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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

94話 冬子を着せ替えなう

 待ち合わせの場所に行くと……既に冬子が立っていた。しかしいつもよりも艶々している。なんていうか……いつも以上に綺麗だね。


「京助、遅かったな」


 こちらへ振り向く冬子。ポニーテールがしゃらんと揺れる。


「ちょっとティアールに捕まっちゃってね」


 俺に気づいた冬子が少し小走りでこちらへ走り寄ってきた。冬子はいつも整った顔をしているけど、今日はいつもの冬子よりも美人……ああ、なるほど。


「キアラにやってもらったの? お化粧」


「ああ。少しだけな。初めてやるから不安なんだが……どうだ?」


「うん、綺麗だよ」


 さすがキアラだよね、こういうのは。元がいいのもあるだろうけど、彼女の魅力を消さないようにけばけばしくならないようにナチュラルに仕上げている。
 服装だけはいつもの格好だが、これならいい感じの洋服を着れば大学生にも見えるだろうってくらい大人っぽい。
 俺たちはなんだかんだ言って高校生……だったからね。


「って、冬子?」


「綺麗って……綺麗って言われた、綺麗って言われ……あうあうあうあ」


 なんか冬子が真っ赤になってうねうねしている。どうしたんだろう……まあ、偶にはそういうこともあるか。
 俺は冬子が正気に戻るのを待っている間、お昼ご飯を食べる場所を考える。まあ俺はさっきパンを食べたばっかりだから軽めでいいけど。


「と、ところでだな! 京助!」


 あ、復活した。


「どうしたの?」


「その、お、お前も! ……カッコいいぞ」


 もじもじとしながらそんなことを言ってくれる冬子。たしかに、せっかく髪を切ったことに気づいてくれるのは嬉しい。


「ん、ありがとう」


 笑顔でそう言うと、冬子も凄く嬉しそうな顔になった。なんていうか可愛いな。


「……まあ、取りあえずご飯にする? お腹が減ってないなら先にお洋服屋さんを見に行ってもいいけど」


「そうだな……ああ、それなら美味しそうなベーグル屋さんを見つけたぞ」


 朝もパンだったのにいいのだろうか。まあ冬子がいいならいいか。


「ならそこに行こうか」


「うむ。……それはそうと、京助。今日はちゃんと吸っていないんだな。偉いぞ」


「ああ、活力煙ね。別に無くても平気だし」


 そう言いながら俺は活力煙を取り出し……


「って言ってる傍から!?」


「いや、言われるまで忘れてたんだけど言われて思い出しちゃった瞬間体が勝手に動き出して……」


「京助が元に戻れないところまで来ている!?」


「し、失礼な。別に俺は平気だよ」


 活力煙を懐にしまい、はぁ……とため息をついたところで……ギュッと、右手を握られた。というか、手を繋がれた。いわゆる恋人繋ぎってやつだ。


「……?」


「そ、そのだな……お前が、ずっと活力煙を右手で吸っているだろう?」


「まあ、そうだね」


 俺は右利きだから仕方がないね。右手で咥えて魔術で火をつけて吸っている。
 冬子は俯きながら話しているからわからないけど、どうも耳まで真っ赤にしているみたいだ。恥ずかしいんだろうか。
 いや、恥ずかしいのは俺の方なんだけど……。


「だから、その……」


「うん」


「お、お前の右手を……握っていれば、吸いたくても……吸えない、だろ……?」


 ………………。
 えーと。
 俺が活力煙の吸い過ぎで、今日は吸ってほしくない。
 だから右手を握って吸えなくする。
 ……なんでやねん。


「お、お前が確実に吸わないというのなら構わないが、お前が無意識に吸ってしまうから仕方がないだろう!? だ、だから今日はお前の右手は封印だ。いいな!」


「な、なるほど?」


 そう言われたらそうした方がいいような気がしてきた。
 ……まあ、別に今日は戦わないんだ。それなら利き手を冬子に預けても別に構わないだろう。
 はぐれても危ないしね。


「王都は広いから、はぐれると嫌だしね。じゃあ行こうか」


 冬子の手を握りかえしながらそう言うと、冬子は少しだけポカンとした表情になり……ニコリと、耳まで真っ赤にしながらニコリと笑った。


「ああ。では行こうか」


 うん、彼女の笑顔を見ると心が温かくなる。
 なんでだろうね、元の世界を思い出して安心するんだろうか。
 なんて思いながら――俺は冬子に手を引かれて歩き出した。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 さて、ベーグル屋さんから出て俺たちは洋服屋さんへ向かった。
 いつもの普段着を買う洋服屋さんじゃなくて、ちょっと背伸びした高級店だ。


