異世界なう―No freedom,not a human―
42話 VSゴーレムドラゴンなう④
みんなが寝る中、冬子は一人起き上がっていた。
そして清田の元へ近づき……そっと、頬を撫でる。
(清田……)
ほんの少ししか離れていなかったはずなのに、こんなにも寂しく想うとは思っていなかった。自分で思っていた以上に……この男のことを好きになっていたらしい。
いつもいつもやる気がなさそうで、なんでこんな男のことを好きになったんだ……と思ったこともあったが、この塔で戦っている清田を見て、この想いは正しいものだと感じていた。
(やる時はやる奴なんだ)
だけど……と思う。
『負けるときは負ける』
そう言っていた。
いや、正直清田が負ける姿なんて一切合切想像がつかないわけだが、それでも、本人的には負けることもあるらしい。
(負ける前に逃げて、体勢を立て直したら不意打ちで倒すくらいやってのけるだろうな、こいつは)
その姿を思い浮かべ、クスリと笑みが漏れる。
――なあ、清田。
冬子は、正直、ずっと怖かった。
冬子の『職』だけ、どんどん防御力が下がっていっていたからだ。
防御力が下がると、敵の攻撃が怖くなる。
だから……ずっと怖かった。戦いたくなかった。できれば、ずっと城にこもっていたかった。
だけど、状況がそれを許さない。
冬子や木原のように、前に出て戦える者が戦わないと、間違いなく女子は誰も参加しなかった。空美や新井がなんとか参加してくれていたが、やはり城に残ったのは女子が多い。
ここで冬子が逃げたら、男だけに任せなくてはならないかもしれない。だから、ずっと歯を食いしばって戦ってきた。魔物一匹殺すのにでも、最初は凄い抵抗感があった。阿辺や難波なんかは喜々として殺していたけど。
(……でも)
何故だろう、清田がそばにいる……それだけで、凄い安心感があるんだ。
アラクネマンティスと戦っているときのあの言葉、それがすごく嬉しかったんだ。
清田が守ってくれる――それだけで、どんな敵と対峙しても一切怖がることなく戦えそうな気がする。
もっとも、さっき清田が諦めるかのようなことを言った時は動揺してしまったが。……清田にばかり頼っているとああなるということかな。
だから、今度はこちらの番だ。
もしも――もしも、清田がゴーレムドラゴンにやられそうになったら、今度は守ってみせる。たとえ、自分が死ぬことになろうとも。
(だから安心してくれ、清田)
このゴーレムドラゴンを倒して――地上に戻れたら、今度こそ清田と旅をしよう。みんなも、絶対に清田がいてくれた方が心強いに決まっている。
……もっとも、清田が嫌がるかもしれないけど。
そのときは、どうやって説得しようか。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、みんな、魔力は大丈夫? 気力もある?」
「大丈夫」
「問題ない」
「平気ですわ」
「……まあ、大丈夫」
「大丈夫だよ!」
天川、佐野、ティアー王女、阿辺、空美の順に答える。
「よし、じゃあ……最後の決戦だよ」
俺が言うと、全員が息を飲む。
だけど、やはり委縮が無い。ありがたいことにね。
「昨日も説明したけど、覚えてる? みんな、持ち場は離れないようにね。やるべきことをやらないと勝てないよ」
まあ、そんな複雑なことは言ってないから、問題は無いだろうけど。
俺は槍を一回しして、通路を向く。
……魔力は感じられない。たぶん、今は起動していないんだろう、ゴーレムドラゴンは。
「行くよ」
俺が先頭に立って、通路の中を進んでいく。
最初の時とは違い、みんなじっと黙って進んでいく。
そうやって黙々と進んでいると、ポツリと佐野が俺に訊いてきた。
「……勝てるのか?」
不安に満ちた声。そりゃあそうだろう。だって、パーティーの半分がやられた相手に向かっていかなきゃならないんだから。
その問いには、俺はこう答えるしかない。
「勝てる」
負けを意識しながら戦うときは、戦略的撤退という逃走が許されるときだけだ。
今は、逃走は許されない。
ならば、負けることは考えずに戦うしかない。
じゃなきゃ、気後れする。
「勝てるよ。だって、さっきまでとは状況が違うから」
さっきと言っても、こっちの神殿っぽい空間に逃げてきてから、約一日経っている。俺の魔力が回復するのが遅かったからね。
