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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

166話 瞳と瞳なう

 シュリーと冬子がお色直しということでいったんマリルと共に退場し、パーティーは仕切り直しとなった。
 ……泣いてパンダ、とかはよく聞くけど女の子が化粧をして号泣すると悲惨なことになるのはよく分かった。
 立食形式のパーティーなので、グラスを持ってマルキムのところへ。


「悪いな、キョースケ。湿っぽくしちまって」


 照れたように謝るマルキム。その赤くなっている目元には目をつぶり、俺はフッと笑う。


「むしろ、ちゃんとしこりが取れたようで良かったよ。ただまぁ、うちのお姫様がもらい泣きしたせいでパーティーメンバーが三人減ってスタートだけど」


「面目ねえ」


 禿頭をぽりぽりと掻くマルキム。お姫様がお色直しに行った方向を見ながら二人で笑いあう。


「ミスターマルキムを責めてやるな、ミスター京助」


 そこに苦笑しながらタローが登場。……マルキムも俺もお洒落はしてるけど、こいつはなんかレベルが違うね。普通のスーツ姿のはずなのに異様に似合っている。青年実業家って感じだ。


「責めちゃいないさ。ところでタロー、サングラス持ってない? 眩しくって」


「おいキョースケ、テメェドコ見て言った!?」


「……この間接照明喋った!?」


「誰が間接照明だコラ!」


 俺たち二人のやりとりを見て、タローが愉快そうに笑う。


「相変わらず仲がいいな。羨ましい限りだ」


「ああ、確かにタローって友達少なそうだよね」


 俺の台詞に、フッとニヒルな笑みで答えるタロー。


「群れる趣味が無いだけだ。それに、私という花に集まる蝶は多い。寂しくは無いさ」


 気障ったらしい。
 そんなタローは懐から一本の矢を取り出した。おい待て、それどこに仕舞ってた。


「この矢をキミにやろう。何、特殊なものじゃないが……私の名刺代わりでね。名を彫ってある。これを見せれば私との繋がりをアピール出来るから役に立つことも多いだろう」


「ああ、そういう。……ありがとう、タロー」


 そこまで言って、ふと昔マルキムに言われたことを思い出す。


「AGは名刺を持たない代わりに高価な嗜好品とかをあげるって聞いたけど……タローのこれはそれの代わり?」


「いや、それ用のタバコはそれで持っている。これは『力を貸す』ことを確約する品だ。『力を持つ者』に力を貸してもらいたいならば、自分もある程度貸さねばならんからな」


 ……なるほど。


「マルキムも若い頃は用意してたの?」


「ああ、一応な。オレの場合はナイフだった。安物だが、オレの名が入ってる奴を」


 ナイフか、ってことは小さい武器に名をいれるのが一般的なのかな。


「そうなると、俺の場合は短槍?」


 いやデカいな。槍の穂先でいいかな。


「まあ焦って用意する必要はねえぜ。当面はここにいる奴らと繋がってるだけで十分だろうし」


 SランクAGのタロー、商会の長としてホテル経営などで一角の人物であるティアール。そして領地持ちの貴族で商会長でもあるオルランド。
 並大抵の人脈じゃ……無いね。
 なんてことを話していたら、スタスタとティアールがこちらへ近づいてきた。


「混ざってもいいか?」


 俺が頷くと、ティアールは改めて俺に左手を出してくる。
 それを握り返すと、ティアールは頬を少しだけ緩めた。


「Sランク昇格、改めておめでとうと言っておこうか。全く、ほんの少し前まではただの生意気なガキだったのに……」


 ちょっとだけ懐かしむような顔をするティアール。彼に出会ったのはまだ半年とかそこら前だとは思うけどね。


「今は実力のある生意気なガキ、だな」


 なかなかの酷評に、周囲の大人がドッと笑う。


「はっはっは、キョースケ。酷い言われようだな、ティアールさんに何したんだよ」


「別に……護衛を全員ぶっ飛ばして彼の経営するホテルに獣人であるリャンを無理矢理泊めさせただけだよ」


「ミスター京助、それでよく彼とこうして笑って話していられるな……ほぼテロリストではないか」


 だよね。
 俺が苦笑していると、ティアールは「ふん」とそっぽを向いて鼻を鳴らす。


「……私とて、妻と娘の仇をとってくれていないのであればこうして談笑などせん」


 なるほど、という風に納得した顔になる二人。そんな彼らを見てティアールはくわっと眼を見開いた。


「だが勘違いするなよ? 私はお前が実力者だからこうして親交を結んでいるだけで、決してお前の心根や行いをどうこう思っているわけじゃないからな! それを間違えるなよ!」


