異世界なう―No freedom,not a human―
167話 地平線なう
よく晴れた日、旅にはちょうどいいね。
リャンに起こされた俺は、窓を開けてのびをする。今日はシリウスに出発する日だ。
着替えてから廊下の洗面台で顔を洗い、階下に降りるともう既にご飯の準備は出来ていた。
「まずは領主の館まで行くんだったか?」
「そうだよ」
冬子に返事をしながらパンを齧る。
「護衛対象はオルランド伯爵とその付き人四名、ティアールさんとその付き人四名の計十名でしたか?」
紅茶をついでくれたリャンにお礼を言いながら、俺は首を振る。
「護衛対象扱いだよ、ギルドマスターも」
「……ヨホホ、あの人は盗賊とか魔物に襲われても返り討ちにすると思うデスけど」
「それを言うならオルランドもだよ。けどま、そういうものじゃないしね」
ちなみにタローは別ルートで行くらしいので、俺たちとは別行動だ。一つクエストを終えてから来るつもりらしい。
コーヒーを飲みながら一つ伸びをする。オルランドたちとの出発時間まではもう少しあるけど……俺はさっさと会いに行かねばならない人がいる。
「そういえばサリルさんからのご相談は何だったんですか? マスター」
「まだ聞いてないっていうか、聞けてない。俺の時間がとれないのもあるけど、今諸事情があってサリルがAGギルドに来てないらしいし」
「サリルさんも大変でしょうねー……。キョウ君はぶち切れ案件だと思いますよー」
サラダを持ってきてくれたマリルがそんなことを言う。
「知ってるの?」
「というよりも予想がついてるって感じですねー。私が話していいことでもないでしょうし、シリウスから帰ってきて落ち着いてからで間に合うことだと思いますよー」
俺がぶち切れ案件っていうのが少し気になるけど。サリルと以前日程合わせようとしたときも「大丈夫だよ、そんなに急ぎじゃねえから」って言われたし……一旦おいておいていいか。
サラダを食べ終え、手を合わせる。
「御馳走様。それじゃ、ちょっとだけ出てくる。皆は準備しておいて」
「京助、どこに行くんだ?」
「シュンリンさんのところ」
俺がそう答えると、皆は合点がいったという顔になって口元を緩めた。
「……ああ、そういえば言っていたな。頑張れよ」
「マスター、ご武運を」
「キョースケさんなら大丈夫デスよ」
「行ってらっしゃいですー」
俺はそんな皆にニッと笑ってから、踵を返してヒラヒラと手を振った。
「頑張るよ、行ってきます」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それじゃ、始めようかの」
「お願いします」
暫く彼の指導の下、修行が出来ないからどうしたらいいかと相談したら呼ばれたのだ。
……昇段試験のために。
「ぬしゃも試験に通れば初段じゃ」
「はい」
「ちなみにワシャと十本勝負で一本とれるようになれば師範代じゃ。五本以上とれたら師範じゃな」
「……ちなみに、何人くらい師範っているんです?」
「ワシャが師匠から免許皆伝をもらって道場を開いてから……おらんのぅ」
布教活動意味なしてなくない? それ。
「ふぇっふぇっふぇ。師範代ならそこそこおるぞ。じゃからちゃんと道場もある」
「実質その人達が師範では……?」
ダメだ、武道系のルールとかよく分からない。こういうのが普通なのか、それとも異常なのか。
何にせよ、俺は取りあえず初段だ。頑張らねば。
「では試験の内容じゃがな、型じゃ。お主に教えた型を見せてみぃ」
型、と言われても俺が習った型らしきものは「突き」だけだ。俺の体格に合った「突き」。何万回と反復させられたそれを、今ここでやれというのだろうか。
(いや……)
基礎が大事と何度も言われた。であれば、初段の試験としては間違いないか。
俺は精神を集中して、槍を構える。半年間、毎日千本繰り返した動きは体に染み着いている……はずだ。
余分な力を抜き、一つ息を吐いてから――突く。
「シッ」
風を裂く音に一拍遅れて周囲の葉が舞う。いつも通り出来た……と、思う。
「ふむ……ま、及第点じゃの。出来れば風切り音が一拍遅れてくればよかったが」
……ただの突きで音速越えろと? いや、出来るけどさ。でもアレの後は一瞬動きが止まるから今回の試験にはそぐわないと思うし。
「そうは言っても良い『突き』じゃ。合格じゃよ」
「あ、ありがとうございます」
「ふぇっふぇっふぇ。ぬしゃは才能がある。練り上げれば奥義を手に入れることも出来るやもしれぬぞ」
「奥義……」
厨二心をくすぐられるワードだ。トレジャグラ流奥義ってところだろうか。
