異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

23話 デネブなう

 盗賊団からの襲撃から一夜明けて、朝日が目に眩しい。
 そこそこの人数の盗賊だったけど、頭を潰した後の瓦解は速かった。こちらへの被害はゼロ、十分な成果だ。
 今は特に魔物の気配もしないので、のんびりと活力煙をふかしながら馬車の隣を歩いている。


「しっかしよぉ……やっぱ、BランクAGは凄ぇなぁ。あれだけの数をあっという間だからよ」


 サリルが俺の隣に並んできながら声をかけてきた。


「いや……こっちにAGが二チームもいたからあんなにあっさり倒せたんだよ。俺一人じゃとても無理だって」


 肩をすくめて見せるが、サリルはフッと笑ってそれを流す。


「それに、『首狩』の方の名前も納得だな。スポーンと首を吹っ飛ばすんだもんよ」


「は? 『首狩』? なに、それ」


 初めて聞く名前に、俺は少し首をかしげる。


「あん? 知らねぇのか。お前さんの異名の一つだよ。アンタレスじゃあ『魔石狩』の方が有名だけど、他の所だと『首狩』とか『黒』とかも有名だぜ?」


『黒』はなんとなく分かる。俺は髪の色は黒いし、槍の色も黒だ。
 だけど……首狩は納得がいかないね。


「く、『首狩』って……」


「最近じゃ言われてねぇかもしれねぇけどよ、少し前まで言われてたんだぜ? 魔物や人の首を一撃で落とす、って噂だったからな」


「あ、あー……」


 言われてみれば俺はよく首を狙う。魔物は脳か心臓に魔魂石があることが多いから、首を飛ばすのが一番効率的なんだよね。
 人と戦うときは……魔物の首を刎ねるのになれてるから、それのせいで。
 ちなみに首を刎ねるのにはそこそこコツがいる。しかも外すとカウンターを貰いやすい。


