異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

81話 王都ギルドなう

「取りあえず、あれやったのは魔族で間違いないの?」


「他者の精神に干渉する魔法は無くはないが、あそこまで確実なマインドコントロールを施せるのは闇魔術くらいのものぢゃろう。そうでなくとも、人族と獣人族の対立をあおって得するのは魔族くらいのものぢゃ」


 俺が問うと、キアラが簡潔に答えてくれた。
 まあ……そうだろうな。


「ということは、接触するのは俺だけだね」


「妾は枝神ぢゃから精神に干渉する魔法、魔術は効かぬが万が一のことがあった時に回復させてやれるのが妾だけぢゃからのぅ」


「というかそもそも、どうやって接触するんだ? 向こうは王都にいるとは限らないのだろう?」


 冬子の意見にはリャンが首を振った。


「先ほど、キアラが彼……ティアールと言いましたね。ティアールと同じ状態になってしまっている人が少なくない数いたと言いました。ということは、少しずつ王都で増やしていっているという事でしょう」


「まあ、未だにAランクAGのままかどうかは分からないけど、少なくとも王都近辺にいる可能性は高いだろうね」


 もしもいなかったらいなかったで捜査を打ち切るだけだしね。
 なんてことを考えていたら、コンコンと部屋がノックされた。


「あー……私だ。入ってもいいか?」


「どうぞ」


 俺は部屋の扉を開けると、そこにはティアールがいた。
 よしよし、ちゃんとメモ通りにしてくれたのかな?


「……ギルドに指名依頼を入れてきた。二つ名持ちだったとは」


「まあね。もっとも、大したことのない二つ名だよ? 『魔石狩り』なんて」


「フン……行き過ぎた謙遜は嫌味にしかならん。取りあえず、それだけ伝えにきただけだ」


「んー……よかったらお茶でも飲んでく?」


 俺が部屋の中を手のひらでさすと、ティアールは心底呆れたという顔を向けてきた。


「お楽しみを邪魔するわけにはいくまい。それと……私は生涯愛した女性は妻だけだ。刺されても知らんぞ」


「……ねぇ、それどういう意味かな」


 バタン! と物凄い音をたてながら扉を閉められた。だいぶ嫌われているみたいだね。
 溜息をついて部屋に戻る。そこには美女が約三名。うち一人は年齢不詳のBBAだけど、それすら顔はいい。しかも一人は獣人族の奴隷ときた。そりゃそういうこと・・・・・・を疑われてもしょうがない……のか?


「まあいいや」


「どうしたんだ、京助」


「別に。それよりもちゃんと仕事の依頼としてさっきのが入った。少しでも足しになるでしょ、お金の。誰かさんが無駄遣いしてくれたおかげで少し懐事情が寂しくなってきたところだからね」


 嫌味を言うけどキアラは聞く耳持たない。相変わらずこいつは……。


「まあいいか。さて、じゃあ接触するのは俺として、どうやって探そうか。AGだったらギルドに行けばまず間違いなく会えるんだけど」


「そこはまず、マックという……入れ替わられた可能性の高い男に接触だろうな」


「そりゃね、けどそっからどうするか」


「ふむ……匂いでもわかれば私が追えるんですが……」


 その辺は獣人なんだね。


「いざとなればキョースケ、お主が上空から『魔視』であ奴にかけられておった呪いと同じ魔力を持つ人間を探せばいいのではないのかの?」


「王都がどれだけ広いと思ってるのさ。それはさすがに厳しいでしょ」


 とはいえ、最終手段としては悪くない。同じ魔力の色、形という手掛かりがあるだけでもまだマシと言える。


「それにしても、よくこれをやる気になったのぅ。妾としては説得する材料がいくつか用意しておったのに、それらが必要なくなってしまって拍子抜けぢゃ」


「……やっぱりキアラの陰謀だったんだね」


「陰謀とは失礼ぢゃのぅ。お茶目な美女の悪戯ぢゃというのに」


 パチンとウインクをするキアラ。


「悪戯なんて可愛いもんじゃないでしょ。まあいいや、取りあえず今後の行動目標はギルドでの聞き込み。そして接触は俺が一人で行い、魔族であるという確証がとれ次第、人目に付くところで討伐しよう。上手くいけば報奨金とかも出るかもしれない」


「なんだかだんだんがめつくなっておるのぅ、キョースケ」


「金は無いよりある方が絶対にいいでしょ」


「身に余る金銭は人を滅ぼしますよ? マスター」


 リャンにまで言われてしまった。
 とはいえ、俺が小金を稼ぎたがるのは今に始まった話ではない。前々からずっと稼げるときは稼ごうとしている。金が無いのとあるのとではある方がとれる手段が桁違いだからな。


