異世界なう―No freedom,not a human―
ある日の午後わず
チャイムも鳴り、さてあとは下校だけだ、という放課後。
俺は特に部活動もやっていないので、帰りにアニ○イトにでも寄って帰ろうか。
そう思って席を立つと――何故か、目の前に佐野が立っていた。
「どうしたの? 佐野」
「き、清田っ! そ、その……か、帰りに一緒にア○メイトによらないか……?」
蚊の鳴くようなか細い声で言ってくる佐野。そういえば、こいつはオタクなことを隠しているから……友人とかと一緒に本屋めぐりとかできないって言ってたっけ。
俺はどちらかというとアニメ○トは一人で楽しみたい派の人間だけど……まあ、たまには佐野と一緒に回るのもいいかもしれない。
「いいよ。というか、ちょうど俺もア○メイトによって帰ろうと思ってたところなんだ」
「!? ほ、本当か!?」
「うん。じゃあ、行こうか」
パァッ、と花が咲いたような笑顔になる佐野。
……うん、クールに見えて、相変わらずよく表情が変わる子だよ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、やってきましたアニメ○ト。何買うんだっけ?」
「黒メイドの新刊と、他にLION&RABBITの5、6巻」
「ってことは二階から降りていく方式で行こうか」
二階が少女漫画とか、腐向けの同人とか……まあ、女性向けの本、漫画類が置いてあって、一階が男性向けだ。一度、イナズマ○レブンを二階に置くか、プリ○ュアを一階に置くかで大議論が交わされたとかなんとか。日本人は相変わらず暇なのかな。
「あ、さすがに18禁BLコーナーに入るのは勘弁してね」
「お、お前といるのに入るわけないだろ! というか、18禁コーナーなんぞ行かん!」
「分からないじゃん。ア○メイトって区切りないし」
なぜかアニ○イトには、18禁コーナーの区切りが無い。いや、ある店舗ももしかしたらあるのかもしれないけど、少なくとも俺が行ったことがある店舗で、18禁コーナーがちゃんと区切られていた試しがない。
「……一度、表紙が物凄いピンクな薄い本を持って走っている5歳くらいの男の子がいてな」
「ああ、親に連れてこられたショタが――「いや、ショタ言うな」――18禁本持ってお母さんに『ママ~、これなに~?』って訊くパターンね。お母さんのHP大丈夫そうだった?」
「お母さんは白子のバスケの同人誌を持ちながら気まずそうな顔をして本棚に戻させていたよ」
「白バス派だったのか」
「いや、今の会話の論点はそこにはない」
「いや、だけど貴腐人の方々の妄想力はとてもじゃないけど男子じゃマネできないからね……本編じゃ一度しか会話してないのに」
ひょい、とその辺にあったBL同人を手に取って、佐野に見せる。
「この通り。しかも絵が上手いよね」
ちなみに、だいぶ肌色が見えているけど、全年齢おkらしいです。なんで女性向けは年齢規制が緩いんだろう。謎だね。
「作品への、ひいてはキャラへの愛があれば上達するものなんだ」
「そうなんだ……俺は小説書くしかやってないから分からないけど、そういうもんなの?」
「そういうものだ」
うんうんと頷く佐野。こいつも確かpi○ivとかTwit○erで描いてたから、何か通じるものがあるのだろう。
なんて他愛ない会話をしながら、ア○メイト内を物色。気を抜くと数時間立っていることもあるのがアニ○イトなので、こまめに時間を確認することも忘れない。
「キン○クリムゾンだけは気を付けないと」
腕から血をぽたぽた垂らして確認しないと、時間が飛んだことすら気づけないからね。
「……この前お前と休日に書店巡りをしたときは、気づくと5時間経っていて映画の時間を忘れてたからな」
「アレはヤバかったよね」
佐野と二人で書店巡りが楽しすぎて、時間を忘れてしまっていた。おかげで、見ようと思っていた映画を見逃してしまった。
まあ、その日は土曜日だったから普通に日曜にもう一度見に行ったんだけどね。むしろ次の日にしたことで見やすい席が取れてよかったとも言える。むしろ計算通り、隙が無い。はいぼくをしりたい。
