異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

31話 塔なう⑥

第2章 31話 塔なう⑥


*視点は、天川明綺羅→主人公→佐野冬子→主人公の順番です。あと、いつもより長いです。


「それでぇ、アキラ? あんた、なんでアタシに呼ばれたか分かってるぅ?」


 ジト、と睨まれやや気まずくなる天川。そのまま唇を尖らせて、少しぶっきらぼうに返事する。


「……あんな簡単に操られてしまったこと、ですよね?」


 しかし、その言葉を聞いたヘリアラスは失望したような声をあげた。


「……はぁ。確かに、こりゃあ面倒なことになりそうだわぁ……」


「面倒?」


 面倒、確かにヘリアラスはそう言った。
 どういう意味だろうか――と思考を巡らせていると、彼女は深いため息をつく。


「あのねぇ? アタシが言ってるのは、操られたことじゃないわぁ。その前よ。なんでアンタ――殺さなかったのぉ?」


 ゾッとするような瞳を見せるヘリアラス。その美しく整った顔から、殺すなんて単語が簡単に出てくることに天川は心底驚く。


「な……っ!」


「まさかとは思うけどぉ……殺すのはいけないことだー、とか言い出さないでしょうねぇ?」


「っ……!」


 図星だった。清田に説明を受けた今でも、実際に操られていたことが分かった今でも、殺すことを是とすることは出来ない。
 何故なら、人を殺すことはいけないから。人は、殺してはいけないから。


「……」


 天川が何も言い返せないでいると、ヘリアラスはやれやれ、というように首を大きく振った。


「…………その表情は図星みたいねぇ。あのねぇ? アキラ。言っておくけど……少なくともあの場面では、あの子――キョースケ? って言ったっけ。彼がとった行動は合格点よぉ? むしろ、彼にその役目を負わせた貴方が彼に感謝すべき場面よぉ。それなのに、いくら操られていたとはいえ、彼を糾弾するなんてぇ……アキラ、何様のつもりなのぉ?」


「そ、それは……」


「キョースケは味方に誰も負傷者を出さず、一瞬の隙をついて殺した。あの場面でアンタ達が殺せないのを分かった上でねぇ」


 ヘリアラスの目は冷たい。


「で、ですが……」


「ですが、何? キョースケの言ってたことを聞いてなかったわけじゃあ無いわよねぇ? 誰彼構わず殺せ、なんて言わないわぁ。でも、殺さないと自分たちが危ない時まで殺さない理由なんてないでしょぉ?」


 その通り。しっかり聞いていた。そして理由も頭では理解していた。
 だけど――


「だったら、殺してなかったらどうなってたかは……分かるわよねぇ?」


 ――それを、天川の感情が許せないだけだ。
 何が正しいのか、何が正しくないのか……それは分からない。今分かっていることは二つだけ。
 ヒルディを殺していなかったら、クラスメイト達が全滅していた恐れがあるということと、そしてたとえそうだったとしても――殺したくなかった、と思う自分の心だけだ。
 天川が黙りこんでしまうと、ヘリアラスは軽い調子で言った。


「……まあ、万が一殺してなかったらアタシが殺してたんだけどねぇ」


「ッ!?」


 今度こそ、天川は驚愕に目を見開く。
 しかしこうして驚いている天川に、まるで聞き分けの無い子どもを諭すかのようにヘリアラスは続ける。


「当然でしょお? まだ、アンタ達を殺すわけにもいかないし……アキラが他の女になびく姿も見たくないもの」


「…………」


 いや、他の女になびく姿って……ヘリアラス、私利私欲過ぎやしないだろうか。


「ま、その辺も含めてまだまだ未熟者ねぇ……いい? 優しいのと甘いのは違うのよ。もしも、敵も味方も含めて全てを守りたいのなら、それに見合う力を手にしなさい。今のアキラでは、その域にはまだ遠いわねぇ」