 ビシッと指を突きつけるティアール。分かってますよ、ちゃんとね。
 そんな彼を見てマルキムとタローはプッと吹き出した。


「ミスター京助の所行を考えれば素直になれないのは当然と言えるが。それを補うくらいには彼を救ったのか」


「みてぇだな。ってか、一昨日あんなこと言ってたんだから今さらこんなこと言っても誤魔化せねえと思うが」


「何かね、タロー殿にマルキム殿」


「私はアトラだ。黒のアトラ」


「タローも言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに」


「だから私はアトラだ」


「ティアールさんもタローもそんな睨み合うなよ」


「だから私はアトラだと……もういい」


 律儀に訂正していたタローだけど、諦めたように肩を落とした。
 そのまま「私は花を愛でる方が好きだからな」とリャンの方へと歩いていった。なんかリャンからも辛辣なこと言われそうだね。


「っていうかタロー……最初に出てきた時は凄い強キャラ感あったのに今やただの気障で振り回されるナルシストになっちゃったね」


「お前は……あれだな、もう少しオブラートに包むことを覚えたらどうだ」


 マルキムが呆れたように言う。いや俺だってオブラートの重要性は知っている。彼に対してはいらないと思っているだけで。
 ティアールとマルキムはふと何かに気付いたような顔をして「飯をとってくる」とこの場を離れた。
 はて、何故だろうと思って後ろを振り向くと……


「はぁい、キョースケ。これ食べる?」


「いただくよ、オルランド」


「オクタヴィアお姉さまと呼びなさい」


 その台詞久しぶりに聞いたね。
 オルランドからローストビーフのような料理を受け取り、まだ残っていた飲み物で乾杯する。


「こんなパーティーを開いてくれてありがとう」


「どういたしまして。この前の祭りでだいぶ利益が出たから、そのお礼もあるわ」


「え?」


 あの祭りで利益?


「あれってオルランドが全部お金払うとか何とか言ってなかったっけ」


「商人が自分の損になるだけのことするわけないでしょう? ちょっと難しいから詳細は省くけど、ちゃんと儲けていたわ。もちろん、人道的にも法律的にもホワイトな方法でね」