俺が少しわくわくしたのを察したか、シュンリンさんは愉快そうに笑う。
「ふぇっふぇっふぇ。まだまだじゃがの。ではこれからクエストじゃろう。しっかりの」
「はい、ありがとうございます。では失礼します」
俺は一礼してから、天に駆け上がる。たたっと空を走るだけですぐに我が家だ。
着地すると同時に、中からキアラが飛んできた。ぽーんと窓から飛んできたので慌ててキャッチする。
「えっ、敵襲?」
「いや、妾がピアに『寝てるから連れて行ってくれ』と言っただけでこの仕打ちぢゃ。あ奴には人の血が通っておらぬのか!?」
「自業自得でしょうが」
俺はその場にぺいっとキアラを捨てると、窓の方からリャンが顔をのぞかせた。
「マスター、お帰りなさいませ」
「ん、ただいま。……何があったの?」
苦笑いしながら尋ねると、リャンはくわっと目を見開いた。
「昨日の夜、お酒を控えるように言ったのに二日酔いがどうのと言って動こうとしないんです! そもそもキアラさんなら自力で二日酔いくらい治せるでしょうに!」
ご立腹のリャン。そういえば最後までリャンがキアラを注意してたっけ。
俺は地面に寝っ転がってるキアラの腕を掴んで持ち上げると、その顔にジト目を向ける。
「今日はクエストって言うか、出発の日だって言ったよね?」
「うむ。ぢゃから妾は寝ておるから連れて行けと言っておるんぢゃ」
「反省の色無し、と。じゃあ水攻めの刑で」
俺は水塊を出してキアラの顔を包み込む。
『ごぶび!? ば、ばばばびばびぼぶぶ』
「ついでに全身洗ってやろうか」
『それならちゃんと胸の中まで頼むぞ? ほれ、揉み心地は抜群ぢゃ』
「なんで水の中で喋れてるのさ」
『神ぢゃからな』
あー、はいはい。
俺はマジで全身を水洗いして、火と風で乾かす。なんかペットを丸洗いしてる気分。
「むぅ……キョースケよ、最近はツンが強すぎやしないかの? 確かに美人の妾に素直になれぬのは分かるが、もう少し優しく攻めるのも時には必要なんぢゃぞ?」
「ねぇリャンー。キアラ朝ご飯いらないってー」
「じょ、冗談ぢゃろ? キョースケ。スープを妾にも頼むぞ」
「元からキアラさんの分は作っていません」
「殺生な!?」
その後キアラがややしゅんとしながら「ちゃんとクエストに出るから朝ご飯を……」と言ってきたので許すことにした。マリルとリャンからは甘いと言われたけど。
「なんか丸くなったね」
女性陣の支度の最中、リビングでコーヒーを飲みながらキアラに語りかける。
彼女はニッとほほえみながら、魔法でトーストを焼いて食べ出した。
「なかなか楽しいんぢゃよ、お主らとの生活も」
「ふぅん」
「うむ。壊したくはないと思うくらいにはの」
サクッと小気味のいい音をたててトーストを齧るキアラ。その小さい口で行儀良く食べる姿は、一枚の絵のように美しい。……出来るならいつもこんな風に食事すればいいのに。いやいつもが下品なわけじゃないけどね。
「歯形すら美しいと言われたんぢゃぞ、妾は」
「その人が歯形フェチだったのでは」
「なんじゃその業の深そうなフェチは」
世の中には咀嚼音フェチなるものがいるらしいから、歯形フェチくらいいてもおかしくないだろう。
「トーコはウブでからかい甲斐がある。ピアはよく気のつく女ぢゃ。リューは根性があるのぅ、マリルは男を見る目以外はよい女ぢゃ。誰も彼も、お主に相応しい」
「……何が言いたいの?」
「誰を第二夫人にするんぢゃ? 無論、妾が正妻ぢゃが」
悪戯っぽい笑みを浮かべるキアラ。
「最近、皆こんなことばかり言うね」
「当然ぢゃろう。お主はSランクAG。早く信頼できる女で身を固めねば大変なことになるぞ」
身を固めるって……十八の若造に言う台詞じゃないと思うんだけど。
しかしキアラは「これだから」みたいな顔で首を振る。
「良いか、妾は今お主とパーティーを組んでおる女以外と交際することは避けよと言っておるんぢゃ」
「何故?」
「ハニートラップ」
キアラが割と真剣な眼差しで俺を見つめる。
「実力者が最も警戒せねばならぬのがこれぢゃ。お主の世界にもあったぢゃろう? 女で身を持ち崩してバッドエンドを迎える英雄譚が」
……サムソンという英雄は女に自らの力の源の秘密を喋ってしまい、力を奪われた。他にも女で身を持ち崩した英雄はいくらでもいる。それほど男性の英雄譚においては女性という存在は非常に重要なポジションを占めている。
「妾はお主を育てる義務がある。そしてお主の物語をハッピーエンドにする願望がある。ぢゃから、妻選びは非常に重要なんぢゃ」
……信頼できる人で固めておけば、変に騙されたりしないってことか。
「俺の警戒心の強さ舐めないで欲しいところだけど」