「そういえば、今度また連載再開するらしいよ。狩人×狩人」
「やっとか……」
「ファンだもんねー、佐野」
佐野がこちらの世界へ足を踏み入れるきっかけとなった作品、狩人×狩人。ただし作者がすぐに逃亡をはかってすぐに休載するので、もうかなりの長い時間新刊が出ていない。たぶん、最後に新刊が出たのは俺が中学生の頃。つまり二年前。
「古参のファンは今いくつくらいなんだろうね」
「確か私たちが生まれてすぐくらいから連載が始まっただろう」
そう佐野が言うので、スマホで調べてみると……なるほど。確かに俺たちが生まれてすぐくらいから始まってる。
「1998年から始まってるから……その時に仮に中学生だったとしても、31歳。立派なニートだね」
「いや、社会人だろう。ニートにしてやるなよ」
「中学生からこれにはまった人間がまともな社会生活なんて――」
「送れるから! 滅多なこと言うんじゃない!」
くっくっく、と口の中で笑って、俺は佐野を連れて階段を下りる。
「でもアレだよね。もしかしたら、俺たちが今見ている漫画とかがこんな大人気作品になったりすると、今凄く小さい子たちが俺たちみたいなことを言ってるのかもね」
「まあ、そうかもな」
「ニートになってる、って。俺の場合はリアルにそうなりそうだけど」
「いや、働けよ!」
「働いたら負け――それは俺たちオタクの鉄の誓いでしょ?」
「そんな誓いをたてた覚えはない!」
「桃園の誓いならぬ、ニートの誓い」
「……上手くもなんともないからな」
下の階で、俺も軽く物色する。
「清田は最近買っているシリーズはなんなんだ?」
「んー、最近はやっぱりラノベだね。ネット小説の書籍化を買ったりとかもしてるけど」
そう言いながら、俺は佐野を連れてネット小説の書籍化コーナーへ行く。
「ネット小説は、私はあんまり読まないんだよな」
「そうなんだ。結構面白いのもあるよ」
「ほう……やっぱり、書籍化されてるやつが面白いのか?」
佐野が一冊手に取りながら俺に言うので、俺は少し肩をすくめながら違う本を手に取りながら話す。
「もちろん、書籍化されたやつは面白いけど、俺はそうじゃない……書籍化されてないようなネット小説が好きかな」
「ほう?」
「ネット小説っていうのは、なんの利権も絡んでなければ、無理やりテコ入れされることもない。それでいて最後まで書き切られた作品は、商業作品とはまた違った味があって俺は好きだよ」
「なるほどな」
「そして、得てしてそういう小説は好き嫌いが別れる。だから書籍化とかにはならないんだけど、凄く面白いってわけ」
好きな人はすごく好きなのに、メジャーデビューしたら一気に売れそうなのに……どうしても人気が出ない。
だけど、たまに人気が出てしまうと、今度は「俺しか知らない超面白い本」だったものが、ただの人気な本の一冊になってしまって、少し悲しくなる。
「それで、あの作品は最初の方は面白かったけど~とかになっちゃうんだよね。こう、あのバンドはインディーズ時代の方がよかったとか言い出したりとかするようなバンドファンの気持ちが分かっちゃう感じ」
「凄くわかるが……まあ、ネット小説もそんな感じなんだな」
「だからこそ、掘出し物を見つけた時のうれしさは凄いよ」
そんな話をしながら、俺は佐野と他にもいろいろ物色して、会計を終えて外へ出た。
「今日は買ったね」
「だな……今月はこれで小遣いを使い切ってしまった」
やはり、本を買うと、かなりお金を使ってしまう。高校生のお小遣いでは足が出る。
うちの高校はバイト禁止だから、バイトをしてお金を手に入れることも出来ないので、毎月お小遣いのやりくりには四苦八苦している。
もっとも俺は基本的に佐野とこうして買い物に行ったり、志村の家で遊んだり、佐野と映画に行ったり、佐野とカラオケに行ったり、佐野とデパートの~展を見に行ったりしかしないから、殆どお金は使わないんだけど。
「コホン。……そ、そうだ、この前ムーンフロントコーヒーで新作が出たらしいから、飲みに行くんだ。よ、よよ、よかったら、今から行かないか?」
「ムンフロ? いいけど……佐野、今お金ないって言ってなかった?」
