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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

134話 甘味なう

 さて翌日。
 俺は冬子と一緒にアンタレスの街中に繰り出していた。


「甘い物だぞ、京助」


「そういう約束だったからね」


 彼女と先日約束した甘い物を食べに来ているのだ。
 王都まで行こうかとも思っていたけど、修業が本格的に始まった今は流石にそれほどの時間は取れない。こんの修行と、その後師匠に付けてもらう稽古との合間時間しかないからね。


「まあお昼ご飯ついでにデザートって感じになっちゃったね」


「別に構わない。……もしくは、夜に連れて行ってくれてもいいんだぞ?」


「それもいいけど……さっきも言ったけど、流石に王都とかアンタレスを離れるならみんなと行かないとね」


 王都から帰ってくる途中で覇王にやられたんだ、遠出するなら出来る限りみんなで固まって動きたい。
 それは嫌だ、二人で行きたいと冬子が言うのでアンタレスで回ることになった。


「よー、『魔石狩』。今日はデートかい?」


 サリルがひょいと手を振ってくる。どうも彼は今からクエストのようだ。


「デートじゃないけど、冬子とちょっと甘い物でも食べにね。そっちはクエスト?」


「ああ。ちょっと早めに昼飯を食って今からクエストだ。お前らAランカー以上がクエストにあまりでなくなったせいで忙しくてな」


「……あー、それに関してはギルドの方に文句を言って。俺にはどうにもならないから」


 揶揄うような表情なので本気で言っているわけじゃないだろうけど、働けないのも事実。俺は苦笑しながら肩をすくめた。


「はっはっは、その代わり稼がせてもらってんだ。文句はねーさ」


 朗らかに笑うサリル。ドワーフのような体つきで笑うと、地面が揺れやしないかと思ってしまう。


「ただまあ、それとは関係ないんだが……ここ最近妙な噂を聞いたから気を付けた方がいいぜ?」


「妙な噂?」


「おう。いやな……ちょっと耳をかせ」


 俺がサリルの方に耳を寄せると、「大したことじゃねえと思うんだが……」と前置きしてから話し出した。


「奴隷嫌いってお前、言ってるだろ?」


「うん、正確には奴隷を不当に扱う人が嫌いなわけだけど」


「どっちでもいい。とにかく、だな。最近は、諸々あったせいで奴隷を殴ったりしてる奴は見ないだろ?」


「そうだね」


 奴隷に関しての問題がアンタレスで立て続けに二件起きた。勿論、前領主とアクドーイが捕まったことだ。
 これらのおかげか、ここ最近のアンタレスではあまり奴隷を大っぴらに使う人はいなくなった。今でも使っているのは、以前から奴隷に対してもきっちりとした待遇で扱っていた人くらいだ。特に獣人奴隷を使っている人は減った。


「その件にお前が絡んでるって噂があってな……噂は噂を呼ぶ、ってわけじゃねえけど、キョースケは奴隷を扱ってる奴等を問答無用で襲いかかるって言ってる輩がいる」


 ……わお。
 どこかで……ってのは、まあギルドは全部知ってるんだからそこから漏れたんだろう。壁に耳あり障子に目あり、だ。障子ないけど。


「もちろん、俺らはお前がそんな話が通じねえ奴だなんて思ってねぇ。けど一部の奴等はそのことでお前にビビってる。それともう一つ……奴隷を馬車馬のごとく働かせて利益を出してた連中がこの流れで不景気になってるらしくてな。逆恨みされてるかもしれねぇ」


「へぇ……」


 まあ、オルランドがアクドーイを捕まえた時に、ついでにアンタレスの違法奴隷を解放したり、国に引き渡したり(国同士の取引が無く獣人の国に返せないから、らしい)したようだからそのあおりかな。


「だから、まあ……お前をどうこうできる奴がいるとは思えないが、一応な」


「ん、ありがとう。気を付けるよ」


「じゃな!」


 サリルはニッとカラッとした笑みを浮かべ、手を振って去っていった。


「なんだったんだ? 京助」


「実はかくかくしかじかで」


「あー……うん、まあ院長に言ってベッドを開けておいてもらうか?」


「へ? 流石にアンタレスのチンピラくらいじゃ俺はやられないと思うけど」


「いや、チンピラのベッドをだ」


 そっちかい。
 俺が苦笑すると冬子はつん、と頬をつついてきた。


「殺すなよ? 雑魚なら特に。無駄だからな」


「……分かってるよ」


 自分で言うのもなんだけど、俺を襲うチンピラに手心を加えるつもりはない。
 しかし、最近は俺も学んだ。殺してしまうよりも、なかなか治らない怪我をさせた方が相手に対してダメージがあると。
 死んでいなければ治療に時間がかかったり、金もかかったりする。そのための人員が割かれたりする。
 さらに生きている人間がいた方が見せしめにもなる。