「いいじゃねぇか。異名がいくつもあっても」


「……やっと『魔石狩』に慣れてきた所なのに、本当に『首狩』って呼ばれたらちょっと悲しくなるね」


 あと、全体的に異名のセンスが無いよね。もうちょっとネーミングセンス磨こうよ。


「まあ、そんだけ強いし有名になったってことだ。胸を張りな」


「だと、いいんだけどねぇ……はぁ……」


 活力煙の煙と一緒に、ため息をはき出す。
 俺……おとなしくしてたつもりなんだけど、ね。




~~~~~~~~~~~~~~~~




 さらに数時間歩き、とうとうデネブに着いた。


「やっと着いたかー」


 デネブは塔があるおかげか、はたまた流通の中心だからか人が多い。アンタレスも割と賑わっている方だが、デネブは賑わい方が違う。景気もよさそうだ。
 俺が露店だらけの街並みを見てほけっとしていると、カルクさんがニコニコと声をかけてきた。


「護衛、ありがとう御座いました。これは少ないですが謝礼です」


「あ、ありがとうございます」


 ぺこりとおじぎをして、俺は金貨袋を受け取る。中には……おお、大金貨が三十枚も。
 確かこのクエストは『Cランク以上のAGの場合、別途報酬。また、道中の魔物及び賞金首の権利は譲渡』って話だったから、たぶん別途報酬ってのを含められたんだろうね。


「いやぁ、もしもキョースケさんがいらっしゃらなかったらと思うと、これじゃあ少ないくらいです」 
「俺だけの力じゃないですよ。他の二チームも頑張ってくれたからこの結果になったんですし。正直、俺一人じゃあ守り切れていたか分からないし」


「そうですか? ……なんにせよ、私たちは運が良かったです」


 首をかしげつつ朗らかに笑うカルクさん。


「おそらく帰りにまたクエストを出すと思うので……時間が合ったら、是非よろしくお願いします」


「そうですね。俺も、なるべく時間が合わせられるようにしますよ」


 討伐系のクエストは名指しの依頼、指名クエストを出せるんだけど、護衛依頼となるとそうはいかない。
 結構な日数拘束することになるからね。パーティーとかなら名指しで依頼できるらしいけど。


「では、私はこれで。今回は本当にありがとう御座いました」


「仕事ですからね。では」


 俺はカルクさんに軽く会釈してから、その場を離れる。さて、まずは宿をとりに行かないとね。


(飯が出て、清潔感があるのは最低条件。あとは、少し高くてもいいから治安が良いところに建ってる宿、だね。あるかな……)


 とりあえずAGギルドを目指す。条件に合致する宿が無さそうなら、AGギルドに近い所にすればいいか。
 AGギルドの場所はサリルにさっき聞いておいたから、迷わずたどり着けた。


「先に盗賊団の賞金首とか確認しに行こうかな……? でもどうせ宿書かされるんだよね。やっぱ二度手間になるし、宿から探した方がいいか」


 そして歩くこと約五分。よさそうな宿屋を見つけたので、そこにチェックインすることにした。名前は……『幸楽亭』か。なんか落語家みたいな名前だね。


「あー、一泊素泊まりで大銀貨四枚だ。朝と夜は飯が出るぞ。こちらは別料金だ」


 宿屋のマスターはかなり恰幅のいいおっさんだった。顎髭がよく似合っている。


「分かった。とりあえず一泊頼む」


 塔に入るなら、しばらく野営だろうからね。一泊でひとまずは十分でしょ。


「あいよ。――兄ちゃん、AGか?」


「うん、そうだけど?」


「塔ならこっから西に三十分くらい歩いたところにある。噂じゃあ勇者様方も来るかもしれねえって話だ」


「へぇ……ありがとう」


「なに、客へのちょっとしたサービスってやつよ」


 俺が礼を言うと、おっさんは少し照れたように引っ込んでいった。うん、いい人だね。
 それにしても……


「勇者、ってどうせ天川のことだよね。……あいつらもいるのか」


 彼らはどうなってるのかな。
 会わなくてもいいどころか別に会いたくないけど……あぁ、佐野には会いたいね。あと、志村とかその辺。でも、あいつら戦闘職だったかな。


「……ま、いっか。さて、とりあえずまずはギルドに行こうかな」


 持ち物はどうせアイテムボックスに全部入っているので、宿屋に置く必要が無い。
 うん、ホント。異世界に来て何が一番便利なチートだったかって、このアイテムボックスだよ。なんでもどれだけでも入るし。


「これがあるのと無いのだと安心感が段違いだからね」


 テクテクと歩いて数分、再びギルドへ着いた。
 登録してからはどうしようかな。……もう午後だから、先に飯を食ってから今日はのんびり観光でもしよう。


「すみません、初めてここのギルドに来たので、登録をお願いします」


 ギルドのお姉さんに、いつも通りの手続きを行う。向こうも慣れた様子で事務的に書類などを出したところで――おや、と何かに気づいた顔になる。


「はい、畏まりました。……っと、『魔石狩』のキョースケ様ですね?」


 あれ? なんで知っているんだろう。俺、デネブに来たのは初めてなのに。


「えーと……はい。キョースケ・キヨタです。えっと……なんで知ってるんですか?」


「素行がよく、しかも腕もいい新人AGとして噂は聞いています。それに公式の『異名』の申請もすんでいますから」


 へぇ、俺、素行がよくて腕のいい新人AGってことになってるんだ。それは確かに、結構嬉しいね――って! 今なんか変なこと言ってなかった!?


