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異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

78話 思考を止めるななう

 志村と別れて俺は王都の中心部へやってきた。馬鹿正直に門から入ってもいいけど、取りあえずみんなと合流することを優先しよう。
 キアラの魔力を頼りにやってくると……これはこれは、豪勢な宿をとったものだね。この世界では珍しい四階建ての、青いマンションのような宿。宿というかホテルといった雰囲気だ。
 出てくる人も、身なりのいい人たちが出てきている。俺とかただの革鎧なんだけどな。
 さすがに革鎧はちょっとTPOにあわない気がするが、これ以外の服だと普段着しかない。それよりも仕事着である革鎧の方がよいだろう。


「というか誰の金だと思ってるんだ……」


 リャンと冬子はまだいい。けどキアラ……お前はニートだろう。
 働かざる者食うべからずだ。
 なんてことを考えながら、俺は中に入る。フロントのようなところがあったのでそこへ行ってキアラたちが来ていないか訊いてみよう。


「キョースケって言うんだけど、俺の連れが泊まってると思うんだ。何か訊いてない?」


「ああ、キョースケ・キヨタ様ですね。BランクAGの。恐れ入りますが身分証を見せていただけますか?」


 なんかセキュリティのしっかりした宿だね。まあ確かに、普通の宿よりもセキュリティがいいのに変わりはない。
 俺はAGライセンスを出しながら、ちらりと料金表を見てみる。


「…………」


「確認できました。ようこそティアールホテルへ……ってお客様!?」


「キ、ア、ラ~……」


 こんな無駄遣いをするのはキアラで間違いない。
 俺は少し(というかかなり)ドン引いている受付のお姉さんからキアラたちの部屋を聞き、鍵を受け取る。というかこれ、同じ部屋じゃん……。
 ちゃんと男女で部屋を分けろって言ったのに。
 俺は諸々の文句を抱えてキアラたちの部屋へ行った。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「キアラ、この宿は一晩いくらだった?」


 バン! と部屋のドアを開けると、そこにはまずベッドが二つ並んでいた。そしてソファにいくつかのイス。
 ちらりと横を見ると……なんだろう、シャワールームまであるね。水の魔法道具とかで出来るようになっているんだろうか。


「おお、キョースケか。今トーコに魔法を教えているところぢゃ」


「話を聞いてくれる? ……というか、絵面がヤバいんだけど」


 俺がキアラたちの部屋に入ると、キアラは冬子の手足を縛って目隠しをして、彼女の目の前で火を灯している。パッと見、SMプレイの現場にしか見えない。


「ふぁ、ふぉーふふぇふぁ?」


 おそらく「あ、京助か?」って言ったんだろうけど……。


「ごめん、なんで口枷までしてるのかの理由が分からない」


「その場のノリぢゃな」


「言い切りやがった」


 こいつに教師をさせた俺が間違いだったのかもしれない。
 と、その場の光景のショッキングさに一瞬流されそうになったが、すぐに我に返ってキアラを問い詰める。


「それはそうと……もう一度聞くよ? この宿、一晩いくらだった」


「せっかくぢゃから王都で一番良いところに泊まろうという話になってのぅ。ただ、それだと予算がオーバーするのでな。この宿で我慢したというわけぢゃ」


「そうかそうか。それで一泊大金貨4枚もするところに泊まったんだね。バカなの? ねぇ、バカなの? アホなの、アホは死ななきゃ治らないっていうけど一度死んでみる?」


 またこれが払えなくもないギリギリの額だから何とも言えない。大金貨4枚って盗賊一個捕まえりゃもらえたりする額だからな……っていやいや、流されるな俺。
 取り合えずキアラを引っ叩く。


