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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

92話 酔っ払いなう

 さて、想像した通り――俺が頼んだ麺はラーメンみたいなものだった。というか見た目はほぼラーメンだね。
 味は……。


「美味しい」


「そうだな。何をベースにしたスープなんだろうか」


 醤油でもないしとんこつでもない。塩……が一番味としては近い気がする。チャーシューじゃなくて普通に肉が入っているけど、それがまた美味しい。
 麺をスープにからめてふーふーと冷ましてからすする。あっさりとしたスープが体を芯から温めてくれる。


「美味い」


「キョースケは飯のことになるといきなりボキャブラリーが減るのぅ」


「余計なお世話だよ。物事の評価はシンプルなものが一番なんだ。俺は海原〇山じゃないんだからさ」


 キアラとリャンがポカンとした顔をして、冬子がニヤリとした。うん、元の世界ネタを分かってくれる人がいると嬉しいよね。


「しかしまあ……よく飲むねぇ、キアラ」


 エールを既に三杯も飲んでいるキアラに言うと、キアラはニヤリと笑った。


「ヘビースモーカーのお主に言われたくないのぅ。食べ始めてから何本目ぢゃ」


「さぁ……灰皿を数えてみたら?」


「お二人とも、健康にはお気をつけてくださいね」


「妾は枝神ぢゃから平気ぢゃ」


「これだって別にタバコじゃないんだから大丈夫だよ」


「二人とも、完全に依存症の発言だな」


「そうですね」


 リャンと冬子が嘆息する。そういうリャンだってザルなくせに。


「私はお酒が好きですし酔いませんが、かと言ってそれが生きがいというわけでもありません。現にこうして最近は飲んでいませんし」


「俺だってこれだけが生き甲斐ってわけじゃない」


「じゃあ明日一日……私とで、でで……ゴニョゴニョしてる間、一切吸わないと約束できるか?」


 途中でまたごにょる冬子だけど、ふむ明日一日吸わないのか……。


「……………………うーん」


「完全にアウトですね」


「そうだな」


 リャンと冬子の冷たい眼。うぅ……いつの間に俺はそんなことになっていたんだろうか。


「まあ活力煙はせいぜい疲労回復の効果がある以外特に害のある物ではないからのぅ。そんなにカッカするものでもあるまい」


 そう言いながら四杯目を注文するキアラ。うん、だから誰が支払いをすると思ってるのかな。
 そんなことを思いながら俺は次の活力煙を咥える。


「京助、将来的には禁煙させるからな」


「肺がんになること無いと思うからいいと思うんだけど」


 濃い味には活力煙があう。なんてことを思いながら俺はラーメン(でいいや)をすする。ズルズルと音を立てるのは気を付けるけど、汁が飛ぶのはどうにもねぇ。
 なんてことを思いながらラーメンを食べていると、ふと冬子と目が合った。


「……あれだね、メガネキャラが欲しいところだね」


「そうだな、志村とかがいたらちゃんとやってくれただろうな」


「何の話をしておるんぢゃ?」


 俺と冬子で「メガネが曇る」というネタについて話していると、キアラが頭に「?」マークを浮かべながら尋ねてきた。


「いやぁ、メガネをかけている人がラーメン――この料理みたいな麺料理を食べるとね、メガネが曇っちゃって前が見えない……っていう鉄板ネタがあるんだよ」


「あとは寒いところから暖かいところに入るとメガネが曇ってしまうとかな」


 俺は残念ながらメガネをかけたことが無いからそのネタはしたことが無いけど、志村は必ずやってくれていたからね。


「あとのメガネと言えば……美沙か」


「美沙?」


 そんな人いたっけ、と思って聞き返すと冬子は「これだから……」と言った目で見てきた。


「新井だ、新井。新井美沙。彼女はメガネをかけていただろ?」


「ああ……新井か。新井はメガネをかけていたね。でも彼女ってそういうことするの?」


「狙ってじゃなくて天然でするタイプだ」


「最強ってことか」


 アニメだったら萌えキャラとして名を馳せたかもしれないね。


「お主ら、妾たちにも分かる話をせんか」


 少し拗ねた様子のキアラ。それもそうだね。


「分かったよ、ごめんね。じゃあ皆にも分かる話……そうだ。魔道具ってどんな物なの?」


 キアラに聞いてみると、キアラは早速右手につけていた数珠をちゃらりと鳴らして「これか?」と持ち上げた。


「魔道具は文字通り魔法効果のある道具ぢゃ。大概は魔魂石を元に作られておる。腕のいい魔法師か、魔道具製作者ならば魔魂石よりも魔道具を小さくできるんぢゃ。その点においてこの魔道具はなかなか腕のいい作者が作ったと言えよう」


