異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

133話 チーム名なう

 午前中の魂の修行が終わり、お昼ご飯。マリルが用意してくれていたので、俺達はありがたくいただいた。今日のメニューは冷や麦……のような何か。まあパンもあるから麺類もそりゃあるよねっていう。
 ちゅるちゅるとすすりながら、俺は午後のことについて話す。


「どうせ俺達はAGとしての活動は制限されているからね。今のうちに修業しようか」


「ヨホホ、蓄えは大丈夫なんデスか?」


「はいー。まあキヨタさんが高給取りってのもありますけど、基本的に暫くは大丈夫ですよー。まあ、そのうちギルドから依頼が来ると思いますけど」


「依頼はなるべく出ないように、じゃなかったの?」


「木っ端な依頼で死なれるのが困るだけなのでー。ギルド側が依頼を厳選するって言ったらいいですかねー」


 そういえばタローもいろんな依頼で方々を走り回っているみたいだもんね。


「それなら、さっさとチーム登録する方が吉かな。チーム登録さえしてしまえば来る依頼も増えるかもしれないし」


 偶には外でクエストしないと修行の成果も確認できないだろうし。
 シュンリンさんと待ち合わせしているのはギルドだから、修行の前にちゃっちゃとチーム登録するべきだろう。
 結局名前はいいのが思いつかなかったが……。


「別にいいのが思いつかなかったならシュヴァルツ・フランメでもいいぞ」


「……黒い炎って、冷静に考えたら意味が分からないかな」


 というか黒い炎なんて出せない。


「それ以前に私は普通の炎も出せない」


「うーん……」


「まあよく分からんが、別に凝る必要も無いだろう。そんなに拘らなくても……オレの知り合いは出身地からとってたりするぞ」


 マルキムが食後のコーヒーを飲みながらそんなことを言う。


「あー、なるほど。……俺らならアンタレス?」


「でもアンタレスっていうチームはもうあったはずですよー。現役かどうかまでは忘れましたけど」


「じゃあアンタレスにちなんでスコルピオン? それだけだとつまんないな」


 それに、それだと大鎌使いがチームにいないと締まらない。


「あとはリーダーの異名から取るってのもある」


 リーダーの異名となると……。
 俺の『魔石狩』か。


「懐かしい名前だな……」


「懐かしいも何も、割とその名前で呼ばれることはあるだろうお前は」


 冬子から少し呆れた声をかけられるが、そう言われれば確かに。


「そういえば、あの時……俺が異名を付けられるとき、『黒は既にいる』って言われたんだけど、あれってタローのことだったんだね」


 確かタローは『黒のアトラ』だったはずだ。初対面の時に名乗っていた。


「後は目標とかだな。リュウゼツランは竜を必ず殺すって意味でつけたらしいし」


 なるほど。


「目標ってのはいいかもね」


 俺がそう言った時、ポツリと冬子が呟いた。


「『頂点超克のリベレイターズ』」


 ……ちょっ、その名前。


「冬子……よく覚えてたねその名前……」


「お前が考えた名前だから別にいいだろう?」


 は~……とため息をついて、冬子の額にデコピンする。
 皆はなんだかわかっていない様子だけど、俺は苦笑いしながら説明する。


「……昔……って言う程昔でもないけど。何年か前に俺が書いた小説の主人公たちのチームの名前。割と状況は被ってる」


 違うのは男女の数かな。……ラノベラノベし過ぎてハーレムが行き過ぎてるような状態の小説だったからねアレ。
 しかし懐かしい名前を出してきたものだ。
 俺は苦笑いしながら……冬子の鼻をつまむ。


「ふみゅっ! ……何するんだ京助」


「いや、黒歴史を思い出させられたから取りあえず攻撃しておこうかと思って」


 ……他に名前も思いつかないしいいか。


「皆、どう?」


「マスターがいいと仰るのでしたら私には何も文句はありません」


「ヨホホ! ワタシは気に入ったデスよ」


 キアラはニヤニヤと楽しそうに俺を眺めているので反対は無いとみていいだろう。


「ちなみに、意味はなんぢゃ?」


 厨二病に意味を聞くな。
 俺は咳払いしてキアラの質問をスルーし、腕を組んで宣言する。


「じゃあ、俺達のチーム名は『頂点超克のリベレイターズ』で」


 まさか自分が小説でつけた名前をここで使うことになるとは思わなかったけど。
 黒歴史とはいえチームメンバーが嫌がっていないなら別に構わないか。そもそも、こっちの世界のセンスじゃこの名前が黒歴史ってのはわかるまい。
 ……四字熟語と英単語とかヤバいね。流石中学時代の俺。そして厨二病。