「お主は気を許すまでは強く警戒するが、一度懐に入れてしまえば甘々ぢゃからの」
ぐうの音も出ないんですが。
「そも、お主は身持ちが堅いから、正妻を決めればハニーとラップに引っかかることはないぢゃろう。ぢゃから口を酸っぱくして言っておるわけぢゃ」
さいですか。
……身を固める、ねぇ。
「ま、おいおい考えるよ」
そんなことをやっていたら、キアラもご飯を食べ終えたので俺が食器を片付ける。
「ほかの連中は何をやっておるんぢゃ?」
「暫く家を空けるからって部屋の掃除してるんだよ」
「魔法でやれば一瞬ぢゃろうに」
「……それが出来るのは俺とキアラだけ」
俺もそこまで器用に出来るわけじゃない。そしてキアラが何でも魔法で解決しようとするのは女性陣に不評なんだよね。曰く「雑」だそうな。何となくわかるけどね。
「そろそろ皆降りてくるでしょ」
普段から部屋をごちゃっとしてるのは俺と冬子くらいのものだからね。二人とも口癖が「片付けようと思ったら出来る」って部分で察してください。
とはいえ俺はそもそも部屋に物をあまり置かないのでそんなに大変じゃない。冬子かな、大変そうなのは。
ちなみに俺は昨夜のうちにマリルとリャンに手伝ってもらって終わらせている。
「キアラ、今日は働いてもらうからね? じゃなきゃ晩御飯抜き」
ちょっとだけ意地悪な顔で言うと、キアラはくすぐったそうな顔になってはにかんだ。
「そうぢゃのぅ、ならばほんの少しだけ働いてやろう」
「偉そうだね」
「神ぢゃからな」
ふふん、と胸を張るキアラは何だかいつもより可愛らしかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「じゃあ出発だね」
俺たちがオルランドの館に着くと、ティアールもギルドマスターも到着していた。
今回は馬車が四台。オルランドの付き人が乗る馬車、ティアールたちが乗る馬車、オルランドが乗る馬車、そして俺達とギルドマスターが乗る馬車だ。
本来であれば野営道具なんかが入っている馬車も引くのが一般的らしいけど、今回はハダルの街で乗り換える予定なので必要無いらしい。
「よろしくね、キョースケ」
「お前達がいて何かあるとは思わんが、精々我々を安全に届けてくれよ」
「ん、了解」
というわけで馬車に乗って出発だ。
先頭車両が道案内をしてくれるらしいので、俺達は護衛に専念できる。といっても結界もあるからそう困る事は無いんだけどね。
「京助、お前は馬車を運転出来るのか?」
「俺は無理。こっちの世界に来てから一回も練習すること無かったし」
「ヨホホ! AGならば出来た方が良いかもしれないデスが、必須技能というわけでも無いデスしね」
「ちなみに馬はどうなのですか? マスター」
「そっちは何となく乗れるよ。流石に鞍がついてないと無理だけど」
でも俺の場合、馬に乗るより飛んだ方が速いし楽なんだよね。
「にしてもハダルの街まで行くのは一日かかるらしいねぇ。……おっ、いい景色」
俺が窓を開けて外を見ると、そこには広い草原が広がっていた。
この世界、森ばかりと思いきやちゃんと草原もあるらしい。こういうところを開拓すればもっと住むところも増えるだろうに。
「マスター、草原の魔物の方が強いんですよ。こちら側も奇襲出来ませんし」
「そうなんだ」
「だから草原を通る依頼は結構高ランクのAGさん任せになりますねー」
「なるほどねぇ」
とはいえ見晴らしがいいから索敵もしやすい。俺はひょいと首をあげて馬車の上に乗ってるキアラに話しかける。
「様子はどう?」
「進行方向右に魔物ぢゃな。妾がやろうかの?」
「お願い」
「うむ」
魔法の気配の数秒後、ドーンと爆発音が聞こえる。キアラの魔法で吹っ飛ばした音か。
「キアラさんが見張りなんて珍しいな」
冬子が少し上を見ながらそんなことを言う。俺が先ほどキアラを「脅した」ことは皆に伝えてないので、雨でも降るんじゃないかと言っている。
「そうして旅先で開放的になったマスターに『ご褒美』などと言って迫るつもりですね!? くっ、なんと巧みな!」
「いや無いから」
「無いなら見張りをやめるぞ、妾は」
「では次は私が交代してマスターからご褒美をもらいます!」
リャンが立ち上がろうとしたので、冬子が胸元を掴んで座らせる。
「……アレやな。オレの存在忘れとるやろ、お前ら」
苦い顔のギルドマスター。そういえばいたね。
「休憩の時間になったらオルランド伯爵んところに乗せてもらおかな……。人のハーレムん中とかおるもんやないわ」
「いや別にハーレムじゃないんだけど」