 そうして、ぽん、と頭に手を置かれた。
 その手を振り払いながら、天川は前を向いた。




~~~~~~~~~~~~~~~~




「さて、と……」


 俺は腰を上げる。もう皆見えなくなった。魔力は分かるが、あまり離れすぎると天川から何を言われるか分かったもんじゃないから、そろそろ行った方がいいだろう。


「それで……清田。とりあえず、さっきまでどこにいたんだ?」


 佐野も立ち上がりながら、そんなことを訊いてくる。


「んー、知らない。けど、ヒルディが――ああ、さっきの魔族ね。アイツが創り出した空間、って所に隔離されてた」


「なっ! ま、魔族はそんなことが出来るのか!? そ、それで、清田。何もされてないのか?」


 何も……まあ、されたね。俺、半分魔族になっちゃったらしいし。
 けどまあ……今はまだ、言わない方がいいだろう。


「何もされてないよ。殺されかけただけ」


「……それは大分何かされてるんじゃないのか?」


 確かに。そういや殺されかけるって結構な大事だね。こっちの世界に来てから三日に一回くらいはそんなことがあったから忘れてたよ。
 俺は肩をすくめて、活力煙の灰を落としながら遠くを見る。


「斬った張ったなんて日常茶飯事だからね。殺されかけたくらいじゃ、何もされてないのと一緒さ」


 日本にいたら考えられないことだよねぇ……異世界なんだからしょうがないけどさ。


「で? それだけじゃないでしょ、訊きたいこと」


「あ、ああ。いくつかあるが……まず、さっき戦っていた時の眼はどうしたんだ?」


「眼?」


「ああ、眼だ。私の気のせいだったかもしれないが……真っ赤だったぞ。それも充血しているとかそんなもんじゃない。深い紅……地獄のような紅さだったぞ」














 眼が――?
 半魔族になったせいだろうか。それとも、戦闘時だけ?
 アイテムボックスから鏡を取り出して確認するが、今は普通だ。少し茶色っぽい、いつも通りの瞳。
 戦闘中、ということは魔昇華したらそうなるんだろうか。
 チラリと佐野の顔を見る。……彼女に下手な誤魔化しは通用しないだろうな。
 腹をくくる。……説明は塔を出てからにするつもりだけど。


「佐野。その眼について、原因をたぶん俺は知ってる」


「ほ、本当か!」


「けど、今は言えない。塔から出たら言う……と、思う」


「そ、そうか。何故だ?」


「余計なことを言って混乱させたくないからね」


 そう言って笑う。
 佐野は少し納得いかない顔をするものの、「約束だからな」と言ってここは引いてくれた。
 そんな彼女や現状を顧みて……塔から出たら、前々から考えていたことを佐野に話すことを決意する。


(そろそろ……ソロじゃ限界が来る。いや洒落じゃなくて)


 前々から考えていたことだ。
 俺がソロで活動しているのには、二つ理由がある。
 一つ目は凄く単純で――俺に見合った実力の人がいなかったということ。
 まだAG歴二か月半の若造が何を自惚れたことを――と思うかもしれないけど俺のランクはBだ。世間的にはかなりの実力者として見られ、難易度の高いクエストに赴くことになる。
 誘ってくれる人たちは概ねDランクの人たちで、言いにくいけど……俺がクエストに行くと、どうしてもその人たちを守りながらクエストをする羽目になってしまう可能性が高い。それではチームの意味が無い。
 無論、戦闘面以外でサポートしてくれるのなら願ったりかなったりなんだけど……それにはもう一つの理由が足かせになる。
 そう、二つ目の理由は……俺は秘密が多すぎるということ。異世界人であることや、救世主として呼ばれていることは出来る限り人に広めたくない。
 故によほど信頼出来て、かつ脅迫などにも屈しない実力のある人がいいんだけど……アンタレスやその周辺の街では少なくとも見当たらない。
 同じBランクのマルキムは実力も申し分ないし、俺にAGのイロハを教えてくれた師匠みたいな存在だから信頼出来るんだけど……彼自身が秘密を抱えているようで、正式にチームを組みたがらない。
 他にはリューも実力があり信頼できるのだが、やはり彼女も秘密があるようで誰とも正式にはチームを組まない。
 いっそ魔法師と組むという手もあるが……アンタレスの魔法師は研究者が多く、戦える魔法師たちは皆チームを組んでしまっている。
 魔法師を組み込んでいるチームは完成されたチームであることが多く、そこには入りづらいし、そもそもお誘いが来ない。
 ……と、いうような理由で今まで正式にはチームを組んでなかったんだけど、今日佐野に出会ってどうにも懐かしさがこみ上げてきてしまった。
 それと同時に、想像以上に勇者たちが酷いことも知ってしまった。ここに友達をいさせるのは、俺には無理。
 今は、自分たちより能力の低い敵しか現れてないからいいんだろうけど……もしも、自分たちでは絶対に勝てない敵が現れた時、こいつらはちゃんと逃げられるんだろうか?
 俺は……無理だと、思う。
 そして逃げられないということは、全滅する可能性が高いってことだ。


 つまり――佐野が、仲間が、死ぬ。


 そう思うと、背筋がゾッとする。
 志村の様子も確認しに行きたいけど……たぶん、まだ俺は王城には行かない方がいいだろう。あの王女様(笑)反応を見るなら尚更だ。


「塔から出たらちゃんと話すよ。その時は、もう一つの用件も一緒に」


「もう一つ? なんだそれは」


「これも塔から出るまでは気にしなくていいよ。……それで、他には?」


「………………そ、そうだな、他には、今まで何してたとか教えてくれ」


 何やら一瞬悲しげな表情をしたかと思うと、すぐに無理矢理笑う佐野。はて、なんでだろうね。
 それでも、取り敢えず聞かれた事には答えようか。


「しょうがないね。いいよ。まずは――」


 それから、俺達は合流するまで他愛ない話を続けた。




