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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

93話 冬子とデー……遊びに行くうぃる

 さてティアールとの会談も終わり部屋に戻ると、キアラ以外は寝てしまっていた。


「リャンもか。まあ今日は疲れたよね」


「そうぢゃな。お主は途中で気絶したからよいかもしれぬが、彼女らは働きづめぢゃったからのぅ」


「――感謝してるよ」


 そう言いながら活力煙に火をつける。
 窓を開けて部屋の換気をしながら俺は煙を吐きだす。ああ美味い。
 窓際に椅子を持ってきて夜の空を見上げながら活力煙を吹かしていると、コーヒー(のような飲み物)を持ってきてくれた。


「結局どうなったんぢゃ?」


 コーヒーを一口。美味い。
 自分もコーヒーを飲みながらキアラが問うてくるので、


「んー? ああ、これ貰ったよ」


 そう言ってティアールから貰った紹介状を見せる。


「大きなコネが出来たよ」


「良かったのぅ。妾たちも骨を折った甲斐があるというものぢゃ」


 そう言いながら俺の隣に立ち、一緒に空を見上げる。


「お主、こちらの世界に来てどれくらい経ったかの?」


「んー……どれくらいだったかな」


 アイテムボックスから日記を取り出して数えてみる。


「うん、三か月過ぎたところだね」


 だいぶ長い時間が……一年くらい経っている気がするけど、まだ三か月くらいのものだ。そう考えると俺は異常な程力を蓄えたと言える。


「前の世界で考えたら……ふむ、たった三か月で偏差値四十くらいから偏差値七十くらいまで上げてる感覚になるのかな。うん、異様な伸びだね」


「よくわからんが、お主の成長が異常という話かの?」


「うん。自分で言ってたら世話ないけど……ホント、尋常じゃない伸びだと思うよ」


 活力煙の煙を吹かしながら俺は考える。
 どれほどの才能があり、どれほどの師に出会えれば――異世界の人間が、その世界の常識を持たない人間が、その世界で確実な強者と呼ばれる人間と渡り合えるだろうか。


「チート……って、恐いね本当に」


 自分の持つ『パンドラ・ディヴァー』を見ながら俺はそう思う。これは俺の持つ「チート」の象徴だ。
 だが同時に、出会いの象徴でもある。これが無ければキアラには出会えていなかった。


「まだウジウジ悩んでおるのか?」


「いや? どちらかというと……確認、かな。もう今さらチートがどうとか悩んでいる所じゃなくなってきてるのを感じてる」


 ヨダーンとの戦い、あれだって『パンドラ・ディヴァー』や魔昇華、『職』そのうちどれか一つが欠けていたら勝てなかっただろう。
 今なら分かる。


「チートってのは楽をする手段じゃない。この世界で生き延びる最低条件だ。……俺の場合はね」


 冬子も、俺も――天川みたいなでたらめな力は持っちゃいない。あれは選ばれたチートだ。
 だから俺みたいな凡人はこうしてなんらかの力を手に入れなきゃいけないわけだ。


「ふむ……キョースケ。相変わらず難しく考えておるのぅ」


「……そうかな」


「大事なことは結果ぢゃ。どんな力を与えられようと結果が伴わねば意味が無い。たとえどんな力を与えられようと悪を為せば悪人ぢゃ。お主は与えられた力で善行を為しておる。少なくとも妾の目線からすればの」


 いつの間にか煙管を取り出して吸っていたキアラは、煙を夜空に溶かしながら俺に問うてくる。


「キョースケ、お主はこの世界で何を為したい。元の世界に帰りたい、は無しぢゃぞ。今お主はこの世界におる。この世界で――お主は、何をしたいのぢゃ」


「この世界で……」


 考えたことも無かった。俺にとって世界とは前の世界、この世界からは帰ることしか考えていなかった。
 俺は元の世界に帰りたい。元の世界に帰って俺は小説家になるんだ。
 だけど――本当に元の世界に帰る方法はあるんだろうか。
 もしもないなら、俺はこの世界で生きていかなくちゃならない。その時、俺はどんな生き方をするんだろう。


「俺は、この世界で……そうだねぇ」


 俺がやりたいこと、やれること。
 こちらの世界にラノベは無い、漫画も無い、アニメも無い。テレビも無ければスマホも無い。娯楽なんて殆ど無い。
 学校も無ければ、会社だってほとんどない。大体の人はその日暮らし、そんな世界で。
 俺は何を為したいのか。