大きなため息をつくギルドマスター。そのまま窓の向こうに眼を向ける。
「そういえば、オレが嫁と出会ったのもお前くらいの歳やったなぁ」
ぼそっと呟くギルドマスター。他人の恋路に興味はないが、冬子とシュリーの眼の色が変わる。いつの時代も女性は恋バナが好きなんだろうか。
「まだ若かったからやろうな、オレもお前みたいに女に囲まれとった。女遊びが過ぎて刺されたりもしたわ。あん時は六股かけとったなぁ」
「ろくでなしじゃん」
「ろくでなしでは?」
「ろくでなしですね」
「ろくでなしデスね」
「ろくでなしですねー。噂で聞いてましたけど」
「お前等はオブラートに包むって言葉を覚えんかい!」
いや事実ろくでなしだし。Sランクとはいえやっていいことと悪いことがある。いや、俺くらいってことはまだSランクにはなってないか。
「というかキョースケ、お前には言われたないぞ!?」
外の景色が勢いよく流れていく、爽やかな風が俺の肌を撫でる。世界で最も柔らかいものは春風……と聞いたことがあるけど、実際にそんな気分にさせられる。
「おいこら聞いてるんか!?」
「……六股して刺されてどうなったの? 死んだ?」
「いや生きとるやろ。今、眼の前で!」
「ターンアンデッド!」
「祓うな!」
ギルドマスターは一つため息をつくと、話の続きを始めた。
「……刺されてもちょっと痛いくらいや。でもそんなオレを真剣に止めてくれた女がおってな……それが嫁さんや」
「出会いは!? どんな出会いだったんです!?」
「おう、それがやな……」
冬子とシュリー、そしてマリルが食いついたので俺は外に眼を向ける。
「……俺見張り変わってくるね」
屋根の上に顔を出すと、キアラがあぐらをかいてボーっと向こうを眺めていた。……女の子があぐらをかいちゃいけない理由が何となく分かったよ。キアラのミニスカ巫女服のせいで。
「あー、キアラ?」
「ふむ、キョースケか。そろそろ交代かの?」
「うん」
俺が思いっきり目をそらしているのに気付いたか、キアラはカラカラと笑って立ち上がった。
「本当にうぶぢゃのぅ。では妾は中に戻るかの」
そして俺がよっと屋根に上り、活力煙を咥えていると……リャンがひょこりと顔を出した。
「マスター、お隣よろしいですか?」
うなずきながら活力煙に火をつけると、彼女が隣に座ってきた。俺は煙を吸い込んで……空に溶かす。
「リャンはギルマスの恋バナを聞かなくていいの?」
「あまり他人の恋愛に興味はありませんから。興味があるのは、マスターの過去の恋愛くらいですかね」
彼女いない歴=年齢の童貞にそんなものはない。
「ですがキスの経験だけはあると言っていませんでしたか? リューさん以前に一度、と」
「……あー」
思い出すと恥ずかしいから思い出したくないんだけどね。
とはいえそんなに難しい話じゃない。ただの事故だし。
「昔……冬子と遊びに行った時にね。散々遊んだ帰り道で冬子が寝ちゃって……。やむなく起きるまで待っていたら、寝ぼけた冬子とごつんとぶつかったんだよ」
声が聞こえたから「佐野、起きた?」って言って彼女の顔をのぞき込もうとしたら予想以上に素早く起きあがってきたせいでごんとぶつかってしまった。
その場所が口と口だったわけだけど、冬子は寝ぼけてて覚えてないから無かったことにしていた。
それだけのことで、色っぽい話なんて無いんだよねぇ。
「……ねんねじゃないんですから」
久しぶりに聞いたね、その表現。
「そ、そういうリャンはどうなのさ」
ちょっとそっぽを向いて尋ねると、彼女はふっと大人びた笑みを浮かべて肩をすくめた。
「ねんねのマスターには刺激が強すぎますので」
しれっと言う。あからさまにバカにされている気しかしないけど、何だか何も言い返せない。
俺はため息とともに紫煙を吐き出し、ぼんやりと空を眺める。
「……空が青いね。太陽が眩しい」
「いい天気ですね、雲一つ無い」
この世界には太陽があり、夜には月が昇る。さらに空を飛ぶと分かるが――しっかり地平線も存在している。つまり、球形だ。
「地球に近いんだろうか」
「チキュウ?」
リャンがオウム返しに尋ねるので、笑いながら「俺の故郷の星さ」と答える。
「キヨタ様ー」
下から声が。御者のおっちゃんから声をかけられたらしい。
「どうしたの?」
「いやね、そろそろ休憩しませんかと思いまして。馬もずっと走り詰めじゃ疲れちまいまさあ」
「ああ、そういえばそうか」
今日は一日かけてハダルに行くのだ、休めるうちに休んでおくべきだろう。
俺は御者のおっちゃんにお願いと声をかけてから馬車の屋根から飛び降りた。草原に寝っ転がるって一度やってみたかったんだよね。
