異世界なう―No freedom,not a human―
132話 朝一でなう
翌朝。俺は朝一で冬子のところへ向かった。
早朝から俺が訪ねてくるとは思って無かったようで、かなり怪訝な顔をする冬子。取りあえず中には入れてもらえたのでトランプを取り出す。
「一緒にダウトでもしない?」
「構わんが……」
暫くダウトをやっていると、ポツリと冬子が切り出した。
「……なんで朝から私のところに来たんだ?」
彼女が出したカードに「ダウト」と言うと、しぶしぶと場にあるカードを全部とる冬子。
「ちょっとね。それにしても二人でやるダウトってなかなか難しいね」
二人で冬子のベッドの上にあぐらをかいてトランプをやっていると、以前冬子と俺の家でゲームをやったことを思い出す。あの時は二人で延々、紅玉が出るまで狩ってたっけ。
「自分が持っているカードは相手が持っていないことが分かるからな」
「ポーカーにしよっか」
「そうだな」
いったんトランプを混ぜて切り直し、お互い五枚ずつドローする。俺のカードは……二のワンペアか。せめてツーペアにしたいところだね。
「じゃあ二枚チェンジ」
「ん……私は四枚だ」
「強気だね」
このトランプはつい最近俺が作ったものだ。リャンやキアラたちが知っているゲームだと俺と冬子は一切勝てないので、二人で遊ぶために作った。たまにリャンとかに見つかった時はルールを教えて一緒にやってるけど。
「朝の鍛練はいいのか? ……もう一回チェンジしたい」
「朝の鍛練は冬子と遊んだ後に行くよ。どうせ一緒に走るでしょ? リャンも冬子も。あ、もう一回チェンジするなら俺も変える」
今度は一枚捨てて、一枚ドローする。
冬子は二枚捨てている、あんまりいい手札じゃないのかな。
「いつもより早起きしたのは……わ、私とこうして遊ぶためか?」
なんか少し顔を赤くして尋ねる冬子に、頷いて答える。
「うん」
ちなみに、俺はこの家で起きるのが二番目に遅い。一番は当然キアラだ。
鍛練とかのために大分早起きしているつもりなんだけど、元々朝が早い冬子や、ショートスリーパーのリャン。そしてマリルも俺より一時間は早く起きているらしい。
ちなみにタローはいつ寝てるか知らないし、いつこの家にいるのかも分からない。ご飯時に顔も出さないしね。たまに朝か夜会うくらいだ。
「…………な、なんで?」
「なんでって……まあ、たまにはいいでしょ」
軽くはぐらかして、俺は手札を確認する。うん。これなら勝てそうだ。
冬子は「え? え?」と耳まで真っ赤になりくねくねしている。……さっきからなんで顔を赤くしてるんだろう。
まあいいか。
「そういえば罰ゲーム決めて無かったね、ポーカーなのに」
「ああ……そういえばそうだな。いつも通り――いや、待てよ?」
ふむと顎に手を当てて考える冬子。何か思いついたんだろうか。
「そうだ、一個だけ言うことを聞くというのはどうだ?」
「……別にいいけど」
チラリと自分の手札を見る。
フルハウス。
ぶっちゃけ、普通のポーカーで作れるであろう最強手でありこれ以上の手は基本的に出ない。つまり冬子がフォーカードとかストレートフラッシュとかを作ってはいない限り俺の勝ちだ。
万一にも負けることは無いだろうし、いいか。
「じゃあ、それで。ショーダウン」
ぱさっとベッドの上に俺は手札を置く。フルハウスだ。
そして冬子は――
「ふっ、私の勝ちだな。京助」
「……フォーカードって出る? 普通」
よりにもよってAのフォーカード。これは勝てない。
「これ、勝つ自身があったから言ったんでしょ」
「ふふ、慢心は油断を産むぞ京助」
してやったり、という顔の冬子。これはやられたね。
「しょうがない。じゃあなんでも言うこと聞こうか」
俺がそう言って後ろに手をついたところで……冬子はスッと俺の顔に顔を寄せてきた。
「京助……お前は隙がありすぎる」
「……なんか前も言われたね。別に隙だらけにしているつもりはないんだけど」
冬子ははぁ……と一つため息をつくと、俺の横に寝転がって来た。
「ほら、隙だらけだぞ?」
そう言って仰向けに転がる冬子。なんかよく分からないけど可愛い。
可愛いけど、意味が分からん。
「隙だらけって……必殺技でも撃てばいいの?」
「どうしてそうなる」
「いやそうなるでしょ」
冬子は残念そうな顔になりながら起き上がると、俺の唇に人差し指を付けてきた。