「あの……公式の『異名』って?」


「AGギルドでは、名前の売れているAGにコードネームを付けることになっているんです」


 コードネーム、かっこいい響きだ。


「そういうAGにはよく指名クエストが入るんですが……もしも同姓同名の人がいた場合、こちらとしても混乱してしまうんですよ。なので、指名クエストを頻繁に受けることになる可能性のある実力者には、『異名』を名乗って貰うことになっています」


 なるほど。つまり将来性のある――もしくは既に指名クエストが入るレベルの――実力者には、管理を簡単にするために、コードネームを付けることになっている、と。
 で、俺は……言われてみればここ数週間はよく指名クエストを受けていた。おかげで懐は大分温かい。
 結論、ギルドから正式に実力を認められたってことか。


「幸い、そういった実力のあるAGには『異名』で既に呼ばれている事が多いので、それをそのまま使うことになります。キョースケ様の場合は『首狩』、『黒』、『魔石狩』のどれかになるところだったんですが、既に『首狩』と『黒』はいらっしゃるので『魔石狩』ということになりました」


 ……あ、危ないね。俺、公式でも『首狩』って呼ばれるところだったんだ……ビビるよ。って、過去に『首狩』って呼ばれた人いたのか! 会いたくない! 物凄い物騒!


「他にも、実力があるのに強い魔物と当たらなくてBランクやAランクになれない……所謂実力にランクが伴わない人などに、箔を付けるためでもあります」


「なるほどね……」


「では、AGライセンスを更新しますので、渡してください」


「ん、分かった」


 俺は懐からAGライセンスを出す(フリをしてアイテムボックスから出す)と、受付の人に渡す。
 何やら魔法道具なのかなんなのかの中に入れること数秒、更新が終わったらしく返された。


「……おお?」


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AGライセンス
名 前:清田京助
ランク:B
異 名:魔石狩
主な達成依頼:デネブへの護衛、ホーンゴブリンの討伐、ロアボアの討伐 etc.
最後に更新された時間:0分前


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 なんか欄が増えている! 異名が増えてるよ!


「これで、キョースケ様は『異名持ち』のAGとなります。今度からクエストを受ける際には、必ず異名も名乗ってください」


 え、何それ恥ずかしい。


「……他に何かすることは?」


「まず、今度から登録用紙を書く必要が無くなります。受付に来て、ライセンスを見せた後宿泊している宿屋の名前を告げていただくだけで結構です。『異名持ち』の武器などは、確実にこちらで把握してありますから」


「ああ、それは楽でいいね」


「あとは、裏ギルドクエスト……簡単に言うと、賞金首討伐のクエストを受けることが出来ます。魔物を倒すクエストよりも断然実入りがいいですよ」


 なるほど、賞金首にかかってる賞金は、Bランク賞金首とかだとBランク魔物を倒した時くらいの額が入る場合もあるもんね。これは確かにお得だ。


「じゃあ……俺はこれから『魔石狩』のキョースケって名乗って活動すればいいわけね?」


「はい。ただ、もしも問題を起こした場合、通常のAGよりも処罰が重くなりますので、ご注意ください」


「え……ホント?」


「ホントです。とはいえ、キョースケ様の素行はとても良いと聞いているので心配はいらないと思います」


 そりゃもちろん犯罪を犯す気は無いけどさ。


「わかった。じゃあとりあえず俺は泊まってる宿の名前を言えばいいんだよね? 俺、今『幸楽亭』って所に泊まってるから」


「はい」


 受付の人が手元の紙に俺の泊まってる宿の名前を書いている。あー、確かにあの面倒な紙を書く必要が無いのは楽でいいや。


「そうだ、道中で盗賊を殺したんだけど……この中に賞金首とかある?」


 俺は盗賊共のステータスプレートを受付の人にわたす。このステータスプレートは、死ぬと名前の横に(故)って出るようになっている。
 だから人捜しのクエストだと、万が一死んでいた場合のために、必ずステータスプレートを依頼主に渡すことが求められる。偽者を連れて行くという危険性も減るし。
 さらに言うと、職業が『盗賊』となっている人を殺してステータスプレートを持っていくと、結構な額が貰える。だから、実は盗賊とは俺達AGにとってーー倒せるだけの実力があるならーーかなりの金を落としてくれる割のいい獲物ってわけだ。


「はい、えっと……あ、ありましたね。C級賞金首がいます」


「そう。ラッキーだね」


 C級賞金なら賞金も期待出来る。
 うん、これで観光中は働かなくてもいいかもしれない。やっぱり人間、働いたら負けだよね。


「では全部で大金貨十五枚ですね」


 賞金を受け取り、受付の人に礼を言ってからギルドを出る。


「さって……まずは何処から行こうかな~」


 異世界に来てからというもの、勉強もしなくていいし、旅行は楽しいし。殺されかけるのさえ目を瞑れば、本当に楽しくやっている。
 このまま戻れなくてもいいかもしれない。


「……まあ、明日は明日の風が吹くってやつだね。じゃあ、まずは……あの店だ!」


 腹が減っては戦が出来きないもんね。というわけでまずは昼飯から。
 美味しい店だといいね。