「ギルドで登録するのになんか必要なものとかあるかな」


「特に無いですけど、チーム名を自分で書けると喜ばれますよー。昔、全然違うチーム名になっちゃってギルドに物凄い抗議されたことがあるんでー」


「……こっちの世界に来てすぐは漢字で書いてても相手に伝わってたのに、最近はダメなんだよね」


 あれはなんでなんだろう。


「こっちの世界に来てすぐは、主神様の加護があったんぢゃよ。今は大分薄れておるがのぅ」


 主神の加護……。
 俺にとって嫌なことの一つ。いずれ失われるかもしれないチート。
 微々たるものとはいえ、無くなると大分困るよ言語系は。


「……ってことは、いずれ言葉も通じなくなる?」


「いや、それは無いのぅ。言語はそもそも似たような言語が使われておるはずぢゃからな。書けなくなるだけぢゃ。本来ならば読めなくもなるんぢゃが、既に加護無しでも読めるようになっておるんぢゃろう。……お主らは本が大好きなようぢゃからな」


 確かに、そういえばこっちの世界でも書物はよく読む。もっぱら魔物の生態とか、あとは魔法系とかで図鑑や実用書みたいなもんだけど。
 ……そういえば意識はしてなかったけど普通に読めるようになっていたのか。


「確かに書く機会はなかったもんね」


「すぐに覚えられると思いますけどねー」


「今日明日書けるようになるもんでもないし。じゃあ俺は行ってくる。晩ご飯は家で食べるから」


 活力煙を咥えながら立ち上がると、リューが火を着けてくれた。


「……ありがと」


「ヨホホ! これくらい造作も無いデスよ」


「ん。終わったら連絡するね」


 ヒラヒラと手を振って俺はギルドに向かって家を出るのであった。


「ところで、チーム名の意味はなんなんぢゃ?」


 ダッシュでギルドに向かった。




~~~~~~~~~~~~~~~~




「では、『頂点超克のリベレイターズ』ですね。あわわわ……とうとうAランクチームになっちゃった……どうしよう、お仕事増える……!」


 シェヘラが真っ青になりながら俺のチームを受理してくれる。……なんでお仕事増えるんだろう。


「あうう……い、今ギルドから指定が入っているAGさんはギルド指定以外のクエストは受けないようにしてもらっているんですが……。その、私はキヨタ様を担当しているので、指名依頼を全部断っている現状でして……ああ! 言っちゃった!」


 この人ポンコツなんだろうか。いや、対人的な意味ではポンコツなのは知ってたけど。
 取りあえずなるほど、と頷いておく。


「俺への依頼を弾いて、別の人に受けさせたりしてたと」


「は、はいぃ……ああうう、クビにしないでください……」


 マリルの方が頼りになったよね感はあるな……。


「何度も言うけど、クビにする気はないしクビに出来る権限も無い。だからクビにしたりしないよ」


 溜息をつきながら、なるべく安心させるような笑顔を浮かべる。
 しかしシェヘラは聞いてないのかアワアワとしたまま再び頭を下げてきた。


「あうう……私はダメなんです……ダメな子なんです……昔から何をやってもダメなんです……」


 こりゃ駄目だ。
 しかし俺はふとタローの言葉を思い出し、彼女に伝えてみることにする。


「タローの――ああいや、『黒のアトラ』の受け売りだけどさ。自分を信じるのが『自信』らしいよ。取りあえず、自分の出来たこと、出来ることを思い出して『それは私にも出来たんだ』って思いだしながら仕事をしてみたら? ……って、俺じゃ説得力に欠けるかな。今度、彼に訊いてみな。きっと、今の自分を打開する方法が分かるよ」


 なんか言っててよく分からなくなってきたから、タローに丸投げする。彼が「自分が通った道だから」と言っていたけど、やはりまだ道半ばの俺じゃよく分かんないことになっちゃうね。
 シェヘラは一瞬ポカンとした顔になるけど、すぐにブンブンと首を振り出した。


「ふぇえええええ!! む、無理ですよSランクAGと会話するなんて! それに私は彼の担当じゃないですし!」


「今、AランクAGと話してるんだから大丈夫でしょ」


