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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

169話 徹夜なう

「うらぁ!」


 ハンターの四人は大口叩くだけあって、なるほどいい腕をしている。索敵も仕留めるまでの速さも一級品だ。AGで言うならCランク以上、チームならBに届くかもしれない。


「右に回れ!」


「おう! 目は潰したぞ!」


「いいぞ!」


 キッチリ連携を取り、役割分担も動きもAGとはまた違う「プロ」って感じだ。最初はちょっと態度に思うところがあったけど、これはむしろ楽出来てラッキーくらいに考えた方がいいかもね。


「魔法も使っちゃいかんらしいからのぅ。いやぁ、仕事出来んで申し訳ないのぅ」


 うんうんと頷きながらニヤニヤするキアラ。


「嬉しそうだね、キアラ」


「いやぁ、残念ぢゃぁぁぁぁぁぁぁ痛いのぢゃぁ!」


 取り合えずウリウリとこめかみを攻撃していると、冬子がやれやれと横にやって来た。


「京助、キアラさんをあまり甘やかすな」


「トーコよ、お主はこの状況を見て甘やかされてると思うのかの?」


 あうあう言ってるキアラの鼻をつまみ、辺りを何となく見回す冬子。


「アレだな、普段も森の中でクエストとかしているわけだが……山の中というのは初めてだな」


「今日は戦闘しなくていいみたいだけどね」


 前衛のナマドが攻撃を受け、弓兵が牽制しつつ他の奴らが削っていく。魔法や範囲系の攻撃を使わずに処理していっているのは山に対して配慮しているからとのことだ。
 そしてAGが嫌われる所以はそこにあるんだと。


「確かにまあ、森に配慮して戦ったことは無いな」


「俺なんて地形変えてるのしょっちゅうだしね」


 絨毯爆撃で一面ボロボロにしたり、でっかい池を一つ作るハメになったこともある。言われてみれば環境への配慮は一切してない。


「ヨホホ、環境といいますか周囲の地形を考慮した戦いはしますデスが……」


「私たちが生き残ることが最優先ですからね。動植物に気を遣うことはありません」


 シュリーもリャンも同意する。山の恵み、森の恵みで生活していないから意識が違うんだろうね。


「エルフみたいだね」


「ああ、確かにイメージ的にはそんな感じだな」


 俺の呟きに冬子が同意する。森に住むエルフとかだとそういうことを言って外敵を嫌いそうだ。


「ハダルの街は昔から山に囲まれていたから農作物が作り辛かったのよ。それが原因なのでしょうね、やや閉鎖的でこうして山を貴ぶ感じは」


 オルランドが少し非難するような目を向けながらそんなことを言う。本人たちが嫌がっているのに押さえつけている……ってわけじゃなければ問題無いと思うんだけど。


「あのねぇ、貴方も昨日山菜料理を食べたでしょう? あの技術やその山菜も輸出すればかなりの儲けになるはずだわ。ハンターたちだってそう、山を傷つけない戦い方を極めた人間なんてそうはいないわ。弟子をとるなりしてその技術をちゃんと次代に継承すべきよ」


 後継者問題……とか、ハンターにもあるんだろうか。
 でも山菜のことなんかは商人のオルランドにとって譲れない部分なのかもしれない。


「領主にも言われたのよ、年々人口と領地の収益が減ってるって。今はまだ目に見えた問題は起きてないようだけど、時間の問題ね」


「なるほどねぇ……。根の深い問題だ」


「正直、妾達の管轄では無いのぅ」


 キアラがこめかみを抑えながらため息をつく。


「いいの? 管轄外で」


 言外に「枝神が関せずでいいのか?」と込めて尋ねると、キアラはやれやれと首を振った。


「良い。この土地は最終的に放棄されても構わぬし――チームとしても、仕事の一つではないからのぅ」


 相変わらずドライな神様だ。……とはいえ、AGの仕事じゃないのも確かだけど。


「ティアールはホテルで進出してたけど……」


「あれは公共事業に少し噛んだだけに過ぎん。厳密には私が支配人ではないからな。コネがあったから無理を通させてもらっただけだ」


 そうだったのか、てっきりあのホテルはティアール商会の一部かと。
 とはいえ彼も思うところが無いではないのか、少しだけ眉間にしわを寄せる。


「もう少し開けばいい、とは私も思うよ」


「商人ってのも大変だね」


 なんて俺が呟くと、ふと別のことに思い至る。


「そういえば、総勢……えっと、十六名に対してハンター四人って少なくない? 俺たちを頭数に入れてるわけじゃないんでしょ?」


 ハンターを手配したオルランドに尋ねると、彼は少しだけあくどい笑みを浮かべた。


「何事もない方がいいんだけどね。でも、問題点を浮き彫りにしやすいかと思ったのよ」


「問題点……ね」


 オルランドはお互いが満足する取引しかしない人間だ。誰かが悲しむ行動はとらないだろうという信頼はある。
 それにいくら仮に不況を買う事になろうとも、皆を守るためなら力を使うつもりだからハンターの人数が少なくても問題ないか。
 なんて俺たちが話していると、ギルマスが渋い顔をして俺の背を叩いた。