~~~~~~~~~~~~~~~~




 ――聞けなかった。


 自分たちと合流するまでのことを話してくれる清田に笑顔を向けながら、冬子の心の中ではずっと同じ疑問が渦巻いていた。


(――どうして、あんなに普通に人が殺せたんだ?)


 なぁ、清田。そんなはず無いだろう。
 ずっと、日本人だったんだ。私たちは。なのに、何故、人を殺せたんだ。
 理屈は分かる。確かに、あそこであの魔族――ヒルディとか言ったか――を殺していなければ、私たちは全滅していたかもしれない。
 しかし、しかし――


(だからといって割り切れるはずが……無いだろう)


 冬子はそう訊こう、訊こうと思っていた。だがしかし、訊けなかった。
 訊いてしまえば――清田が、今いるところより、もっと遠くへ行ってしまうような気がして。


「どうしたの? 佐野」


「……なんでもないよ」


 心配そうに尋ねてくる清田に、曖昧な笑みを浮かべて言葉を濁す冬子。


 たった一歩、たった一歩清田と冬子の間には距離があった。
 そのたった一歩が、まるで世界が違うかのように、遠かった。




~~~~~~~~~~~~~~~~




 さて、俺達が塔に入ってそろそろ七日が経過しようとしている。さすがに、そろそろ疲れてきた。変わらない景色に飽きてきてるしね。
 この七日間で分かったことと言えば――


 異世界人共、自重しなさすぎる。


 まず、阿辺の結界があれば寝ずの番とか必要ないし(超高性能な鳴子と思えばいい)、アイテムボックスに材料から調理器具まで一式揃ってるおかげでクソマズい携帯食料を食べなくていいし。
 寝るときはテントじゃなくてベッドが出てくるし、何、もうお前らアイテムボックスの中に家具一式入ってんの? って感じだ。


(……アイテムボックスを自重しないで使うとこうなるんだね)


 あと、変わったことと言えば――


「ん?」


 ドシン。
 む、加藤とぶつかってしまった。
 俺は、会釈しつつ謝る。


「あ、ゴメン」


「っ! い、いや、大丈夫」


 何やら少し挙動不審になって、離れていく加藤。
 ……とまあ、このように見事に避けられている。あの空美すら、なんとなく俺を敬遠しがちだ。まともに話してくれるのは、佐野くらい。
 皆冷たいねぇ。


(ま、原因は分かってるんだけどさ)


 間違いなく、ヒルディを殺したからだろう。異世界人の連中からすれば俺は『人殺し』ってわけだ。そりゃ警戒もしたくなる。
 とはいえ、別に何か不都合があるわけでもない。いつも通り、俺は活力煙をふかして魔魂石を集めるだけさ。


「よっ……と」


 斬っ! と、ホーンホブゴブリンの首を刎ね飛ばし、魔魂石を抜き出す。さらに魔力操作で水を生み出して、槍の血を軽く流した。
 この数日で魔力操作にも慣れた。前よりも簡単に魔術を使える。


(……しっかし、魔術って便利だね)


 無詠唱で使えるだけでも強いのに、なんといっても水や炎や風を自在に操れるってのが便利だ。慣れてきた今なら、魔昇華せずに鞭のように操ることも可能だろう。もっとも、ヒルディみたいなレベルで精密に動かすのにはまだまだ修行が必要だけどね。


「しかしそろそろ七日経つけど、まだまだ上があるんだね」


「ん? 何を言っているんだ、清田」


