異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

21話 不穏な気配なう

 さて――


「『飛槍撃』」


 ファイヤーエンチャントのおかげでかなり強力になった『飛槍撃』を放ち、ギギギに向かって攻撃する。


「チッ!」


 それを叩き落そうとしたハンマーオーガがハンマーを振り上げた瞬間を狙い、相手に向かって駆けだす。
 ――ハンマーオーガは振りが大きい。攻撃した直後を狙えば倒せるはず。
 案の定、ハンマーオーガは大振りで『飛槍撃』を落としにかかってきた。


(よし――)


 その瞬間を狙うために、俺はハンマーオーガの上へと跳躍する。このまま地面にいたらまたさっきのモグラに攻撃されるからね。


「グオォォオオォォ!!」


「うるさいよ、ハンマーオーガ。『亜音速斬り』」


 上空からの落下速度も含めた斬撃で、ハンマーオーガの右腕――ハンマーのある方――を斬り飛ばした。
 斬ッ! という綺麗な音と共に、ハンマーが飛んでいく。
 そのまま追撃の二撃目を入れようとしたところで、ハンマーオーガはハンマーの無い左腕を振り回してきた。
 ハンマーが無いと言っても、ハンマーオーガの腕は丸太ほどもある。そんなものをまともに喰らうような趣味は持ち合わせていない。マゾじゃないしね。
 俺はそれを『流水捌き』で受けようとして――別に体全体で受け流すほどではないなと思い直す。
 だから、俺は槍の石突でハンマーオーガの腕に触れさせ、そのまま槍を円のように回転させることでハンマーオーガの攻撃を受け流した。




『職スキル』、『円捌き』を習得しました




 新たな『職スキル』を習得すると同時に、俺は地面に着地する。
 しかしその瞬間、先ほどモグラに攻撃された足が痛み、バランスを崩してしまった。
 そして、さらにそこを狙っていたかのようにモグラが地中から爪を突き出してきた。


「ッ!」


 だけど、そこまでは俺も読んでいた。そのモグラの攻撃をなんとか槍で受け止め、体勢を立て直そうとバックステップしたところで、三本ほどの矢が飛んできた。


「あぐっ!」


 咄嗟のことだったので躱すことが出来ずに、胸に数本刺さる。


(……ああ、OK、大丈夫、平気)


 チートなステータスが幸いしたのか、刺さったといっても浅い。これなら、怪我回復薬ですぐに治せる。
 そこで、モグラが地中から全身を出した。
 鋭く、大きな三本の爪が左右の前足についており、それとは逆に後ろ脚は退化しているのか短い。
 しかし……背中には、何十本もの棘……というか、矢がついている。まるでハリネズミのように。


(……で、さっきはその背中の棘を俺に飛ばしてたってわけね。それが固有性質なのかな?)


 胸に刺さった矢を引き抜き、怪我回復薬を傷口にぶっかける。
 ……本当、このステータスには助けられてばかりだね。こんなステータスがなくちゃ、絶対にこんなの痛みでのたうち回っている自信がある。チートっていうのは、本当に凄い。


「ギッギッギ。そいつはアローモール。当然Bランクだ。さて、足に怪我、さらに体力も大分削られているんじゃねェか? いつまでもつか見ものだぜェ。ギッギッギ」


 へぇ、アローモールって言うんだ。見たままなのはいつものことだけど、さすがに見たまま過ぎるでしょう。
 そして、今ギギギに言われて気が付いた。確かに、俺は大分疲れている。よく考えたら、今朝は普通に討伐のクエストに行ってきていたし、デスサイズラクーンとの闘い、そして普通のサイズラクーンの討伐……と、今日一日でだいぶ戦っている。
 疲れっていうのは意識すると途端にきつくなってくる。足が震えているのが分かる……こりゃあ、マズいね。
 俺は懐から疲労回復薬を取り出して一気に煽り、さらに活力煙を咥えた。