(………………)


 活力煙の煙がふわりふわりと揺らめく。その先には満天の星空だ。
 あまり高い位置じゃないからそんなに遠くを見れるわけじゃないけど、ふと街を見てみると生きている光が見える。
 この世界の人たちは、生きている。この世界は紛れもないリアルで、俺が今住んでいる世界だ。
 そこで出会った人は――それなりにいる。
 俺の仲間は既に冬子だけじゃない。リャンもいる、キアラもいる。アンタレスに行けばマルキムがいる、遠くにいるけどリューもいる。
 前の世界で出会った人と、そこに何の違いがあるだろうか。
 俺は今、この世界で――確かに生きている。
 そう考えていたら、自然と言葉が漏れた。


「月並みだけど、俺は――皆を、守り抜いて幸せな空間を作りたい」


「――ほう?」


 キアラの目が面白そうに細まる。俺はそんな彼女を見ながら苦笑する。


「そのために魔王や覇王を倒す必要があるなら倒しに行くし、そうじゃないなら放置だ。他にも邪魔する奴等は出てくるかもしれないけど――全部、消し去ろう」


 なんか凄く物騒なことを言った気がするけど、仕方がないね。
 キアラはニヤリと笑うと俺に煙管の煙を振りかけてきた。


「ゴホッゴホッ、な、なにするのさキアラ!」


「五十点ぢゃ。もう少し――その先が欲しいのぅ。守りたい、ではないのぢゃ。何を欲するかぢゃ。今ある者を、物を、大切にする――それに気付いたことはまだ良い。その先ぢゃ」


 その先……か。


「まあ、下手な考え休むに似たりぢゃ」


「下手な考えて」


「――明日はトーコとデートぢゃろう?」


 キアラが本当に愉しそうに笑う。


「であれば、まさか寝不足で行くわけにもいくまい。さっさと寝るのが吉ぢゃぞ?」


「……本当に、性格が悪い」


「何か言ったかの?」


 キアラが煙管を片手に艶めかしい眼を俺に向けてくる。黙っていれば美人なのにどうしてこうやって俺を揶揄うのか。


(カカカッ! イイカゲン慣れナァキョースケ)


(ヨハネスはうるさい)


 ヨハネスにピシャリと言い放ち、俺は首をこきりと鳴らす。


「はぁ……まあ、なんにせよ。俺も疲れたから寝るよ。その前にシャワー浴びるけど」


 今夜は、ソファで寝なくてはならない。何が悲しくてこんなに疲れたのにソファで寝なくちゃならないのか……。
 これもキアラのせいだ。


「そうぢゃな。妾はもう少し起きておる」


 そう言ってキアラが外を覗いたので、俺は活力煙を灰皿に押し付けながら立ち上がる。


「じゃあお休み、キアラ」


「ほっほっほ。お休みぢゃ。キョースケ」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「マスター、おはようございます」


 ゆさゆさと、揺すられる感覚で目を覚ました。


「……? ああ、おはよう、リャン。ところで今何時?」


「マスターがお持ちのウデドケイというのでしか正確な時間は分かりませんよ」


 それもそうだった。
 若干寝ぼけていた頭を振って目覚めさせる。取りあえず活力煙を咥えてアイテムボックスから枕元に置いておいた腕時計を確認する。


「……? あれ? 俺、アラーム止めたっけ」


 いつもアラームをセットしている時間を大幅にオーバーしていた。というかいつもなら既にギルドで仕事を見繕っている時間だ。
 たしかに昨日は大概疲れたけど……。おかしいな。


「トーコさんが、お出かけになる前に止めていましたよ」


「マジで?」


 何のために……というか、トーコはもう出かけたのか。
 今日は俺と遊びに行く約束をしていたのに。
 なんて思いながらソファから起き上がると、リャンが二枚の紙を見せてきた。


「トーコさんとキアラさんからの書置きです。まずはキアラさんから」


『キョースケへ。デートだというのにおめかしもさせない、同じ家から出発する……それはあまりにも味気なかろう。というわけで、午前中のうちに妾が連れ出しておいた。お主は準備を整えてから昼頃に昨日の商店街前に集合ぢゃ』