リャンに起こされた俺は、窓を開けてのびをする。今日はシリウスに出発する日だ。
着替えてから廊下の洗面台で顔を洗い、階下に降りるともう既にご飯の準備は出来ていた。
「まずは領主の館まで行くんだったか?」
「そうだよ」
冬子に返事をしながらパンを齧る。
「護衛対象はオルランド伯爵とその付き人四名、ティアールさんとその付き人四名の計十名でしたか?」
紅茶をついでくれたリャンにお礼を言いながら、俺は首を振る。
「護衛対象扱いだよ、ギルドマスターも」
「……ヨホホ、あの人は盗賊とか魔物に襲われても返り討ちにすると思うデスけど」
「それを言うならオルランドもだよ。けどま、そういうものじゃないしね」
ちなみにタローは別ルートで行くらしいので、俺たちとは別行動だ。一つクエストを終えてから来るつもりらしい。
コーヒーを飲みながら一つ伸びをする。オルランドたちとの出発時間まではもう少しあるけど……俺はさっさと会いに行かねばならない人がいる。
「そういえばサリルさんからのご相談は何だったんですか? マスター」
「まだ聞いてないっていうか、聞けてない。俺の時間がとれないのもあるけど、今諸事情があってサリルがAGギルドに来てないらしいし」
「サリルさんも大変でしょうねー……。キョウ君はぶち切れ案件だと思いますよー」
サラダを持ってきてくれたマリルがそんなことを言う。
「知ってるの?」
「というよりも予想がついてるって感じですねー。私が話していいことでもないでしょうし、シリウスから帰ってきて落ち着いてからで間に合うことだと思いますよー」
俺がぶち切れ案件っていうのが少し気になるけど。サリルと以前日程合わせようとしたときも「大丈夫だよ、そんなに急ぎじゃねえから」って言われたし……一旦おいておいていいか。
サラダを食べ終え、手を合わせる。
「御馳走様。それじゃ、ちょっとだけ出てくる。皆は準備しておいて」
「京助、どこに行くんだ?」
「シュンリンさんのところ」
俺がそう答えると、皆は合点がいったという顔になって口元を緩めた。
「……ああ、そういえば言っていたな。頑張れよ」
「マスター、ご武運を」
「キョースケさんなら大丈夫デスよ」
「行ってらっしゃいですー」
俺はそんな皆にニッと笑ってから、踵を返してヒラヒラと手を振った。
「頑張るよ、行ってきます」
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「それじゃ、始めようかの」
「お願いします」
暫く彼の指導の下、修行が出来ないからどうしたらいいかと相談したら呼ばれたのだ。
……昇段試験のために。
「ぬしゃも試験に通れば初段じゃ」
「はい」
「ちなみにワシャと十本勝負で一本とれるようになれば師範代じゃ。五本以上とれたら師範じゃな」
「……ちなみに、何人くらい師範っているんです?」
「ワシャが師匠から免許皆伝をもらって道場を開いてから……おらんのぅ」
布教活動意味なしてなくない? それ。
「ふぇっふぇっふぇ。師範代ならそこそこおるぞ。じゃからちゃんと道場もある」
「実質その人達が師範では……?」
ダメだ、武道系のルールとかよく分からない。こういうのが普通なのか、それとも異常なのか。
何にせよ、俺は取りあえず初段だ。頑張らねば。
「では試験の内容じゃがな、型じゃ。お主に教えた型を見せてみぃ」
型、と言われても俺が習った型らしきものは「突き」だけだ。俺の体格に合った「突き」。何万回と反復させられたそれを、今ここでやれというのだろうか。
(いや……)
基礎が大事と何度も言われた。であれば、初段の試験としては間違いないか。
俺は精神を集中して、槍を構える。半年間、毎日千本繰り返した動きは体に染み着いている……はずだ。
余分な力を抜き、一つ息を吐いてから――突く。
「シッ」
風を裂く音に一拍遅れて周囲の葉が舞う。いつも通り出来た……と、思う。
「ふむ……ま、及第点じゃの。出来れば風切り音が一拍遅れてくればよかったが」
……ただの突きで音速越えろと? いや、出来るけどさ。でもアレの後は一瞬動きが止まるから今回の試験にはそぐわないと思うし。
「そうは言っても良い『突き』じゃ。合格じゃよ」
「あ、ありがとうございます」
「ふぇっふぇっふぇ。ぬしゃは才能がある。練り上げれば奥義を手に入れることも出来るやもしれぬぞ」
「奥義……」
厨二心をくすぐられるワードだ。トレジャグラ流奥義ってところだろうか。
俺が少しわくわくしたのを察したか、シュンリンさんは愉快そうに笑う。
「ふぇっふぇっふぇ。まだまだじゃがの。ではこれからクエストじゃろう。しっかりの」