「へぇ。ならラッキーだったね」


 俺は自分の指にはめている指輪を見る。デザインだけで選んだけど、質がいいものだったのなら何よりだ。
 ちなみに俺は左手の中指にはめている。別に理由はない、なんとなくだけどね。冬子はどうやら右手の中指にはめたみたいだ。


「結構な値段がしたんではないか?」


「そうでも……まあ、そうだね。そこそこしたけど防御用の魔道具なら持っていた方が生存率は上がるだろうと思ってね」


 活力煙を灰皿に押し付けながら自分の指輪に魔力を通してみる。すると、うっすらと防御壁が周囲に展開された。


「なるほど、奇襲を一回だけ無効に……出来るかなこれ」


「京助だったら一撃で突き破れるだろう」


「冬子でも、リャンでもね。けど弓矢とか遠距離魔術とか、そういう狙撃系の攻撃なら威力を弱めるくらいは出来そうだ」


 何の役にも立たないというわけでもないらしい。


「リャンのは……っと、まだ魔力を通して無かったね」


 リャンはまだ付けていなかったので、俺が受け取って魔力を流す。少しだけ流したら満タンになったようで少し淡く光り出した。


「はい、リャン」


「マスター、付けてくれませんか?」


 少しだけはにかんだリャンが俺にイヤリングを渡してくるので、俺は「いいよ」と言って彼女に付けてあげる。
 するとリャンはニコリとほほ笑み、冬子は何故か後ろから「その手があったか……」とか言ってるしキアラはニヤニヤとしだした。なんなのこの混沌とした空気。


「どんな風?」


「そうですね……先ほどよりもさらに聞き分け出来るようになっています。今なら百メートル先の足音すら聞き分ける自信があります」


「それは凄い。ちなみに普段はどれくらい聞き分けられるの?」


「五十メートル先くらいですかね」


 倍か、それは凄い。
 ……って、それって元が凄いだけじゃないんだろうか。そもそもこの空間の人気料理とかをまとめて嗅ぎ分けて聞き分けて集計とってたわけだからね。そんな異常な感覚とかあるからそのイヤリングが使えるんじゃないだろうか。
 なんてことを思いながらキアラの方を向く。


「キアラのそれは、魔力を譲渡出来るらしいんだけど……どういう風に分けるの?」


「どうも接触して分けるようぢゃが……ほれ、こんな感じぢゃ」


 そう言ってキアラが指をピッと俺に向けてくると……ぽぅっと身体が光り、俺に魔力が流れ込んでくる。え、接触して分けるんじゃないの?