「あ、いや! 大丈夫だ、まだ私の懐には余裕がある……」
「そう? それならいいけど。じゃあ、行こうか」
やれやれ、まあアニ○イトの次はムンフロか。いつもの流れではあるね。
こうして、俺と佐野は他愛無い話をしながら、夜まで喋って帰ったりする。
テスト明けとか、いつもこんな風で佐野とばかり遊んでいる気がする。
「……こういうのが、親友なのかな」
それとも……
「どうした? 清田」
少し遠い目をしていた俺に、不思議そうな顔を向けてくる佐野。
「何でもないよ。それよりも、新作楽しみなんじゃない?」
「ああ。特に夏場は美味しいのがよく出てきて嬉しいものなんだ」
「それは重畳」
俺は佐野と笑いあいながら、少し暗くなりかけている道を歩く。
この日々が、いつまでも続くものだと思って――
~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうしたの? 冬子ちゃん」
薄暮を見上げながら、少しボーっとしていると、後ろから空美に話しかけられた。
冬子は、首を横に振って、腰に佩いている剣を抜きながら、空美に答える。
「いや、なんでもない。少し、日本にいた時のことを思い出していただけだ」
そう、清田と一緒にで、デー……ト? い、いや、一緒に遊びに行ったときのことを。
(あの時は……こんな風になるとは思ってもいなかったが)
異世界なんてものが本当にあるとはな。
「異世界もののお約束通りなら、今頃清田は女の奴隷を買って、フラグを建てているところだが……いや、場合によってはもう手を出していてもおかしくないか?」
口に出しておきながら、あまりにも滑稽な考えだったので、自分で笑ってしまう。
あの清田が、奴隷を買う――さすがに、非現実的すぎる。
「アイツに奴隷なんて必要ないだろうし……奴隷を買っていたとしても、男の奴隷だろうな。戦力のこととかを考えて」
常々アイツが言っていたことだ。女の奴隷を買うなんて、不都合しかない、と。
普通に考えて、戦力にしたいのならベテランの男奴隷を買うし、慰み者にしたいのなら、奴隷を買うよりも娼館に行く方がよほど現実的だ、と。
「まあ、気楽にやっているだろう」
そんなことよりも、今は自分が生き残ることを考えなくては――
(清田……ちゃんと連れ戻すから、一緒に戦おう)
――そして、しっかり清田を連れ戻すんだ。
「……万が一現地でフラグを建てていたらへし折ってやる」
そのためにも、まだ死ねない。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうした? キョースケ」
ギルドの酒場で少しボーっとしていると、マルキムから声をかけられた。
俺としては、特に何をしていたわけでもないので、活力煙を吹かしながら、マルキムに向かって肩をすくめる。
「特に何もないさ。少し、昔のことを思い出していてね」
「お? 女か?」
珍しく、マルキムが下世話な話を振ってくる。普段はこんなことを聞いてくるタイプじゃないし、俺もそういう話に乗るタイプじゃないんだけど……まあ、今日はいいや。乗っておこう。
「俺の女……というわけじゃないけど、まあ昔よく一緒に出掛けていた女性がいてね。彼女のことを思い出してたんだ。故郷に残してきたから、少し心配でね」
「そうか。まあ、たまに帰って顔を見せてやれよ? いつ何があるかなんてわかりはしないんだからよ」
「ん……そうだね」
ふぅ~、と煙を吐き出しながら、俺は活力煙の灰を灰皿に落とす。
まあ、佐野はこの世界に来てるからね。志村を除いた他の連中には、正直会いたくないけど、佐野とはもう一度会いたいな。
「まあ、そのうちね。というか、帰る旅費を稼がないと」
「……BランクAGの高給取りのくせして、何が稼がないと、だ。この前の事件でだいぶ懐は温かいだろ」
「煙となって消えたよ」
「全部活力煙になったのか!?」
驚くマルキムに、俺は煙を吹きかけてから、笑う。
さて、明日はどうなることやら。
「取りあえず、死なない様に頑張ろうかな」
一本の槍を片手に、今日も俺は生きていく。
