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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

91話 魔道具店なう

 こっちの世界にカップ麺とかコンビニ弁当なんて無いため、朝ご飯のために買っておくのはもっぱらパンだ。朝はパン、パンパパン。
 きょろきょろと探しながら歩いていると、『クマのパン屋』という店を見付けた。ここでいいか。
 俺は外で活力煙を燃やし尽くしてから店の中に入る。


「いらっしゃい」


 口ひげを蓄えている中年の店主がにこやかに挨拶してくれる。たしかにクマみたいな見た目だ。あの老若男女問わずさん付けで呼ばれる黄色い熊みたいな。
 店を見回すと、結構いろいろなパンが置いてある。バターパンとかチーズパンとかもあるね。どれも美味しそうだ。


「食パンを一斤もらえるかな。あとミルクとジャム」


 四人分なので食パンを一斤。特に俺とリャンは結構食べる方だから、一食分ならちょうどいいくらいでしょ。


「あいよ。ジャムはそこから選んでくれ」


 ジャムはビンに詰められて売られている。いくつか種類があるね。


「おススメとかある?」


 何とはなしに尋ねてみると、食パンとミルクを麻袋に入れてくれていた店主が一つのジャムを指さした。


「そうだな……そこのアマイチゴのジャムはよく売れるぞ」


「へぇ」


 アンタレスでもよく聞いていた果物の名前だ。それなら美味しそうだね。


「じゃあそれにしよう。いくら?」


「あいよ。大銀貨一枚、小銀貨四枚だ」


 九百円くらいか。パンとミルクとジャムで九百円とはなかなか良心的なお店だね。


「ん。……ああ、ごめん。小金貨でいい?」


 俺が苦笑しながら小金貨を渡すと、店主はにこやかにお釣りをくれた。


「おう。お釣りだ」


 小銀貨一枚のおつりを受け取り、俺は店を出ようとして――ふと立ち止まる。


「そういえば明日、王都を観光しようと思ってるんだけど……何かおススメの場所ってある?」


「お、なんだ兄ちゃん。格好からしてAGかと思ってたけど観光者だったんかい?」


「いやAGなんだけど、明日はお休みにしようと思っていてね」


「はぁん……ってことは結構優秀なAGなんだな」


 顎に手を当ててニヤリと笑う店主。俺は肩をすくめてから苦笑する。


「まさか。単に怠惰なだけだよ。それで、どこか知らない?」


「そうさなぁ……兄ちゃん、一人旅かい?」


「ううん、明日は友達と一緒に回るつもりだよ」


「……そりゃ兄ちゃんのこれかい?」


 スッと小指を立てる店主。……このくらいの歳の人はそういう話が好きだねぇ。


「確かに女性だけど、そんな関係じゃないよ。大切な仲間ではあるけどね」


「ほうほう」


 何故かニヤニヤとしている店主。……これは聞く人を間違えたかな。


「まあなんだな。そうなると天文台とかいいんじゃねえか? あそこから見る夜空と、王都の夜景はなかなかのモンだ」


「へぇ……見た目によらずロマンチックなんだね」


「見た目は余計だ」


「おっとこれは失礼。……天文台ね。あとは晩御飯のお店とかしらない?」


「それなら俺よりも向かいの魔道具店のやつの方が詳しいぞ。ついでにその彼女へのプレゼントでも見繕いな」


「魔道具店か……」


 魔道具は少し気になっていたところだったのでちょうどいい。さっきヨハネスに教えてもらったけど、どうも王都のギルドマスターは魔道具であのくらいの年齢の姿になっていたらしい。
 他にもメローの防御の魔道具とか、この世界に来て何度か魔道具を見ている。有用なモノならそれを持つことを検討するべきだろう。


「って、そして彼女じゃないって」


「んー? 俺は三人称の『彼女』って言ったつもりだったんだが」


 してやったりという顔の店主。


「……情報ありがとう」


 相当苦い顔をしていたであろう俺はくるりと踵を返して店を出る。
 そして活力煙を咥えてから……周囲に一瞬だけ不可視化の結界を張ってから、荷物をアイテムボックスにしまう。
 そしてそのままお向かいの魔道具店に入る。