……もしかすると、この魔力の回復が遅いことも、天川の神器が使えなくなっていたことに関係があるのかな。
「まず、新井の魔法のおかげでゴーレムドラゴンはだいぶ小さくなっている。このおかげで、的は小さくなったけど、さっきまでよりも確実に核へは攻撃しやすくなっている」
まあ、もしかしたら俺たちがこっちの部屋にいる間に大きさを元に戻しているかもしれないけど……その時はしょうがない。なんとかしよう。
それに……
「なにより、みんなが協力する。今まで好き勝手にしか動いてなかったけれど、今度は連携して攻撃するからね。絶対にいい結果があらわれるはずさ」
確かに少し相手を甘く見ていたことは否めないけど、それでも俺たち異世界人の能力が高いことはまちがいない。他の人のステータスをまじまじと見たことがあるわけではないけど、少なくとも俺が殺した盗賊とかよりはステータスが高いし、俺はAGとしてはBランクに格付けされるんだからね。
今までは本当に連携もへったくれもなかったし、今からやることも連携というよりも、役割を決めただけって感じだけど、それでも前までよりも確実にマシだ。
「だから、安心して。絶対に大丈夫だから」
みんなの――俺も含めて――不安を払拭するために、自信に満ちた声で言う。
「さあ、見えてきたよ」
光が見えてきた。
全員に、さらに緊張が走る。
俺は一度足を止めると、活力煙を咥えて火をつけた。
「みんなもいる?」
誰も吸わないだろうと思いつつも、一応聞いてみる。疲労回復以外にもリラックスの効果があるからね、活力煙には。
すると予想外なことに二人分の手が上がった。
阿辺と天川だ。
「俺はもらう」
「……お、俺も」
二人が俺の手から活力煙を受け取る。
「わ、私も!」
「佐野はダメだって。煙が無理でしょ?」
「うう……」
「じゃあ、私はやめとくー」
「私もやめておきますわ」
「そう。あ、二人とも口に咥えた? じゃあ……『紫色の力よ……』」
今更かもしれないけれど、一応詠唱をしてから指先に火をつける。
「すぅ~……ゲホッ、ゲホッ」
せき込む天川。やれやれ。
「天川は吸いなれてないねえ。なんで吸おうと思ったの?」
「……多少はマシになるかと思ってな」
ふぅん、一応出来る限りのことはしようっていう意思はあるんだ。まあ、リラックスするにこしたことはないからいいんだけどさ。
「甘いものはリラックスするでしょ。……それで、阿辺は吸い慣れてるねえ」
「よ、余計なお世話だ!」
慣れた手つきで吸う阿辺。確かにこいつは酒もタバコもやってておかしくないけど、それでもえらく慣れてるね。
「……チッ、やっぱ違うな」
「ああ、一応葉巻は持ってるけど、そっちの方がよかった?」
以前、マルキムから貰ったものが数本残っていることを思い出して訊いてみる。
阿辺はキョトンとした顔をして、怪訝な声を上げた。
「あ? なんで持ってるんだテメェ」
「友達……というか、先輩というか、まあ、知り合いに貰ってね。俺は吸わないかから、吸う?」
「……いや、いい」
そう言って、ふぅ~、と輪っかを煙で作る阿辺。うん、こいつ何歳から吸ってたのかな。
「ああ、言っとくけど酒は無いよ」
「い、いらねえよ!」
さすがに戦闘前に飲むのはよくないね、うん。
皆がクスリと笑ったりして、多少空気が解れる。
ちょっとはリラックス出来ただろうか、と思いつつ俺は通路を抜けた。
ゴーレムドラゴンの大きさは、小さいままだ。よかった……かはわからないけど、少なくとも、爪に当たったら一撃死ってことが無いという点では安心できる。
少しづつ近づいていく。……まだ動き出さないね。
どんどん近づいて行って……俺たちのスキルが、絶対当たるような位置まで近づけた。ふむ、動き出すスイッチはなんだろう。
……まあいいか。
「さて、反撃の狼煙だ――天川、佐野。一発デカいスキルを撃ってよ」
「わかった」
「ああ」
佐野は上段に、天川は腰だめに構えて、同時に『職スキル』を発動する。
「おおお! 『飛龍一閃』!」
「『エクスカリバー』!」
二人の攻撃が当たるかと思った瞬間――
「ギオオオオオガオアアアアアアアアアアアアアアギイイイイイイイ!!!」
――とんでもなくデカい咆哮と共に、ゴーレムドラゴンが飛び上がった。
「第二ラウンド開始……ってね。そうだ、佐野」
俺は心臓に右手の親指をつきたてつつ、佐野に話しかける。
「これから、BGMをかけるとしたらどんな曲にする?」