俺は特に部活動もやっていないので、帰りにアニ○イトにでも寄って帰ろうか。
そう思って席を立つと――何故か、目の前に佐野が立っていた。
「どうしたの? 佐野」
「き、清田っ! そ、その……か、帰りに一緒にア○メイトによらないか……?」
蚊の鳴くようなか細い声で言ってくる佐野。そういえば、こいつはオタクなことを隠しているから……友人とかと一緒に本屋めぐりとかできないって言ってたっけ。
俺はどちらかというとアニメ○トは一人で楽しみたい派の人間だけど……まあ、たまには佐野と一緒に回るのもいいかもしれない。
「いいよ。というか、ちょうど俺もア○メイトによって帰ろうと思ってたところなんだ」
「!? ほ、本当か!?」
「うん。じゃあ、行こうか」
パァッ、と花が咲いたような笑顔になる佐野。
……うん、クールに見えて、相変わらずよく表情が変わる子だよ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、やってきましたアニメ○ト。何買うんだっけ?」
「黒メイドの新刊と、他にLION&RABBITの5、6巻」
「ってことは二階から降りていく方式で行こうか」
二階が少女漫画とか、腐向けの同人とか……まあ、女性向けの本、漫画類が置いてあって、一階が男性向けだ。一度、イナズマ○レブンを二階に置くか、プリ○ュアを一階に置くかで大議論が交わされたとかなんとか。日本人は相変わらず暇なのかな。
「あ、さすがに18禁BLコーナーに入るのは勘弁してね」
「お、お前といるのに入るわけないだろ! というか、18禁コーナーなんぞ行かん!」
「分からないじゃん。ア○メイトって区切りないし」
なぜかアニ○イトには、18禁コーナーの区切りが無い。いや、ある店舗ももしかしたらあるのかもしれないけど、少なくとも俺が行ったことがある店舗で、18禁コーナーがちゃんと区切られていた試しがない。
「……一度、表紙が物凄いピンクな薄い本を持って走っている5歳くらいの男の子がいてな」
「ああ、親に連れてこられたショタが――「いや、ショタ言うな」――18禁本持ってお母さんに『ママ~、これなに~?』って訊くパターンね。お母さんのHP大丈夫そうだった?」
「お母さんは白子のバスケの同人誌を持ちながら気まずそうな顔をして本棚に戻させていたよ」
「白バス派だったのか」
「いや、今の会話の論点はそこにはない」
「いや、だけど貴腐人の方々の妄想力はとてもじゃないけど男子じゃマネできないからね……本編じゃ一度しか会話してないのに」
ひょい、とその辺にあったBL同人を手に取って、佐野に見せる。
「この通り。しかも絵が上手いよね」
ちなみに、だいぶ肌色が見えているけど、全年齢おkらしいです。なんで女性向けは年齢規制が緩いんだろう。謎だね。
「作品への、ひいてはキャラへの愛があれば上達するものなんだ」
「そうなんだ……俺は小説書くしかやってないから分からないけど、そういうもんなの?」
「そういうものだ」
うんうんと頷く佐野。こいつも確かpi○ivとかTwit○erで描いてたから、何か通じるものがあるのだろう。
なんて他愛ない会話をしながら、ア○メイト内を物色。気を抜くと数時間立っていることもあるのがアニ○イトなので、こまめに時間を確認することも忘れない。
「キン○クリムゾンだけは気を付けないと」
腕から血をぽたぽた垂らして確認しないと、時間が飛んだことすら気づけないからね。
「……この前お前と休日に書店巡りをしたときは、気づくと5時間経っていて映画の時間を忘れてたからな」
「アレはヤバかったよね」
佐野と二人で書店巡りが楽しすぎて、時間を忘れてしまっていた。おかげで、見ようと思っていた映画を見逃してしまった。
まあ、その日は土曜日だったから普通に日曜にもう一度見に行ったんだけどね。むしろ次の日にしたことで見やすい席が取れてよかったとも言える。むしろ計算通り、隙が無い。はいぼくをしりたい。
「そういえば、今度また連載再開するらしいよ。狩人×狩人」
「やっとか……」
「ファンだもんねー、佐野」