「あァ? いきなりタバコとはなかなか余裕あるじゃねェか」


「……どんな時でも余裕を持った人生がいい、っておばあちゃんが言っていたからね」


 どこかの天の道を行き総てを司る男のようなことを言いながら、俺は煙を吐き出す。


「ふぅ~……」


 よし……だいぶ活力は戻ってきた。とはいえ、そんなにずっと戦えるもんじゃない。ファイヤーエンチャントをずっと使っていると魔力を消費するのか、それも少しきつくなってきた。
 首を鳴らして、二体に向き直る。ハンマーオーガは片手を失っているからいいとしても、問題はアローモールだ。さっきは矢を飛ばすのが固有性質かと思っていたけど、よくよく考えてみたら、矢を飛ばすのはただの魔物としての特性でしかないのかもしれない。
 となると、他に固有性質があるわけで……


「やれやれ……面倒だね」


「行けっ! アローモール、ハンマーオーガ!」


「もうハンマーは無いんだから、それはただのオーガじゃない?」


 二体の魔物が迫ってくる――かと思いきや、アローモールの方はやっぱり潜ってしまったので、俺は地面も気にしながら戦うしかない。
 ハンマーオーガに『飛槍撃』を放つが、あっさり躱される。こう考えると、アックスオークはなんだかんだ言って、躱すのが下手な個体だったのかもしれない。


「グオオグオオォォォ!!」


 鬼のような形相で――実際オーガって鬼のことじゃなかったっけ――迫ってくるハンマーオーガの攻撃をかわして、石突でハンマーオーガの目を狙う。
 ガッ! っという鈍い音と共に、石突がハンマーオーガの目に当たり、さらにそこにファイヤーエンチャントの効果なのか、炎が流れ込む。
 それを勝機と見て、俺は魔法でとどめを刺そうと詠唱を始めたが――


「『紫色の力よ、はぐれのキョースケが命令する。この世の理に背き、火の玉を……』」


「キュオォッオッ!」


 地中からの爪と、さらに追撃の矢が俺の全身を打つ。矢というよりも、石礫を食らったかのような衝撃を受けた。
 そして俺の動きが止まったのをいいことに、ハンマーオーガの腕が俺の首に激突する。


「ガッ……」


 ものすごい勢いで吹き飛ばされる。水の壁で分断されているところとは逆方向――つまりマルキムのいない側の、木に激突する。


「ぁ、ガァ、カッ」


 背中を思いっきり打ち付けたからか、声が出ない、呼吸ができない。
 ヤバい――そう思う間もなく、ハンマーオーガとアローモールがこちらへと駆けてくる。二体同時に。
 これに対処するとしたら――立ち上がれない今じゃ『音速突き』ができないので、『飛槍撃』しかない。だけど、『飛槍撃』で倒せるのは一体だけ。しかも、躱されたら終わり。
 ここでエクスプロードファイヤが撃てたらいいんだけど――背中を打ったことと、さらにさっきのハンマーオーガの攻撃が喉に当たったこともあり、詠唱ができない。つまり、魔法が使えない。


(どうする……ッ!)


 もう二体の魔物は目前に迫っている。攻撃するとしたら、今しかない。ガバッと起き上がり、片膝立ちになる。この状態なら、『飛槍撃』は撃てる。
 だけど、どうやって二体同時に倒す? どちらか一方でも攻撃を当てられなかったら、もう一度吹っ飛ばされる。避けられないし、後ろに衝撃を逃がすこともできない今の状況で攻撃されては、ひとたまりもない。
 だったらどうすれば――


(!)


 ――そうだ。出来るかどうかは分からないけど、アレをしてみよう。
 だって、『職スキル』は『音速突き』を使った後に『ファングランス』を使ったりなど、連続で使うことも可能。
 ということは――連続で同じ『職スキル』を使うことも出来るはず。


(できなくてもやるしかないんだけど――)


 目の前に迫る二体、俺はそれに渾身の力を込めて『飛槍撃』を発動させる。
 そして、『飛槍撃』のエネルギー弾が出そうになる時に、強制的に終了。無理やり二回連続で『飛槍撃』を発動させる。
 これで――