 なんて身勝手な。
 ちなみにまだ続きがあった。


『追伸。妾がちゃんと睡眠魔法をかけておいたんぢゃ。ぐっすり眠れたかの?』


 なるほど、この妙な眠気は睡眠魔法とやらのせいか。


「リャン、キアラとは一度決着をつけるべきだよね」


「お二人が本気で戦ったら王都が更地になるのでやめてください」


「その前にSランクAGが止めに来るんじゃない?」


 まるで災害みたいな扱いだね。
 俺は活力煙を咥えて火を付けようとしたところで――パッとリャンに盗られた。


「どうしたの、リャン」


「今日は禁煙です」


「…………」


「そんな顔をしてもダメですよ、マスター。それにこれを言い出したのは私ではありません」


 冬子が書いたという手紙にも目を通す。


『京助へ。唐突にキアラさんに連れ出されることになってしまったので、こうして置手紙をしていくことにする。いい機会だから今日は禁煙だ。晩御飯まではタバコを吸っちゃダメだぞ。お前もいつもの革鎧じゃなくて、普通の恰好で来てくれ。前の世界で遊びに行った時みたいに久々に遊ぼう』


 なるほど、晩御飯までか。
 晩御飯までならいいかもしれないね。


「ということらしいので、マスター。おめかしいたしましょう」


「どういうことか分からないけども、いきなりおめかしって……何するのさ」


 女の子ならまだ分からなくもないけど、男がすることなんてあるんだろうか。
 なんて思っていると、リャンがシャキーンと櫛を取り出した。


「それをどうするつもり?」


「マスターの髪型をセットします」


「なるほど」


 いやぶっちゃけ面倒だけど……勝手にやってくれるというならいいか。
 俺は取りあえず着替えようと立ち上がると……ん? なんかテーブルの上に服が置いてある。


「キアラさんが置いていきました。マスターに着せるように、と」


「うん、キアラは間違いなく面白がってるよね」


 キアラのニヤニヤ顔が思い浮かぶ。まったく、今回は何を企んでいるんだか。
 ふと、昨夜のキアラが言っていたことが思い浮かぶ。


「それが何か……関係してるんだろうか」


「どうされましたか? マスター」


「ううん。どうもしないよ」


 なんにせよ、冬子と久々に遊びに行くことは嬉しい。昨日、ちゃんと――ってほどでもないけど準備もしたしね。


「服は後でトーコさんに選んでもらってください。私は髪型担当ですので」


「んー……」


 活力煙が無いと口もとが寂しい。仕方がないので飲み物を飲もうとしたところで――


「マスター。ジッとしておいてくださいねー」


 グイッと、椅子に座らせられた。
 そして首に布を巻かれて……って長いね。床屋さんとかで髪を切るときに使うテルテル坊主みたいになるあれのよう。
 そしてナイフを取り出すリャン。


「何するつもり?」


「こう見えてもよく妹の髪の毛を切っていました。村では評判だったのですよ?」


 まさかの散髪がスタートである。しかし鋏じゃなくてナイフで散髪と来たか。
 正直どういう風になるのかは気になるところではあるから、このまま切られるのもやぶさかじゃないんだけど……。