佐野がこちらの世界へ足を踏み入れるきっかけとなった作品、狩人×狩人。ただし作者がすぐに逃亡をはかってすぐに休載するので、もうかなりの長い時間新刊が出ていない。たぶん、最後に新刊が出たのは俺が中学生の頃。つまり二年前。
「古参のファンは今いくつくらいなんだろうね」
「確か私たちが生まれてすぐくらいから連載が始まっただろう」
そう佐野が言うので、スマホで調べてみると……なるほど。確かに俺たちが生まれてすぐくらいから始まってる。
「1998年から始まってるから……その時に仮に中学生だったとしても、31歳。立派なニートだね」
「いや、社会人だろう。ニートにしてやるなよ」
「中学生からこれにはまった人間がまともな社会生活なんて――」
「送れるから! 滅多なこと言うんじゃない!」
くっくっく、と口の中で笑って、俺は佐野を連れて階段を下りる。
「でもアレだよね。もしかしたら、俺たちが今見ている漫画とかがこんな大人気作品になったりすると、今凄く小さい子たちが俺たちみたいなことを言ってるのかもね」
「まあ、そうかもな」
「ニートになってる、って。俺の場合はリアルにそうなりそうだけど」
「いや、働けよ!」
「働いたら負け――それは俺たちオタクの鉄の誓いでしょ?」
「そんな誓いをたてた覚えはない!」
「桃園の誓いならぬ、ニートの誓い」
「……上手くもなんともないからな」
下の階で、俺も軽く物色する。
「清田は最近買っているシリーズはなんなんだ?」
「んー、最近はやっぱりラノベだね。ネット小説の書籍化を買ったりとかもしてるけど」
そう言いながら、俺は佐野を連れてネット小説の書籍化コーナーへ行く。
「ネット小説は、私はあんまり読まないんだよな」
「そうなんだ。結構面白いのもあるよ」
「ほう……やっぱり、書籍化されてるやつが面白いのか?」
佐野が一冊手に取りながら俺に言うので、俺は少し肩をすくめながら違う本を手に取りながら話す。
「もちろん、書籍化されたやつは面白いけど、俺はそうじゃない……書籍化されてないようなネット小説が好きかな」
「ほう?」
「ネット小説っていうのは、なんの利権も絡んでなければ、無理やりテコ入れされることもない。それでいて最後まで書き切られた作品は、商業作品とはまた違った味があって俺は好きだよ」
「なるほどな」
「そして、得てしてそういう小説は好き嫌いが別れる。だから書籍化とかにはならないんだけど、凄く面白いってわけ」
好きな人はすごく好きなのに、メジャーデビューしたら一気に売れそうなのに……どうしても人気が出ない。
だけど、たまに人気が出てしまうと、今度は「俺しか知らない超面白い本」だったものが、ただの人気な本の一冊になってしまって、少し悲しくなる。
「それで、あの作品は最初の方は面白かったけど~とかになっちゃうんだよね。こう、あのバンドはインディーズ時代の方がよかったとか言い出したりとかするようなバンドファンの気持ちが分かっちゃう感じ」
「凄くわかるが……まあ、ネット小説もそんな感じなんだな」
「だからこそ、掘出し物を見つけた時のうれしさは凄いよ」
そんな話をしながら、俺は佐野と他にもいろいろ物色して、会計を終えて外へ出た。
「今日は買ったね」
「だな……今月はこれで小遣いを使い切ってしまった」
やはり、本を買うと、かなりお金を使ってしまう。高校生のお小遣いでは足が出る。
うちの高校はバイト禁止だから、バイトをしてお金を手に入れることも出来ないので、毎月お小遣いのやりくりには四苦八苦している。
もっとも俺は基本的に佐野とこうして買い物に行ったり、志村の家で遊んだり、佐野と映画に行ったり、佐野とカラオケに行ったり、佐野とデパートの~展を見に行ったりしかしないから、殆どお金は使わないんだけど。
「コホン。……そ、そうだ、この前ムーンフロントコーヒーで新作が出たらしいから、飲みに行くんだ。よ、よよ、よかったら、今から行かないか?」
「ムンフロ? いいけど……佐野、今お金ないって言ってなかった?」
「あ、いや! 大丈夫だ、まだ私の懐には余裕がある……」
「そう? それならいいけど。じゃあ、行こうか」