佐野は一瞬、こんな非常事態に……という顔をしたが、すぐに気を取り直して答えてくれた。
「そうだな……『劣等騎士の英雄伝』のOPとかはどうだ?」
なかなかいいセンスしている。あの白黒の演出は俺も大好きだ。
「……制限時間が短いってのも現せてるしね。みんな、来るよ!」
「「「おお!」」」
「ゴァァァァアァガァァルアァァァッァァ!」
ゴーレムドラゴンが物凄いスピードで、上空からこちらへ落下してくる。
全員がその場を離脱していく中……俺は心臓に魔力を集中させていた。
(空美の一回きりじゃ分からなかったけど……井川、新井が見せてくれたからわかった)
空美の時は、ただ心臓に魔力が集まっているようにしか見えなかった。
だけど、アレはただ魔力を集めていただけじゃない。魔力を集めて、開いたんだ。
使いすぎると動けなくなる魔力。それを無意識にセーブしている――扉、みたいなものを。
(ぐっ!)
ドクン、と心臓が暴れるかのように跳ねる。
半魔族になったあの時の比ではない。
魔力が体内で暴れまわり、この体の外へ弾けようと、体中を駆け巡る。
(うーん……これは凄い)
それを制御して魔昇華……存外、簡単じゃないね。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺としたことが、つい、気合を入れるために叫んでしまう。
そうでもしないと……この膨大な魔力を抑えきれないからね。
迫る爪、制御できない魔力。
「清田!」
遠くから聞こえる、佐野の声。
そして
目前まで
迫る
死――
ギィイン!!
「清田っ!」
「グルォッ!?」
「ふう……」
俺は、槍でゴーレムドラゴンの爪を弾いていた。
いとも、たやすく。
「遅いね……これなら、ホーンゴブリンの攻撃の方が強いんじゃない? ゴーレムドラゴン」
「ギャアオオオオオオアアアアアアアアアア!!!」
「吠えたって無駄だよ」
再び振り下ろされた爪を、俺は紙一重で躱し――斬! と、指ごと爪を一本斬り落とした。
「グオオルオォォォォォォォ!?!?」
のけぞるゴーレムドラゴン。俺はそれを見てにやりと笑うと、全身にさらに力をみなぎらせる。
――俺は今、普段の数十倍はありそうなほどの凄まじい魔力に覆われている。ゴーレムドラゴンとも互角のレベルの魔力を纏っていると言っても過言じゃない。
身体能力の上昇も、以前の比じゃない。ゴーレムドラゴンの指が切断できた。
『職スキル』、『音速斬り』を習得しました。
遅ればせながら、俺の脳内にスキル通知が届く。
はは、右腕一本で振った槍の速度が音速を超えたか。尋常じゃないね。
「パッといい名前が思いつかないから、仮に終扉開放状態とでもしようか。この状態を保っていられるのは……よくて三分ってところかな」
限界を突破しているわけだから、当然こんなものが長くもつはずがない。正直、その三分ももつか分からないしね。他の魔術も併用するし。
「……ファイヤーエンチャント、ウィンドエンチャント」
俺は炎を付与する魔法と、風を付与する魔法を自分の体にかけた。
これも、出来るかな……と思って考えていただけで、実際にはやったことなかった魔法だ。
そうすることで、体のどこからでも風と炎が出せるはず。
轟! と風と炎が俺の体に巻き付き、螺旋を描く。
「ギオオオオオオオオオオオオロォォォォォルオォォォォォ!!!」
ゴーレムドラゴンが腕を地面に突っ込み、俺が斬り落とした指を再生させる。
「やれやれ……再生って本当に厄介だよね」
そして上空へ飛び上がるゴーレムドラゴン。
魔力が口元に高まっていっている……ああ、これはヤバいね。
俺は足元に魔力を集める。そして風で器を作りその中で水蒸気爆発を連続して起こした。
「それ!」
ドッ! と空へ、今までとは段違いの速度で駆け上がる。ジェット機――というか殆どロケットと同じ原理だけど。
ゴーレムドラゴンの目の前まで飛び上がり、エクスプロードファイヤを連続してゴーレムドラゴンへと撃ち込む。
ゴーレムドラゴンはそれを迎撃するかのように、尋常じゃない数の火球を吐き出してきた。
「クソッ!」
それらを炎や水で潰したり、槍で撃ち落としたりしていたら――ゴーレムドラゴンにタメを作る隙を与えてしまった。
すなわち、あの光球を俺に撃つ隙を。
「――――ッ!!!!」
雨あられのように、一撃でも当たったら死ぬ光球が俺に向かって発射される。
しかし、俺はそれを――躱す、躱す、躱す、躱す!!!