『職スキル』、『飛槍撃・二連』を習得しました




 条件達成。『職』が、『槍使い』から『槍術士』に進化しました。




 頭に謎のシステムメッセージが届くと同時に、体の奥から力が湧き上がってくる。
 そして、そこから放たれるのは、二発の『飛槍撃』。しかも、今までとは一線を画すほどの威力のものだった。
 今までとは速度も威力も段違いだったその一撃(いや、二撃かな?)は、ハンマーオーガにもアローモールにも反応すら許さずに、二体の胸を貫いた。
 そしてそれらはその威力を失わずに、二体の背後の水の壁に到達し、そこで掻き消されてしまう。うん、やっぱりあの壁はおかしいね。なんで今の攻撃でびくともしていないんだろう。
 とはいえ、二体は胸に風穴を開けられたわけで……当然、そんな状況で立っていられるはずもなく、力尽きたように地面に倒れこむ。


「ガハッ……ヒュー……ああ、やっと息ができるようになった」


 活力煙は吹っ飛ばされた時にどこかへいってしまっていたので、改めて新しい活力煙を咥える。
 そして、槍に渦巻いている炎で火をつけて……肺の奥まで煙を吸い込み、吐く。


「ふぅ~……さて、と」


 ぐるりと回りの気配を探る。今度は、ちゃんと地中も上空も忘れずに。
 そして、ちゃんと魔力も『視』て――魔物はいないであろうことを確認してから、ギギギに向かって槍を向ける。


「これで、一対一、かな? えっと……名前を言ってくれていない魔物使いさん」


 俺が少しすごんでみると……ギギギは、ギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でぼそりと呟いた。


「ギッギッギ……まさか、あんなにステータスがあったのに『職』の進化が残っていたとは……すさまじいなぁ、『救世主』は」


「!」


 今、ギギギは俺に向かって確かに、『救世主』と言った。
 それは――城で最初に王様から言われた言葉。俺たちが、救世主だということ。
 そして、俺がそれだと知っているということは――


「……ねぇ、本当に何者? ああ、言わなくていいや。力尽くで聞き出すから」


 ――城の関係者か、それともギルドの関係者か。ともかく、俺が救世主であることを明かした機関のどこかに内通者がいるということ。
 俺が本格的に捕まえようと姿勢を低く、ギギギに突進しようとしたところで、奴は指をパチンと鳴らした。


「ギッギッギ。こりゃあ報告の必要があるみてェだなァ……チッ、もう一つの目的も果たせなかったしよ。んじゃあなっ!」


 ぶわっ! っと、あたりに風が吹き荒れる。
 それに、反射的に目を瞑ってしまい……気が付くと、そこにギギギはいなかった。


「……はぁ、逃がした、か」


 ギギギがいなくなったからか、後ろの水の壁が無くなった。……うん、この壁は本当に何だったんだろう。
 そしてその壁の向こうから……


「おい! キョースケ、無事か!」


 息一つ・・・乱していない・・・・・・マルキムが現れた。
 そして、後ろを見ると、少なくとも五体分の討伐部位があることが分かる。
 ……一体でも厄介なBランク魔物、それを三体倒すのにも俺は苦労したのに……Bランク魔物五体をあっさり倒したってこと?
 俺がひそかに戦慄していると、マルキムがこちらへと駆け寄ってきた。


「大丈夫か?」


「うん、多少は負傷したけどね。マルキムは?」


 俺は負傷と言っても、打撲が少しと、矢が刺さったところから血がにじんでるくらいのもので大したことは無い。
 そして、確認するまでもないことだったけど、マルキムは当然のように無傷だ。流石だね。