「はい、ありがとうございます。では失礼します」
俺は一礼してから、天に駆け上がる。たたっと空を走るだけですぐに我が家だ。
着地すると同時に、中からキアラが飛んできた。ぽーんと窓から飛んできたので慌ててキャッチする。
「えっ、敵襲?」
「いや、妾がピアに『寝てるから連れて行ってくれ』と言っただけでこの仕打ちぢゃ。あ奴には人の血が通っておらぬのか!?」
「自業自得でしょうが」
俺はその場にぺいっとキアラを捨てると、窓の方からリャンが顔をのぞかせた。
「マスター、お帰りなさいませ」
「ん、ただいま。……何があったの?」
苦笑いしながら尋ねると、リャンはくわっと目を見開いた。
「昨日の夜、お酒を控えるように言ったのに二日酔いがどうのと言って動こうとしないんです! そもそもキアラさんなら自力で二日酔いくらい治せるでしょうに!」
ご立腹のリャン。そういえば最後までリャンがキアラを注意してたっけ。
俺は地面に寝っ転がってるキアラの腕を掴んで持ち上げると、その顔にジト目を向ける。
「今日はクエストって言うか、出発の日だって言ったよね?」
「うむ。ぢゃから妾は寝ておるから連れて行けと言っておるんぢゃ」
「反省の色無し、と。じゃあ水攻めの刑で」
俺は水塊を出してキアラの顔を包み込む。
『ごぶび!? ば、ばばばびばびぼぶぶ』
「ついでに全身洗ってやろうか」
『それならちゃんと胸の中まで頼むぞ? ほれ、揉み心地は抜群ぢゃ』
「なんで水の中で喋れてるのさ」
『神ぢゃからな』
あー、はいはい。
俺はマジで全身を水洗いして、火と風で乾かす。なんかペットを丸洗いしてる気分。
「むぅ……キョースケよ、最近はツンが強すぎやしないかの? 確かに美人の妾に素直になれぬのは分かるが、もう少し優しく攻めるのも時には必要なんぢゃぞ?」
「ねぇリャンー。キアラ朝ご飯いらないってー」
「じょ、冗談ぢゃろ? キョースケ。スープを妾にも頼むぞ」
「元からキアラさんの分は作っていません」
「殺生な!?」
その後キアラがややしゅんとしながら「ちゃんとクエストに出るから朝ご飯を……」と言ってきたので許すことにした。マリルとリャンからは甘いと言われたけど。
「なんか丸くなったね」
女性陣の支度の最中、リビングでコーヒーを飲みながらキアラに語りかける。
彼女はニッとほほえみながら、魔法でトーストを焼いて食べ出した。
「なかなか楽しいんぢゃよ、お主らとの生活も」
「ふぅん」
「うむ。壊したくはないと思うくらいにはの」
サクッと小気味のいい音をたててトーストを齧るキアラ。その小さい口で行儀良く食べる姿は、一枚の絵のように美しい。……出来るならいつもこんな風に食事すればいいのに。いやいつもが下品なわけじゃないけどね。
「歯形すら美しいと言われたんぢゃぞ、妾は」
「その人が歯形フェチだったのでは」
「なんじゃその業の深そうなフェチは」
世の中には咀嚼音フェチなるものがいるらしいから、歯形フェチくらいいてもおかしくないだろう。
「トーコはウブでからかい甲斐がある。ピアはよく気のつく女ぢゃ。リューは根性があるのぅ、マリルは男を見る目以外はよい女ぢゃ。誰も彼も、お主に相応しい」
「……何が言いたいの?」
「誰を第二夫人にするんぢゃ? 無論、妾が正妻ぢゃが」
悪戯っぽい笑みを浮かべるキアラ。
「最近、皆こんなことばかり言うね」
「当然ぢゃろう。お主はSランクAG。早く信頼できる女で身を固めねば大変なことになるぞ」
身を固めるって……十八の若造に言う台詞じゃないと思うんだけど。
しかしキアラは「これだから」みたいな顔で首を振る。
「良いか、妾は今お主とパーティーを組んでおる女以外と交際することは避けよと言っておるんぢゃ」
「何故?」
「ハニートラップ」
キアラが割と真剣な眼差しで俺を見つめる。
「実力者が最も警戒せねばならぬのがこれぢゃ。お主の世界にもあったぢゃろう? 女で身を持ち崩してバッドエンドを迎える英雄譚が」
……サムソンという英雄は女に自らの力の源の秘密を喋ってしまい、力を奪われた。他にも女で身を持ち崩した英雄はいくらでもいる。それほど男性の英雄譚においては女性という存在は非常に重要なポジションを占めている。
「妾はお主を育てる義務がある。そしてお主の物語をハッピーエンドにする願望がある。ぢゃから、妻選びは非常に重要なんぢゃ」
……信頼できる人で固めておけば、変に騙されたりしないってことか。
「俺の警戒心の強さ舐めないで欲しいところだけど」
「お主は気を許すまでは強く警戒するが、一度懐に入れてしまえば甘々ぢゃからの」