「何をするんぢゃ」


「何をするんぢゃ、じゃないよキアラ。マジでこの金誰の金だと思ってるの?」


「ケチくさいのぅ……いいではないか。こんなに広い部屋なんぢゃから。お主も美人二人と一緒の部屋なんぢゃから嬉しかろう?」


「あのね……男女七歳にして席を同じうせずって言ってね」


 俺がこんこんと説教をしようとしたところでキアラが「阿呆」と割り込んできた。


「何を言っておるお主は。妾たちの誰でも選び放題の状況で煮え切らないから妾が気を利かせてやったんぢゃぞ」


 そしてキアラは「うっふ~ん」とか言いながら腰をくねくねしだした。なにを言ってるんだろうこの自称美女は。


「ほれ、そのためにこうしてトーコを縛っておいたんぢゃぞ」


 そう言って冬子を指さすキアラ。ていうかそんなこと言われると途端に卑猥な雰囲気に変わるから凄い。


「取りあえず……口枷と手足のロープをほどいてあげて。話はそれからだ」


「仕方ないのぅ」


 キアラが指をツイっと振ると、冬子の手足のロープがするりとほどけた。


「ぷはっ」


 冬子は自分で目隠しと口枷を取り、大きく息を吸う。


「お疲れ、冬子。……今度から、キアラの行動に不可解な部分があったら俺に言うように。というかやっぱ俺が魔法教えようかな」


「そ、そうだな。……だんだん本当に魔法の訓練なのか怪しくなってきてだな」


「だろうね」


 俺がうんうんと頷くと、キアラが「心外ぢゃ~」とか言っている。いやどう考えてもおかしいだろう。


「そういえばリャンは?」


「ああ、リャンなら外ぢゃぞ。今頃野宿できるところでも探してるのではないかの」


 その一言に、俺は反応する。


「ねぇ、どういう意味……って聞く必要もないよね。そして大体察した。このホテル、獣人は泊まれないとかだったんでしょ」


 俺が訊くと、にっこりとキアラは笑った。


「いかにもぢゃ」


 その瞬間――
 轟! という音とともに、内部の調度品がすべて吹っ飛んだ。それもそのはず、俺が周囲の状況を完全に無視してキアラに殴りかかったからだ。
 ……が、俺の拳は寸前で止まってしまう。勿論、キアラの結界のせいだ。


「ねぇ、キアラ。俺がそういうの嫌いだって知ってるよね……?」


 ギリギリ、本当にギリギリ――俺は正気を保っている。本気でブチ切れてたら、とっくに魔昇華をしているからだ。
 俺の拳を留めたキアラはニヤニヤとした顔のまま俺の頬を撫でる。


「そう怒るな。毎度、別に嫌がらせのつもりでは無いぞ。今回も理由はある」


「……くだらない理由だったら神器を叩き壊してでもぶっ飛ばすよ?」


 俺が言うとキアラは指を二本立てた。


「言ってもいいかの?」


「どうぞ」


 俺が拳を納めると、キアラはにやーっと笑う。


「ほっほっほ。お主はやはり甘いのぅ。妾も半分以上懐に入っているのかのぅ。槍を出さずに殴りかかるだけですませるのぢゃから」


「……何、別に『魔昇華』してもいいんだけど」


「まあそう怒るな」


 キアラは本格的に人の神経を逆なですることが得意みたいだね。
 俺はそんなことを思いながら腕を組むと……なんか知らないけど、横合いから冬子が俺に活力煙を咥えさせて、火をつけた。