 それか、一回キアラに話させればいいだろうか。
 ともあれ、チーム登録はすんだからもうギルドに用はない。
 未だにペコペコしているシェヘラに軽く声をかけて、その場を後にする。
 そしてギルドにそのまま併設されているカフェというか軽食スペースのようなところに移動して、シュンリンさんに声をかける。


「どうも、お待たせしました」


「ふぇっふぇっふぇ。別に畏まる必要は無いぞ。さて、行こうかの」


 よっこいしょ、と重い腰を上げて地下の修練場に……は行かず、外へ歩いていく。


「どこで稽古をつけてくれるんですか?」


「ふぇっふぇっふぇ。外の森じゃよ」


 外の森……?
 この辺は治安がいいし、外の魔物もそんなに強くない。最近何故かBランク魔物が出てくるみたいだけど。とはいえBランク魔物くらいに苦戦するわけがないので、それでも構わないんだが。


「なんで外へ?」


「修練場でも構わぬが、外の方が貫いてもいいモノが多いからのぅ」


 なるほど?
 まあ的は確かに多いか。
 何となく納得しつつアンタレスの外へ。


「ふぇっふぇっふぇ。さて、キョースケよ。槍の真髄とは何じゃと思う?」


「槍の真髄?」


 そう言われても、これまで我流でやって来た身である俺にはそんなことはわからない。とはいえ、想像することは出来る。
 槍の真髄、とは。


「やっぱり、応用というか攻撃パターンが多彩なことでしょうか。突いてよし、払ってよし、斬ってよし。近距離、中距離ともに連打もしやすい。剣は引き戻す動作が必要ですが、槍の場合は回転させるだけで攻撃できますからね」


 ゲームでも攻撃方法の多彩さが好きになった理由だったからね。
 実は、俺は槍という武器が好きだ。今言った通りの理屈で俺の性に合っている。最悪の場合は片手でぶん殴って片手で槍を振り回す、なんて芸当も出来る。
 というわけで胸を張って答えたが、シュンリンさんは「ふぇっふぇっふぇ、青いの」と嗤った。


「槍は、基本的には突きを主体とした戦い方をする。……まあ、流派にもよるがの」


 シュンリンさんは槍を構えると、無造作に突き出した。……無造作、に突き出したはずだが、風切り音が尋常じゃない。
 しかし特に力を入れたようには見えない。なのにこの速度。


「つまり突きが槍の基本であり真髄とも言える。さて、ではキョースケよ。突いてみよ」


 突けと言われたので、俺は構えて真っ直ぐ突く。こっちに来てからは毎日振っているから、それなりに様にはなっているつもりだが。
 シュンリンさんはニッと口の端を吊り上げると、もう一度構えるように言った。


「では、少し触れるぞ」


 俺が構えると、シュンリンさんはまず俺の内ももに触れた。そしてミリ単位で俺の身体を動かしていく。
 何をされているのか――まあ俺の構えを修正されたのだろう。動かされるたびに、なんだか不思議な感覚になる。
 肩を、腕の位置を直され、さらに背中に手を当てられて――


「……ぬしゃよ、背骨が歪んでおるぞ。あと、ふむ……肋骨も少し歪みがあるな。あとは左腕か」


「え?」


 ――そんな馬鹿な。
 確かに、背骨以外は覇王にやられたところだ。しかしキアラが綺麗に治してくれたからそんな傷が残っているはずが無い。


「ふむ……ぬしゃは戦いの際に無意識に左手を庇っておる様子があった。ツァオ……否、今は覇王と言うんじゃったな? ……あ奴にやられたというのなら、それが少しトラウマになっておるんじゃろう」


 そんなつもりはなかったけど……。無意識って奴か。


「ふむ、背骨は……ただの猫背じゃな。ワシャでも治せる。肋骨と左手は素人目には分からんよ。しかも魔法師に治されたのならなおさらじゃ。しかし相当腕がいいんじゃろうな、ぬしゃを治した魔法師は。この程度の歪みなら構えでカバーできる」


「そりゃ……世界最高峰の魔法師ですから」


 何せ神だ。
 シュンリンさんは俺の背中に手を当てると、ぐりっ! と俺の骨を動かした。
 ……せ、整体? な、なのかな? 物凄く痛い……!


「少し荒々しいがの。まあこれで治ったはずじゃ。ぬしゃは猫背で歩く癖をどうにかせい」


