しかし、この王都の中……一体どこにいったのか。見当もつかない。
 今夜中に勇者を差し出せと、あの魔族は言っていた。つまり明日の朝にはもう一度現れるということだろうか。


「考えてもらちが明かない。一旦、城に戻って――っと、魔物か」


 いつの間にか囲まれていた。数も質も大したことはないが、煩わしいことこの上ない。
 それでも……自分たちに向かってくるということは、その分非戦闘員の方へは行かないということだ。それはありがたい。


「難波、コイツらを蹴散らしてから戻ろう」


「合点だ」


 お互い剣を構え、魔物たちを見据える。
 そこでふと、違和感を覚えた。そうは言ってもだいぶ魔物を殺してきたはずだ。
 それなのに……こうも魔物たちの数が減った気がしないのは何故だろう。


「まさか……魔物が追加されているのか?」


「流石にそれは……いやでも、どうやってだよ」


「分からない。だが……こうも減らないとなるとその可能性が考えられる。やっぱりヘリアラスさんたちに相談すべきだろうな」


 こんな時にラノールがいれば。
 無いものねだりをしていても仕方が無いことは分かっているが、それでもついつい考えてしまう。


「取りあえずこいつらを――って、おい天川。飛んで火にいる夏の虫ってやつみたいだぜ」


 難波がニヤリと笑って指をさす。
 そちらは王都の中心部――昼間、魔族がいきなり現れたところだ。
 突然現れて王都を戦禍の渦に叩きこんだ憎き魔族、それが今再び、王都の中心部で現れている。


「好都合、だな」


「おおーう。じゃ、こいつら任せて行ってこい」


「ああ」


 その場の魔物の掃討を難波に任せ、天川は走り出す。
 あの魔族を倒せば打開策が見つかるかもしれない。そうでなくとも、相手の戦力を削れる。


(ヘリアラスさんと合流してから向かうべきか? ……いや)


 魔物だって脅威なのだ。今は戦力が仮に分散するとしても、彼女は城に残しておくべきだろう。
 確実性の問題だ、彼女が城を守らなければ安全圏を確保できない。つまり、仮に自分が倒された時の回復の場所が失われるかもしれない。
 それならば――一人で突っ込むべきだろう。


「派手な戦いになれば、ナイトメアバレットが助けに来てくれるかもしれないしな」


 口内で笑い、加速する。
 決着は近い。




 そんな天川を見送り、難波は魔物たちを相手取っていた。相手は軒並みBランク以下の魔物たち。そう苦戦することなく相手が出来るだろう。
 それに意思も感情も感じられない。恐らく、魔族は一体も混ざっていないのだろう。


「うらっ……っとと、カートリッジ使い過ぎちゃいけねえな」


 カシュン、とフェイタルブレードを起動。毒が巡る様を見ながら魔物たちに正対する。


「そんじゃ、一瞬で終わらせて天川と合流しなくちゃなぁ!」


 叫び、魔物の一体に斬りかかろうとした瞬間だった。
 ぐしゃり。
 全ての魔物が圧殺され、自分も地面にたたきつけられる。


「がっ……!?」


 まるで重力が何十倍にもなったかのようで、立ち上がろうにも立ち上がることが出来ない。
 何とか首を持ち上げ、やっと自分が何らかの結界内に入れられたことに気づいた。


(新手、か……ッ!?)


 ギリィッ、奥歯を噛みしめ地面に手を着く。無様な格好になるが仕方が無い、立ち上がらなければ死んでしまう。
 重力に逆らうようにして、上体を起こしやっと膝立ちの状態になる。
 その状態にまでなってやっと気づいた。目の前に人影があったことを――


「お前……」


「よォ、難波ァ……」


 会いたいようで会いたくない。
 そんな、微妙な再会だった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「うおおおおおおおおおお!」


 ワイバーンに向けてバルカンを発射して翼を撃ち抜く。さらに噛みつこうとしてきたウィングラビットをパイルバンカーで粉砕。


「――ッ、ミリオ! 右後方に敵ですの! 意思がやや複雑、魔族の可能性ありですの!」


「了解! シャン! バルカンで前方の敵は任せた!」


「了解です!」


 右後方に振り向き、左手のロケットパンチを起動する。羽の生えたオーガはそれを受け止めようと両手を突き出すが、そんなガードを許さずドリルのように回転するロケットパンチが風穴を空けた。


「くそっ、キリが無い……!」


 空を飛ぶ魔物は多岐にわたるがその殆どが遠距離攻撃を持っている。ヴェスディアンカーのバルカンだけではジリ貧だ。
 別のビーバトラーを出せばいいのだが、エネルギーの消費が激しい。


(せめて新造神器ネクストを解析出来れば……)


 アレを動力源にすればもっとパワーを出せるだろうが、今は仕方が無い。
 ジリ貧、どれだけ掃討しても魔物の数が減らない。まるで蟲のようにどこからともなくわらわらと湧いてくる。
 一度に薙ぎ払える火力、それが欲しい。
 そんなモノを持つ化け物と言えば――


「マール、やっぱり無理か!」


「うう……つ、繋がらないですの!」


 ――SランクAG、清田京助だ。
 しかし電話がどうやっても繋がらない。結界のせいだろう。


「ナイトさん、あの空飛ぶ蜘蛛にバルカンが弾かれます!」


 シャンの焦った声。慌てて視界を彼女の担当する右方に戻すと、異様な大きさの蜘蛛がこちらに向かって来ていた。


「なら先にそっちを撃ち落とす――ってなんだあの大きさは!」


 背中からたくさんのトンボのような巨大な翼を生やした蜘蛛が、真っ白な弾丸をこちらに撃ち出してくる。
 急上昇してそれを回避し、きりもみ回転しながら巨大蜘蛛の上を取る。