「確かにこれは便利ぢゃのぅ。普通は魔力のみ渡すのはなかなか難易度が高いんぢゃが、これならリスクゼロで受け渡せる」


 そもそも無くても渡せるのか。なら本格的にその数珠いらなかったんじゃないだろうか。


「まあでも気に入ったぞ? お主にしては良いチョイスぢゃ」


「そう? まあそれなら良かった」


「と、というかそもそも……なんでいきなり買ってきたんだ?」


 冬子がそう訊いてくるので、俺は新しい活力煙を咥えながら……少し目をそらす。


「さっきも言ったけど、魔道具がどんなものか知りたかったからね。防御用の魔道具なら無益になることは無いだろうし」


「しかしそれでもこれ……結構しただろう」


「そんなにはしてないよ」


「……いくらだ?」


 何故か追及が激しい冬子。
 ……ここで大金貨二十枚とは言えない……かな。


「冬子が心配するような額じゃないよ」


「そんなパチンコですってきた男みたいな言い訳をするんじゃない。別に怒っているわけでなく……単純に気になるだけだ」


 それって後で絶対怒る奴だよね。
 俺はそう思いながら指を二本建てる。


「大金貨二枚だよ」


「その指輪の性能からして、最低でも一つ大金貨八枚はくだらんと思うがのぅ」


「それに、このイヤリングも最低でも大金貨二枚くらいはすると思いますが……」


 キアラは面白そうに、リャンは凄く申し訳なさそうに言った。


「ちょっとリャンとキアラは黙ってて」


「なんで嘘をついたんだ京助!」


 冬子がバンとテーブルを叩いたので、咄嗟に周囲に防音の結界を張って音を消してから弁明のためにリャンとキアラを見る。


「ちょ、二人ともそんなにしないってこれ」


 リャンとキアラの方を向いてそう言うが、キアラはニヤニヤとした顔のまま首を振る。


「言っておくがのぅ。それは大分性能が良いものぢゃぞ? 弓矢くらいなら致命傷を防いでくれるぢゃろうし、魔法だって威力が弱い魔法ならシャットアウトするぢゃろうし」


「京助、嘘をついた理由を言え。そして値段を言え!」


 むちゃくちゃ睨みつけてきている冬子。これは俺が稼いだ金だ! ――そう言いたいけど、それってきっと今より状況を悪化させるよね。


(カカカッ! 亭主はツライネェ!)


(亭主じゃないけどね)


 ヨハネスの軽口に言い返す気力さえわかない。
 俺は両手を挙げて降参のポーズをとってから白状した。


「……分かった、白状するよ。大金貨二十枚だよ」


 正直に言うと、冬子は「はぁ~……」とため息をつき、リャンは少し驚いた顔をし、キアラはエールをもう一本頼んだ。マジで何杯目だキアラ。


「お前……」


「ほっほっほ」


「マスター、そんな高価なもの……本当にいただいて良かったんですか?」


「防具や装備にお金はかける、そう言ってたでしょ? 嘘をついた理由は……その、まあプレゼントの値段なんて言わないものでしょ、普通」


 少しそっぽを向きながら答えて、煙を吐きだす。


「確かに高い買い物だったけど、奇襲のリスクを減らせると思えばそんなに無駄遣いでもないでしょ」


 言い訳がましくなってしまったのでいっそ開き直ってそう言うと、冬子は先ほどまでの剣幕を収めてフッと笑った。


「全く……最初から言っておけば私も怒らなかったのに。そもそも、一番稼いでいるのはお前だろう? 京助。完全なる無駄遣いならばともかく防具に類する魔道具なら私も何も言わないさ」


 肩をすくめる冬子。


(イイ娘ジャネェカァ!)


(否定しない)


 ヨハネスにからかわれるけど活力煙の煙を吸い込んでから肯定しておく。


「まあ、それに……その……私と、お揃いにしてくれたのも……嬉しいし、な……」


 もじもじと言う冬子。いや、その指輪は人数分あったら全員に渡そうと思ってたんだけど……それも、言わない方がよさそうだね。


「喜んでもらえたなら嬉しいよ」


 微笑みながらそう言うと、冬子はやはり顔を真っ赤にして……。


「ふん、ぺ、ペアリングなんて気が利いて……ごにょごにょ。んっんー! 喉が渇いたな! ちょっとこれを貰うぞ!」


 と言って、何故かキアラのエールを一気に飲み干してしまった。


「ちょっ、冬子何やってんの!?」


 唐突な奇行に俺が驚いた声を上げると、冬子は顔をさらに真っ赤にして「ふぇ?」と俺に微笑み返して……いやこれ完全に酔ってるよね。


「ふむ……取りあえずキョースケ。結界を解け。妾は水を注文する」


 ちなみにこの世界にはお冷なんてモンは存在しない。水も立派な商品だ。そう考えると前の世界は本当に恵まれていたんだなぁって思うよね。
 酔っぱらってフラフラしている冬子に、俺は取りあえず声をかける。


「大丈夫? 冬子」


「ら~いじょうぶら~」


「ダウト」


 でも、エール一杯で普通こんなフラフラになるかな……?
 俺は冬子が飲み干したグラスの匂いをなんとなく嗅いでみる。
 ……うーん?


「ねぇ、キアラ。そのエール……なんか変なモノは入ってないよね?」


「ほっほっほ」


「リャン、これ普通のエール?」


「普通の物よりもアルコールの匂いがキツイですね」


「キアラ何した!」


 まさかキアラの陰謀――そう思って問うとキアラはぶんぶんとおかっぱ頭を振り乱して否定してきた。


「違うのぢゃ。妾が楽しむためぢゃったからアルコール度数を変化させておっただけぢゃし、そもそも妾が自分の酒を誰かに渡すとでも!?」


 なんという説得力。
 フラフラの冬子にお水を飲ませて……。


「うん、流石に今夜は連れて帰ろうか。キアラはまだ飲んで帰る?」


「いや……妾も興が削がれた。今夜は大人しく帰ろうかの」


「そう。リャンは……ああもうお会計に行ってくれてるのか」


 伝票を持って行っていたので、俺は冬子を背負ってから大金貨をリャンに二枚ほど投げ付ける。
 リャンはしっかりとそれを受け取ってから、お会計を済ませていた。さて、これで取りあえず帰れるね。