「しかしまあ……なんていうか、少し緊張するね」


 店名は「サンシャイン」。残念ながらティアール商会の系列店ではないようだね。


「珍しいな、京助。お前が人並みの感情を見せるとは」


「冬子の中で俺はどうなってるのさ。そういう冬子だって緊張してるくせに」


 微笑みながらそう言うと、冬子は俺の右手を握る力を少し強めた。
 そして頬を膨らませながら少し拗ねたように言う。


「私はお前と違って普通の感性をしているから仕方がないだろう。お前が緊張するなんてお父さんに怒られる時だけだと思っていたが」


「あー……嫌なことを思い出させるね。ていうかこれ絶対家に帰ったら怒られるだろうなぁ……」


 父さんはキレると怖い。それはそれは怖い。どれくらい怖いかというと俺が思い出しただけで少し震えちゃうくらいだ。


「まあお前がこっちの世界でキレるところを見て納得した。あれは怖い」


「……え、なんで」


「気づいてないのか? お前がメローにキレた時、私は本格的に死を覚悟したぞ」


 なんでさ。


「こんなか弱い小市民を捕まえてなんてことを」


「お前の中でのか弱いというのはクマを素手で引き裂くやつのことを言うんだな」


 ハッ、と嘲るように笑う冬子。
 それに少しムッとしながら反論する。


「……今の俺は確かにクマより強いけど、元の世界での話だよ」


「元の世界でもお前はクマ如き一撃で粉砕するだろう」


「元の世界の俺どうなってんの」


 それ人間じゃねえから。
 なんて軽口を叩き合っている場合じゃない。もうお店の前にいるんだから入らないと。


「じゃあ、行こうか」


 冬子の手を引いて中に入ると……なんていうか、見ただけで大分いいモノであるということがよくわかる服が並んでいた。


「いらっしゃいませ!」


 にこやかな素晴らしい営業スマイルを浮かべる店員さん。冷やかしだと思われているだろうか。
 まあ、それならそれでゆっくり見て回れるからいいか。


「見た感じ、女物ばっかり置いてあるみたいだね」


 さすがに前の世界に比べたら生地はいくらか雑……と思いきや、これ絹じゃない?
 ……流石に高級店過ぎただろうか。生地から縫製から前の世界とそんなに大差ないんだけど。
 とはいえ、流石に大金貨100枚とかはしないだろう。というかそんなのだったら王侯貴族御用達のお店とかになっているはずだ。一般人である俺が入れる時点でそんなことはないだろう。
 手をつないだままの冬子がいろいろと見て回っている。


「何か気に入ったのはある? 冬子」


「そうだな……なんていうか、少しフリフリで可愛すぎるなこの辺は」


「そう? んー、あっちの方はシンプルなのが多いみたいだよ」


 そう言って指さした先は寒色系の服が多くて比較的シンプルなデザインの物が多かった。
 冬子とそっちを見て回っていると……おお、値札がついている。なんか新鮮な感覚。


「えーと……おおう……」


 うん、まあギリギリ予想の範囲内だね。二着まではいける。俺の分もこれくらいの値段ならなんとか。


「冬子、気に入ったものある?」


 冬子に話を振ると……どうも俺と同じように値札を見てしまったようだ。固まっている。


「……気に入ったものあったみたいだね」


「いや、その……京助、ここはまだ私たちには早かったようだ……」


「あー、気を遣ってくれるのはありがたいけど、大丈夫だよ。俺結構ため込んでるから」


「……本当か?」


 疑うような冬子の目。うん、いやその値段を見たら怪しむ気持ちも分かるけどさ。


「冬子、俺はこう見えてもBランクAG、しかも『魔石狩り』だよ。俺は他のAGに比べて魔魂石を持ち帰る回数が多いからそう呼ばれるようになったんだ。お金のことなら心配いらないよ」


「う……しかしこれを全額出してもらうのには抵抗があるというか……」


「別に俺たちのお金は共有なんだから気にしなくていいのに」


 そう言いいながら右手に少しだけ力を籠める。


「うー……お前がそう言うなら」


「うん。好きなのを選びな」


 俺はそう言いながら彼女の背中を物理的に押してあげる。たしかに冬子は遠慮するかもしれないけど……こういう時じゃないと一張羅を買えないからね。王都に来ることの方が稀だし。