「……今朝のご飯当番を代われ。あと、今日は修業が終わった後一緒に買い物に行くぞ」
かぁっ、と頬を赤らめる冬子。俺は何となく冬子の額をツンと押してから立ち上がった。
「OK。……もっとも、俺は別に料理が得意なわけじゃないけど」
「別段得意か否かは関係あるまい。……私はお前の料理が食べたいんだ」
なんかカッコいいことを言う冬子。
そこまで言われちゃ仕方が無い。朝ご飯を作ってあげるか。
「その前に朝の鍛練だけどね。行こうか」
「ああ」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「おはようございますデス。……ヨホホ! 今日はキョースケさんが朝ご飯を作っているのデスね」
マリルとリャン、そして冬子が歓談しているところにリューが起きてきた。
俺は台所から彼女に挨拶を返す。
「おはよう、リュー。……ちょっと冬子との賭けに負けてね。美味しいかどうかの保証はしないけど、まあ食べられるものが出てくることは保証するよ」
「美味しそうな匂いはしていますよ~」
「ん、それはありがとう」
俺はベーコンを焼き、昨日の夜のトポロイモンが残っていたのでその肉汁で焼き、最後にテキトーなサラダを作ってからトーストを用意した。トーストにはさっき焼いたベーコンを載せた。
簡単なもの……というか、切る、焼くしかしてない男料理だけど腹くらいは膨れるだろう。
「前の世界でも別に料理に頓着してたわけじゃないからなぁ」
「でもお前のお母さんの料理は美味しかっただろう」
「母さんはね。……けどうちは父さんが壊滅的な腕前だったから半々で普通さ」
父さんが何度かご飯を作ってくれたことがあったけど、ダークマターじゃないけど普通に美味しくなかった。腹に入ってしまえば一緒、あとは火さえ通っていればいいという考え方だったからね。
なんて父さんのことに思いを馳せていたら、キアラも起きてきた。
「……ほっほっほ。今朝はキョースケが作っておるのか」
「おはよう、キアラ。嫌なら食べなくてもいいけど?」
ちょっと意地わるく言うと、キアラはニヤッと笑ってまだ配膳してないトーストをパクッと加えた。
「ほれ、はよう用意せんか」
「はいはい」
全員分を作り終え、俺も席に着く。
「そういえば、昨日は泊めていただきありがとうございますデス」
「別に構わないよ、リューなら」
他の人ならともかく、俺の魔法の師匠でもあるリューなら断る理由もない。
そう思って言うと、さらにリューが少し照れ笑いしながら頭を下げてきた。
「ヨホホ……では、もう一つ。ワタシをパーティーに加えていただけませんデスか?」
「リューはパーティーを組まない主義じゃなかったの?」
俺が問うと、彼女は自分のケモ耳をピコピコと動かしながら苦笑いする。
「ヨホホ……ワタシがパーティーを組むことを避けていたのは、この秘密がバレないためにでしたデス。けど、もう皆さんには話してしまっているので……。キョースケさんたちの力になりたい気持ちが一番にあるのデスが、これ以上ソロでやるよりは稼ぎやすいだろうという打算もあるデス」
確かに、彼女は魔法師。AGとして活動する時は誰か前衛と組む必要がある。上手いこと腕のいい前衛と組めなければ死ぬ可能性も高まってしまう。
しかし俺たちのパーティーに入っておけばその心配も必要なくなるのか。
チラリと冬子とリャンを見ると、俺に任せますという雰囲気。つまり反対って人はいないみたいだね。
俺はニコリと笑うと、リューに右手を出した。
「こっちからお願いしたいくらいだよ、師匠?」
「よ、ヨホホ……。キョースケさんに魔法を教えていたのがもう何年も前のように感じるデス。けれども、その……ありがとうございますデス。よろしくお願いしますデス」
彼女が俺の右手をがっしりと握る。これで……AGが三人になったね。となると、正式にチームを申請出来るようになったね。
「名前決めないとね」
「名前、ですか? ……はっ、もしかして私とマスターの子どもですか!?」
「いや意味不明なんだけど」
「京助! い、いいいいいつからピアとそんな関係に!?」
「キヨタさん……節操ないですね」
マリルも冬子も黙っていて欲しい。
俺ははぁとため息を一つついてから、トーストを齧る。