「……いらっさい。おやおや、随分と若いんが来たね」


 おばあさん……うん、駄菓子屋さんにいそうな八十歳くらいのおばあさんが店主をやっていた。


「何が入用なんだい?」


「ん、そうだね……」


 少し考えてみる。……うーん、どんなものがあるか分からないけど、防護系の魔道具はあると助かるだろうね。それこそ、冬子に持たせてあげたい。


「防御用の魔道具とかは無いかな。致命傷を全て防ぐとか」


「そんな神代の武具――神器クラスじゃないと無いよ。けど防御力が上がる指輪ならあったかな」


 そう言って立ち上がり、店の中をゴソゴソと探し出す老婆。
 今さらっと神器のことを言ってたけど……神器ってそんなによく聞くワードなのかな。それとも、彼女が職業柄知っていただけなのか。
 なんて俺が考えていると、老婆が「ほれ」と指輪を渡してくれた。


「それは魔力を通すと薄い防御壁を張ってくれる魔道具でね。二つあるんだが、どちらも着用者に合わせて大きさが変わるからサイズは問題ないよ」


「へぇ」


 シンプルな銀の指輪だ。大きな石はついていないが、小さくて透明な宝石が三つ埋め込まれている。おしゃれだね。
 これは俺と冬子のにしよう。


「防御系ってなると……そうだな、これは気配に敏感になるイヤリングだ。ただ魔力を補充して使うものだから肝心な時に魔力切れになったりするけど、着用者に魔力が無くても付けられるメリットがある」


「ああ、それはリャンによさそうだ」


 能力を底上げしてくれる系の魔道具っていいよね。
 緑色の大きめの宝石がついている。少しゴテゴテしているから俺の趣味じゃないけど、リャンは気に入ってくれるだろうか。
 他にもいくつか見せてくれるけど、なかなかピンとくるものがない。……というか、キアラに魔道具なんて必要ないよね。


「後は……これはちょっと違うかね。人に魔力を譲渡出来る腕輪だよ」


 紫色の……なんだろう。宝石で作った数珠とか言った方がいいかな。綺麗で透き通った石が外の光を反射している。


「防御用……というか補助用だね。いいねそれは」


「おや、いいのかい? 魔力タンクみたいな人間がいないと機能しないよ?」


 キアラは魔力量の底が尽きない。もしも俺の魔力が尽きたら分けてもらおう。まあ俺も『パンドラ・ディヴァー』があるから魔力が尽きることの方が稀だけど……。


「ん……こんなものかな。って、あれ?」


 ふと目に入ったネックレスを手に取る。
 そのネックレスは、ピンク色のシンプルなものだった。真ん中にあしらわれた宝石もまたピンク色で、球形にカットされている。
 綺麗なネックレスだね。


「これ、女性用?」


「そうだけど? って、それはあんまり使えないよ。というか……使い勝手が悪すぎる上に使い捨てだから」


「ん……デザインが気に入った」


 キラキラとしていて綺麗……というか、冬子に似合いそうだ。流石に鎧の時には似合わないかもしれないけど……うん、これに似合う服を明日選んであげるのもいいかもね。
 普段の感謝を伝えるには十分だし……それに、俺が付けていた日記のおかげで明日はとある記念日であることが分かっている。その記念日のためにも――こうしてプレゼントを用意してあげることは有用だろう。


「これ全部貰うよ。いくら?」


「そうだねぇ。指輪とイヤリングはいいものだけど、その他が売れ残り品だったからね。少し値引いて大金貨二十枚でどうだい」


 大金貨二十枚……二十万円か。結構するね。いや、魔道具の相場が分からないから何とも言えないけど。
 さすがにその金額を持ち歩いているわけじゃないので、ギルドに取りに行くと言って俺はいったん店を出る。
 まあギルドに行かずともアイテムボックスから出せばそれで事足りるんだけど、あまり速く戻りすぎても怪しまれるだろうし……他にもいろいろ見て回ろう。
 ……としたところで電話がかかってきた。


『京助か?』


「そりゃ俺のケータイにかけたんだから俺が出るよ」


『お約束のボケは置いておいてだな。私たちは合流できたぞ。京助もそろそろ買い物は終わったんじゃないか?』


 ああ、彼女らはもう合流できたのか。


「そうだね……今どこにいる?」


『商店街の入り口付近だ。……もしかしてまだかかるのか?』


「あー……うん。もう少しだけね。先に店を見付けて入っちゃってもいいよ」


 俺がそう言うと、冬子は後ろで誰かに向かって話し出した。おそらくリャンとキアラだろう。
 しばらく話していたかと思うと、冬子が再びこちらへ話しかけてきた。


『なら、先に店に入っておく。たしか、麺類が食べたいんだったな?』


「そだよ。じゃあ買い物が終わったら連絡するからケータイに出られるようにしといて」


『分かった。なるべく早くしろよ』


「うん」


 俺はケータイを切って懐にしまう。……ああ、そういえば喫煙できるところにしてくれただろうか。いや出来ないなら出来ないでいいんだけどね。
 さて、揃ったのならもう少し急ごうか。俺は他のお店を見に行くふりをして不可視化の結界を張ってから大金貨をアイテムボックスから取り出す。


「……本当に便利だよねぇ」


(カカカッ、マア使えるモンは使ったらイイジャアネェカァ!)