 よく分からないけど、豪商のオルランドが言うんだからよほど儲かったんだろう。


「それにしても、ぽんぽんと出世するわね。あなたは」


「それは俺も思う。でもどこかで揺り返しが来そうで、ちょっと怖いかな」


「大丈夫よ。貴男は無理したり、法……は置いといて、人道的にグレーなことをやってここまで来た訳じゃないでしょう? 貴男の持つ実力に周囲の評価が追いついただけよ」


 凄い褒められる。
 なんだか照れくさくなってちょっと頬を掻く。


「私はラッキーだと思ってるわ、貴男と縁を結べたのは。日頃の行いのおかげかしらね」


「えー? ホントで御座るかー?」


「クリーンな商売がうちのモットーだもの」


 ふふん、と得意げに微笑むオルランド。超美形のイケメンだから様になってるけど、ちょっとムカつく。


「それにしてもSランク魔物……っていうのはどれくらいの強さなの?」


「ピンとくる説明は出来ないと思うよ」


「これでもそれなりに戦えるのよ?」


 それは知ってる。それも、「それなり」くらいじゃないことも。Bランクくらいかな。
 俺は少し考えて……財力に換算してみることにする。


「オルランドとSランク魔物の差は……鉱山労働者のお給料と商会の長が持つ財力の差くらいかな」


 やはりピンとこないのか、少し考える仕草をしたオルランドは……ふっと自嘲気味に笑った。


「……想像も出来ないレベルってことね。やっぱり私は戦う者じゃないのねって実感させられるわ」


「相手が悪いでしょ。向こうは世界最強格だよ?」


「これでも昔は世界最強を目指した時期があったのよ。……結局、貴族の仕事と商会の仕事が忙しくて断念したけどね」


 昔を懐かしむような顔になるオルランド。彼のバックボーンは聞いたことはないが、やはりトップクラスの商会を作り上げただけあって並大抵じゃない物語があるんだろう。


「あら? 言ってなかったかしら。私は四代目よ。商会の長としては」


「え? だってオルランド商会って……」


「商会ってのは代替わりしたら自分の名前に変えるのよ。ニックネームみたいなものね。正式名称はハイドロジェン家服飾商会よ。でも長いでしょう? だからオルランド商会にしたのよ。そっちの方が『代替わりが成功した』って周囲の商会にも思ってもらいやすいのよ」


 そういうものなのか。
 と、そこにヘルミナがやってきた。てっきりシュリーの方に行くものだとばかり。


「あっ……りょ、領主様とお話されてたんですね。えっと、出直します……」


「いいわよ。私が行くわ。じゃ、キョースケ。またシリウスに行くことについて詰めましょうね」


「ん、了解」


 ヒラヒラと手を振ってオルランドが去っていく。そこにヘルミナの後ろに隠れてたリルラも現れる。


「おめでとーございます! キョースケさん」


「おめでとうございます、キョースケさん。ちゃんと槍のお手入れはしていますか?」


「ありがとう、二人とも。もちろんしてるよ」


 リルラが俺の腰付近に抱きついてくるので、なでながら笑顔を返す。


「トーコさんがいるとこうしてスキンシップ出来ませんからね、隙をついてやってまいりました!」


「彼女はお淑やかなんだよ」


 得意げなリルラに、やや的外れかなーと想いながら冬子のフォローをしておく俺。そんな光景をヘルミナはくすくすと笑いながら見ている。


「キョースケさん、昔は槍のお手入れすら出来なかったのに……ご立派になられましたね。私も負けないようにしないと」


 ……そういえば俺が最初彼女の店に行ったときに習ったのってお手入れだったね。


「昔のことは言いっこ無しだよ。……で、だ。ヘルミナに頼みたいことがあるんだけど……」


「? はい、なんでしょうか」


「冬子の剣を作って欲しい。詳しいことは後で言うけど……材料が『Sランク魔物の討伐部位』だ」


 俺の言葉にヘルミナが息を飲む。リルラがゴクゴクとヘルミナの持っていたジュースを飲む。


「あ、飲み物取ってきますねー」


 俺とヘルミナのグラスを持ってさっとこの場を離れるリルラ。空気を読める子だ。ヘルミナのジュースを強奪してたけど。


「彼女の武器は……知っての通り、銘の無いキミの師匠の作品だ」


「え、ええ。何度か切れ味付与などさせていただいていますから知ってますが……え、Sランク魔物のってことは、この前の魔物のですか!?」


「その通り。せっかくだから最高の腕前の職人に頼みたくて」


 本当は冬子と一緒に言うつもりだったんだけど……彼女は今お色直し中だからね。ってかかなり時間かかってるな。
 ヘルミナは少しぽかーんとした後、困惑気味に口を開く。


「その……私で、いいんですか?」


「キミがいいんだよ。俺も冬子も同じ気持ちさ」


 俺は神器があるから武器に頓着しないけど、彼女は結構拘る。今使っている直剣も、実はかなり調整が入っているらしい。マルキムなんて一から作ってもらってるらしいしね、ヘルミナに。
 そんな二人が「是非」って言うんだから、腕前は間違いない。っていうか、俺だって神器を手に入れるまではお世話になってたしね。