「ちゃんと生かして、向こうに恐怖を植え付けて俺達を二度と狙わせないようにするんだよね」


「…………なんか違うが、まあいい」


 冬子は呆れた表情のまま俺に近づき、そっと寄り添ってきた。


「歩きづらいんだけど」


「リューさんの時は何も文句を言わなかったのに、ずるくないか」


「いやそうだけど……」


 あの時はご飯食べてたから邪魔にならなかったけど、今は歩いてるからねぇ。
 仕方が無いので俺はそのまま歩く。


「じゃあどこに食べに行こうか」


「そうだな、『甘味処キャラメル』に行くか」


 ウキウキ声の冬子。こういうところを見ると、日本にいた頃の彼女と変わらないな、と思う。甘いもの好きで、ちょっと意地っ張りで、とても真面目な冬子。
 変わった部分と言えば、こうして俺にくっついたりしてくるようになったことくらいかな。


「なんか最近出来たらしいね。名前からして甘い物が出てきそうだ」


「なんでも水飴で甘さを出したケーキだそうな」


「それは美味しそうだ」


 甘い物を食べる場所が増えるのはいいことだ。
 俺たちはのんびりとした気分で歩いていった。




~~~~~~~~~~~~~~~~




「美味しいな、このケーキ」


「そうだねぇ」


 イチゴ(のような果物)やリンゴ(リンガリンガというらしい)などの載ったフルーツケーキが出てきた。生地に塗られてるのは生クリームじゃないようだけど、ふわりと溶けるような甘さだ。何なんだろうね、これ。


「コーヒーも美味しいし」


「まあ禁煙なようだが」


「……仕方ないだろうね。どうも子どももこの店には来るらしいし」


 大人に混じってちらほら子どもが親と一緒に食べに来ていた。この店が出てすぐというのもあるが繁盛しており、席は満席。その三割くらいが子どもって感じだ。
 甘党ってのはどの世にもいるもんなんだね。


「お待たせしました」


 ぴょこん、と垂れた耳がかわいらしく動く獣人の女の子がウエイターをしている。首輪がついているところを見るに奴隷のようだけど目には輝きがある。
 どこかで見たことあるな、と思ったらこの前リャンと話していた子だ。最近、獣人の友人が出来たと話していたし、その友達の一人かもしれない。
 友達が作れるってのは、自由な証だろう。


「……俺がこの街に来た時よりも、暮らしやすくなっているといいけど」


「大丈夫だろう。ピアも言っていたじゃないか。この街は住みやすくなっていると」


「ん、そうだね。……あれ?」


 さっきの子が、何やらAG風の男二人に絡まれていた。
 男の伸ばした腕がにぶつかって、コーヒーをかけてしまったらしい。
 かけられた男がギャンギャンと叫んでおり、もう一人は座ったまま足を組んで不機嫌そうにしている。


「テメェ! 亜人族のくせして俺らにたてつく気か!? ああ!?」


 店内に響き渡る怒声。周囲のお客さんも委縮してしまっている。


「も、申し訳……」


「謝って済む問題じゃねえんだよ! 亜人族だから失敗するんだ!」


「チッ、そもそも亜人奴隷が働いてるとかどうなってやがんだこの店は! テメーらは俺らの顔をうかがって股開いてりゃいいんだよ!」


 因縁の付け方が完全にヤクザだ。店の人も、流石に武装しているAGに注意出来るほど肝は座っていないらしい。
 俺はため息をついて立ち上がる。


「京助、やりすぎるなよ?」


「んー……相手による」


 もし相手が手を出して来たら正当防衛だ。
 冬子は俺がそんなことを思っているのを察したのか、物凄く大きなため息をついてスッと指を一本立てた。


「パンチ一発までだ」


「あのくらいの雑魚ならお釣りがくるね」


 軽口をたたいて、怒鳴り散らしている男たちの前に立ちふさがる。


「やぁ、あまりいい趣味とはいえないね。店員を相手に怒鳴り散らすなんて」


「ああ!? 誰だテメェは! 引っ込んでろ! 俺達はこの奴隷に用があるんだよ!」


 ガァッ、と噛みついて来そうな勢いで睨んでくるコーヒーをかけられた男。


「そうもいかない。お客さんが委縮しているし、彼女は女性だ。さっきみたいな言い方は失礼だと思わない?」


「何言ってやがんだ。亜人の女なんかそういうこと以外に使うか普通!」