「ええか、あんま暴れたらあかんぞ」


「……ギルマスは俺をなんだと思ってるのさ」


「問題児やろ」


 的確に言われる。まあ領主の件とかを言われると否定出来ない。ギルマスは渋い顔のまま、肩をすくめる。


「良くも悪くも、お前は規格外やからな。向こうの提示したルールは守れよ」


 最後の台詞を少しだけ強めに言うギルマス。さっきまでの渋い顔でなく、少しワクワクした顔に見える。


「武器を使うな、魔法は使うな、戦闘は任せろ……そう言っとったやろ。せやから、魔法も武器も使ったらあかん」


 そこまでギルマスが言った時、ハンターの四人が顔つきを変えて前に走っていった。


「人食いだ! こんな時に!」


「ぐるうる……」


 デカい。昨日みたクマよりさらにデカい……昔、図鑑で見たナマケモノの始祖であるメガテリウムよりさらに大きい。見た目はクマだけど、十数メートルはあるそれが二足歩行で威嚇している姿はもはや怪獣。


「Bランクはありそうだね」


 そんな奴に四人で向かっていくハンターたち。さてどうなることやら。


「どっちが勝つと思う?」


「……多めに見積もって五分かな」


 冬子の台詞に俺が答える。


「妾は人食いに一票ぢゃな、アレは分が悪かろう」


「ヨホホ、いつでも飛び出せるように準備しておいた方が良いのではデス?」


「ん……そう、だね」


 彼らのことが嫌いなわけではないが、やられる前に手を出すのは少し違うだろう。俺の仲間たちが危険に晒されるならともかく。
 ただ……そもそもオルランドたちを護衛するのが俺たちの仕事だ。援護してアレを倒すのが仕事の一つだろう。
 それに、冬子がもう飛び込みたそうにうずうずしてるし。
 どうしたものかと悩んでいると、ささっと隣にやってきたリャンが耳打ちしてきた。


「――マスター、後ろから猛獣です。二体」


「……このタイミングで?」


 普段からこんな風に襲いかかってくるなら、どう足掻いてもハンターの数が足りないだろう。
 気配を探る、人食いほどじゃないだろうけどそれなりの強さだ。少なくとも、人食いにかかりきりになっている彼らがどうこうできるレベルじゃない。


「最近、ハンターの死亡事故も増えているらしいわ。徐々に猛獣が強くなっているらしいの」


 オルランドの解説、いやそんなことのんびり言ってる場合じゃないよね。
 俺はため息をついて、がしがしと頭をかく。


「活力煙吸いたい」


「現実逃避しないでください、マスター」


 そうだね。
 ……仕方がない。
 俺が皆に指示を出そうとした瞬間、左右から猛獣が襲ってきた。
 右から来た一体はトリケラトプスのような猛獣で、もう一体は巨大なタカ。猛獣っていうか、恐竜……?


「なっ……トリーケンとホクホーク……! こんな時に、ぐぅっ!」


 前衛のナマドがホクホークとトリケラの出現に驚き、盾を飛ばされてしまった。これでは一気に均衡が崩れ、ハンターたちは崩壊する。
 一刻の猶予もなくなったとき、ギルマスがぽつりと呟いた。


「一発だけなら手伝ったるで、キョースケ」


「……ごめん、ありがとう。ギルマス! 右の奴を、リャン、冬子! 飛んでる奴を撃ち落とせ!」


「京助は!?」


「俺はナマドたちの手助け。さあ行くよ、皆素手でね!」


「「「おう(はい)!」」」


 全員がその場をロケットのように飛び出す。ギルマスは青いオーラを纏い、拳の一撃でトリケラを絶命させる。
 冬子はリャンの組んだ手を足場にして跳躍し、回転しながら綺麗な踵落としを決める。ゴッ! と凄い音がしてホクホークを地面にたたき落とした。
 そして俺は今まさに爪で貫かれそうになっていたナマドの前に躍り出ると、爪を受け止めて膝をたたき込んで腕をへし折る。