「変な風にしないでね?」


「もちろんですマスター。とびっきりのイケメンにして差し上げますよ」


 それなら楽しみだ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 さて三十分後。


「出来ましたよマスター」


「ん」


 たしかに、頭が軽くなった。前に散髪したのは一か月前くらいだったかな。何はともあれいい機会だった。
 俺はアイテムボックスから手鏡を出す。


「だいぶ短くなったね……。うん、ありがとう」


 そして髪がいい感じにうねっている。うん、どうもワックスみたいなものをつけてくれたらしい。


「マスター、素敵ですよ」


 ニコニコとした顔のリャン。どことなく嬉しそうだ。


「トーコさんが羨ましいですね。マスターと二人きりで出かけられるのですから」


 嬉しそうな顔をしながら寂しげな声を出すリャン。
 えらく矛盾した表情だけど、どうしたんだろうか。


「それなら今度はリャンと行こうか?」


 そう言うと、今度は寂しげな顔になって嬉しそうな声を出す。


「ありがとうございます、マスター。ですが今日のところは――いつもよりイケメンになったマスターのお顔を一番に眺められる権利だけで満足します」


「そういうもの?」


「女心とは複雑なものなのですよ、マスター」


「そういうものか」


 俺は伸びをしながら立ち上がる。服は普段着だからあんまりオシャレな感じではないけど、別にいいだろう。


「今日は、武装は無しだね」


 なんて言いながら俺は『パンドラ・ディヴァー』をアイテムボックスにしまう。その他のサブウェポンも今日は無しだ。


「マスターもそこにデリカシーはあったんですね」


「いや、ちょっと高めのレストランに行くつもりだから。そういうところって武装厳禁だったりするからね」


「…………マスターは本格的に乙女心を学ぶべきだと思います」


 童貞に何を求めてるんだか。
 俺はそう思いつつもコーヒーをカップに注ぐ。


「あとどれくらいで待ち合わせ場所に行ったらいいかな」


「そうですね……まあもう三十分くらいしてからが良いのではないでしょうか」


 あと三十分。お昼前くらいだね。
 うーん、なんとなくタイミングを逃してたけど昨日買ってきたパンを食べよう。
 もしゃもしゃとパンを食べながら、リャンに今夜のことを聞いてみる。


「リャン、今夜君はどうするの?」


「私はキアラさんに付き合ってお酒でも飲みに行こうかと。せっかくなので久しぶりに飲みたいのですが……よろしいですか?」


 俺たちの前で飲まない分、偶には……ってことか。


「もちろん構わないよ。ああ、だけど出来たらここで飲んでほしいかな。酒場に獣人とか嫌な予感しかしない」


 彼女らなら別に大概の荒くれものに絡まれても問題ないだろうけど、念には念を入れてだ。俺がすぐ助けに行けるわけじゃないし。


「畏まりました。まあ、もしものことがあったら連絡いたしますので」


「ケータイって便利だよね」


 そんなことを言いながら俺は活力煙を取り出し――


「本当にヘビースモーカーですね」


「……ほぼくせ・・だね」


 いっそ活力煙は全部部屋に置いていこうか。……いや、何カートンあるか分からないんだから部屋が埋まるね。やめとこう。


「マスター、依存するならどんなものでも毒ですよ」


「気を付けるよ」


 タバコに依存する人は、ニコチンじゃなくてタバコを咥えるという行為が授乳の代償行為になるから……って話を聞いたことがある。つまりおしゃぶりだよね。
 ……そう考えると凄くダサいね。


「吸えないとイライラ……は今のところしてないね」


 そもそも吸わなくなってまだ一時間半くらいだ。それでイライラし出したらいよいよアウトだろう。
 まあ今日一日くらいなら平気か。


「じゃあそろそろ行こうかなー」


「はい。では準備出来たかキアラさんに聞いてみますね」


「うん」


 リャンがキアラに電話をかけて何事か話している。まあ何事って言っても俺の準備が出来たよーってくらいのものだろうけど。


「ではそのように。マスター、彼女も準備出来たようなので」


「了解。じゃあ、行こうかねー」


 そう言いながら窓に足をかけたところで――ガシッと腕を掴まれた。


「空を飛ぶのは禁止です。せっかくセットを整えたんですから」


 まあ確かに……いくらワックスでセットしたとしても飛んだらダメになるか。
 というかだいぶマジな顔でそんなことを言われるとは思わなかったけど。


「まあ仕方ない。じゃあ歩いて行こうか」


 そう言いながら俺は部屋から出る。


「行ってらっしゃいませ、マスター」


 リャンにヒラヒラと手を振ってから階段をゆっくり降りていく。
 すると、何故かティアールとすれ違った。
 俺は会釈して通り過ぎようとして――


「今日はデートでもするのか? 随分とめかし込んでいるようだが」


 ――普通に話しかけられた。
 というか、めかしこんでるって……。髪の毛をセットしただけなのに。


「前見た時は、君は髪の毛のセットどころか何も身だしなみに気を遣っていなかっただろう。今は指輪なんて付けているようだが」


「よく見てるね」


「これでも接客業をやっているんだ。お客様の様子はしっかりと把握しているさ」


「へぇ。まあデートじゃないけど、少し冬子と遊びに行くんだ」


「そうか。ああ、それならいいカフェを知っている。疲れたら行くといい。商店街から少し離れたところにあるカフェだがいいコーヒーを出す。君は喫煙者だったな? そのカフェは灰皿も置いてあった。雰囲気もいいぞ」


 めちゃくちゃ教えてくれる。こんなキャラだっけ。


「ちなみになんて名前?」


「おっと、私としたことが。エクスルーダーというカフェだ。ちなみに、偶然なのだが我がティアール商会が運営している」


 なるほど。
 凄くわかりやすい理由だったね。
 俺は苦笑いしながらティアールに礼を言って冬子との待ち合わせに急ぐのであった。



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