「あぐ。……俺達、これでパーティーメンバーのAGが三人になるでしょ? 俺と冬子、そしてリュー。だから名前を付けて申請出来るんだ。チームって言うらしい」
AGが三人以上で名前を申請しているパーティーのことをチームという。
なんでこんな別の言い方をしているかというと、例えば三人でも申請していなかったり、逆に魔法師ギルドには登録しているけどAGにはなっていない魔法師がパーティーにいたりするからだ。
「チームは三人から申請出来ますからねー。そうやって名前の付くパーティーになると受けられるクエストが増えます。ソロでは護衛依頼なんかは受けづらいですからねー」
チームにならないと受けられないクエストが割とある。AGが三人必要なクエストなわけだ。機密の問題だったりするようだけど、俺はよく知らない。
「AGじゃないと入れないところとかがあるんですよー。ギルドに関わっていたりするところですねー。あとは普通に護衛依頼や、警備依頼なんかは頭数が欲しいし、リーダーとその部下って形で動いて欲しかったりしますからねー」
「ほう」
「他にも……例えば、Aランカーがいればチームのランクもその人に合わせられるので、チームとしてAランクのクエストを受けられるようになります。実力はあるが運が悪く中々ランクが上がらない人でも、高ランクのクエストを受けられるようになるわけですねー。他にも常に複数人でクエストに当たれるので、負傷率、死亡率はグンと減ります」
ということらしい。
「というわけで、チームを組むからチーム名を決めないと」
「他のチームはどうなんだ?」
冬子の問いに、俺はトポロイモンを食べながら答える。
「サリルんところは『白い尾翼』って名前だったかな。他にも『灰色の熊』とか」
「色の名前を入れるものなのか?」
「そんなこと無いと思うよ、『墓地の司令官』とか『可能性の次元』とか、『トポロイモン』とか、『トースト』とかも聞いたことがあるからね。……まあ、結構テキトーにつけているっぽいよ」
トーストに至ってはどういう心境だったのか小一時間問い詰めたいところではあるけどね。まあセンスに走ってもいいんだろうけど俺はその手のネーミングセンスがないからねぇ。
「ヨホホ……ワタシとキョースケさんとトーコさんデスか」
「まあ実際はキアラもリャンも戦ってもらうんだけど」
だから五人パーティーか。キアラは魔法に関してはオールラウンダーで、近接戦で冬子、遊撃と斥候のリャン、遠距離からは高火力のリュー、そして大体どの距離からでも攻撃できる俺。
基本的には俺と冬子をフォローしつつ戦うことになるのかな。
「戦闘は出来ませんからねー、私は。それ以外でサポートさせて頂きますよー。……というわけで、何かチーム名を決めて今日にでも提出してきては?」
俺は食後のコーヒーを淹れながらふむと顎に手を当てる。
「そうだねぇ、まあこういうのはさっさとやるのが吉だからね。じゃあ何にしようか」
「京助に任せるよ。リーダーだからな」
「そうデスね。キョースケさんが決めたことなら」
なんか俺が決める流れになってしまった。
……さて、どうしたものか。
「黒髪が二人に黒いとんがり帽子だから、シュヴァルツ・フラメンとか」
「……ドイツ語にしておけばカッコいいと思ったら大間違いだぞ、京助」
一瞬でバレた。っていうか、ドイツ語あってるだろうか。
「まあ俺に一任してくれるっていうなら、今日中に考えておくよ。そろそろマルキムたちも来るだろうし」
そう俺が言った時、こんこんと玄関をノックする音が聞こえた。ちょうど彼らが来たらしい。
マリルが出てリビングの方まで彼らを連れてきてくれる。
「おはよう、マルキム。……悪いね、こっちまで来てもらって」
こっちが修行を付けてもらう側だというのに、師匠を呼びつけるってのはあまりいいもんじゃないだろう。
しかしマルキムは気にした様子も無くヒラヒラと手を振った。
「いや、むしろ隠れて修行するにはもってこいだ。どうせ魂のコントロールは広い場所が必要なわけじゃないしな」
「ありがとね。……じゃあ、さっそく修業開始か」
俺とリャンと冬子、そしてマルキムは二階の使っていない部屋へ行き、カーテンが締まっていることを確認する。一応、秘密特訓だ。
「さて、やるか。嬢ちゃんたちはコントロール、強弱をつけたりだな。キョースケはまず全身から魂を放出出来るようにならんとな」
「そうだね」