「ぐららぅ!」


「なっ……!?」


「早く武器を拾いなよ。じゃなきゃ俺が倒しちゃうよ?」


 驚愕しているナマドを後目に人食いまで距離をつめ、ボディに拳をたたき込む。「く」の字に折れ曲がることで下がったクマの顎にアッパーをぶちかます。


「ぐぇえぇぁぁ」


 情けない声をあげてひっくり返る人食い。なるほど、魔物じゃないから脳や内臓への攻撃がちゃんと弱点になるわけか。


「武器を使うな、魔法を使うな、戦闘は任せろ……って言われたけど、守っちゃいけないとは言われてないからね」


 ニヤリと笑いながら振り返ると、ナマドたちは信じられないものを見るような目になる。
 もしかしてクマが起きあがってきたかと思って確認するけど、特にそういうわけでもない。ならば何故こんな目を向けられているのか。
 ナマドはポカンと口を開けてわなわなと俺を指さす。


「お、お前……何者なんだ?」


 久しぶりに聞かれたね、こういうテンションで。
 俺は肩をすくめて、何でもないように口を開く。


「俺はキョースケ・キヨタ。はぐれの救世主さ」


 槍がないと格好つかないな、なんて思いながらクマに振り返る。
 やや回復したのか震えながら立ち上がろうとするそいつに正対し、構えた。


「さて、素手で猛獣と戦うのは初めてだけど……人食い」


 背後でナマドたちが武器を構えているのを察し、冬子がスタッと隣に現れて構えたのを見てからニヤリと笑う。


「――俺の経験値になってくれよ?」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 夜、たき火の番をしながら活力煙を吹かす。地上にいる時よりも星が近く見える……気がする。実際はほとんど変わらないんだろうけど。


「あー……その、昼間は助かった」


 ナマドが隣に来て頭を下げる。それが意外だった俺はちょっとだけ呆けた後ひらひらと手を振った。


「ん、まあAGだからね。俺の依頼人であるオルランドたちを守るためさ」


「……そうか。あの人食いは最近ちょっと問題になっていてな。オレたちハンターも手を焼いてたんだ」


 たき火に枯れ木を投げ込むと、ぼっと火が盛る。野営も久しぶりだ。


「そいつを素手でのしちまうなんてな……AGにも、すげえ奴はいるんだな。あんた、ランクは?」


「今はA。二~三日後にSに認定される予定」


「えっ、ほ、ホントにSだったのか……」


 目をまん丸に見開くナマド。オルランド辺りから俺のランクを聞いていたけど、信じてなかったってところかな。


「だから四人でいいってあの貴族様は言ってたのか……」


「普通はもっといるよね」


 俺の問いにナマドは頷こうとして、「いや……」と気まずそうに首を振った。


「増えても二人くらいだろうな、人手が足りてないんだ」


 遠い目をするナマド。その視線の先には彼が守っている山の風景が。


「時代の流れかね、ハンターになりてぇって若手がそんなにいねえんだよ。いや、いるのはいるんだが……」


「一人前になる前に死ぬ、そしてその理由はさっきの人食いみたいな強力な猛獣、ってとこ?」


 俺の推論に、ナマドは苦笑する。ハンターもAGも、結局若手が育ちにくいっていう問題は同じらしい。
 もっともAGの場合は、そもそもランクの低い魔物が多い地域で修行するなどして時間はかかっても力を蓄えられるわけだが……。


「オルランドが言ってたよ、この街はもっと外に目を向けた方がいいって」


「……そういう時代なのかもな」


 残念そうな顔になるナマド。見た目年齢はマルキムとそう変わらないように見えていたけど、今はもっと老け込んで見える。


(…………)


 山は静かだ。森で野営した時もそりゃ静かだったんだけど、何となく更に静けさを感じる。焚火の音だけが耳に届く。


「……そろそろ交代の時間だ。あんたも寝たらどうだ」


「静かな夜は返って目が冴えてね。今日はコイツと一晩明かすよ」


 そう言って活力煙の箱を振ると、彼は一言「そうか」とだけ言って別のハンターと交代しに行った。
 明日は山を下りたところで小さな村に寄り、再び馬車を調達してそのまま夕方ごろにシリウスに到着する予定だ。
 馬車の中で二時間くらい仮眠をとれば、今夜寝なくても問題ないだろう。