「まあね」


 ヨハネスにそう返事しながら大金貨を数える。アイテムボックスからは望んだ額しか出てこないが、念のためだ。
 ちゃんと二十枚あることを確認して、もう一度魔道具店に入る。


「おや、もう行って帰ってきたのかい」


「ちょっと急いだからね」


「そうかい。それじゃあ大金貨二十枚だよ」


「はい」


 俺が大金貨二十枚を五枚ずつ渡すと、老婆は満足そうに受け取った。


「しかしあれだね。これだけの大金をぽんと出せるってことは、よほどの高ランクなAGさんなんだね」


 また言われたね、そのセリフ。まあ革鎧を着て街中を闊歩した挙句戦闘に関する魔道具を買ってればAGとも思われるか。


「高ランクじゃあないよ。たまたま大金が手に入る機会があってね」


「そうなのかい」


「うん。それはそうと、どこかいいお店を知らない? 明日、友人と王都を見て回るつもりでね。その時に食べる晩御飯のお店が知りたいんだけど」


 本来の目的であった晩御飯を食べるお店を聞くと、老婆は目をスッと細めた。


「生憎、わたしゃ女の子がキャッキャウフフする店はあまり知らなくてね。そういう下劣な店が知りたいんなら三軒隣のエロ親父に聞きな」


 も、物凄い三白眼になって俺を睨む老婆。客商売をやっている人間がしていい顔じゃない。俺は慌てて手を振って否定する。


「と、友達といっても女の子の友達だよ。故郷から一緒に出てきていで、パーティを組んでるんだ。だからそんな変なお店が知りたいんじゃなくて、普通にご飯が美味しいお店だよ」


 そう言うと、老婆は目を丸くして笑い出した。な、なんだ今度は。


「ほっほっほ。なるほどなるほど、そうじゃったのか。兄さんは若く見えるけど隅に置けないね。どこに行くんだい」


 若いのは関係ないと思う。というか、失礼だけど貴方に比べたら殆どの人が若いんじゃないだろうか。


「その辺のお店で服を見た後、天文台があるって聞いたからそこに」


 端的に伝えると、老婆は「天文台ってことはさてはパン屋に聞いたね?」と情報の出所を当ててきた。凄いな。


「それなら……そうさね」


 老婆は少し考える仕草をした後、ぽんと手を打った。


「天文台から少し離れたところに、『ブルーローズ』というお店がある。とある魔法的な仕掛けがしてあって楽しい店だ」


「へぇ、いいかもしれないね。ありがとう、探して行ってみるよ」


 お礼を言ってから踵を返すと、後ろから「ちょいと待ちな」と声をかけられた。


「今日買ったのをプレゼントにするつもりかい?」


「……よく分かったね、これがプレゼント用だなんて」


 俺が言うと、老婆は「はぁ~……」とため息をついた。


「色気が無いねぇ、女ってのはもっと男には色気のあるもんを贈って欲しいもんさ」


「そうは言っても、普段使い出来る物の方がいいでしょ。ずっと付けていてもらえる」


「……ほう、それはそれでいい考えだね。ま、それだけ一式贈られりゃ喜ぶもんさね。せいぜい頑張りな」


「特に何も頑張ることは無いけど……まあ、応援ありがとう」


 そう言って外に出ようとして、ふとネックレスの効果を聞き忘れていたことを思いだした。


「聞き忘れてたんだけど、ちなみに、このネックレスの効果は?」


「ああ、それは――」


 老婆の説明を聞いてふむと頷く。一番いいモノを買ったのかもしれない。
 俺は活力煙に火を付けながら店の外に出た。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 お店から出て冬子と連絡を取り、彼女たちが入ったお店へ向かった。外は大分暗くなってきている。……晩御飯にはちょうどいいくらいの時間だね。
 少し急いで彼女らが待っているお店に向かうと、大衆食堂と言った感じのお店だった。ここなら麺類も豊富そうだね。