 そういうこと、の意味は解説されなくても流石に分かる。
 腹も立つが……久々にこの手の人種を見た。いや店員にいちゃもんつけたり因縁つけたりする奴はたまにいるけど、獣人相手だから何してもいいと思っているバカを久々に見た。


「ともかく、コーヒーをこぼされたくらいで騒がない方がいい。器が知れるよ。そもそも、俺たちAGは武装を許可されているという事実を重く受け止めた方がいい。力にはそれなりの責任が伴うんだから」


 半分説教、半分自分に言い聞かせるように言う。
 ……じゃないとぶん殴りそう。


「んだとテメェ! 何モンだテメェ! 俺のことを知らねえのか? CランクAG、『怪腕のゴズーキ』様をよ!」


 へぇ、異名持ちか。
 ということはそれなりの腕前なのかもしれない。……もっとも、ギルドに認められた異名でなく自分で名乗ってるだけかもしれないけど。


「生憎知らないね」


「チッ、だから田舎のAGは嫌なんだ! テメェ、名乗れ。俺様にたてついたんだからな!」


「俺? 俺はキョースケだよ」


「ああ!? 聞いたことねえよボケ! 第一そんな細腕でAGなんかやってられんのかよテメェ! 表に出ろ! それか金払え!」


 自分で言うのもなんだけど、俺はそれなりに知られたAGだ。そんな俺を知らないとなると……なるほど、最近、それも昨日今日アンタレスに来たんだねこいつら。
 そしてかなり支離滅裂なことを言っている。AGが犯罪行為を行ったら罰金なのを知らないんだろうかコイツは。
 恐喝なんてもってのほかだ。バレたら罰金だけじゃなく、ライセンス没収だ。それを分かっていないのか、それとも分かっていてやっているのか……。
 何にせよ、こいつはバカだ。そしてバカが故に暴れ出すかもしれない。それなら表に出した方がいいね。
 怪腕(笑)は盛り上がり、俺の胸ぐらをつかんできた。


「おら、表出ろテメェ!」


「ん、取りあえずお店の中で暴れないでいてくれるならそれでいいよ。じゃあ表に――」


 と、そこまで言いかけたところで、もう一人の男が真っ青になって立ち上がり怪腕(笑)に縋りついた。


「ご、ゴズーキ! 今すぐ謝れ今すぐ土下座だ!!」


「ああ!? 何言ってんだメズーキ! こんな奴に俺が負けるとでも――」


「ちっげぇよ!! おま、バカ! だからあれほど情報を確認しろと! こいつ、キョースケってアレだよ! AG仲間に言われただろ! アンタレスにはぜってぇにキレさせちゃいけねえ奴がいるって! 『魔石狩』だよ『魔石狩』! 敵対者を全員灰にする、特に奴隷を使ってたり奴隷を物扱いしたら確実にキレて地の底まで追いかけられて死んだ方がマシって言われる目にあわされるって噂の!!」


 どんな噂だよ。
 しかし怪腕(笑)はハンッ、と鼻で嗤い俺を指さしてきた。


「馬鹿言ってんじゃねえよメズーキ! 『魔石狩』は身長三メートルの大男だそうじゃねえか! 顔も鬼のようだって話だろ? そんで、黒髪で、槍を持っていて、瞳の色が茶色と紅のオッドアイで……?」


 と、俺の髪、瞳、槍を見て、ひくっ、と頬をひきつらせる。


「で、た、確か……火の魔法が使えて……」


 俺はボッ、と炎を出してみる。


「えっと、なんか女を常に侍らせてて……」


「京助、えらく時間がかかってないか? 大丈夫か?」


「あ、皆避難した?」


「いや、どうせコイツラが暴れても京助に敵うわけないからって皆落ち着いてケーキを楽しんでる」


「どういう状況」


 だらだらだらと汗を流している怪腕(笑)は、首を振って「そ、そう!」と叫ぶ。


「あれだろ!? なんか空も飛べる化け物だとか! ほら、そんなわけねぇだろ、こいつは同姓同名の別人――」


 ふわっ、とちょっと浮いてみた。


「マジですんませんでした!! ホント、二度と暴れません!! だからどうか、どうかあ!!! ご、ゴズーキはどうしたっていいんで! 俺はほら、なんもしてないんで! ちゃんと奴隷も尊重しますからあああああああ!!」


「め、メズーキてめぇ卑怯だz……ホントすんませんでしたぁぁぁぁぁぁああああ!!! 言葉遣いとかめっちゃ気を付けます! 暴れません! ど、奴隷とかそんなこと言って蔑みません二度とやらないんで許してください!!! あ、あと怪腕とか嘘ついてごめんなさい!! しかも俺Dランクです! ホントにホントにごべんなざぁぁぁぁぁい!!」