「その……討伐部位から剣をってなると結構かかりますが……いいんですか?」


「ああ、もちろん。必要なものはこっちで用意するからさ」


 ヘルミナは少しだけ思案する顔をした後……グッと気合いを入れた顔を見せてくれた。


「是非やらせてください」


「ありがとう」


 そこにリルラが戻ってきて、俺とヘルミナにグラスを渡す。


「なんかよく分からないですけど商談でもまとまりました?」


「大体合ってる」


「ついでにマスター、私のナイフの強化もお願いしたいのですが」


 どこからともなく現れたリャンがナイフを取り出す。


「あのSランク魔物の糸を使う能力を付与出来るようにしたいのですが……」


「それなら一晩あれば出来るので明日お渡し出来ますよ」


 あっさりと言うが、これも本来であれば相当な腕前が必要なことなんだろうな……。
 暫く四人で喋っていると、お色直しを終えた三人もこちらへやってきた。


「さっきは見苦しい姿を見せたな」


「ヨホホ、お騒がせしましたデス」


「お化粧崩れると直すの大変なんですよー……」


 俺は男だからその苦労は分からない。


「んー……男性なら川に飛び込んだ後くらいの大変さですー」


「わお」


 苦笑していると、既に女性陣が姦しく話し始めていた。


「っていうかトーコさんはスタイルいいですね」


「そ、そうか? ふふ、ありがとうリルラ」


「ええ。どこぞ以外は、ですけど」


「よし、抜刀術を披露してやるからそこを動くな」


「トーコさん、リルラさんより小さいのでは?」


「さ、流石にそれはないだろ!?」


「ヨホホ! ……ちょっと、その……ワタシはノーコメントで」


「というか今日、どれだけ重ねたんですか? それ」


「……リルラ、世の中には聞いちゃいけないことがあるんだ」


「えっとー、確か――」


「ま、マリルさん! マリルさん後生ですから言わないでください!」


 楽しそうだ。
 ヘルミナに「一応冬子とも話しておいて」と言ってからその場を離れる。女子会が始まれば男は退散しないとね。
 料理をいくつかつまみ、さてと皿に乗せていると関西弁で声をかけられた。


「キョースケさん、おめでとうございます。なんや今日は一曲せぇて言われましたんで、後で披露させていただきますわ。リクエストはあります?」


「おめっとさん、キョースケ。アレやな、最初はどう見ても普通のガキやったのに……成長したもんや」


「ふぇぇぇぇぇ……そのせいで仕事が終わらないですー……。でもおめでとうございますー。というかありがとうございますー……アンタレスを救ってくださって……」


「皆ありがとう。カリッコリーへのリクエストは……なんかカッコいいやつで」


 カリッコリー、ギルドマスター、そしてシェヘラ。大男とアフロに連れられてるせいでシェヘラが浚われた少女にしか見えない。


「犯罪の香りがするね」


「せぇへんわ。お前がいっつもこの子のことビビらせとるから、ギルドで新人泣かせって異名つけようかって話出てるんやけど……」


「いや俺のせいで泣いてるんじゃないよね、シェヘラって」


「ふぇぇぇぇ……」


 こいつマジで一回しばくか。
 ギルドマスターが「冗談やけどな」って言うからホッとして俺は一杯呷る。


「これから先大変やろうけど……ま、頑張り」


「いつでもうちの店来てくださいね。新曲の楽譜いれときますんで」


「ありがとう」


 その後は、皆でゲーム大会をやったりカリッコリーの演奏を聴いたりとパーティーらしいことをして過ごした。
 皆から祝われるというのもいいものだね。


「ねぇ冬子」


 そんなパーティーの終盤、俺は彼女に声をかけた。
 理由なんて無い、ただ何となく名前を呼んだだけだった。


「なんだ? 京助」


 くるりと振り返った冬子は本当に美人で、大人びていて――でもその中にはいつもの彼女らしい凛々しさと可愛さが感じられて。
 まるでその瞳に吸い込まれるように――




が合った時、欲しいと思えばそれが恋だ』




 ――ふと、タローの言葉がフラッシュバックした。
 それのせいで固まっていると、冬子が不思議そうな顔で俺の頬に手を触れさせた。


「どうした? 京助」


「……俺もマリトンを引きたくてね。カリッコリーの後だから大分アレだけど。せっかくだから冬子が歌ってくれない?」


「えっ、えっ……み、皆の前で? …………ま、まあいいが……」


「じゃあ決まりだ、行こうか」


 彼女の手を引いてホールの前の方へ。


 こんな幸せが続くと思ってた。
 でも違う、幸せは続くものじゃない。
 常に勝ち取るものなんだ。
 皆で一緒に。
 皆で・・、一緒に。
 それに気付くのは。
 もう少しだけ後の話。

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