「まあいいでしょ。別に誰かを騙して金を奪ってるわけでも強盗してるわけでもないんだからさ。真っ当な手段で俺は金を稼いでるだけだよ。さて――取りあえず、行こうか」


「ギルドか」


「うん」


 活力煙を咥えて俺は扉を開ける。
 さて、取りあえず一つ目のクエストも完了しないとね。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 俺がギルドに辿り着くと……


「なんか、見られてないか?」


「そうぢゃのぅ」


「……マスターの強さに惹かれているのでは?」


 女性陣が三者三様の反応を見せる中、俺は活力煙の煙を吐きだした。


「あー……なんていうか、まあ行こうか」


 三人とも美人で、しかも一人は珍しい黒髪、一人は明らかに痴女っぽい格好しているし、一人は獣耳だ。黙っていても眼を引くだろう。
 そしてそれを連れている俺が平凡な見た目をしている以上、ガラの悪いAGどもはそりゃあ気に入らないだろう。
 ギルドのお姉さんのところに剣を持って行こうとすると、その前に……おお、結構な人数が目の前を塞いだ。
 なんていうか三国〇双でもしてる気分だよね。こんなDランクAGがゾロゾロと湧いて出てくると。
 相手をしていても時間の無駄なので、無視して受付へと行こうとすると、一人から肩を掴まれてしまった。


「おい、兄ちゃん。なんかデケェ顔してんな」


「つーか綺麗な姉ちゃん連れてんなぁオイ」


「物凄い小者臭だな」


 ぼそっと言うと、目の前にいたAG……細身で頬がこけているオジサンにガシッと胸ぐらをつかまれた。


「アァ!? テメェ今なんつった!?」


(……おいおい、王都のAGって物凄いガラが悪いな)


 仮にも王家のお膝元なのに、こんなガラの悪さで治安とかは大丈夫なんだろうか。
 気づくと、何故か冬子とキアラに肩を組んでいた。おいおい、その女たちはお前らよりも強いんだけどね。
 俺は取りあえず活力煙の煙を吹きかけると同時に、俺の襟首を掴んでいる腕を掴んで握りしめる。


「えー……と? 俺らに喧嘩を売ってるってことでおk?」


 ミシリ、ミシリと俺が掴んでいる腕から聞こえてくる。なんだろうなー、この音。俺の胸ぐらをつかんでいる右腕を左手で抑えながら崩れ落ちた。


「う、ぐ……い、い、いでででででででで! お、おい! お前ら見てないで助け――」


 痩せこけおっさんが悲痛な叫びをあげながら周りを見ると……既に、その場にいたガラの悪いAG達は制圧されてしまっていた。
 具体的には、全員ボコボコにされてキアラとリャンに踏んづけられていた。冬子だけは踏みつけていないが、剣に手をかけているところから見て……抜剣したね、間違いなく。


「は……え……?」


「あなた方は対応力が足りません。女性が自分よりも腕力が強かった場合の対応を磨くべきですね」


「ほっほっほ。お主らはまず自分の得意分野を磨くべきぢゃのぅ」


「そもそもだ! いきなり女性に肩を組んでくるなど軟派な心だからこうしてのされるんだ! 恥を知れ!」


「え、え、え……?」


 俺は手を放してやると、痩せおっさんはバッと後ろに飛びずさり腰の剣に手をかけた。
 そして顔を真っ赤にして「うわあああああ!」と叫び声をあげながらそれを抜こうとしたので、俺は距離をつめると頸動脈に指を当てた。


「抜く気?」


「ひっ……」


 真っ赤な顔を真っ青にして、フルフルと首を振る痩せおっさん。それを見て俺はまたため息をつくと、指を降ろした。


「じゃあ行こうか」


 俺がそいつらを放って受付に行くと……受付のお姉さんから物凄い顔で睨まれた。マリルでもそんな顔しないのに。


「……AGライセンスを見せてください」


 押し殺すような声を出す受付のお姉さんにむかって素直にAGライセンスを渡す。


「はい」


 俺のライセンスをじっと見て、お姉さんは「ふぅ」とため息をついた。


「BランクAGですか……主な拠点はアンタレス、そして異名が『魔石狩り』」


「うん、そうだよ」


 受付のお姉さんはこれ見よがしに「はぁ……」とため息をついた。


「今回は不問にしますが、ああやってギルド内で騒がないでください。地元ではちやほやされていたのかもしれませんが、王都ではBランクAGは珍しくないです。あまり目立つような行為は控えてください。そもそも……」