「いらっしゃいませー」


「連れがいるんだけど、聞いてない?」


「あ、キヨタ様ですねー。ご案内いたしますー」


 妙に間延びした喋り方をする店員さんに案内されてテーブルに向かうと、冬子とリャンとキアラが既に飲み物を飲んでいた。


「待たせちゃってごめんね。先に食べてくれててよかったのに」


 テーブルを見ると灰皿が置いてある。このお店は喫煙していいみたいだ。
 遠慮なく吸わせてもらおうと思い、席に着きながら新しい活力煙を咥える。


「いや、流石にそれは悪いと思ってな。何を頼む? ちゃんとお前が食べたがっていた麺類があるぞ」


 そう言いながらメニューを渡してくれる冬子。


「ほっほっほ。お主がそんなにこだわるのは珍しいのぅ。そんなに食べたかったのか? ん?」


 ニヤニヤとした顔で聞いてくるキアラ。俺は肩をすくめて灰皿に灰を落とす。


「たまに……あるでしょ、そういうの。というか俺も冬子も日本食を食べたい気持ちを毎日抑えてるんだから偶には食に目覚めてもいいはずだ」


 きっぱりと言い放ち、メニューを確認する。


「マスター。どうもこちらのお店ではこの料理が人気らしいですよ。食べている人が一番多い」


 リャンが指さしてくれた料理は、お肉と野菜がメインのスープに麺が入っている物らしい。向こうの世界で言うならラーメンみたいな感じかな。


「じゃあ俺もそれにしようかな。ていうか、それ誰に聞いたの?」


 何とはなしに訊くと、リャンは当然のように凄いことを言ってきた。


「いえ、それの匂いが一番しますので。それで話を聞いているとその料理だということが分かったので」


「……初めてリャンが獣人だって思い知ったね」


「た、確かに」


 ちなみにこのお店は獣人OKらしい。


「お主の要望、二つをちゃんと叶えてやったのぢゃ。トーコにはしっかり感謝するんぢゃぞ」


「ん……ごめんね、ありがとう冬子」


 素直に御礼を言うと、冬子は顔を赤らめてもう一つのメニューで顔を隠した。


「そ、その……別に構わん。私だってピアさんと一緒にご飯を食べたかったからな!」


「そうですか、ありがとうございますトーコさん」


 ペコリとお礼をするリャンに「う……」と怯んでいる冬子。何してるんだか。
 俺は活力煙の煙を吸い込みながら店員さんを呼ぶ。


「俺はこれで……。皆は?」


「私も彼と同じものを」


「私はこちらの焼き鳥とやらを」


「妾はエールとこれとこれと……」


「キアラ、誰が払うのか考えたうえで頼んでね?」


「そうぢゃの。ならこれも頼もうかの」


 よーし、後でぶっ飛ばす。


「リャン、飲みたかったら飲んでいいよ?」


「いえ、私は遠慮しておきます。マスターたちは飲まれないのですか?」


「俺たちは諸事情があってね」


 そう言いながら注文を済ませ、そう言えばと思い出して俺は懐から――というかアイテムボックスから、さっき買った魔道具を取り出す。


「ん? どうしたんだ京助」


「さっき買ってきた魔道具。この指輪には防護壁を張る機能があって、こっちのイヤリングは索敵能力が上がるんだったかな。キアラには何もいらないかなと思ったけど、何も無いのもかわいそうだからこれね」


 そう言ってキアラに数珠を、冬子に指輪を、そしてリャンにイヤリングを渡す。


「きょ、京助これは!?」


 物凄く驚いた……というかなんか喜びと驚きとなんかもっといろいろと複雑そうな顔になる冬子。


「今言った通り防御用の魔道具。使ってみて有用だったら今後魔道具をどこかで手に入れることも考えないといけないからね」


 そう答えると、冬子は「うん、知っていたよ私は……」といきなりテンションを下げだした。ど、どうしたんだろう。


「マスター、私ももらえるのですか?」


「うん。……たぶん、今後このパーティーでやっていくとなると、間違いなくリャンが索敵になるからね。それのためだよ」


「……あ、ありがとうございますマスター」


 嬉しそうにしてくれるリャン。うん、そうやって喜んでもらえると贈った甲斐もある。


「ほっほっほ。キョースケにしてはなかなかいいセンスをしておるのぅ。いいブレスレットぢゃ」


 それ数珠のつもりで買ったとは言わないでおこう。
 三者三様の反応を見せてくれる中、料理が運ばれてきた。


「お待たせしましたー」


「じゃあ食べようか」


「そうぢゃのぅ」


 俺と冬子は手を合わせて「いただきます」と言い、キアラは無言で手を組んだ。そしてリャンは特に何も言わず手を出す。
 さて、どんな味がするだろう。

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