「試着というシステムはあるのだろうか」


「さあ? 店員さんに聞いてみる? ――すみません」


 俺は冬子と右手を繋いでいたことを思い出して左手を上げてから店員さんを呼ぶ。
 さっきから俺たちのことを胡乱な目で見ていた店員さんが素早く顔に笑顔を張り付けてこちらへやってくる。


「いらっしゃいませ。どうされましたか?」


 まずは――俺らに支払い能力があることをちゃんとアピールしてあげた方がいいだろうね。じゃないと試着させてもらえないかもしれないから。


「いやぁ、俺たちBランクAGなんだけどさ。武骨な稼業なれども、式典に出る可能性が出てきたから……こうして少しだけ一張羅を買おうと思ってね。ほら」


 自分でも下品だとは思うけど、大金貨をじゃらじゃらと――目の前のドレス一着ならかるく買えるだけの大金貨をじゃらじゃらと取り出す。
 そして出したはしから袋にしまう。なんか魔法とでも思ってくれたら嬉しいね。


「へ、今、金貨が大量に出てきてまた消えて……?」


「ただの魔法マジックだよ。それよりも、質問してもいいかな」


 店員さんは一瞬ポカンとしたかと思うと、すぐさま態度を改めて笑顔を作り笑いでなく自然なものにしてくれた。


「で、ではどのようなものをお探しでしょうか!」


「まだ決めてないからね。ただ彼女に試着させてもらえると嬉しいんだけど……」


「もちろんでございます! どちらの衣服を試着なされますか?」


 どうもOKらしい。
 その女性の店員さんから許可が出たので、俺はいくつか冬子にドレスを見せてみる。


「これとかどう? 青色でキレイ」


「なんていうか……どのドレスも背中が開いているな」


「基本的に王都および貴族様が催されるパーティーでは背中を開けて出来れば袖の無いモノが良いとされています。貴族様の淑女でしたらまた別のドレスコードがあるのですが」


「へぇ。俺ら平民がそう言うところに呼ばれる時は露出を多くせよ、と」


 この世界の文化だから何とも言わないけど、強いて言うならそのドレスコードを決めた奴は間違いなくスケベだろうね。
 そんな俺の思考を読み取ったのか、店員さんは苦笑しながら教えてくれた。


「いえ……この国で、貴族様以外で貴族様が開かれるパーティーに出ることが出来る方はAGか豪商の娘などのみです。そしてそのAGなのですが」


 カチャリと一着の真っ赤なドレスを持ってきて店員さんが説明を続ける。


「この通り、袖が無く、背中と胸元が大きく開いたデザインでして……そして下を見てください」


 物凄く深くスリットが入っている。チャイナドレスみたいと言ったら分かりやすいだろうか。
 綺麗なドレスだし、正直これはこれで冬子に似合いそうではあるんだけど……なんというか、凄く動きやすそう。


「見ていただければわかる通り、動きやすい格好――そして、まあ言いかたは変かもしれませんが、ご自分の身体を見せつける服装となっております。主に、筋肉を……ですが」


「あー……そしてその人がやったことを後世の人は真似するものだから」


「はい。貴族様以外の方がパーティーに赴く場合、AGであればこうした露出度の高い服装とするという流れが出来上がりました」


 まあその人は相当の英雄だっただろうからね。最初にそうして呼ばれるってことは。


「なるほどね。まあそれなら仕方ないか」


「いや、そのだな……京助。私には自慢する筋肉もごにょごにょも無いんだが……」


「確かに、冬子はスレンダーだからね」


 貧乳ともいう。言ったら殺されるから言わないけど。


「いえいえ。お客様でしたら……少々お身体を触ってもよろしいですか?」


「え? あ、はい」


「では失礼して」


 そしてなんだか採寸とかが始まった。うん、たぶんこれって俺が見てたらマズいやつだろうね……。主にサイズとかを俺が知ったらダメだろう。どこのサイズとは言わないけどさ。


「あー……俺は少し見て回ってくるから、終わったら教えて」


「ああ、わかった」


 冬子がそう言ったので俺は一旦手を離し、俺は店内を見て回る。アクセサリーなんかも置いてあるけど、基本的にはドレス類ばっかりか。
 ドレス以外だと……ああ、ワンピースとかか。この辺なら普段でも着られそうだね。こうやってオフに遊びに行く日とか。
 なんて思いながらワンピースとかスカートとかを見ていると、少しいいのが何着か見つかった。
 この辺りも試着してもらおうかなーと考えていたら、向こうの方から「お客さまー。試着が終わりましたよー」と聞こえてきた。速いね。
 試着室へ行ってみると、カーテンの向こうに冬子はいた。