俺だけ冬子やリャンと違ってまだ右手からしか放出出来ない。マルキム曰く彼女らに比べて肉体の練度が足りていないかららしいけど。
所詮、俺の戦闘能力はこっちの世界に来てから身に付けた付け焼刃。ここからどう巻き返していけるかが勝負だね。
「というわけで、まずキョースケは右手以外から出せるようにしよう。それを徐々に全体に広げていく。嬢ちゃんたちはまず強くする練習だ。イメージとしては体内でぶつけて競い合わせて練り上げる感覚かな」
「体内でぶつけて……」
「ど、どういう感覚なんでしょうか。そもそもコレを出し入れするのも結構大変なんですが……」
「まあ、こういうのは慣れだな。体内エネルギーを感じて操作する……なんてのは、今まで生きてきてやったことは無いだろ。まずはエネルギーを感じるところからかな」
体内で増幅するのか。……魔力と同じ要領だろうか。
俺は練り上げるようにして魂を増幅させ、右手全体を覆うように放出していく。
「こんな感じ?」
「「「何で出来るんだ(ですか)!?」」」
三人がハモった。
「なんでって……俺は魔法使えるからね。魔力と似たような感覚でやってるんだよ」
「ああ……なるほど、なら左手から出したりは出来ないのか?」
「それは難しいね、あくまで右手を伝ってしか出来ない」
まあ、この辺は練習かな。
各々自分の課題が見えたところで、俺達は魂の練習に臨んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「ヨホホ、というわけでキアラさん……ワタシに魔法を教えて欲しいデス」
リビングでのんびりしていると、リューがペコリと頭を下げてきた。
キアラは彼女のそんな態度を見て、一度煙管を仕舞い向き直る。
(ふむ……)
瞳の光は強い。しかしそれ以上に彼女の声に籠る想いがハッキリとしていた。
即ち、置いていかれるわけにはいかないという想いが。
「キョースケのためか?」
一言。それだけでリューは少し照れたような顔になる。
「ヨホホ……分かりますデスか?」
「そりゃのぅ……妾はこれでも神ぢゃからな。その程度はわかる」
そう言いながらチラリとマリルを見ると、彼女は目をそらしてから肩をすくめた。皿洗いをしている彼女にこれ以上ツッコむのも野暮かと思い、リューに視線を戻す。
「この場におる女は皆キョースケ目当てぢゃ。まったく、妾が最初に見出したというのに」
「ヨホ? 見出したというのならワタシが最初デス。何せ彼の魔法の師匠デスからね!」
ふん、と胸を張るリュー。そういえばそうだったか。
「ほっほっほ、そのキョースケの師匠が妾に教えを乞いたいとな? ……正直な話、お主はBランク魔法師として充分以上の腕前ぢゃと思うがの」
「それじゃ足りないデス。……キョースケさんは覇王と戦ったんデスよね?」
「そうぢゃな。不甲斐ない話ぢゃが、妾は一撃でやられてしまっての。あ奴に全てを任せるしかなかった」
リューはキッと真剣なまなざしでキアラを見つめる。
「ワタシは、世界最強の戦いに割って入れるほどの実力はないデス。でも、恐らくキョースケさんは今後世界最高峰の戦いに挑んでいくんだと思うデス。その時に、足を引っ張りたくないのデス。だから……だから、もっと強くなりたいデス。せめて彼らの後ろを任せられるくらいには!」
(よい眼ぢゃ)
京助にも魔法については教えるつもりであったが、彼は本職の魔法師ではない。……いや本職以上の魔法を使えなくはないが。だが彼の魔法はあくまでスペックと出力に頼った部分がある。
モンスターマシンを使いこなせるように教えるのもいいが、彼女のようにしっかりと魔法師としての素地がある人間を育てるのも一興か。
そこまで考えたキアラは、ニッと笑って魔力弾を一つ指先に作る。大体、人の頭ほどある大きさだ。
それを見たリューがポカンと口を開くが、気にせず続ける。
「取りあえず、これが出来るようになってからぢゃな。無詠唱に拘る必要は無いが、魔法の詠唱は短縮できれば出来るほど実戦で使いやすくなる。そのためには魔力の操作が先決ぢゃ。……お主とて詠唱を短縮する術はいくつかあるぢゃろうが……何、妾は魔法のみで枝神になった女。お主を一流の……文字通り『魔法使い』にしてやろう」
ニッと嗤うと、リューの瞳に炎がともる。
(根性がある人間は、妾は好きぢゃぞ)
早速練習を始めたリューを見ながら、キアラは全員の成長に想いを馳せていた。