「? なにって、最上階に行かないと神器とやらが手に入る部屋には入れないんでしょ?」


 そう、王様は言ってたはずだけど……アレ? 違ったかな。


「いや、違うんだ。まず、この塔には最上階はないらしい」


「へ? 最上階が、無い? ……え、なにそれ。俺達終わりのない塔をえんえん昇らされてたの?」


 何そのクソゲー。A○azonレビューで星1つつけちゃうよ?


「あ、いや、そうじゃないんだ。いや、ある意味ではそうと言えるかもしれないが……」


「話が見えないね……どういうこと?」


 俺は分けが分からず、首を捻る。


「つまりだな……ヘリアラスさんから聞いた話なんだが、どうやらこの塔にいる枝神は、塔を昇らせることで私たちを見極めているらしい」


「ふむ」


「そして、神器を渡す資格ありと判断された場合、最上階への扉が、唐突に現れる」


「へぇ。つまり、塔に入って一層目で『神器を持つ資格あり!』って判断されたら、それ以上昇らなくていいってことか」


 ってことは……


「もし、俺達に神器を持つ資格がないなら、無限に塔を昇り続けるってこと……?」


「ま、まあ、そうなるな。だから――これまたヘリアラスさんから聞いた話なんだが――その見極めに使っていい期間が、最長でも十日間と決められているらしい。だから、十日間塔を昇り続けたら、自動的に地上へと戻されるんだ」


「なるほど」


 なかなかよく出来たシステムだね。
 それに、昇り続けたらってことは……一層とかに留まって金稼ぎしている連中は、十日を過ぎても地上に戻されることは無いのかな?


「でも、十日間ってことは、あと三日くらいか」


「そうだな。前回の塔では一度地上へと戻されているからな……今回は、皆も気合が入っているよ」


「え、一回戻されてるの?」


 天川以外、神器を持つ資格がある人がいなかったのか。


「ああ。カノープスの塔でな。唐突に目の前が光ったかと思うと、地上へ戻されたんだ。あの時はビックリしたし、皆の落胆も半端じゃなかったな」


 なるほどね。「次は俺が神器を持つ番だ!」って意気込んで塔に入ったら、全員『資格無し』って判断されたわけだから。そりゃへこむ。
 塔の中にいられる期間が十日間ってことは、後三日しかないってことか。思ったよりも速く終わるね。
 今回の収穫は、大量の魔魂石と、半魔族になったこと、そしてソロでやっていくのは厳しいってことが分かったこと、かな。
 もっとも、大量の魔魂石は怪しまれるから小出しに売るしかないし、半魔族になったことは収穫よりもいらないトラブルの方が多くなりそうだからプラスマイナスで言えばマイナスかもしれない。
 ……正直、塔のことを舐めてたね。もしも一人だったら、ドンドン出てくる魔物のせいで休息をとれなかっただろう。
 ……やっぱ、チームメンバーに誘うか。どんな返事が来るかは分からないけど。


「あと三日間で結果が分かるのか……まあ、次に選ばれるのも天川なんだろうけど」


「? 何故そう思うんだ?」


「だって、アイツ明らかに主人公じゃん。正義漢で、チート持ちで、勇者で、ハーレムで……上げていったらキリがないよ。そんで、古来より主人公は人とは違う力を持つものさ。天川で言うなら――神器でしょ」