やれやれ、まあアニ○イトの次はムンフロか。いつもの流れではあるね。
こうして、俺と佐野は他愛無い話をしながら、夜まで喋って帰ったりする。
テスト明けとか、いつもこんな風で佐野とばかり遊んでいる気がする。
「……こういうのが、親友なのかな」
それとも……
「どうした? 清田」
少し遠い目をしていた俺に、不思議そうな顔を向けてくる佐野。
「何でもないよ。それよりも、新作楽しみなんじゃない?」
「ああ。特に夏場は美味しいのがよく出てきて嬉しいものなんだ」
「それは重畳」
俺は佐野と笑いあいながら、少し暗くなりかけている道を歩く。
この日々が、いつまでも続くものだと思って――
~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうしたの? 冬子ちゃん」
薄暮を見上げながら、少しボーっとしていると、後ろから空美に話しかけられた。
冬子は、首を横に振って、腰に佩いている剣を抜きながら、空美に答える。
「いや、なんでもない。少し、日本にいた時のことを思い出していただけだ」
そう、清田と一緒にで、デー……ト? い、いや、一緒に遊びに行ったときのことを。
(あの時は……こんな風になるとは思ってもいなかったが)
異世界なんてものが本当にあるとはな。
「異世界もののお約束通りなら、今頃清田は女の奴隷を買って、フラグを建てているところだが……いや、場合によってはもう手を出していてもおかしくないか?」
口に出しておきながら、あまりにも滑稽な考えだったので、自分で笑ってしまう。
あの清田が、奴隷を買う――さすがに、非現実的すぎる。
「アイツに奴隷なんて必要ないだろうし……奴隷を買っていたとしても、男の奴隷だろうな。戦力のこととかを考えて」
常々アイツが言っていたことだ。女の奴隷を買うなんて、不都合しかない、と。
普通に考えて、戦力にしたいのならベテランの男奴隷を買うし、慰み者にしたいのなら、奴隷を買うよりも娼館に行く方がよほど現実的だ、と。
「まあ、気楽にやっているだろう」
そんなことよりも、今は自分が生き残ることを考えなくては――
(清田……ちゃんと連れ戻すから、一緒に戦おう)
――そして、しっかり清田を連れ戻すんだ。
「……万が一現地でフラグを建てていたらへし折ってやる」
そのためにも、まだ死ねない。
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「どうした? キョースケ」
ギルドの酒場で少しボーっとしていると、マルキムから声をかけられた。
俺としては、特に何をしていたわけでもないので、活力煙を吹かしながら、マルキムに向かって肩をすくめる。
「特に何もないさ。少し、昔のことを思い出していてね」
「お? 女か?」
珍しく、マルキムが下世話な話を振ってくる。普段はこんなことを聞いてくるタイプじゃないし、俺もそういう話に乗るタイプじゃないんだけど……まあ、今日はいいや。乗っておこう。
「俺の女……というわけじゃないけど、まあ昔よく一緒に出掛けていた女性がいてね。彼女のことを思い出してたんだ。故郷に残してきたから、少し心配でね」
「そうか。まあ、たまに帰って顔を見せてやれよ? いつ何があるかなんてわかりはしないんだからよ」
「ん……そうだね」
ふぅ~、と煙を吐き出しながら、俺は活力煙の灰を灰皿に落とす。
まあ、佐野はこの世界に来てるからね。志村を除いた他の連中には、正直会いたくないけど、佐野とはもう一度会いたいな。
「まあ、そのうちね。というか、帰る旅費を稼がないと」
「……BランクAGの高給取りのくせして、何が稼がないと、だ。この前の事件でだいぶ懐は温かいだろ」
「煙となって消えたよ」
「全部活力煙になったのか!?」
驚くマルキムに、俺は煙を吹きかけてから、笑う。
さて、明日はどうなることやら。
「取りあえず、死なない様に頑張ろうかな」
一本の槍を片手に、今日も俺は生きていく。
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