「途中から魔物が五体に増えて手こずったが……なんとかな。それよりも、さっきの魔物使いは?」


 マルキムが辺りを見回しながら俺に訊くので、俺は少し気まずくなる。


「……ごめん、取り逃がした」


 俺が言うと、マルキムは特に気にした風もなく、少し残念そうな顔をするだけで、すぐに切り替えたように俺の肩を叩いた。


「そうか、それはしょうがねえ。それよりも、早くアンタレスに戻ってこのことを知らせねえと」


「そうだね」


 マルキムのその言葉に俺は頷き、ついでにハンマーオーガとアローモールの魔魂石を集めておく。


「……え、お前Bランク魔物複数と戦ったのに、魔魂石を残す余裕があったのか?」


「さすがに一体は魔魂石をとれなかったけどね。なんとか二体分は確保したよ」


 というか、魔魂石を残そうと思って戦ったんじゃないけどね。なんとか倒した結果、魔魂石が残っただけで。
 これでタダ働きにならなかったことに安堵しながら、俺は煙を吹かす。
 さて……なにやら、不穏な気配がするねぇ。
 完全に日が沈んだ空を見て、俺はふと思う。
 ……もしも、救世主が狙われたんだとしたら。
 佐野は、大丈夫なんだろうか。




~~~~~~~~~~~~~~~~




 アンタレスに戻った俺たちは、即座にヘルミナのところへ向かった。流石にさっき襲われたからすぐには無いと思うけど……一応、メインウェポンはもっていないと二人とも不安だったからだ。
 ヘルミナに魔魂石を渡し、俺は夜の槍を受け取って……そして、鎧も新調した。


「この鎧は、重量軽減と、斬撃耐性の付与がついてますよ」


「じゃあ、それをお願い。いくらくらい?」


「大金貨十枚です。……じ、自分で勧めておいてこういうのもなんですけど、お値段大丈夫ですか? 切れ味強化の付与もしたばかりですし……」


「問題ないよ。というか、ほら」


 ごろっと、二つの魔魂石を見せる。Bランク魔物の魔魂石を。


「これがあれば十分リカバリー出来る範囲だからね」


「す、凄いですね……」


「魔魂石を壊さないように魔物を殺すのは、間違いなく俺より上手いぞそいつは」


「ま、マルキムさんより……!?」


 ヘルミナが驚いているけど、そんなことよりも早くお会計を済ませてほしい。
 俺はヘルミナに諸々の代金(その他にも、解体のナイフとか、手入れの道具、靴なんかも買った)を払ってから、ヘルミナの店から出た。


「ありがとうございましたー!」


「ん、また来るね」


「どうせ俺たちの武器は消耗しちまうからな」


 そして、マルキムと一緒に少し急いでアンタレスのAGギルドへ急ぐ。


「やれやれ、アルの野郎がいればいいんだが」


「アルって?」


「……ギルドのマスターだよ。アイツとは昔なじみなんだ」


「ああ、あの人か。元SランクAGだったって人でしょ?」


 俺が訊くと、マルキムは凄く驚いた顔をした。


「なんだ、会ったことあるのか?」


「え? ああ、うん、一度ね」


「しかもアイツがSランクだったってことまで知ってるのか。なんでだ?」


「ちょっとあってね」


「そうか……」


 そんなことを話していたら、AGギルドの前に来たところでマルキムは踵を返した。


「って、マルキム?」


「お前、アルの野郎と会ったことあるんだろ? なら、話は早え。お前が報告してくれ。オレは警備の詰め所の方へ行ってくる。え~と……なんだ? そう、お前が名付けた『ギギギ』の外見と条件が一致する奴がいなかったか、またいたら気を付けてほしいってのをな」


 なるほど、確かにそれも大事かもしれない。そういうのはギルドから行くものだと思っていたけど、出来れば速い方がいいんだろう。


「ん、分かった」


「頼んだぞ。俺も終わったら一応こっちに顔を出すが、話が終わっても俺が現れなかったら帰ってくれて構わん。また明日ギルドで待っていてくれ」


「了解、じゃあ今日と同じテーブルで待ってるから」


「わかった」


 そんな会話を交わした後、俺はギルドの中へ入っていく。
 ギルドの中には、もう殆ど人はいない。それはそうだ。日が暮れているんだから、残っているのは残業して事務仕事をしている職員くらいのものだ。


「あれ? キヨタさん、どうしたんですか?」


 ちょうど帰り支度をしていたらしい、マリルが俺に気づいて声をかけてくれた。


「ああ、マリルさん。ごめんね、ちょっとマスターに用があってさ……森で、俺とマルキムが殺されかけたって伝えてくれない?」


「!? そ、そんなことが!? す、すぐ伝えますから待っていてください!」


 俺が言うと、マリルは急いでギルドの奥へと走っていく。帰るところだっただろうに……ごめんね、マリル。
 そして、数分と経たずに、マスターを連れてマリルが出てきた。


「キョースケ様、こちらへ」


「キヨタさん、どうぞ」


「ん、すみません、こんな遅い時間に」


「いいんです」


 マスターに連れられ、俺はおそらくマスターの仕事部屋であろうところへ通された。


「それで……詳しく聞かせてくれや。マルキムとキョースケ、うちが誇る二人のBランクAGが殺されかけた? 何があったんや」


 部屋に入った途端、マスターが(おそらく)素と思われる口調に変わった。それほど慌てているということなのだろう。
 俺はそんなマスターに、今日の顛末をかくかくしかじかと伝える。


「……つまり、その、あ~……キョースケが言うところのギギギとかいう魔物使いに襲われたんやな?」


「はい。ギギギ自体の戦闘能力は不明ですが、最低でもBランク魔物を八体は同時に操れます。もしもそんなのが街に襲いかかってきたら……」


「並大抵の被害じゃすまんやろうなぁ……」


 はぁ……と大きなため息をつく、マスター。
 俺はそれに加えて、さらに自分の意見を話すことにした。


「さらに、ギギギは俺とマルキムの実力を把握しているだけでなく、俺を『救世主』と呼びました。俺が召喚された人間かどうかを知っているか分かりませんけど、俺を救世主と呼べるのは城の関係者と、このギルドの人間だけです。つまり――」


「……内通者がいてもおかしくないっちゅうことかい。こりゃまた厄介なことになったなぁ。キョースケ、お前に心当たりは?」


「いえ。だけど、職員として紛れ込むのはそう難しいことじゃないでしょう?」


「ああ、せやな。うちの職員は特に『職』の制限も設けてへんし。そうなると、下手すると……ああいや、なんでもあらへん」


 マスターが何かをいいかけたようだが、すぐにつぐんだので分からなかった。
 俺はその後も、気づいたこと――水の壁や、ギギギの特徴。操っていた魔物のことなどを話した。
 そしてそれらを聞いたうえで、マスターが対応すると言っていた。


「取りあえず、お前らみたいな強いAGが狙われるかもしれないから、他の支部にも注意喚起するように言うとくわ。というか、敵がどんな勢力なのか分からん以上、なんも出来ん。他のAGには、強力な魔物の群れが出るかもしれんて言うとくわ」


「……それくらいしかないでしょうね。では、すみません、遅くにこんなことを」


 俺が少し頭を下げると、マスターはパタパタと手を振った。


「ええって。むしろ伝えてくれて助かったわ。ほな、対応があるからこの辺でな」


「ん、ありがとうございます。では」


 俺は最後にもう一度礼を言ってから、その部屋を出た。
 そして、ふぅ~……とため息をつく。
 さて、どうなることやら……
 俺が、言い知れぬ嫌な予感にさいなまれながら、AGギルドを出るのであった。