「は、はい」


 何事も無かったように俺の構えを修正するシュンリンさん。
 そしてさらに手の指にまで彼の修正は及び……数分後、やっと修正が終わった。


「これで出来たぞ。ぬしゃの構えじゃ」


 一見、今までの構えと大差ないように見える。
 しかし――俺が軽く前方を突いてみると、


「ッ!?」


 ――全ての力が槍に伝わっている、それがはっきりとわかる。


「ぬしゃに最も合った構えから繰り出される、基本となる技、突きじゃ。どうじゃ? 感想は」


「…………全ての力が槍に伝わって、自然に最初の構えに戻ってくる。無駄が全て消えたような感覚……」


「うむ、よしよし」


 そう言うと、シュンリンさんは再び俺の構えをチェックする。先ほどよりは多くなく、指や足元を直された。
 そこまでやってから、シュンリンさんは頷いてから腕を組んだ。


「よし、今日から千本、突きじゃ」


「……毎日、ですか?」


「当り前じゃ。少ないくらいじゃぞ」


 いや少なくないけど。
 そんな思いが顔に出ていたのか、シュンリンさんがため息をついて俺の額を突いてきた。


「最終的に、何度突きを出しても寸分狂いなく同じ構えに戻れるようになればよい。そうすれば次の段階じゃ。……そうやって一歩ずつ進んでいけば、ワシャくらいにはなれるじゃろ」


「……何十年かかることやら」


 ワシャくらい、って。尋常じゃない達人に言われると『ほんとかよ』っていう気分になる。


「構えの修正自体はそんなにかからん。ほれ、構えんか」


「はい!」


 俺は槍を構え、再び突きを繰り出す。
 そして戻すと、また構えのチェックが入る。今度は触れずに口頭で注意される。三度目なのでもう触れられずとも分かるが、やはり難しいもんだね。


「突きという攻撃はの、魔物には効きづらい。特にランクが上がるほどのぅ何故じゃかわかるか?」


「……魔物はデカいですからね。俺達で言えば爪楊枝にさされたみたいなもんになっちゃうんでしょう」


 切断と刺突ではそういう違いがある。……どうしたって、俺も巨大な魔物を殺る時はどうしたって斬る技主体で戦うようにしている。


「そうじゃ。だから槍はなかなか流行らん。流行らんが……それは極めておらんからそう思うだけじゃ。現にワシャは若い頃はSランク魔物を何度か討伐したこともある。流石に単独討伐は無いがの。しかしとどめはワシャじゃ。それも突きで」


 どんな化け物だよ。
 ……俺は一度だけ戦ったことがあるSランク魔物、ゴーレムドラゴンを思い出す。アレ並みの敵を突きで倒す、か。それも口ぶりからして『職スキル』を使ったんではないだろう。


「……ぬしゃの構えが直れば、ワシャがそれを教てやろう。『究極の突き』をのぅ」


「……『究極の突き』?」


 なんとも厨二心をくすぐるワードだ。
 俺がそう思っていると、シュンリンさんはヒョイと木の棒を構えて――ズンッ、と。その辺にあった木を貫通させた。
 ……木で、木を貫通って。しかも棒だぞ棒……。どんな貫通力だよ。


「そうじゃ。……これくらいやらんと覇王には勝てんじゃろう。しかしこれさえ覚えられれば――」


 ゴクリ、と唾を飲み込む。


「覇王なんぞ目ではない」


「……っ!」


 ぶるっ、と身体が震えるのが分かる。武者震いだ。
 俄然やる気が出た俺は、指先まで神経を使って先ほどの構えを取り、突きを始める。


「……一、二、三……」


「よい眼じゃ。……この様子なら、ワシャが理論だけ構築したあの技も習得できるかもしれんのぅ」


 ぼそりと呟いたシュンリンさんの言葉が気になったので槍を止めると、「これ」と注意してきた。


「構えが乱れておる。ちゃんと直しながらじゃ」


「はい」


 ――そりゃそうだ。ちゃんと基礎も出来てないのにその先の話を聞いてどうする。
 俺はふう、と一つため息を吐いて集中する。
 この修行の果てに、覇王アイツを倒すことをイメージしながら。



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