「フライングスパイダーってところか……喰らえ! ロケット……」


「「パーンチ!!」」


 ドッ! 発射されたロケットパンチがフライングスパイダーに直撃する。しかしフライングスパイダーは糸で無理矢理ヴェスディアンカーの腕を絡み取ってしまった。


「クソッ……」


「こ、高度が下がってます!」


「ひゃぁああ! あの魔物、何か『オレオマエクウトモダチゴチソウ』とかずっと言ってるですの! 怖いですの!」


 がぱぁ……と大きな口を開けてヴェスディアンカーが落下してくるのを待っているフライングスパイダー。志村はバルカンを取りあえずやたらめったら乱射し、少しでも牽制する。
 大きな八つの目がギョロリとこちらを睨むが、負けじと三つのカメラをそっちに向けてやった。


「行くぞ……っ!」


 そのまま体勢を立て直し、逆に蜘蛛に突っ込んでいく。蜘蛛はこれ幸いと牙を剥くが――パイルバンカーの破壊力を舐めた選択だ。


「俺たちのパイルバンカーは全てを貫く!」


「ギガぁっ!! パイルぅっ!!」


「ブレイクゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 敵の発射した白い弾丸を背中のブースターキャノンで相殺。そのまま右手のパイルバンカーを巨大化させてフライングスパイダーの口内に叩きこんだ。
 その瞬間、ジャギィィィン! とパイルバンカーが伸長。脳天から肉体の全てを貫いた。


「よし!」


 ついでに死ぬまでに一度は言ってみたい台詞ランキング8位のセリフをパロディ出来た。


「さすがミリオですの!」


 マールが後ろから抱き着いてくるので、頭を撫でてやりつつ体勢を立て直し、一旦着陸する。
 エネルギーの残量を確認。まだいける。


「よし、まだいけるぞ。皆、大丈夫か」


 二人に振り向くと、マールは元気よく頷いてシャンは頼もしそうにほほ笑んだ。


「もちろんですの!」


「もちろんで……なっ、ナイトさん! あれを!」


「なんだ?」


 シャンの指さす方を振り向くと、そこには四人の魔族が。王都の中心部――最初に奴らが現れた場所と同じだ。


「とうとう出てきたか……」


 魔族を睨んだ後、チラリと後ろに乗る二人に目をやる。
 このまま雑魚の魔物を広域殲滅するのであればヴェスディアンカーに乗ったままの方がいいが、魔族と戦うなら降りて強化外骨格パワードスーツを纏った方がいい。


「ミリオ! 上方にワイバーンですの!」


「取りあえずそっちの対処が先か……っ!」


 どうすべきか――そう思案していると、ピリリと志村のケータイが鳴りだした。
 志村のケータイを鳴らせる人間はそう多くない。というか、二人しかいない。


「! ま、マール!」


「はいですの!」


 咄嗟にマールがそれを取ると、電話の向こうから『もしもし?』と怪訝そうな京助の声が。


「も、もしもしですの! 繋がったですの! やったですの!」


『あれ、マール姫? どうし――』


「大変ですの! 王都が襲われているですの!」


『なんだって? ……志村に変われる?』


「マール、下にある三角のマークがついているボタンを押してくれ」


「はいですの」


 マールにスピーカーモードにさせ、志村は京助に話しかける。


「もしもし、京助。オレだ。騒音で聞こえにくいから大きめに話してくれ」


『ああ、志村。ねぇ、王都が襲われてるってどういうこと?』


「言葉通りの意味だ。実はかくかくしかじかでな」


 空に飛びあがらず、取りあえず地面で魔物の掃討にいそしみながら説明する。京助は簡単な説明だが逼迫した状況を感じ取ったか『ん、なるほどね』と頷いた。


『それで?』


「依頼がある。頼めるか?」


 志村が問うと、電話の向こうから少し感心したような声が聞こえてくる。


『こっちは天下のSランクAG。依頼料は高いよ?』


 ちょっとだけ嬉しそうな声の京助。志村もノリを理解した上で彼に返す。


「友人割引は無いのか?」


『今度考えとく。で、内容と報酬は』


「王都の救済。報酬は――マールのアップルパイはどうだ? 絶品だ」


 志村の答えに、マールが「えっ、わたくしですの?」と目を丸くする。そして電話の向こうでは京助が爆笑していた。


『さいっこうだね。王女様の手作り料理とか、一生に一度味わえるかどうかだ』


「オレは毎週のように食べてるがな」


『OK、交渉成立だ』


 笑い声が止み、真剣な口調に変わった。


『すぐに行く』


「ああ、待ってる」


 会話はそこで途切れ、電話は切れた。
 しかしそれで十分、結界なんかすぐに飛び越えてやって来てくれることだろう。


「勝ったぞ……この戦い、我々の勝利だ」


 ついつい有名な死亡フラグを宣言してしまう。
 マールは手を叩いて喜び、シャンもホッとした表情で胸をなでおろす。


「SランクAGの増援が期待できるのは嬉しいですね」


 シャンがそう評すので、志村は「少し違うな」と首を振る。


「あいつがSランクAGだからオレたちの勝ちだって言ったわけじゃない」


 そう、強いだけならそうは言わない。
 信頼しているから、そう評せるのだ。


「あいつが、清田京助だからオレたちの勝ちなんだ」


 志村の信頼感を感じ取ったか、二人は目を見合わせると……グッとガッツポーズを握った。


「それじゃあ、魔族のところに行くか!」


「はいですの!」


「了解です!」


 再びヴェスディアンカーは飛び上がる。
 魔物が蔓延る空へ。確かな希望を胸に。

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