ぐうの音も出ないんですが。
「そも、お主は身持ちが堅いから、正妻を決めればハニーとラップに引っかかることはないぢゃろう。ぢゃから口を酸っぱくして言っておるわけぢゃ」
さいですか。
……身を固める、ねぇ。
「ま、おいおい考えるよ」
そんなことをやっていたら、キアラもご飯を食べ終えたので俺が食器を片付ける。
「ほかの連中は何をやっておるんぢゃ?」
「暫く家を空けるからって部屋の掃除してるんだよ」
「魔法でやれば一瞬ぢゃろうに」
「……それが出来るのは俺とキアラだけ」
俺もそこまで器用に出来るわけじゃない。そしてキアラが何でも魔法で解決しようとするのは女性陣に不評なんだよね。曰く「雑」だそうな。何となくわかるけどね。
「そろそろ皆降りてくるでしょ」
普段から部屋をごちゃっとしてるのは俺と冬子くらいのものだからね。二人とも口癖が「片付けようと思ったら出来る」って部分で察してください。
とはいえ俺はそもそも部屋に物をあまり置かないのでそんなに大変じゃない。冬子かな、大変そうなのは。
ちなみに俺は昨夜のうちにマリルとリャンに手伝ってもらって終わらせている。
「キアラ、今日は働いてもらうからね? じゃなきゃ晩御飯抜き」
ちょっとだけ意地悪な顔で言うと、キアラはくすぐったそうな顔になってはにかんだ。
「そうぢゃのぅ、ならばほんの少しだけ働いてやろう」
「偉そうだね」
「神ぢゃからな」
ふふん、と胸を張るキアラは何だかいつもより可愛らしかった。
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「じゃあ出発だね」
俺たちがオルランドの館に着くと、ティアールもギルドマスターも到着していた。
今回は馬車が四台。オルランドの付き人が乗る馬車、ティアールたちが乗る馬車、オルランドが乗る馬車、そして俺達とギルドマスターが乗る馬車だ。
本来であれば野営道具なんかが入っている馬車も引くのが一般的らしいけど、今回はハダルの街で乗り換える予定なので必要無いらしい。
「よろしくね、キョースケ」
「お前達がいて何かあるとは思わんが、精々我々を安全に届けてくれよ」
「ん、了解」
というわけで馬車に乗って出発だ。
先頭車両が道案内をしてくれるらしいので、俺達は護衛に専念できる。といっても結界もあるからそう困る事は無いんだけどね。
「京助、お前は馬車を運転出来るのか?」
「俺は無理。こっちの世界に来てから一回も練習すること無かったし」
「ヨホホ! AGならば出来た方が良いかもしれないデスが、必須技能というわけでも無いデスしね」
「ちなみに馬はどうなのですか? マスター」
「そっちは何となく乗れるよ。流石に鞍がついてないと無理だけど」
でも俺の場合、馬に乗るより飛んだ方が速いし楽なんだよね。
「にしてもハダルの街まで行くのは一日かかるらしいねぇ。……おっ、いい景色」
俺が窓を開けて外を見ると、そこには広い草原が広がっていた。
この世界、森ばかりと思いきやちゃんと草原もあるらしい。こういうところを開拓すればもっと住むところも増えるだろうに。
「マスター、草原の魔物の方が強いんですよ。こちら側も奇襲出来ませんし」
「そうなんだ」
「だから草原を通る依頼は結構高ランクのAGさん任せになりますねー」
「なるほどねぇ」
とはいえ見晴らしがいいから索敵もしやすい。俺はひょいと首をあげて馬車の上に乗ってるキアラに話しかける。
「様子はどう?」
「進行方向右に魔物ぢゃな。妾がやろうかの?」
「お願い」
「うむ」
魔法の気配の数秒後、ドーンと爆発音が聞こえる。キアラの魔法で吹っ飛ばした音か。
「キアラさんが見張りなんて珍しいな」
冬子が少し上を見ながらそんなことを言う。俺が先ほどキアラを「脅した」ことは皆に伝えてないので、雨でも降るんじゃないかと言っている。
「そうして旅先で開放的になったマスターに『ご褒美』などと言って迫るつもりですね!? くっ、なんと巧みな!」
「いや無いから」
「無いなら見張りをやめるぞ、妾は」
「では次は私が交代してマスターからご褒美をもらいます!」
リャンが立ち上がろうとしたので、冬子が胸元を掴んで座らせる。
「……アレやな。オレの存在忘れとるやろ、お前ら」
苦い顔のギルドマスター。そういえばいたね。
「休憩の時間になったらオルランド伯爵んところに乗せてもらおかな……。人のハーレムん中とかおるもんやないわ」
「いや別にハーレムじゃないんだけど」
大きなため息をつくギルドマスター。そのまま窓の向こうに眼を向ける。
「そういえば、オレが嫁と出会ったのもお前くらいの歳やったなぁ」