「……ど、どうしたの?」


 正直、少しビックリしながら冬子を見返すと、冬子はかぁーっと顔を真っ赤にした。


「や、その……今回の件は私も片棒を担いでいるからな。ご奉仕を……」


「冬子、わかってるとは思うけどご奉仕なんて言葉を使うのはやめようね?」


 煙を吸い込んでから、ふぅ~……と吐き出す。うん、なんか落ち着いてきた。


「で、何?」


「まずは一つ。お主にこの国の現状――ひいては、獣人と人族の間にある亀裂を味わわせるためぢゃ」


「この国の現状……そんなの」


「言われなくても分かってると? それでも頭で分かっておるのと実際に見るのではだいぶ違ってくる。現状を様々な方向から確認してこそ真の理解と言えよう」


「まあそうかもしれないけど」


 キアラのセリフはいちいち癇に障る。俺はふぅと一つため息をついてから心を落ち着ける。


「もう一つの理由は?」


 俺が尋ねると、キアラは少し神妙な顔をした。


「お主の最近の行動ぢゃ。少し……行動が直情的過ぎる。そろそろ暴力以外の解決方法をできるようになった方が良い」


「どういう――」


 そう言われて、考え直してみる。
 リューの件は確かに力技で解決した。けれども、それ以外の事件は暴力で解決して然るべき事件だろう。


「いや、京助……お前、天川達の件は無理に殴り合いとかしなくてよかったんじゃないか?」


 それはさておいて。


「キョースケ。暴力で解決するのは簡単かもしれんが、それだけではやっていけんのぢゃぞ。というわけで、今回の件を暴力無しで解決せい」


 正論過ぎて何も言えない。


「お主は、少々自分の力を……過信しておらんか? 邪魔する者を排除するのは構わんが、それは必ずしも暴力だけで行われるものではない。頭を使え、京助」


 にっこりとほほ笑むキアラ。俺は活力煙の煙を吸い込んでから、天井を仰ぐ。


「…………冬子」


「な、なんだ?」


「お前も協力するなんてね。なんで?」


 問うてみると、冬子は少し気まずそうにしながら……。


「お、お前のためだと言われたから……」


 そう、答えた。これ、前の世界だったら即詐欺にあいそうだよね。
 リャンを探そうにも、そもそも彼女は獣人族だから魔力が希薄だ。魔力を『視』る眼でも探せない。
 ……まさかこれも『力技で解決するな』に入るのかな?


「……キアラ、なんで口で説明する前に実行しちゃうの?」


「簡単なことぢゃ。お主はいつもグダグダ言い訳をして結局やらんからのぅ。致命的な欠点では無いが、それが問題を招く場合もある。もっと大局を見れるようにならんといかんからのぅ」


 ……はぁ。
 俺は若干面倒になりながらも、窓に足を駆ける。さっき俺がキアラを殴ったせいで窓ガラスが吹っ飛んじゃっている窓に。


「な、何をするつもりだ? 京助」


「まずはリャンを探しに行ってくる。その後、このホテルにリャンを泊めさせられないか交渉してくる」


「暴力は無しぢゃぞ」


「分かってるよ」


 煙が空に溶けていくのを見ながら、俺はしばし目を閉じる。
 ……確かに、天川達の時も話し合いをすればよかったのかもしれない。リューの件は性急だったから選択肢は限られていたかもしれないけれど、それでも他にもっと上手いやり方があったかもしれない。
 要するにキアラは「思考を止めるな」と言いたいんだろう。


「あー……行ってくる」


 俺はホテルの窓から、地面にむかって真っ逆さまに落ちていく。窓の方から冬子の声が聞こえるけど、まあ今はいいだろう。
 地面にぶつかる寸前、俺は風を操ってふわりと着地する。


「さて」


 というか革鎧のまんまだ。
 面倒だけど俺は透明化の結界を張ってからその中でさっと着替える。……と、ここまでやってはたと気づいた。


「なるほど、これも『力技』に入るのかもな」


 最近の俺は魔法と槍だけで解決しようとし過ぎていたのだろう。ならばこそ、少しは頭を使ってやった方がいいな。


「取りあえずリャンが行った方はどっちだろうか」


(カカカッ! キョースケ、別にオメーは頭使うの苦手ジャネエダロウ! ナンデ嫌ガルンダ!?)


(……別に。強いて言うなら思考が脳筋に偏ってたことにショックを受けてるだけ)


 リャンは獣人――しかも美人だ。目立つだろう。でも、さっき上空から王都を見た感じでは人だかりが出来ているような雰囲気は無かった。
 つまり、リャンは人目を引いていたとしても騒ぎになっているようなことは無いってことだ。


「リャンがいても目立たない場所ってどこかな」


 奴隷売り場、AGギルド……この辺かな。
 そこまで考えてふと思い直した。


「いや……先にこっちだろうな」


 そう考えて、俺は普段着のままとある場所へとむかっていった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「案の定か。迎えに来たよ、リャン」


「マスター。遅かったですね」


「えーと、あなたがアレの所有者ですか?」


 俺は最寄りの警備兵の詰め所――まあ前の世界で言うところの交番に来ていた。
 そこでは案の定リャンが鎖につながれている。


「困りますよ、亜人を外に一人で置いておくなんて。危険ですから」


「それは悪かったね」


 俺はそんなことを言いながら、書類にサインする。身分証明書を提示するのも忘れない。BランクAGってのは王都でもそこそこ敬われるものらしい。特に何もなくリャンの主人であることを信じてもらえた。
 この国の獣人族への態度を考えてみたらすぐに分かった。俺たちの――前の世界の感覚でしてみれば、馬や牛がその辺を歩いているものと考えた方がいいからね。そりゃみんなビビッてお役人さんも呼ぶでしょう。
 子供の獣人奴隷は蔑む対象なのかもしれないけど、大人の獣人は余程のことが無い限り恐怖の対象だ。
 だからこの警備兵の詰め所に来てみた。誰かが通報してこっちで保護されてないものかと思って。