 ……いや涙目になって土下座されても。
 流石にここまで哀れな人間を殴るのも気が引けるので、俺は「次やったら地の果てまで追いかけてひき肉にするけど、一度だけ見逃してあげる」と言ってリリースしてあげた。森へお帰り。


「……どんな噂になってるんだろ、俺」


「あの噂、半分くらいは私も聞いたことがあるぞ。確か前領主の元部下とかで罪が軽微だった人とかが流したとか」


「oh……。ま、まあ取りあえず誰にも被害が無いようで何より」


 俺がそう言って席に戻ると、先ほど助けた獣人の子がとててと駆け寄ってきた。


「こんにちは、キョースケ様、トーコ様。ピアさんとは懇意にさせていただいています、ジューガリリカーと申します。ジュ―とお呼びください。先ほどは助けていただきありがとうございました」


 ジュ―がペコリと頭を下げる。どうでもいいけど獣人たちは名前が憶えづらいんだね、全員。


「ん、リャンと仲良くしてくれてありがとう。リャンから聞いてるんだろうけど一応。AランクAG『魔石狩』のキョースケ・キヨタ。別に様づけしなくて構わないよ」


 向こうは俺の名前を知っているのはわかっているけど、一応フルで名乗る。異名を持っている身としてはしっかりそこまで名乗るのが仕事みたいなもんだからね。


「では私も一応。CランクAG、トーコ・サノだ。私も様づけなんてしなくて構わない。トーコと呼んでくれ」


「ではキョースケさんと、トーコさんで。私の失態なのに庇っていただきありがとうございます」


 土下座せん勢いで頭を下げるジュー。


「大丈夫だよ、それより怪我はない?」


「ええ、特に何もされませんでしたので……」


「それはよかった。無事で何より」


 俺のセリフにジュ―は一度微笑み、そしてまた頭を下げた。


「ありがとうございます。……申し訳ございません、仕事中なので失礼いたします。もしも主人から許可が出れば後日改めてお礼に伺いたいと思います」


「別にいいのに」


 断ると、彼女は垂れてる耳をフルフルと揺らしながら首を振った。


「いえ、是非お礼させてください。そうでもしないと気が済みません」


 頑ななジュー。お礼をさせてくれって言っているのにこれ以上断るのも失礼か。


「……じゃあ、一度うちにご飯を食べに来て。そこで色々話を聞かせてくれると嬉しい」


「はい。では失礼いたします」


 そう言って仕事に戻っていく彼女を見送ると、何故か冬子がジトっとした目で見ていた。


「……えーと、冬子?」


「いや何、お前はなんで前の世界ではモテなかったんだろうと思ってな」


 それを今言う理由を知りたい。
 冬子は呆れ半分、嬉しさ半分と言った顔になって椅子に座り直すとメニューを開いた。


「まだ時間はあるし、もう少し食べて行くか」


「ん、そうだね」


 それにしても……なんであんなに恐れられているんだろうか俺は。


「いやぁ、先ほどの立ち回り見させていただきましたよ」


 唐突に横から話しかけられた。
 何だろうと思って顔を上げると、そこには貼り付けたような笑みを浮かべているオジサンが立っていた。


「どちら様?」


「申し遅れました。私はヒトイートと申します。こういう会の会長をやっていまして、はい」


 そう言って名刺を渡された。
 そこに書いてあったのは……。


「……『不当な扱いを受ける弱者を救済する会』?」


「ええ、世の中には虐待されている人や助けを待っている人が大勢います! そういう人達を救済したいんです! 奴隷解放を掲げているキョースケさんならきっと私どもの思想に共感していただけると!」


「へぇ……」


 俺があまり乗り気でない声を出したからか、ヒトイートは焦ったように付け足す。


「もちろん、今すぐ加入していただこうとは思っておりません。一度だけでいいので私たちの会を見ていただけませんか? 一度だけでいいので! 一度だけで!」


 そう言って握手を求めてくるヒトイート。
 俺はその手を見て――

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