「グオォグルオオオオォォォォォォォ!?」
まったく当たらないことに苛立ったのか、さらに光球の数を増やすゴーレムドラゴン。
だけど――
「遅すぎるんだよ、今の俺にはね」
足の水蒸気爆発を使ったブースター――思いつかないから超天駆でいいや――を全力で発動し、音すら遅れる速度ですべてを躱す。
しかも今までとは違い、体のいたるところから風や炎を放出できるので、空中で体の制御もより容易になっている。
結果として俺は音速のままストップ&ゴーを繰り返すことができる。
無論、足を踏み出す時は音速突きの要領で、全身の筋肉を連動させて動いているし。
「当たるわけないんだよ――さあ、ゴーレムドラゴン、行くよ」
俺は空中で回避をしながら、ゴーレムドラゴンへと肉薄していく。
それを嫌ったか、後方へ下がりながら、光球を俺に乱射してくるゴーレムドラゴン。しかしさっきまでとは違って、俺には完璧に見切れている攻撃だ。いくら量が増えようと、まったく関係ない。
迎撃はかなわない。だったら、回避するだけのこと。
避けて、避けて、避けて、避けて、避けて――全力を以ってゴーレムドラゴンに近づいていく。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
光球では当たらないと悟ったか、咆哮によって面を制圧してくるゴーレムドラゴン。
しかし、そんなもの今の俺には通用しない。
音だって――
「衝撃だ。風で散らす」
全力の豪風で、俺はゴーレムドラゴンの音をかき消す。
もうゴーレムドラゴンには光球を撃たせる隙も、火球を撃たせる隙も、方向を出させる隙も与えない。
与えるのは、俺の攻撃だけ――
「ゴーレムドラゴン、お前の命は俺の糧にする」
――ザクッ! と夜の槍の切っ先がゴーレムドラゴンの腹部に突き刺さり、そして後ろまで貫通する。
「グギグガギャラグォォォォォォォォォォォォォ!?!?!?!?!?!?!?」
『職スキル』、『砲撃刺突』を習得しました。
「遅い」
さらに、後ろから左腕を切断する。
そのまま翼を切断しようとしたところで、ゴーレムドラゴンが地面に逃げる。
――空中で仕留めないと、回復されてしまう。
俺は内心で舌打ちしつつ、ゴーレムドラゴンを追いかける。
しかし、そんな高いところで戦っていたわけではないから、すぐに地面にたどり着かれて腕と腹の穴を回復されてしまった。
「だったら、俺の攻撃と回復力――どっちの方が強いか、試してみようか、な!」
ドッ! っと、俺はさっき覚えた『砲弾刺突』をゴーレムドラゴンに連続して打ち込む。
体のいたるところに大穴が開くが、地面とくっついているゴーレムドラゴンは、俺が穴をあけるたびに回復していく。正直、きりがない。
(……やっぱり、天川の一撃はいるか)
このまま押し切れるかもと思っていたけど、想像以上に回復力が早かった。俺の魔力が保かもわからないし、天川の一撃を使える方向にもっていこう。
目にもとまらぬ速度で振り下ろされる爪を、あっさりと斬り落としながら俺は思案する。
このゴーレムドラゴンを抑え込む方法を。
(俺の魔法の中で、相手を拘束できるような能力は……水くらいのものか。どうにか動きを止めたいところだけど……ッ!)