~~~~~~~~~~~~~~~~




「マルキム、どう思う?」


 暗い執務室。そこで、二人の中年が話し合っていた。


「……考えたくはないが、可能性としてはあるな」


「せやろ……正直、人族以外が紛れ込んでても分からへんからな……」


「魔王とやらが強すぎて、少し驕ってるのかもしれないな」


 マルキムが嘆息しながら言うと、アルリーフも肩をすくめた。


「やな。まあ、警戒は怠らんとこうか。……それにしても、あのキョースケとかいうの、ええなぁ。マルキム、なんでもう少し教えてやらへんねん」


 唐突に変わった話題に、少し面喰いながらも、そういえばこいつはこういう奴だったな、と思い直し、マルキムは葉巻に火をつけながら答える。


「……アレは、まだ今はアレでいいんだよ。少し、欲望が足りてねえ。そんな奴をしごいたところで無駄だ」


 少し落胆した表情のマルキムを見て、アルリーフも落胆の表情を浮かべる。
 しかし、それでも……と言ったふうな顔をして、ニヤリと口元を歪めた。


「けどなぁ……やっぱ、滾るわ。ああいう奴を見ると。お前もやろ? マルキム」


 アルリーフが言うと、マルキムも少し口元を緩めながら、


「……否定しねぇ。久々だな。第二段階まで至れそうなやつを見たのは」


 と、少し声を弾ませた。
 くっくっく、とアルリーフは笑い、トクトクとグラスにシャンパンを注ぐ。


「人族も捨てたもんやないなぁ。マルキム」


 二つ目のグラスにシャンパンを注ぎ、マルキムに渡す。
 マルキムはそれを受け取ると、乾杯してから一気に飲み干した。


「そうだな、アル」


 マルキムの吐いた煙が、天井へ届く。
 そこには、獰猛な笑みが浮かんでいた。

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