「冬子、着てみたの?」


「……あ、ああ。しかし……これはまた、露出が多いな……」


 恥ずかしそうな冬子の声。まああのドレスのラインナップからして明らかに露出が多かったからねぇ。
 店員さんは外でニコニコしている。


「いいドレスを見繕ってもらえた?」


「ええ。とってもお似合いでしたよ」


 それは楽しみだ。
 なんてのんきに外で構えていると、なかなか冬子が出てこない。


「……冬子?」


「いや、そのだな……まだ待ってくれ。まだ少し勇気が出ない」


「変じゃなかったんでしょ?」


「はい」


 ということは、そんなに変な服じゃないはずだ。
 単純に恥ずかしいのかな。


「冬子―?」


「ま、まだ待ってくれ!」


 これじゃ拉致が開かないね。
 俺が選んできたワンピースも着て欲しいのに……。


「着替え終わってるんだよね?」


 俺が尋ねると、


「あ、ああ……そうだが」


 との返答。
 なら問題ないね。
 俺はシャッとカーテンをいきなり開ける。


「ひょぁっ!? きょ、京助!?」


「なんだ、良く似合ってるよ。……確かに露出は多いけど」


 綺麗な格好で珍妙な声を上げる冬子。そのギャップでむしろ可愛い。
 黄色のドレスで背中が大きく開いている。しかし胸元は隠されており、その分体のラインがしっかりと出るくらいぴったりとしたデザインだ。
 足には深くスリットが入っているけど、むしろそれがいい。
 総じて、俺も気に入ったデザインだ。


「どうですか? 彼女さんは」


「彼女じゃないけど。……うん、気に入った。綺麗だ」


 ドレスが。


「そ、そうか?」


 冬子はまだ恥ずかしそうだけど、それでも悪いと言われなくて自信を持ったのか、俺に似合っていると言われて自信を持ったのか、少しだけ胸を張った。


「しかしよく似合うね。店員さんのチョイスがよかったのか、それとも冬子はなんでも似合うのか」


「恐らくチョイスだろう。……ふふ、しかし綺麗か……」


 鏡を見てくねくねしている冬子。そんなに動き回るとドレスを引っ掛けて破れちゃうよ。
 俺はそう思いながら嬉しそうな彼女を見てほっこりする。


「冬子、気に入った?」


「ああ。アンタレスじゃ買えないだろうし、いいな」


「ええ。こちらのドレスは王都の職人の一点物でございますから」


「わお」


 まあでもそうか……。それならこの値段も納得だよね。
 そう考えると日本……っていうか現代ってすごい部分はこういう洋服を大量生産できるところだよね。


「どうする? 冬子。それにする?」


 無駄だとは思いつつも問うてみるけど、案の定冬子は首を振った。


「いや、まだもう何着か見てから決めたい。いいか? 京助」


 やっぱり。


「構わないよ。また次のを着たら呼んで」


「ああ」


 ドレスは彼女が気にいったのを買ってあげるべきだろう。俺はワンピースを何着か選んでおいて後で彼女に着てもらおう。


「何を選ぼうかな」


 その後――。
 冬子は五着くらい着てみていたけど、結局一番最初のドレスにしたらしい。まあ俺もあれが一番似合ってたと思うからね。


「それじゃ、冬子。次はこれとこれとこれ――この三着のワンピースから選んで。もしあれなら二着までは買えるよ」


 というわけで、少しウキウキ顔で試着室から出てきた冬子に、三着のワンピースを渡す。


「……ドレスを脱いだと思ったらいきなりワンピースを渡された私の気持ちが分かるか?」


「ビックリ?」


「いやまあそれもそうだが、一緒に来た男性がいきなりワンピース、しかも私のサイズを知っていたら驚くぞ? あと、そもそも……私、スカートはあまり履かないんだが」


 サイズを知っていた理由は、さっき店員さんに聞いたから。無論、SMLくらいで数字までは聞いてないけどね。
 そう言えば、確かに冬子は前の世界であんまりスカートをはいてなかったね。制服を除いて。


「……そうだね。うん。だから着せたいんだけど」


「……ッ!」


 なんか真っ赤になっている。面白いな。


「まあ、着てみてよ。せっかく選んだんだし」


「きょ、京助がそう言うなら……」


 そう言って試着室に冬子を押し込む。
 さて、どのワンピースを選んでくれるかな。

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