ズドン! と、俺は振り下ろされた爪を再度なんとか回避する。
……もう飛ぶことにメリットが無いと思ったのか、ゴーレムドラゴンはなんと翼を腕のように変換していた。腕が四本とか、天○飯かカ○リキーかよ。
ここにきて攻撃パターンの変化とか、勘弁してくれないかな。
そして清田の元へ近づき……そっと、頬を撫でる。
(清田……)
ほんの少ししか離れていなかったはずなのに、こんなにも寂しく想うとは思っていなかった。自分で思っていた以上に……この男のことを好きになっていたらしい。
いつもいつもやる気がなさそうで、なんでこんな男のことを好きになったんだ……と思ったこともあったが、この塔で戦っている清田を見て、この想いは正しいものだと感じていた。
(やる時はやる奴なんだ)
だけど……と思う。
『負けるときは負ける』
そう言っていた。
いや、正直清田が負ける姿なんて一切合切想像がつかないわけだが、それでも、本人的には負けることもあるらしい。
(負ける前に逃げて、体勢を立て直したら不意打ちで倒すくらいやってのけるだろうな、こいつは)
その姿を思い浮かべ、クスリと笑みが漏れる。
――なあ、清田。
冬子は、正直、ずっと怖かった。
冬子の『職』だけ、どんどん防御力が下がっていっていたからだ。
防御力が下がると、敵の攻撃が怖くなる。
だから……ずっと怖かった。戦いたくなかった。できれば、ずっと城にこもっていたかった。
だけど、状況がそれを許さない。
冬子や木原のように、前に出て戦える者が戦わないと、間違いなく女子は誰も参加しなかった。空美や新井がなんとか参加してくれていたが、やはり城に残ったのは女子が多い。
ここで冬子が逃げたら、男だけに任せなくてはならないかもしれない。だから、ずっと歯を食いしばって戦ってきた。魔物一匹殺すのにでも、最初は凄い抵抗感があった。阿辺や難波なんかは喜々として殺していたけど。
(……でも)
何故だろう、清田がそばにいる……それだけで、凄い安心感があるんだ。
アラクネマンティスと戦っているときのあの言葉、それがすごく嬉しかったんだ。
清田が守ってくれる――それだけで、どんな敵と対峙しても一切怖がることなく戦えそうな気がする。
もっとも、さっき清田が諦めるかのようなことを言った時は動揺してしまったが。……清田にばかり頼っているとああなるということかな。
だから、今度はこちらの番だ。
もしも――もしも、清田がゴーレムドラゴンにやられそうになったら、今度は守ってみせる。たとえ、自分が死ぬことになろうとも。
(だから安心してくれ、清田)
このゴーレムドラゴンを倒して――地上に戻れたら、今度こそ清田と旅をしよう。みんなも、絶対に清田がいてくれた方が心強いに決まっている。
……もっとも、清田が嫌がるかもしれないけど。
そのときは、どうやって説得しようか。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、みんな、魔力は大丈夫? 気力もある?」
「大丈夫」
「問題ない」
「平気ですわ」
「……まあ、大丈夫」
「大丈夫だよ!」
天川、佐野、ティアー王女、阿辺、空美の順に答える。
「よし、じゃあ……最後の決戦だよ」
俺が言うと、全員が息を飲む。
だけど、やはり委縮が無い。ありがたいことにね。
「昨日も説明したけど、覚えてる? みんな、持ち場は離れないようにね。やるべきことをやらないと勝てないよ」
まあ、そんな複雑なことは言ってないから、問題は無いだろうけど。
俺は槍を一回しして、通路を向く。
……魔力は感じられない。たぶん、今は起動していないんだろう、ゴーレムドラゴンは。
「行くよ」
俺が先頭に立って、通路の中を進んでいく。
最初の時とは違い、みんなじっと黙って進んでいく。
そうやって黙々と進んでいると、ポツリと佐野が俺に訊いてきた。
「……勝てるのか?」
不安に満ちた声。そりゃあそうだろう。だって、パーティーの半分がやられた相手に向かっていかなきゃならないんだから。
その問いには、俺はこう答えるしかない。
「勝てる」
負けを意識しながら戦うときは、戦略的撤退という逃走が許されるときだけだ。
今は、逃走は許されない。
ならば、負けることは考えずに戦うしかない。
じゃなきゃ、気後れする。
「勝てるよ。だって、さっきまでとは状況が違うから」
さっきと言っても、こっちの神殿っぽい空間に逃げてきてから、約一日経っている。俺の魔力が回復するのが遅かったからね。