早朝から俺が訪ねてくるとは思って無かったようで、かなり怪訝な顔をする冬子。取りあえず中には入れてもらえたのでトランプを取り出す。
「一緒にダウトでもしない?」
「構わんが……」
暫くダウトをやっていると、ポツリと冬子が切り出した。
「……なんで朝から私のところに来たんだ?」
彼女が出したカードに「ダウト」と言うと、しぶしぶと場にあるカードを全部とる冬子。
「ちょっとね。それにしても二人でやるダウトってなかなか難しいね」
二人で冬子のベッドの上にあぐらをかいてトランプをやっていると、以前冬子と俺の家でゲームをやったことを思い出す。あの時は二人で延々、紅玉が出るまで狩ってたっけ。
「自分が持っているカードは相手が持っていないことが分かるからな」
「ポーカーにしよっか」
「そうだな」
いったんトランプを混ぜて切り直し、お互い五枚ずつドローする。俺のカードは……二のワンペアか。せめてツーペアにしたいところだね。
「じゃあ二枚チェンジ」
「ん……私は四枚だ」
「強気だね」
このトランプはつい最近俺が作ったものだ。リャンやキアラたちが知っているゲームだと俺と冬子は一切勝てないので、二人で遊ぶために作った。たまにリャンとかに見つかった時はルールを教えて一緒にやってるけど。
「朝の鍛練はいいのか? ……もう一回チェンジしたい」
「朝の鍛練は冬子と遊んだ後に行くよ。どうせ一緒に走るでしょ? リャンも冬子も。あ、もう一回チェンジするなら俺も変える」
今度は一枚捨てて、一枚ドローする。
冬子は二枚捨てている、あんまりいい手札じゃないのかな。
「いつもより早起きしたのは……わ、私とこうして遊ぶためか?」
なんか少し顔を赤くして尋ねる冬子に、頷いて答える。
「うん」
ちなみに、俺はこの家で起きるのが二番目に遅い。一番は当然キアラだ。
鍛練とかのために大分早起きしているつもりなんだけど、元々朝が早い冬子や、ショートスリーパーのリャン。そしてマリルも俺より一時間は早く起きているらしい。
ちなみにタローはいつ寝てるか知らないし、いつこの家にいるのかも分からない。ご飯時に顔も出さないしね。たまに朝か夜会うくらいだ。
「…………な、なんで?」
「なんでって……まあ、たまにはいいでしょ」
軽くはぐらかして、俺は手札を確認する。うん。これなら勝てそうだ。
冬子は「え? え?」と耳まで真っ赤になりくねくねしている。……さっきからなんで顔を赤くしてるんだろう。
まあいいか。
「そういえば罰ゲーム決めて無かったね、ポーカーなのに」
「ああ……そういえばそうだな。いつも通り――いや、待てよ?」
ふむと顎に手を当てて考える冬子。何か思いついたんだろうか。
「そうだ、一個だけ言うことを聞くというのはどうだ?」
「……別にいいけど」
チラリと自分の手札を見る。
フルハウス。
ぶっちゃけ、普通のポーカーで作れるであろう最強手でありこれ以上の手は基本的に出ない。つまり冬子がフォーカードとかストレートフラッシュとかを作ってはいない限り俺の勝ちだ。
万一にも負けることは無いだろうし、いいか。
「じゃあ、それで。ショーダウン」
ぱさっとベッドの上に俺は手札を置く。フルハウスだ。
そして冬子は――
「ふっ、私の勝ちだな。京助」
「……フォーカードって出る? 普通」
よりにもよってAのフォーカード。これは勝てない。
「これ、勝つ自身があったから言ったんでしょ」
「ふふ、慢心は油断を産むぞ京助」
してやったり、という顔の冬子。これはやられたね。
「しょうがない。じゃあなんでも言うこと聞こうか」
俺がそう言って後ろに手をついたところで……冬子はスッと俺の顔に顔を寄せてきた。
「京助……お前は隙がありすぎる」
「……なんか前も言われたね。別に隙だらけにしているつもりはないんだけど」
冬子ははぁ……と一つため息をつくと、俺の横に寝転がって来た。
「ほら、隙だらけだぞ?」
そう言って仰向けに転がる冬子。なんかよく分からないけど可愛い。
可愛いけど、意味が分からん。
「隙だらけって……必殺技でも撃てばいいの?」
「どうしてそうなる」
「いやそうなるでしょ」
冬子は残念そうな顔になりながら起き上がると、俺の唇に人差し指を付けてきた。
「……今朝のご飯当番を代われ。あと、今日は修業が終わった後一緒に買い物に行くぞ」