 なんだか上から目線でいろいろと言ってくるお姉さん。さっさとクエストを終わらせたいんだけどな……。
 俺は欠伸を噛み殺しながらお姉さんのありがたいお言葉を聞き流す。


「あまりこのギルドをかき乱すようでしたら、マック様にご相談させていただきます。いいですね?」


 マック、という言葉に俺たちは少し反応するが、その前に少し反論しておくことにした。


「ふーん……いや、それ自体は別にいいんだけど、なんで先に騒ぎ出したあの人たちのことはいいわけ?」


 俺はいまだに後ろで伸びている(痩せおっさんは既にどこかへ消えている)連中を親指で指しながら言ってみた。
 すると受付のお姉さんはまたも淡々と答えた。


「彼等はマック様にご報告させていただきます。追って処分は言い渡されるでしょう」


 マック様、マック様……ねぇ。
 俺は活力煙を燃やし尽くすと、魔力を『視』る眼を発動させてみた。


(まあ……そうだろうな)


 眼を通常のものに戻し、取りあえずクエストのことを説明する。
 さすがに仕事はきっちりしてくれるのか、普通にクエストに関しては受領してくれた受付のお姉さん。


「では、その荷物を――」


「ああ、その前に。キアラ」


「うむ」


 受付のお姉さんがヘルミナの剣を受け取ろうとした時に、後ろにいるキアラに声をかけた。無論、呪いを解除するためにな。


「え?」


 唐突にキアラに手をかざされた受付のお姉さんは一瞬戸惑ったものの、ポウと少しだけ受付のお姉さんが光ったが、体に何も異変が無かったからか少し不審げに思うだけだったらしい。


「……今のは?」


「ごめんよ、君の首元に赤いマークが見えたから。怪我かと思ってね」


「なっ」


 バッ、と顔を赤くして首元を抑える受付のお姉さん。え、何その反応。
 若干いたたまれない空気になったのを振り払うために苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。


「あー……そうだね、ごめんね。これもマック様とやらに言う?」


「……? 何故マックさんに言う必要があるんですか。んんっ、ともかくクエストを先に完遂させてください」


 咳払いして誤魔化す受付のお姉さん。昨日は彼氏とにゃんにゃん(死語)だったのかもしれないけど職務はちゃんとやってもらわないとね。
 俺はヘルミナの剣を渡してクエスト完了。ヘルミナの師匠とやらにも一度会ってみたかったが今は魔族らしき人物を排除する方が先だろう。


「ではクエストは完了いたしました。……っと、キョースケ・キヨタ様には指名依頼が届いております。申し訳ございません、先にご報告すべきでした」


 ぺこりと頭をさげる受付のお姉さん。俺は「いいよ」という意味で手を振ってからクエストの内容とかを聞いてみる。


「ティアールからでしょ?」


「はい。報酬は……」


 報酬とかなんとかを確認する。俺が予想していた額よりも結構多いね……これはありがたい。


「ん、これを受けるよ」


「ではAGノートを」


 いつも通りの手続きをして、俺はティアールからの指名依頼を受領する。


「では、またのお越しをお待ちしております」


 礼をする受付のお姉さんに笑顔で手を振ってから俺はギルドを後にする。


「さて……ねぇ、ここって王都だよね?」


「そうぢゃな」


 新しい活力煙を咥えて火をつける。苛立ちを抑えるのには活力煙が一番だ。


「冬子……俺が思う王都ってさ、最も警備が厚いと思うんだよね」


「そうだな。私もそう思うぞ」


「……ギルド内にまで魔族の呪いが浸透してるって警備ガバガバすぎるだろ」


 どうなってんだこの国は。というか異世界から「救世主(笑)」を呼び出さないといけない時点で大分詰んでるのは理解してたつもりだが……。


「さすがにこれはない。これは無いだろマジで」


「マスター。私は中枢にスパイでもいるのではないかと思っているのですが」


「そうじゃなくてこの体たらくならそんな国滅べばいい」


 とはいえ、逆に考えるならほかの都市を狙うよりもこの王都を狙った方が手っ取り早いからこうしてどんどん入り込んできているんだろうが……。


「このことを国王様に報告しなくていいのか?」


 不安そうな顔をしてくる冬子だけど、俺は活力煙をくゆらせながらふむと考える。


「城と関わり合いになりたくないんだよね。それに、俺らが解決した方が速く収まりそうだし。無理そうだったら言う方針で行こうか」


「そうか」


 活力煙の煙を吐きだしてから、首を鳴らす。


「さて……じゃあ取りあえず、マックとやらを探そうか」


 AランクAGなら探すのも簡単だろう。俺がBランクAGだけど物珍しがられるんだ。それより強いってんなら聞き込みすればすぐだろう。
 きょろきょろと辺りを見て、話の出来そうなAG――珍しい女性のAG――がいたので声をかけてみる。