……もしかすると、この魔力の回復が遅いことも、天川の神器が使えなくなっていたことに関係があるのかな。
「まず、新井の魔法のおかげでゴーレムドラゴンはだいぶ小さくなっている。このおかげで、的は小さくなったけど、さっきまでよりも確実に核へは攻撃しやすくなっている」
まあ、もしかしたら俺たちがこっちの部屋にいる間に大きさを元に戻しているかもしれないけど……その時はしょうがない。なんとかしよう。
それに……
「なにより、みんなが協力する。今まで好き勝手にしか動いてなかったけれど、今度は連携して攻撃するからね。絶対にいい結果があらわれるはずさ」
確かに少し相手を甘く見ていたことは否めないけど、それでも俺たち異世界人の能力が高いことはまちがいない。他の人のステータスをまじまじと見たことがあるわけではないけど、少なくとも俺が殺した盗賊とかよりはステータスが高いし、俺はAGとしてはBランクに格付けされるんだからね。
今までは本当に連携もへったくれもなかったし、今からやることも連携というよりも、役割を決めただけって感じだけど、それでも前までよりも確実にマシだ。
「だから、安心して。絶対に大丈夫だから」
みんなの――俺も含めて――不安を払拭するために、自信に満ちた声で言う。
「さあ、見えてきたよ」
光が見えてきた。
全員に、さらに緊張が走る。
俺は一度足を止めると、活力煙を咥えて火をつけた。
「みんなもいる?」
誰も吸わないだろうと思いつつも、一応聞いてみる。疲労回復以外にもリラックスの効果があるからね、活力煙には。
すると予想外なことに二人分の手が上がった。
阿辺と天川だ。
「俺はもらう」
「……お、俺も」
二人が俺の手から活力煙を受け取る。
「わ、私も!」
「佐野はダメだって。煙が無理でしょ?」
「うう……」
「じゃあ、私はやめとくー」
「私もやめておきますわ」
「そう。あ、二人とも口に咥えた? じゃあ……『紫色の力よ……』」
今更かもしれないけれど、一応詠唱をしてから指先に火をつける。
「すぅ~……ゲホッ、ゲホッ」
せき込む天川。やれやれ。
「天川は吸いなれてないねえ。なんで吸おうと思ったの?」
「……多少はマシになるかと思ってな」
ふぅん、一応出来る限りのことはしようっていう意思はあるんだ。まあ、リラックスするにこしたことはないからいいんだけどさ。
「甘いものはリラックスするでしょ。……それで、阿辺は吸い慣れてるねえ」
「よ、余計なお世話だ!」
慣れた手つきで吸う阿辺。確かにこいつは酒もタバコもやってておかしくないけど、それでもえらく慣れてるね。
「……チッ、やっぱ違うな」
「ああ、一応葉巻は持ってるけど、そっちの方がよかった?」
以前、マルキムから貰ったものが数本残っていることを思い出して訊いてみる。
阿辺はキョトンとした顔をして、怪訝な声を上げた。
「あ? なんで持ってるんだテメェ」
「友達……というか、先輩というか、まあ、知り合いに貰ってね。俺は吸わないかから、吸う?」
「……いや、いい」
そう言って、ふぅ~、と輪っかを煙で作る阿辺。うん、こいつ何歳から吸ってたのかな。
「ああ、言っとくけど酒は無いよ」
「い、いらねえよ!」
さすがに戦闘前に飲むのはよくないね、うん。
皆がクスリと笑ったりして、多少空気が解れる。
ちょっとはリラックス出来ただろうか、と思いつつ俺は通路を抜けた。
ゴーレムドラゴンの大きさは、小さいままだ。よかった……かはわからないけど、少なくとも、爪に当たったら一撃死ってことが無いという点では安心できる。
少しづつ近づいていく。……まだ動き出さないね。
どんどん近づいて行って……俺たちのスキルが、絶対当たるような位置まで近づけた。ふむ、動き出すスイッチはなんだろう。
……まあいいか。
「さて、反撃の狼煙だ――天川、佐野。一発デカいスキルを撃ってよ」
「わかった」
「ああ」
佐野は上段に、天川は腰だめに構えて、同時に『職スキル』を発動する。
「おおお! 『飛龍一閃』!」
「『エクスカリバー』!」
二人の攻撃が当たるかと思った瞬間――
「ギオオオオオガオアアアアアアアアアアアアアアギイイイイイイイ!!!」
――とんでもなくデカい咆哮と共に、ゴーレムドラゴンが飛び上がった。
「第二ラウンド開始……ってね。そうだ、佐野」
俺は心臓に右手の親指をつきたてつつ、佐野に話しかける。
「これから、BGMをかけるとしたらどんな曲にする?」