かぁっ、と頬を赤らめる冬子。俺は何となく冬子の額をツンと押してから立ち上がった。
「OK。……もっとも、俺は別に料理が得意なわけじゃないけど」
「別段得意か否かは関係あるまい。……私はお前の料理が食べたいんだ」
なんかカッコいいことを言う冬子。
そこまで言われちゃ仕方が無い。朝ご飯を作ってあげるか。
「その前に朝の鍛練だけどね。行こうか」
「ああ」
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「おはようございますデス。……ヨホホ! 今日はキョースケさんが朝ご飯を作っているのデスね」
マリルとリャン、そして冬子が歓談しているところにリューが起きてきた。
俺は台所から彼女に挨拶を返す。
「おはよう、リュー。……ちょっと冬子との賭けに負けてね。美味しいかどうかの保証はしないけど、まあ食べられるものが出てくることは保証するよ」
「美味しそうな匂いはしていますよ~」
「ん、それはありがとう」
俺はベーコンを焼き、昨日の夜のトポロイモンが残っていたのでその肉汁で焼き、最後にテキトーなサラダを作ってからトーストを用意した。トーストにはさっき焼いたベーコンを載せた。
簡単なもの……というか、切る、焼くしかしてない男料理だけど腹くらいは膨れるだろう。
「前の世界でも別に料理に頓着してたわけじゃないからなぁ」
「でもお前のお母さんの料理は美味しかっただろう」
「母さんはね。……けどうちは父さんが壊滅的な腕前だったから半々で普通さ」
父さんが何度かご飯を作ってくれたことがあったけど、ダークマターじゃないけど普通に美味しくなかった。腹に入ってしまえば一緒、あとは火さえ通っていればいいという考え方だったからね。
なんて父さんのことに思いを馳せていたら、キアラも起きてきた。
「……ほっほっほ。今朝はキョースケが作っておるのか」
「おはよう、キアラ。嫌なら食べなくてもいいけど?」
ちょっと意地わるく言うと、キアラはニヤッと笑ってまだ配膳してないトーストをパクッと加えた。
「ほれ、はよう用意せんか」
「はいはい」
全員分を作り終え、俺も席に着く。
「そういえば、昨日は泊めていただきありがとうございますデス」
「別に構わないよ、リューなら」
他の人ならともかく、俺の魔法の師匠でもあるリューなら断る理由もない。
そう思って言うと、さらにリューが少し照れ笑いしながら頭を下げてきた。
「ヨホホ……では、もう一つ。ワタシをパーティーに加えていただけませんデスか?」
「リューはパーティーを組まない主義じゃなかったの?」
俺が問うと、彼女は自分のケモ耳をピコピコと動かしながら苦笑いする。
「ヨホホ……ワタシがパーティーを組むことを避けていたのは、この秘密がバレないためにでしたデス。けど、もう皆さんには話してしまっているので……。キョースケさんたちの力になりたい気持ちが一番にあるのデスが、これ以上ソロでやるよりは稼ぎやすいだろうという打算もあるデス」
確かに、彼女は魔法師。AGとして活動する時は誰か前衛と組む必要がある。上手いこと腕のいい前衛と組めなければ死ぬ可能性も高まってしまう。
しかし俺たちのパーティーに入っておけばその心配も必要なくなるのか。
チラリと冬子とリャンを見ると、俺に任せますという雰囲気。つまり反対って人はいないみたいだね。
俺はニコリと笑うと、リューに右手を出した。
「こっちからお願いしたいくらいだよ、師匠?」
「よ、ヨホホ……。キョースケさんに魔法を教えていたのがもう何年も前のように感じるデス。けれども、その……ありがとうございますデス。よろしくお願いしますデス」
彼女が俺の右手をがっしりと握る。これで……AGが三人になったね。となると、正式にチームを申請出来るようになったね。
「名前決めないとね」
「名前、ですか? ……はっ、もしかして私とマスターの子どもですか!?」
「いや意味不明なんだけど」
「京助! い、いいいいいつからピアとそんな関係に!?」
「キヨタさん……節操ないですね」
マリルも冬子も黙っていて欲しい。
俺ははぁとため息を一つついてから、トーストを齧る。
「あぐ。……俺達、これでパーティーメンバーのAGが三人になるでしょ? 俺と冬子、そしてリュー。だから名前を付けて申請出来るんだ。チームって言うらしい」