「にしても、よく躾けてありますね」


 警備兵の一人が俺にそんなことを言ってきた。
 彼はリャンの鎖の鍵を外しながらさらにこう続けてきた。


「こんな美人ですから少しでも暴れたらそれを口実に……と思ったんですけどね。まったく暴れないどころかちゃんとついてきてしまったのでびっくりしましたよ」


 ああ、なるほどね。


「つまり、あなたは俺の物に手を出すつもりがあったってこと?」


「い、いえそんな! BランクAG様の物だと知っていたらそんなこと最初から思いもしませんでしたとも!」


 慌てて手を振って否定するその警備兵。
 俺ははぁ、とため息をついて鎖を外されたリャンの手を取る。


「そんな認識なんだね」


「? 何か言われましたか?」


 俺がぼそりと呟いた一言を聞き取れなかったらしいその人が聞き返してくるけど、俺は首を振って笑顔を見せる。


「何も言ってないよ。それじゃあお疲れ様」


 それだけ言って俺は警備兵の詰め所を出た。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「ごめんね、リャン。遅くなっちゃって」


 俺が言うと、リャンはフルフルと首を振った。


「大丈夫です。私が抵抗しなかったので特に何もされていませんから」


「そう。それはよかった」


 さて。
 俺はキアラたちのいるホテルの前にいる。今から、ここで交渉を行おうと思って。
 取りあえずリャンにはスカーフと帽子を買った。もともと尻尾はそんなに出ていないからいいが、耳は目立つ。それと、ついでい首輪も隠すためのスカーフだ。


「私は別に良いのですよ? どうせ明日帰るのであればあの冷たい牢獄で一晩過ごすくらいは」


「……凄く罪悪感の生まれる言い方だね。ま、意地みたいなものだし……キアラがやれって言ったことだからね。何らかの考えがあるのかもしれない」


 俺が力尽く過ぎるっていうならもっと他のやり方で目を覚まさせることだってできるだろうし……まあ、何もないならここをキャンセルして別の宿に泊まるだけだ。
 取りあえずフロントへ……さっき俺がビビらせてしまったお姉さんがいるところへ行く。


「ようこ……ヒッ」


 いやそんなにビビらなくても。


「すみません、責任者の方はいらっしゃいますか?」


 お願いする立場だから下手に出る。この世界ではAGは敬語を使わない(舐められないため)人種だというのは知ってるけど、こういう時こそ礼を尽くせるところを見せないと。
 唐突に責任者を呼ばれたから驚いたのか、フロントのお姉さんはしばしキョトンとした表情を見せると、「少々お待ちください」と言って引っ込んでいった。


「出てきていただけるでしょうか」


「さあ? まあ、無理だった時のことも考えてあるけど……一応、俺はBランクAGだからね。向こうさんも街一つ滅ぼせる人種を敵に回したくはないでしょ」


 この世界において、Bランク魔物の定義とは「小さな町や村なら平気で滅ぼせる」ってなもんだ。
 そしてBランクAGはそのBランク魔物を単独狩り出来る。おいそれと無下にしていいレベルではない。
 だから話くらいは聞いてもらえるだろうと思って待っていると、奥から背の高い男が出てきた。歳は30中頃くらい。眼鏡をかけた姿はまさに働き盛りのサラリーマンそのものだ。


「お待たせしました、支配人のティアール・アスキーです」


「ご丁寧にありがとうございます。BランクAGのキョースケ・キヨタです。地元では『魔石狩り』なんて呼ばれております」


 俺は軽くお辞儀してから、相手を見返す。


「どのようなご用件ですか?」


「誠に勝手ではございますが、実は私の奴隷である彼女を同じ部屋に泊まらせたいのです。しかしこのホテルでは獣人……ああいや、亜人族の宿泊は禁止なされているとか。ですから特別に許可を頂けないかと思いまして」


 隣でリャンが「誰この人」みたいな目で見ている。失礼な。俺は向こうの世界で学生をしていたんだから、それなりの言葉遣いだってできる。
 支配人のティアールは俺……ではなく隣のリャンを物凄いかおで凝視した後に、ひと言「ここではなんですので、中へどうぞ」とだけ言って引っ込んでしまった。
 ……なんというか、物凄く獣人に対して怨みを持っている感じだね。


「マスター、どんな策があるのですか? 尋常じゃなく獣人を憎んでいるような表情をしていましたが」


「……俺の世界には一つ、こんな時にピッタリな言葉があってね」


 俺はリャンの方を振り向いて肩をすくめた。


「どんな言葉なんですか?」


「当たって砕けろ」


 リャンは物凄く微妙な表情をした。

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