佐野は一瞬、こんな非常事態に……という顔をしたが、すぐに気を取り直して答えてくれた。
「そうだな……『劣等騎士の英雄伝』のOPとかはどうだ?」
なかなかいいセンスしている。あの白黒の演出は俺も大好きだ。
「……制限時間が短いってのも現せてるしね。みんな、来るよ!」
「「「おお!」」」
「ゴァァァァアァガァァルアァァァッァァ!」
ゴーレムドラゴンが物凄いスピードで、上空からこちらへ落下してくる。
全員がその場を離脱していく中……俺は心臓に魔力を集中させていた。
(空美の一回きりじゃ分からなかったけど……井川、新井が見せてくれたからわかった)
空美の時は、ただ心臓に魔力が集まっているようにしか見えなかった。
だけど、アレはただ魔力を集めていただけじゃない。魔力を集めて、開いたんだ。
使いすぎると動けなくなる魔力。それを無意識にセーブしている――扉、みたいなものを。
(ぐっ!)
ドクン、と心臓が暴れるかのように跳ねる。
半魔族になったあの時の比ではない。
魔力が体内で暴れまわり、この体の外へ弾けようと、体中を駆け巡る。
(うーん……これは凄い)
それを制御して魔昇華……存外、簡単じゃないね。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺としたことが、つい、気合を入れるために叫んでしまう。
そうでもしないと……この膨大な魔力を抑えきれないからね。
迫る爪、制御できない魔力。
「清田!」
遠くから聞こえる、佐野の声。
そして
目前まで
迫る
死――
ギィイン!!
「清田っ!」
「グルォッ!?」
「ふう……」
俺は、槍でゴーレムドラゴンの爪を弾いていた。
いとも、たやすく。
「遅いね……これなら、ホーンゴブリンの攻撃の方が強いんじゃない? ゴーレムドラゴン」
「ギャアオオオオオオアアアアアアアアアア!!!」
「吠えたって無駄だよ」
再び振り下ろされた爪を、俺は紙一重で躱し――斬! と、指ごと爪を一本斬り落とした。
「グオオルオォォォォォォォ!?!?」
のけぞるゴーレムドラゴン。俺はそれを見てにやりと笑うと、全身にさらに力をみなぎらせる。
――俺は今、普段の数十倍はありそうなほどの凄まじい魔力に覆われている。ゴーレムドラゴンとも互角のレベルの魔力を纏っていると言っても過言じゃない。
身体能力の上昇も、以前の比じゃない。ゴーレムドラゴンの指が切断できた。
『職スキル』、『音速斬り』を習得しました。
遅ればせながら、俺の脳内にスキル通知が届く。
はは、右腕一本で振った槍の速度が音速を超えたか。尋常じゃないね。
「パッといい名前が思いつかないから、仮に終扉開放状態とでもしようか。この状態を保っていられるのは……よくて三分ってところかな」
限界を突破しているわけだから、当然こんなものが長くもつはずがない。正直、その三分ももつか分からないしね。他の魔術も併用するし。
「……ファイヤーエンチャント、ウィンドエンチャント」
俺は炎を付与する魔法と、風を付与する魔法を自分の体にかけた。
これも、出来るかな……と思って考えていただけで、実際にはやったことなかった魔法だ。
そうすることで、体のどこからでも風と炎が出せるはず。
轟! と風と炎が俺の体に巻き付き、螺旋を描く。
「ギオオオオオオオオオオオオロォォォォォルオォォォォォ!!!」
ゴーレムドラゴンが腕を地面に突っ込み、俺が斬り落とした指を再生させる。
「やれやれ……再生って本当に厄介だよね」
そして上空へ飛び上がるゴーレムドラゴン。
魔力が口元に高まっていっている……ああ、これはヤバいね。
俺は足元に魔力を集める。そして風で器を作りその中で水蒸気爆発を連続して起こした。
「それ!」
ドッ! と空へ、今までとは段違いの速度で駆け上がる。ジェット機――というか殆どロケットと同じ原理だけど。
ゴーレムドラゴンの目の前まで飛び上がり、エクスプロードファイヤを連続してゴーレムドラゴンへと撃ち込む。
ゴーレムドラゴンはそれを迎撃するかのように、尋常じゃない数の火球を吐き出してきた。
「クソッ!」
それらを炎や水で潰したり、槍で撃ち落としたりしていたら――ゴーレムドラゴンにタメを作る隙を与えてしまった。
すなわち、あの光球を俺に撃つ隙を。
「――――ッ!!!!」
雨あられのように、一撃でも当たったら死ぬ光球が俺に向かって発射される。
しかし、俺はそれを――躱す、躱す、躱す、躱す!!!