「う~……? なんか、地面が揺れてるぞきょ~すけ~……」


「はいはい。もうキアラ……転移させてくれない?」


「妾の力をみだりに使うでない……と言いたいところぢゃが、その様子ならさっさと寝かせた方がよさそうぢゃの。仕方があるまい。ほれ、皆のもの近う寄れ」


 近くに寄れと言われたので寄ると、ふっと景色が変わって……俺たちが泊まっているホテルの前についていた。
 リャンの耳がしっかり隠れていることを確認してホテルの中に入ると……何故かそこにティアールがいた。そして俺の方を見ると……。


「君は本当に……早く刺されてくれないか?」


「何の話か分からないけど、喧嘩なら買うよ」


 俺がそう言うと、彼は「フン」と言ってから踵を返し、


「後で私の部屋に来てくれ。まだ依頼したクエストの報告がされていないからな」


 そう言えば、彼に依頼されていたんだっけ。
 顔に出ていただろうか、ティアールは苦虫を噛み潰したような顔をしてからため息をついた。


「……まあいい。君にとってはその程度のことだったのかもしれないが、私にとっては一大事だったんだ。取りあえず待っているよ。そうそう、水は部屋に運ばせる。あまり若いうちから羽目を外すもんじゃないぞ」


 保護者みたいなことを言うティアール。
 俺は取りあえず彼に礼を言ってから、冬子を部屋まで連れていく。


「きょ~すけ~……お前は~、そもそもみんなから好かれ過ぎだ~」


「はいはい。冬子、お水だよ~」


「うみゅぅ~……」


 なんか猫みたいになってる。
 冬子をベッドに寝かせ、皆のいる部屋に戻る。


「それじゃ、俺行ってくるから冬子のことお願いね。何かあったらケータイにかけてくれていいから」


「うむ。では妾は先に湯浴みしてこようかの。ピアよ、トーコのことは任せたぞ」


「はい」


「疲れてたら先に休んでもいいからね」


 俺はそれだけ言い、部屋を出て階下へ向かう。
 ティアールの部屋の前に着くと、俺がノックする前に扉の向こうから「開いている」と言われた。
 ……素人にも分かるほど気配を出していたかな? 俺は。


「失礼するね」


 相手は依頼人だけど、既に無礼を働いているからいつも通り接する。
 ティアールはまたため息をついて……スッと封筒を出してきた。


「無論、後で依頼書に書いた分の大金貨も渡すが……それは、妻と娘の仇を討ってくれた分の私の個人的な礼だ。受け取ってくれ」


「今中身を見ても?」


「構わん」


 そう言われたので、中身を確認すると……彼のサインが入ったチケットだ。書いてある内容は……


「『ティアール・アスキーの名においてキョースケ・キヨタとその仲間に、ティアールの経営する宿泊施設の無料利用を確約するものとする。また、ティアールの商会はキヨタに惜しみなき協力を約束する。なお、便宜が図れることがあった場合は優先的にキョースケを助けるように』……ってこれ、紹介状みたいなものだね。いいの?」


 彼の系列会社だけだろうけど、これで旅の時の宿は少し楽になる。しかもこんな高級宿だ。
 そう思って問うと、彼は……深々と頭を下げた。


「ああ。先ほども言ったが個人的な礼だ。妻と、娘の仇を討ってくれて……感謝、する。これ以上ないほど、感謝する……ッ!」


 彼の言葉の語尾が震えていることに関しては、何も言わない方がいいのだろう。
 俺はそう思って彼が頭を上げるまで待つことにする。
 何秒、いや何分そうしていただろうか。ティアールは頭を上げると、憑き物が落ちたような顔をしていた。


「もう、食人衝動はいいの?」


 少しニヤリとして訊くと、ティアールは肩をすくめた。


「ああ。……こんな突然言われていきなり心の整理が出来るわけでもないし、宿に泊めさせるわけにもいかないが……一応、耳と尻尾を隠してくれたら入れるように計らおう。今日だってなし崩し的に泊っているんだろうが……この商売は信用が第一なんだからな」


「分かってるよ、それには感謝する」


「ふっ……」


 そんな話をした後、ティアールにどの街に彼の宿屋があるかなどを聞いて、最後に大金貨を受け取ってから俺は部屋を出た。
 ティアールは――終始笑っていたことに、自分で気づいているのだろうか。



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