~~~~~~~~~~~~~~~~




「もうすっかり暗くなったね」


 この街を回っていたら、すっかり遅くなってしまった。ヤレヤレ、後は晩ご飯を食べに帰ろうかな。


「本当は今日のうちに塔の下見をしておきたかったんだけど……まあ、いいか」


 塔ってのがどれだけ高いのか知らないけれど、ある程度食料や怪我回復薬等の回復薬も持っていかなきゃならないだろう。準備もいるだろうし、明日は午前中に情報収集して、午後時間があったら少しだけ入るようにしよう。
 そんなことを思いつつ、俺は夜の街を散策する。といっても、めぼしいところは昼間に見てしまっているので、ただの夜の散歩だけどね。


「ふぅ~……」


 活力煙を吹かしつつ、俺はふとマリトンを思い出す。


(少し賑わっているところで弾いたら、ちょっとくらいお捻り貰えないかな? なんてね)


 そこまでの腕前じゃないことは自覚しているけどね。まだ練習を初めてから二ヶ月ちょっとしか経ってないし。
 でも、カリッコリーも「上達するコツはたくさんの人に聞いてもらうことだ」って言ってたし、ここは一つやるべきだろう。幸い、ついこの間一曲弾けるようになったしね。
 来た道を引き返し、広場のような所へ向かう。そこは夜なのに大道芸をしていたり、それこそ楽器を弾いていたりする人がいたりと賑やかな場所だ。
 ここなら音を多少出しても文句は言われないだろう。もし誰にも聞いてもらえなかったとしても、練習にはなる。


「えっと……お捻り入れはケースでいいか」


 ケースを開けて自分の前に置き、俺はベンチに座ってマリトンを構える。
 音楽なんて授業以外で関わることなかったけど、案外いいもんだよね。
 少し楽しくなりながら一曲弾き終わると、ピィ、と口笛の音が聞こえた。おや?
 パッと顔をあげて拍手をしてくれている人を見ると、なんとサリルだった。その後ろには、彼のチームメンバーがいるのが見える。


「おう、上手いな」


「ん、ありがとう。下手の横好きだけどね」


「なぁに、大したもんよ。ところでよ、アンタ暇かい?」


「んー、なんで?」


 暇かどうかの明言を避けて、サリルに続きを促す。


「今日は護衛クエストのおかげで懐が温かいからよ。娼館街に行こうと思ってな。よかったら来るか? 初めてならいい教えてやるし、奢るぜ?」


 むちゃくちゃうきうき顔のサリル。


(ふむ、娼館街、ねぇ……)


 基本的にAGなんて職業に就いている人間は、高ランクでも無い限り宵越しの金は持たない。
 銀行が無いし(高ランクになればギルドにお金を預けられるけど)、大半が宿屋暮らしだから大金を持っているとかさばる。俺のようにアイテムボックスを持っているなら話は別だけどね。
 だから大入りの日は、豪勢な酒を飲むか娼館街で上等な娼婦を買うのが普通だ。
 ……で、通例として先輩AGは新人のAGに娼婦を奢ってやるものらしい(もっとも、殆どの場合は自分のチームに引き入れるために行うらしいが)。
 だからか、AGになった奴は筆おろしが娼婦って奴が多い。実際、俺も何度か誘われたしね。丁重にお断りしたけど。
 今回も残念だけどお断りかな。


「ありがたいけど、遠慮しとくよ。俺はそんなに潤ってるわけじゃないし、奢ってもらうのも悪いしね」


 だって、それの卒業は本当に好きな人でしたいよね。


「そうか? 慣例みてーなもんだから気にしなくていいんだぜ?」


 仮にそうじゃなかったとしても、サリル的にもあわよくば俺を勧誘するつもりだろうし、ここは断るのが吉だろう。
 誘ってくれたサリルに礼を言って別れる。


「さて、俺もそろそろ帰るかな」


 少ないけれど、おひねりが地味にケースの中に入っていたので、それをアイテムボックスにしまってから楽器を片付ける。
 そして活力煙を咥えて立ち上がり、宿に向かって歩き出した。
 すると、


「……い、……れ……たち」


「……って、ん?」


 何やら少し大きめの声が聞こえてきた。
 きな臭い空気だったので、少し耳を澄ませてみると、


「おい……俺たちゃ救世主様だぜ? まさか逆らおうってんじゃ、ねえだろうな。いいから来いよ」


「いやっ! 離してください!」


「チッ、いい身体してんじゃねえか」


 はい?



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