AGが三人以上で名前を申請しているパーティーのことをチームという。
なんでこんな別の言い方をしているかというと、例えば三人でも申請していなかったり、逆に魔法師ギルドには登録しているけどAGにはなっていない魔法師がパーティーにいたりするからだ。
「チームは三人から申請出来ますからねー。そうやって名前の付くパーティーになると受けられるクエストが増えます。ソロでは護衛依頼なんかは受けづらいですからねー」
チームにならないと受けられないクエストが割とある。AGが三人必要なクエストなわけだ。機密の問題だったりするようだけど、俺はよく知らない。
「AGじゃないと入れないところとかがあるんですよー。ギルドに関わっていたりするところですねー。あとは普通に護衛依頼や、警備依頼なんかは頭数が欲しいし、リーダーとその部下って形で動いて欲しかったりしますからねー」
「ほう」
「他にも……例えば、Aランカーがいればチームのランクもその人に合わせられるので、チームとしてAランクのクエストを受けられるようになります。実力はあるが運が悪く中々ランクが上がらない人でも、高ランクのクエストを受けられるようになるわけですねー。他にも常に複数人でクエストに当たれるので、負傷率、死亡率はグンと減ります」
ということらしい。
「というわけで、チームを組むからチーム名を決めないと」
「他のチームはどうなんだ?」
冬子の問いに、俺はトポロイモンを食べながら答える。
「サリルんところは『白い尾翼』って名前だったかな。他にも『灰色の熊』とか」
「色の名前を入れるものなのか?」
「そんなこと無いと思うよ、『墓地の司令官』とか『可能性の次元』とか、『トポロイモン』とか、『トースト』とかも聞いたことがあるからね。……まあ、結構テキトーにつけているっぽいよ」
トーストに至ってはどういう心境だったのか小一時間問い詰めたいところではあるけどね。まあセンスに走ってもいいんだろうけど俺はその手のネーミングセンスがないからねぇ。
「ヨホホ……ワタシとキョースケさんとトーコさんデスか」
「まあ実際はキアラもリャンも戦ってもらうんだけど」
だから五人パーティーか。キアラは魔法に関してはオールラウンダーで、近接戦で冬子、遊撃と斥候のリャン、遠距離からは高火力のリュー、そして大体どの距離からでも攻撃できる俺。
基本的には俺と冬子をフォローしつつ戦うことになるのかな。
「戦闘は出来ませんからねー、私は。それ以外でサポートさせて頂きますよー。……というわけで、何かチーム名を決めて今日にでも提出してきては?」
俺は食後のコーヒーを淹れながらふむと顎に手を当てる。
「そうだねぇ、まあこういうのはさっさとやるのが吉だからね。じゃあ何にしようか」
「京助に任せるよ。リーダーだからな」
「そうデスね。キョースケさんが決めたことなら」
なんか俺が決める流れになってしまった。
……さて、どうしたものか。
「黒髪が二人に黒いとんがり帽子だから、シュヴァルツ・フラメンとか」
「……ドイツ語にしておけばカッコいいと思ったら大間違いだぞ、京助」
一瞬でバレた。っていうか、ドイツ語あってるだろうか。
「まあ俺に一任してくれるっていうなら、今日中に考えておくよ。そろそろマルキムたちも来るだろうし」
そう俺が言った時、こんこんと玄関をノックする音が聞こえた。ちょうど彼らが来たらしい。
マリルが出てリビングの方まで彼らを連れてきてくれる。
「おはよう、マルキム。……悪いね、こっちまで来てもらって」
こっちが修行を付けてもらう側だというのに、師匠を呼びつけるってのはあまりいいもんじゃないだろう。
しかしマルキムは気にした様子も無くヒラヒラと手を振った。
「いや、むしろ隠れて修行するにはもってこいだ。どうせ魂のコントロールは広い場所が必要なわけじゃないしな」
「ありがとね。……じゃあ、さっそく修業開始か」
俺とリャンと冬子、そしてマルキムは二階の使っていない部屋へ行き、カーテンが締まっていることを確認する。一応、秘密特訓だ。
「さて、やるか。嬢ちゃんたちはコントロール、強弱をつけたりだな。キョースケはまず全身から魂を放出出来るようにならんとな」
「そうだね」
俺だけ冬子やリャンと違ってまだ右手からしか放出出来ない。マルキム曰く彼女らに比べて肉体の練度が足りていないかららしいけど。
