勇者に殺された俺はどうやら迷宮の主になったようです

ミナト日記

迷宮の侵攻 09 



「なんで……?」


 そうアンリはトオルに訪ねる。
 手の杖を強く握りしめ、側のフィアからみても明らかに動揺してしまっていた。それを見てトオルは自分の答えを反復する。


『(ええと、確か騎士の話を断ってこうなったよな……?)』


 それでどうしてこうなるのか、想像もつかずトオルは黙り込んでしまう。それでもどんどん頭を回転させ考える。考える。考える!


「――どうして? 私が嫌いだから? ……ひと、だから?」


 泣きそうな顔でつぶやくアンリ。目元は濡れ、最初に二人が出会ったときと同じくらい落ち込み困っている。
 それを見て聞いてようやくトオルは自分の答えが雑なことに気が付き慌てて補足する。


『ああ、違います。アンリ様の騎士になることは嫌じゃないです。むしろ、こんな姿になってしまった自分にそんな声を掛けてもらえて嬉しいです』
「なら。なんで、なの?」
『俺にはまだやることがあります。それが終わるまでは……アンリ様の騎士にはなれません』


 そう言うとアンリは頬が緩みに笑顔となる。そして


「じゃあ、それが終わったら私とずっと一緒に冒険をして!」


 と、強く言い放つ。
 所どころ声が震えながらだが、目は真っ直ぐに俺を見つめる。


 冒険。
 それは楽しいことになりそうだ。
 アンリ様、それに加えてバルディアも加えれば安全面も問題ない。むしろ俺がゴーレムになったことで戦力面も安定する。


『ええ、絶対に』
「ありがとう、トオル!」


 アンリが駆け寄り俺の太い腕にしがみつく。それは久々の暖かさだ。
 幸せなことになりそうだ、いや、幸せだ。


 でも、助けられなかった命もある。
 それに残ったあいつらをもう一度失いたくない。
 だから、だからこそ――


『アンリ様、力を――』
「ちから?」
『――力を貸してください。なんでもします、だから――』
「ええ、わかったわ。これにかけてね」


 トオルのお願いにアンリは軽く了承する。さらに一枚のコインを取り出した。コインの表には王国のシンボルが刻まれている。


「ちょっと、勇者さま! そんなことを勝手にしたらバルディアさまが――」


 王国の紋章が刻まれたコインに誓うことは王に誓うことと同じことだ。だからフィアが心配そうに、自己保身のために必死に説得する。
 それほどまでにバルディアが怒ったら怖いのだ。それを、身を以て知っているためコインを取り上げようとするも、アンリは言う。


「王に誓う。わたし、杖の勇者はトオルの力になる」
「うわぁあああん」


 最悪の事態を想定してしまい、その場に膝をつくフィア。
 それを見てアンリは少し笑い。


「あら、それなら大丈夫よ? 彼はトオルの親友だから」
『バルディアか、あいつなら問題ないだろ。俺のお願いを断るわけがないさ。それにこれはアンリ様のためになることだからな』


 と、トオルも加勢する。それを聞いてフィアも安堵し顔を上げた。






「ふん、吾輩に対して一体どのようなイメージなのだ。フィアよ」


 と、そんな空気をぶち壊すように一人の長身の男が広場へと現れていた。
 手には青い剣が握られ、ところどころひびが入り。そして男の体中にも切り傷などが入っている。


「遅かったわね、あなたってそんなに弱かったかしら」
『久しぶりだな、ディア』


 おちょくる様にいうアンリと嬉しそうに声を掛けるトオル。
 そんな両極端な二人を見てバルディアの頬も少し緩み。


「ふむ、そうだな。それにしても、だ。まるで面影がないではないか」
『そりゃあ、ゴーレムだからな。でも丁度良かった。お前の力も借りたかったんだ』
「なんだ? それにその口ぶりからするに、フィアが吾輩との約束を守れなかったようだな。ふがいない。修行を倍だ」
「えええっ――――、そんなぁ」


 アンリが無茶をしないようにすることを守れなかったフィアに対してバルディアがいう。それに対し話が違うとばかりに二人を見つめるフィア。


「バル、その辺でね?」
『ディア、許せ』
「ふん、まあいいだろう。これまでどおりだ」


 と、いとも翻したことをフィアが不思議そうに見る。


 杖の勇者の付き人のトオルと杖の勇者の騎士のバルディア。
 通常、勇者の身を守る騎士の方が地位は高い。だが話しぶりからすると逆のように思えフィアはつい口走ってしまう。


「な、なんだか――」
「なんだ?」
「いいえ、なんでもないです」
「言え」
「はい、怒らないで聞いてくださいね? ――なんだか、バルディアさまはトオルさんよりも各下、なのですか?」


 あまりにも直球な言い方にぐっ、と押し黙るバルディア。残りの二人はそれに笑い、それぞれの手で肩へと触れた。だがトオルの岩の重さで地面が震え、バルディアも苦しそうだ。それでも文句は言わずに耐え続ける。


「あわれね、バル」
『強いのは確かだ。でも俺よりも下なんだよな』
「そ、それは、当然、だ」




 三人にしか通じない言葉にフィアはそれ以上を訪ねようとする。だが目の前のバルディアからの強い殺気に静かにすることにした。




 なんにせよ、この日。
 竜の迷宮に杖の勇者陣営の三人が再度揃ったのであった。







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