ぼそっと呟くギルドマスター。他人の恋路に興味はないが、冬子とシュリーの眼の色が変わる。いつの時代も女性は恋バナが好きなんだろうか。
「まだ若かったからやろうな、オレもお前みたいに女に囲まれとった。女遊びが過ぎて刺されたりもしたわ。あん時は六股かけとったなぁ」
「ろくでなしじゃん」
「ろくでなしでは?」
「ろくでなしですね」
「ろくでなしデスね」
「ろくでなしですねー。噂で聞いてましたけど」
「お前等はオブラートに包むって言葉を覚えんかい!」
いや事実ろくでなしだし。Sランクとはいえやっていいことと悪いことがある。いや、俺くらいってことはまだSランクにはなってないか。
「というかキョースケ、お前には言われたないぞ!?」
外の景色が勢いよく流れていく、爽やかな風が俺の肌を撫でる。世界で最も柔らかいものは春風……と聞いたことがあるけど、実際にそんな気分にさせられる。
「おいこら聞いてるんか!?」
「……六股して刺されてどうなったの? 死んだ?」
「いや生きとるやろ。今、眼の前で!」
「ターンアンデッド!」
「祓うな!」
ギルドマスターは一つため息をつくと、話の続きを始めた。
「……刺されてもちょっと痛いくらいや。でもそんなオレを真剣に止めてくれた女がおってな……それが嫁さんや」
「出会いは!? どんな出会いだったんです!?」
「おう、それがやな……」
冬子とシュリー、そしてマリルが食いついたので俺は外に眼を向ける。
「……俺見張り変わってくるね」
屋根の上に顔を出すと、キアラがあぐらをかいてボーっと向こうを眺めていた。……女の子があぐらをかいちゃいけない理由が何となく分かったよ。キアラのミニスカ巫女服のせいで。
「あー、キアラ?」
「ふむ、キョースケか。そろそろ交代かの?」
「うん」
俺が思いっきり目をそらしているのに気付いたか、キアラはカラカラと笑って立ち上がった。
「本当にうぶぢゃのぅ。では妾は中に戻るかの」
そして俺がよっと屋根に上り、活力煙を咥えていると……リャンがひょこりと顔を出した。
「マスター、お隣よろしいですか?」
うなずきながら活力煙に火をつけると、彼女が隣に座ってきた。俺は煙を吸い込んで……空に溶かす。
「リャンはギルマスの恋バナを聞かなくていいの?」
「あまり他人の恋愛に興味はありませんから。興味があるのは、マスターの過去の恋愛くらいですかね」
彼女いない歴=年齢の童貞にそんなものはない。
「ですがキスの経験だけはあると言っていませんでしたか? リューさん以前に一度、と」
「……あー」
思い出すと恥ずかしいから思い出したくないんだけどね。
とはいえそんなに難しい話じゃない。ただの事故だし。
「昔……冬子と遊びに行った時にね。散々遊んだ帰り道で冬子が寝ちゃって……。やむなく起きるまで待っていたら、寝ぼけた冬子とごつんとぶつかったんだよ」
声が聞こえたから「佐野、起きた?」って言って彼女の顔をのぞき込もうとしたら予想以上に素早く起きあがってきたせいでごんとぶつかってしまった。
その場所が口と口だったわけだけど、冬子は寝ぼけてて覚えてないから無かったことにしていた。
それだけのことで、色っぽい話なんて無いんだよねぇ。
「……ねんねじゃないんですから」
久しぶりに聞いたね、その表現。
「そ、そういうリャンはどうなのさ」
ちょっとそっぽを向いて尋ねると、彼女はふっと大人びた笑みを浮かべて肩をすくめた。
「ねんねのマスターには刺激が強すぎますので」
しれっと言う。あからさまにバカにされている気しかしないけど、何だか何も言い返せない。
俺はため息とともに紫煙を吐き出し、ぼんやりと空を眺める。
「……空が青いね。太陽が眩しい」
「いい天気ですね、雲一つ無い」
この世界には太陽があり、夜には月が昇る。さらに空を飛ぶと分かるが――しっかり地平線も存在している。つまり、球形だ。
「地球に近いんだろうか」
「チキュウ?」
リャンがオウム返しに尋ねるので、笑いながら「俺の故郷の星さ」と答える。
「キヨタ様ー」
下から声が。御者のおっちゃんから声をかけられたらしい。
「どうしたの?」
「いやね、そろそろ休憩しませんかと思いまして。馬もずっと走り詰めじゃ疲れちまいまさあ」
「ああ、そういえばそうか」
今日は一日かけてハダルに行くのだ、休めるうちに休んでおくべきだろう。
俺は御者のおっちゃんにお願いと声をかけてから馬車の屋根から飛び降りた。草原に寝っ転がるって一度やってみたかったんだよね。
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