所詮、俺の戦闘能力はこっちの世界に来てから身に付けた付け焼刃。ここからどう巻き返していけるかが勝負だね。
「というわけで、まずキョースケは右手以外から出せるようにしよう。それを徐々に全体に広げていく。嬢ちゃんたちはまず強くする練習だ。イメージとしては体内でぶつけて競い合わせて練り上げる感覚かな」
「体内でぶつけて……」
「ど、どういう感覚なんでしょうか。そもそもコレを出し入れするのも結構大変なんですが……」
「まあ、こういうのは慣れだな。体内エネルギーを感じて操作する……なんてのは、今まで生きてきてやったことは無いだろ。まずはエネルギーを感じるところからかな」
体内で増幅するのか。……魔力と同じ要領だろうか。
俺は練り上げるようにして魂を増幅させ、右手全体を覆うように放出していく。
「こんな感じ?」
「「「何で出来るんだ(ですか)!?」」」
三人がハモった。
「なんでって……俺は魔法使えるからね。魔力と似たような感覚でやってるんだよ」
「ああ……なるほど、なら左手から出したりは出来ないのか?」
「それは難しいね、あくまで右手を伝ってしか出来ない」
まあ、この辺は練習かな。
各々自分の課題が見えたところで、俺達は魂の練習に臨んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「ヨホホ、というわけでキアラさん……ワタシに魔法を教えて欲しいデス」
リビングでのんびりしていると、リューがペコリと頭を下げてきた。
キアラは彼女のそんな態度を見て、一度煙管を仕舞い向き直る。
(ふむ……)
瞳の光は強い。しかしそれ以上に彼女の声に籠る想いがハッキリとしていた。
即ち、置いていかれるわけにはいかないという想いが。
「キョースケのためか?」
一言。それだけでリューは少し照れたような顔になる。
「ヨホホ……分かりますデスか?」
「そりゃのぅ……妾はこれでも神ぢゃからな。その程度はわかる」
そう言いながらチラリとマリルを見ると、彼女は目をそらしてから肩をすくめた。皿洗いをしている彼女にこれ以上ツッコむのも野暮かと思い、リューに視線を戻す。
「この場におる女は皆キョースケ目当てぢゃ。まったく、妾が最初に見出したというのに」
「ヨホ? 見出したというのならワタシが最初デス。何せ彼の魔法の師匠デスからね!」
ふん、と胸を張るリュー。そういえばそうだったか。
「ほっほっほ、そのキョースケの師匠が妾に教えを乞いたいとな? ……正直な話、お主はBランク魔法師として充分以上の腕前ぢゃと思うがの」
「それじゃ足りないデス。……キョースケさんは覇王と戦ったんデスよね?」
「そうぢゃな。不甲斐ない話ぢゃが、妾は一撃でやられてしまっての。あ奴に全てを任せるしかなかった」
リューはキッと真剣なまなざしでキアラを見つめる。
「ワタシは、世界最強の戦いに割って入れるほどの実力はないデス。でも、恐らくキョースケさんは今後世界最高峰の戦いに挑んでいくんだと思うデス。その時に、足を引っ張りたくないのデス。だから……だから、もっと強くなりたいデス。せめて彼らの後ろを任せられるくらいには!」
(よい眼ぢゃ)
京助にも魔法については教えるつもりであったが、彼は本職の魔法師ではない。……いや本職以上の魔法を使えなくはないが。だが彼の魔法はあくまでスペックと出力に頼った部分がある。
モンスターマシンを使いこなせるように教えるのもいいが、彼女のようにしっかりと魔法師としての素地がある人間を育てるのも一興か。
そこまで考えたキアラは、ニッと笑って魔力弾を一つ指先に作る。大体、人の頭ほどある大きさだ。
それを見たリューがポカンと口を開くが、気にせず続ける。
「取りあえず、これが出来るようになってからぢゃな。無詠唱に拘る必要は無いが、魔法の詠唱は短縮できれば出来るほど実戦で使いやすくなる。そのためには魔力の操作が先決ぢゃ。……お主とて詠唱を短縮する術はいくつかあるぢゃろうが……何、妾は魔法のみで枝神になった女。お主を一流の……文字通り『魔法使い』にしてやろう」
ニッと嗤うと、リューの瞳に炎がともる。
(根性がある人間は、妾は好きぢゃぞ)
早速練習を始めたリューを見ながら、キアラは全員の成長に想いを馳せていた。
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