「グオォグルオオオオォォォォォォォ!?」
まったく当たらないことに苛立ったのか、さらに光球の数を増やすゴーレムドラゴン。
だけど――
「遅すぎるんだよ、今の俺にはね」
足の水蒸気爆発を使ったブースター――思いつかないから超天駆でいいや――を全力で発動し、音すら遅れる速度ですべてを躱す。
しかも今までとは違い、体のいたるところから風や炎を放出できるので、空中で体の制御もより容易になっている。
結果として俺は音速のままストップ&ゴーを繰り返すことができる。
無論、足を踏み出す時は音速突きの要領で、全身の筋肉を連動させて動いているし。
「当たるわけないんだよ――さあ、ゴーレムドラゴン、行くよ」
俺は空中で回避をしながら、ゴーレムドラゴンへと肉薄していく。
それを嫌ったか、後方へ下がりながら、光球を俺に乱射してくるゴーレムドラゴン。しかしさっきまでとは違って、俺には完璧に見切れている攻撃だ。いくら量が増えようと、まったく関係ない。
迎撃はかなわない。だったら、回避するだけのこと。
避けて、避けて、避けて、避けて、避けて――全力を以ってゴーレムドラゴンに近づいていく。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
光球では当たらないと悟ったか、咆哮によって面を制圧してくるゴーレムドラゴン。
しかし、そんなもの今の俺には通用しない。
音だって――
「衝撃だ。風で散らす」
全力の豪風で、俺はゴーレムドラゴンの音をかき消す。
もうゴーレムドラゴンには光球を撃たせる隙も、火球を撃たせる隙も、方向を出させる隙も与えない。
与えるのは、俺の攻撃だけ――
「ゴーレムドラゴン、お前の命は俺の糧にする」
――ザクッ! と夜の槍の切っ先がゴーレムドラゴンの腹部に突き刺さり、そして後ろまで貫通する。
「グギグガギャラグォォォォォォォォォォォォォ!?!?!?!?!?!?!?」
『職スキル』、『砲撃刺突』を習得しました。
「遅い」
さらに、後ろから左腕を切断する。
そのまま翼を切断しようとしたところで、ゴーレムドラゴンが地面に逃げる。
――空中で仕留めないと、回復されてしまう。
俺は内心で舌打ちしつつ、ゴーレムドラゴンを追いかける。
しかし、そんな高いところで戦っていたわけではないから、すぐに地面にたどり着かれて腕と腹の穴を回復されてしまった。
「だったら、俺の攻撃と回復力――どっちの方が強いか、試してみようか、な!」
ドッ! っと、俺はさっき覚えた『砲弾刺突』をゴーレムドラゴンに連続して打ち込む。
体のいたるところに大穴が開くが、地面とくっついているゴーレムドラゴンは、俺が穴をあけるたびに回復していく。正直、きりがない。
(……やっぱり、天川の一撃はいるか)
このまま押し切れるかもと思っていたけど、想像以上に回復力が早かった。俺の魔力が保かもわからないし、天川の一撃を使える方向にもっていこう。
目にもとまらぬ速度で振り下ろされる爪を、あっさりと斬り落としながら俺は思案する。
このゴーレムドラゴンを抑え込む方法を。
(俺の魔法の中で、相手を拘束できるような能力は……水くらいのものか。どうにか動きを止めたいところだけど……ッ!)
ズドン! と、俺は振り下ろされた爪を再度なんとか回避する。
……もう飛ぶことにメリットが無いと思ったのか、ゴーレムドラゴンはなんと翼を腕のように変換していた。腕が四本とか、天○飯かカ○リキーかよ。
ここにきて攻撃パターンの変化とか、勘弁してくれないかな。
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