「ふぅ~……」


 ぷかっ、と輪っかにして煙を吐く。
 普段よりゆらゆらと残る煙を見て、俺はほんの少し口角をあげた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「京助のコレはいつものことだが……」


「ほっほっほ、コレだけは梃子でも動かぬからのぅ」


 目を赤くしている俺に呆れる冬子とキアラ。野営する時、仲間たち以外がいる時は必ず俺が徹夜する……というのだけは譲れない。
 彼女らの実力を疑っているわけじゃないが……心配が勝るんだよね。


「山を抜けるまで後一時間ってところだ」


「ん、了解」


 ちなみに俺は槍を構え、彼らと普通に周囲の警戒を行っている。魔法やスキルは山への被害が出るから依然禁止だけど、それ以外で手伝って欲しいとの依頼だったのだ。
 というわけで俺と冬子とリャンは普通にAGとして警戒している。


「マスター、右方向三十メートル先に猛獣です」


「らしいけど、ナマドどうする?」


「その嬢ちゃんの索敵範囲はどうなってるんだよ……まず、オレたちが確認してくる。その間こちらの警護を頼む」


 昨日よりも刺々しさが無くなったナマドの指示に従い、彼らが討伐するまでこちらで待機しておく。


「ねぇ、オルランド」


「どうしたの? キョースケ」


 肩をすくめて、オルランドに尋ねる。


「今回のコレは何が狙いだったの? 回りくどくない?」


「何がって……人食いをどうにかして欲しいって言われてたからよ。道中だから引き受けただけで、何か狙いがあっただけじゃないわ」


 あまりにシンプルな答えに一瞬何か裏があるのではと勘繰るも、彼の表情を見てそれが本当であると察する。


「あのね、何でもかんでもあなた達が解決出来るなんて思っちゃいないわよ。適材適所よ、適材適所」


「……確かに、暴力ならお手の物だからね」


「そんな拗ねた言い方しないの。ともあれ、一つずつ解決していくのが大事なのよ、こういうのは」


 ふふっ、と色っぽい笑い方をするオルランド。男から色気を感じるようになったら末期な気がするけど、実際そういう風にしか表現できないのだから仕方が無い。


「こっちは片付いた。じゃあ進もうぜ」


 猛獣を片付けたらしいナマドたちが戻ってきたので、俺達もまた先へ歩き出す。
 そろそろ山を降りられるだろうか。




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 結局その後は大した問題も起きず山を降りることが出来た。後は馬車を借りられる村まで行けばほぼほぼ大変なことは無いだろう。
 山を降りた別れ際、ナマドが少しだけ頭を下げてきた。


「助かった」


「……昨日も言ったけど、俺達は俺達の仕事をしただけだよ」


「それでもだ。……ちょっと上に掛け合って、オレたちだけじゃどうしようも無い猛獣が出てきた場合は外注することも考えんといかんかもな」


「柔軟になることは良いことだと思うよ」


 俺が仮に勇者だったなら。言動で彼らを変え、この街をもっといい方に導けるのかもしれない。
 でも、俺はただのAGだ。出来ることはこれくらいだろう。
 俺は名刺代わりの活力煙を取り出して渡す。


「一応……『魔石狩り』のキョースケ・キヨタだ。どこのAGギルドからでも依頼は飛ばせると思うから、もしも用事があったらそれでお願い」


「ああ。またその時が来たら頼むぜ」


 笑みを交わし合い、踵を返す。


「で、オルランド。どれくらい歩くの?」


「三十分くらいかしらね。先回りして馬車を持ってきてくれてもいいけど?」


「ああ、それは楽そうだ」


「冗談よ。のんびり行きましょう」


 彼の言葉通り、結局俺達はのんびりと進むことになった。
 流石に寄り道はしないが、馬車を手に入れた後もそう飛ばすことも無く……そして日没寸前くらいにシリウスに辿り着いた。


「……なんだコレ」


「凄いな」


 俺の呟きに、冬子も呆れたように苦笑する。
 何せシリウスという街は――


「あれビル……だよね」


「摩天楼とまではいかないが、それでも高いな。まるで東京だ」


 そう、ビル。
 こちらの世界で初めて見た。
 開いた口が塞がらない俺と冬子に、ティアールは不機嫌そうに捕捉してくれる。


「この街はAGの総本山だ。そして、他の街でビルを建てない理由は『いつ魔物に壊されてもいいように』だ。……後は分かるな?」


「あー……なる、ほど」


 要するにここは……人族最強の街ってことか……。
 何かもう早速帰りたくなってきたけど――ようやくシリウスの街に到着だね。



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