「ヘリアラスさんは、基本的に同じ人間が二つの神器を持つことは殆ど無いとは言っていたけどな」


「いやいや、佐野。それなのに二つ持つことになるのが、主人公ってやつでしょ」


「……まあ、その意見には一理あるが」


 佐野が少し苦笑い気味に答える。


「ただ、天川は主人公にしては……なんというか、最初から強すぎないか?」


「そうかもしれないけど、最近はそういうのが流行りでしょ。最強無敵チートな主人公が異世界で無双する系の話ではさ。主人公は窮地に陥らないし、失敗しないのさ」


「『小説家になりたい』にありがちなパターンか」


「そうそう」


 ちなみに、『小説家になりたい』は、大手の小説投稿サイトだ。俺も、そこに連載しようと考えていたことがある。結局、まだやってないけど。新人賞に出す小説を書きながら連載とかなかなか俺には厳しくて。
 この体験記を投稿したら、なんか面白いことになるかもしれないね。


「まあ、天川は一度窮地には陥っているけどな。ベガの塔で」


 そういえばそんなこと言ってたっけ。


「そこはほら……主人公補正で強化されるイベントだからしょうがないでしょ。実際、勇者になったのはそこなんでしょ?」


「まあ、そうだが」


「だから、天川が主人公だよ、きっと」


 俺は活力煙を口に咥えて火を付ける。ほのかに甘い煙が、肺いっぱいに広がる感覚がする。ああ、美味しい。


「……毎度思うが、それは本当に身体に害が無いんだな?」


「当たり前でしょ。何度も言うけど、これ回復薬なんだから。なんなら、一本吸う? 疲れがとれるよ」


「……じゃあ、一本」


 俺は懐から活力煙を一本とりだし、佐野に渡す。……ちなみに、俺のアイテムボックスの中には、既に百本以上の活力煙がストックされているから、一本渡したところで問題ない。
 テキトーな呪文を唱えて、活力煙に火を付ける。


「どう?」


「ふぅ~……なるほど、確かに甘くて美味しいな」


「でしょ?」


「ただ……ケホッ」


 唐突に咳き込む佐野。あー、やっぱりダメか。


「この、煙たいのが私には合わないな」


「合う人と合わない人がいるからね。俺なんかは最初から平気だったけど」


 無論、初めて吸ったときには少し煙たく感じたけど、今はすっかり平気になった。


「……でも、とりあえずタバコじゃないのは分かったでしょ?」


「まあな」


「あの~、いちゃついてるところ悪いんですけど……お二人とも?」


 別にいちゃついてなかったけど、新井が話しかけてきた。


「い、いちゃついてなんかないっ!」


 佐野が顔を真っ赤にして否定している。いや、そこまで強く否定せんでも……。


「で、何?」


「着きました、よ?」


「何処に」


「頂上に」


 え


「……試練の間、ってアタシ達枝神は呼んでるわぁ」


 ヘリアラスさんが気怠げに言う。


 ……確かに、よく見ると全員の面持ちが、緊張したモノになっている。


「……へぇ、こんな風になってるんだね」


 目の前には、金色に光る、俺の背丈の倍はありそうな、豪奢なドアがそびえ立っていた。
 そのドアの迫力はまるで――


「地獄への門って感じだね」



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