「ごめん、ちょっといい?」


「……何? アタシ急いでるんだけど」


 のっけからものすごい睨まれる。こいつもマック様(笑)とやらに呪いをかけられているんだろうか。
 そう思って『視』てみるけど、そんな感じはない。ただのせっかちさんか。


「ごめんね、ちょっとだけ。マックっていうAランクAG知ってる?」


 俺が尋ねると、女性のAGは「そんなことを?」みたいな顔をした。


「王都でも指折りのAGとして有名よ? AGは渡り鳥みたいにフラフラといろいろな街に行くのが常だけど、あの人はこの王都でずっと定住していて。知ってる? 王都ってねAGの仕事が凄く少ないのよ。騎士団もあるし。だから実力のあるAGほど遠い町で稼ぎたがるのね」


 ほー、そういうものなのか。


「今、どの辺にいるとか分かる?」


「さすがにそれはちょっと。でも、他の人に訊いてみたら? マックさんは有名だから誰か一人くらい居場所知ってると思うよ」


「そっか」


 なるほど、そんな有名人なのか。


「聞きたいのはそれだけ?」


「うん、ごめんね呼び止めちゃって」


 礼の代わりに多少の金銭を渡してからその女性AGと別れる。


「じゃ、さっきの通り……ばらけて情報収集。見つけても接触しないようにね。キアラとリャンはホテルで待機。俺と冬子で聞き込みだね。二時間程経ったら俺が連絡するから、そしたら一度ホテルに戻ろう」


「了解」


「承知しました」


「ほっほっほ。ではそうするかのぅ」


 三人に指示を出して、バラバラに歩きだす。
 さて……聞き込みとか俺みたいなコミュ障にはだるいけど、やってみますかね。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 それから二時間ほど。日も沈んでしまった。


「いったん集まって晩御飯でも食べようかね」


 そう思って俺は皆に電話をかけてみる。
 まずは冬子……と思ったんだけど何故か繋がらない。
 何かトラブルでもあったんだろうか……と思うけど、取りあえずリャンに電話をかける。


「あーあー。リャン。いったん撤収するよ」


『あ、マスター。今どちらにいらっしゃるんですか?』


「ん?」


 俺は辺りを見てみる。この辺りにある目立つ建物といえば……。


「ギルドが100m先くらいに見えるよ」


『やはりだいぶ離れていますね。そんなに離れているのにこんなに声が鮮明に聞こえるとは……』


「あー……」


 よく考えたら……俺と冬子はケータイに慣れているけど、異世界の住人であるリャンはケータイなんて初めてか。そりゃあ驚きもするだろう。


「いきなり音が鳴ってビックリしなかった?」


 少し含み笑いをしつつ聞いてみると、リャンは驚いたような声をあげた。


『マスター。よくわかりましたね』


「まーね。……じゃ、今から向かうよ」


 俺は光学迷彩を施してから『天駆』を発動する。
 直線で空を飛べばどんな距離も大概一瞬だ。俺は二、三呼吸するうちにホテルの前に着いた。


「着いたけど……冬子はまだかな」


 俺はそう言ってから二人を待とうと再び活力煙に火をつけたところで……。


「……ああ、お帰り冬子。なんで電話に出てくれなかったの?」


 向こうから、何故か強い意志を感じられる足音で冬子が歩いてきた。
 ……何故か、抜剣していてすり足で、だけど。


「京助」


「何?」


 俺が活力煙の煙を吐きだしながら問い返すと、冬子は明らかに正気を失った目で俺を睨みつけてきた。


「そこをどけ。ピアをたたっ斬る」


 俺はすぐさまリャンに電話をかけて、それと同時に風を槍に巻いて切れ味を鈍くする。冬子を万一にも傷付けないために。


『……どうされましたかマス――』


「外に出るな! そしてキアラに『すぐに下に来い』って言って今すぐ!」


 俺が電話をかけ終えた瞬間、冬子の剣が俺のケータイを狙った。間一髪それを躱すと同時に俺は廻し蹴りを冬子の腹に叩き込む。


「ぐっ……」


「さて……と」


 ぎろりと冬子に睨まれる。こんなの、魔力を『視』るまでもない。


「マック……テメェはやっちゃいけないことをしたね」


「何をブツブツ言っている! 京助!」


 俺は槍を構えて冬子の剣を受け止める。


「マック……どこにいるのか知らないけど、俺の仲間に手を出した以上ただじゃ済ませない」


 冬子から打ち付けられる剣を弾き、躱しつつ俺は気合をいれる。
 マックを確実に打ちのめすという決意とともに。

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