ちちぶ天狗

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姉からもらった誕生日【小島父・小島母・小島姉・小島兄】

小島利彦が40歳の時、父親は肺がんで亡くなった。
小島家にとって父親の死は残念な出来事ではあったけれど、もっと残念だったのは、8年前から行方不明になっている小島の兄に父親の死を伝えられなかったことだ。
小島の兄が今も生きているのか誰もわからない。
だから、みんな心の中で考えていても誰も兄のことには触れなかった。

父親の通夜の夜、小島は、母親と10歳年上の姉と葬儀場の親族控室に泊まることにした。
兄はいなかったけれど、親族控室には棺に入った父親も来ていたので久しぶりに家族で1つの部屋に寝ていた。
父親は棺の中で永遠の眠りについていたけれど、小島と母親と姉の3人はなかなか寝付けない…
そのうち母親が体を起こして棺の前に座り、泣きながら話しはじめた。

「お父さん今までお疲れさまでした…
長い間お世話になりました。
ありがとう、お父さん…
お姉ちゃんもトシ(小島利彦)も素直でいい子に育ってくれて…
素直といえば、トシが小さい頃、トイレットペーパーがもったいないから2回までしかお尻拭いちゃダメだよって教えたら、トシは素直だから必ず2回しかお尻拭かないから…いつもパンツにウンチ付いててね…」

それを聞いていた小島は「おかんよ…泣きながらする話か?その話…」と心の中でつぶやいた。
そして「そういえば、学校のプールの着替えの時にブリーフにウンコついてて笑われた事あったっけ(笑)」と思い出してしまった。
もちろん素直な小島は大人になった今でも、お尻は2回しか拭かない。

そんな小島は、本当なら生まれてくるはずではなかった。
というのも両親は、子供は2人でいいと思っていたからだ。
ところが、姉が8歳の誕生日に親にねだったプレゼントが「もう1人弟が欲しい」だったので、この世に生まれることができた。
つまり姉のひと言で小島の人生が始まったのだ。

姉は高校を卒業してから1人暮らしをするのだけれど、家を出るまで小島をずいぶん可愛がった。
そして母親がそろばん塾を開いていて忙しかったので、小島の面倒をよくみていた。
誰からみても、姉は、いいお姉ちゃんを通り越して、できたお姉ちゃんにしか見えなかった。

そんな姉は、ただ優しいだけではなく時には厳しいときもあった。
小島が言うことを聞かなかったり、悪い事をするとよくビンタをした。
けれど叱った後は必ず叩いたほっぺにチューをしてあげた。
小島も姉のことが大好きだったので、チューしてもらいたくてわざと悪さをしていたくらいだ。

それだけならよかったのだけれど、姉の友達にもマスコット的な存在としてずいぶん遊んでもらったのがいけなかった。
というのも小島は、年頃の女の子達からチヤホヤされる喜びを幼少の頃に知ってしまったからだ。
小島は、姉が家を出る8歳までハーレム状態の日々を送っていたので大の女好きになってしまう。
『三つ子の魂百まで』というけれど、小島の女好きはまさにそれで、青年時代も大人になってからも変わることはなかった。

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